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A-to-Zombie!  作者: 時流話説
39/50

病院 3





「―――あの子を見なかったか?」


俺は帯金に尋ねる。


「あの子とは―――さっきのアレか、高校生の」


「ああ」



目の前には、積み重なっている椅子があった。

一人用の椅子ではない、病院の待合室にあったものだろう、わずかだが記憶にある。

それを、何段にも重ねて、ベンチのような椅子を何段にも重ねて、それを縄で縛ってある。


病院の一階廊下の、その真ん中にそびえて、役目を果たしている。


その縄のほつれたところを追加の縄で縛り直すのが、『仕事組』の今の仕事らしかった。

その追加の縄がさっきまではあったのだが、届かないので腕で抑えるのみである。

檜垣も近くにいた。


「―――てっきり来ていると思ったんだがな」


「『ロロロ』………ッ『オオオオオオ』」


「あの子は、だから―――海老沢君だっけ、どうしたってんだよ」


「『オォオオオオ』」


「あの子ならこいつを何とかできるだろうに、と思ってな」


一メートル先だった。

そのベンチを積み重ねたバリケードの向こうに、『あいつ』がいて、、もがいている。

腐った腕をベンチの隙間に差し込み、俺たちを掴もうとする。

俺たちは腕でベンチバリケードを抑えながら、時々、その腕をよける。

緩慢に伸びてくる腕は、なんだか握手を求めてくる様子にも似ていた。

こいつは―――やや動きが鈍い固体のようだ。


「面倒だな………」


「あの子が、これをぶっ倒せばいいっていうのもありだが、頼り過ぎじゃねえか?流石に」


「檜垣よ、お前はお礼を言ったか?」


檜垣は言われて、ばつの悪そうな顔をする。


「いや、そういえば言ってないけど―――色々あり過ぎて」


「俺もだ、気づいたら見ているだけだった」


あまりのことが起きて。

あいつらを、目の前で二体、三体と鉄パイプで殴り、俺たちはそれで逃げることができた。

あの後コンビニにまで彼が追いついてきたってことは、数十体いた『あいつら』を、なんとかした―――ということになる。

血まみれになって戻ってきた。

すべてを見ていたわけではないが、白いシャツの白い部分がなくなるほどの格好、返り血が―――何をしたかを物語っている。


「お、俺だってなあ―――鉄パイプか、武器か、何かありゃあ、そりゃ一匹くらいやったさ!」


「ああ―――いややめとけ、あれはない………」


「あの子、どうなってんの?結局―――」


「おい!縄だ、縄ァ!」


竹部が走って来た。

そして持ってきた縄を渡してくる。

これでバリケードの修理ができると思ったが。

予定外のことが有る―――竹部の馬鹿が持ってきたのは縄ではなかった。

白くて、布のようなもの。

なんだこの違和感が―――初めて見るものではないが。

見覚えはある。


「おい、これ包帯じゃないか?もしかして」


「ああ、そうだ」


「頑丈なロープを持って来いって言っただろ、もう一度頼んで来い」


「頼んださ、それでも、病院にあるもので何とかしろって、怒鳴られたんだ」


「………あのな、聞いたことないぞ」


包帯でバリケードを修理するだなんて。


「ああ、バリケードづくりはしたことがない、未経験者なんでな」


「………」


「ホームセンターにひとっ走りしてこようか?」


「―――いや、いい」


くそう、こんな事なら病院なんて来なければ―――。

いや、どこもこんなもんか。

ここが一番―――優遇されているのかよ。

一応は優遇されているのかよこれで。

悪態をつきながらベンチに包帯をかける。

ひっかける。

ベンチの椅子にひたすら白い布を巻く。


隙間から時折、腐った緩慢な腕が出てくる。

暗い影からするりと出てくるさまは、昔やったもぐらたたきのようだった。


しかしこの包帯―――いいのか?

怪我をした人に使った方がいいのでは?


「それでよ、できればバリケードを押して、『陣地』を広げて来いって」


「………」


実はそれをやろうとしたことはあるのだが、思いのほか重く、椅子の足を引きづり、数センチしか進まなかった。

病院の、寝食を受けていない、人間の陣地を増やす。

あいつらを追い立てる。

せめてこの、一メートル前の男がいなければ―――。


「簡単に言ってくれるな………」


自分もできる事ならばそうしたいという気持ちはあるところが、苛立ち。

歯がゆい。


「ていうか、なんの話だ?」


「だから、あの鉄パイプの高校生が―――」


「確かにあの子がいなかったらヤバかったな、全員ヤバかった」


誰も否定しない―――俺たちは生き延びた。

それはあの少年がいなかったら不可能だっただろう。


「検査はどうなったんだろう」


帯金がぽつりと言った。

言いながら、一メートル先の男の腕を、一歩引いて躱す。


「あんなに血を浴びてたら―――噛まれなくても感染するんじゃあ―――ないか」


「………おい」


「あの子は、隔離されるだろう、ずっと」


「お前なぁ、命の恩人に対して―――」


「医者だったらそうするっていう話だ」


「だからって!」




「―――おい、何やっているっ、早く作業してくれ!」


病院の職員が、廊下の向こうから、声を張り上げて我に返る。

竹部が向き直る。

そしてつかつかと歩いていく。


「すみません!やっぱりロープありませんかァ?包帯じゃなくてッ!」


俺たちは作業に従事した。

黙々と作業に勤しんだ。

必要なことだというのはわかっている。


「―――あの少年に恩を返したいとは思っている」


帯金がぽつりとつぶやいた。


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