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A-to-Zombie!  作者: 時流話説
44/50

製薬会社へ 4


「―――おい、誰だお前たちは!」


逢野と檜垣に声をかける男がいた。

それは初めて聞く声だった。

すぐ振り返った二人は、最初、その黒い防護服の男を見て、驚きを隠せなかった。

その服は、見覚えがあるものと同一形態であった。

特殊部隊のようだ、と表現したが結局は違う、SWATでもSASでもグリーン・ベレーでもない、あの―――黒い防護服。


だが男がヘルメットを外して顔を出すと、全くの別人であった。

荒川と樫が実は生きていた、というわけでもなく、幽霊が出たわけではなかったのだ。

恰幅(かっぷく)がよい、中年男性という風であった。

だが俺たちの動揺は続いていた。

自分たちはここの職員じゃあないが、どうやらこの防護服の男は職員のようだ―――。

男は訝しげに二人を観察する。


「おお―――どうやら、『感染者』じゃあないようだが、勝手に入ってきたのかね、君たちは」


男はそれだけ言うと、胸の前で腕を組む。

胡散(うさん)くさそうに。

泥棒を見つけたときの目つきではないだろうか、自分を見るこの目は―――好戦的ではないらしいが―――。

彼から見て感染者じゃあないにしろ、侵入者だ、俺たちは。

だがこんな事態だ、彼も即座に追い出しをすることはなく、話は続いた。


「ああ―――俺らは、その、博士の付き添いで来たんです」


製薬会社(ここ)の人ですか?阿部博士の―――知り合いでしょうか?」


怪しいものではない、というふうに示すために背筋を伸ばす。

あの時のように二十二世紀型ファッションではない、普通の二十代の若者の服装だ、ちゃんと話せば伝わるだろうと逢野は踏んでいた。

一方、職員らしき男は、顔つきを変えて、呟く。


「阿部博士………か、彼女が来ているのかね?」


顔色を変える防護服の職員。


「ええ、女の方です」


「どこに?」


「研究室の中に入って行って………!」


言ってから、どうやら素直に教えてしまった、素直すぎたと思った檜垣であるが、それを押しのけて防護服の職員が研究室に入っていった。


「良かった!生きていたのか!」


と叫びつつ。

この行動が間違いだったと知るのは、良くなかったと知るのは直ぐの事だった。




―――――――――――――――――――




「あの………博士?」


僕は書類の意味はわからなかったものの、

「―――ああっ!」


研究室に入って来た男がいた。

黒い防護服の男である。

僕は身構えるが、どうやら『被害者』ではないらしいと思った。

ヘルメットを着けていないから顔はわかる、中年の男だがこの防護服は―――。


「阿部博士(はかせ)、戻っていらしたのですね、良かった!もうどうすればいいか―――」



ひゅっ。

―――と、僕の背中側から人間ほどの大きさの白い物体が飛び、人のよさそうな笑顔の中年男性に、飛びかかった。

飛びかかった―――いや、衝突したというべき、威力。

白衣の女性は、その中年男性の首を掴む。

掴んで―――床に叩きつける。

男は呻き声を出した。


「あぁあ………?」


男は床から壁に叩きつけられ―――そのまま首を絞められた。

見る見るうちに、顔が赤くなる。

奇声と共に、口から赤いものが飛び出し始めた。


「―――や、やめろ!やめろォオ!」


僕は声を上げながら走り出して、白衣の女性の身体を掴む。

白衣を掴んだが強力な力で、僕は吹き飛ばされた。

長机の上にぶつかり、そのまま研究機材を床に落としながら滑っていく。

なんだ、この力は。

研究機材のガラスが砕けていく。

机で仰向けの姿勢になり、試験管やビーカー類の破砕音の中で、僕は呻く。


僕は立ち上がりながら、気が動転して、なんと言えばいいかわからなかった。

痛みは思ったよりも少ないが、僕の身体が、こんなじゃあなかったら、大けがをしていただろう。

白衣の女性が振り返る。

普段から研究室にいたのだろう、日光に当たる機会が少なかったのだろう、白い肌。

その肌に、黒い血管がくっきりと浮かんでいた。

白い肉体に、黒い葉脈のように、浮かび上がっていた。


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