三人麻雀
「―――逢野の奴、大丈夫かなあ」
雀荘「四風」では、四人ではなく三人で卓を囲んでいた。
檜垣に対して、帯金がぼやく。
「なんなんだ、行くか、行きたいのか外に」
「そうじゃあないけどさ―――心配じゃあないか、やっぱり―――おっと、まさかそこまで人の心がないのか」
「あいつはあいつで、一人で行くって決めたんだろう」
竹部がスマートフォンを操作する―――現在の時刻だけを確認し、すぐに電源を落とした。
午後一時を回っていた。
結局、昨日はかなり遅くまで打っていたので、起きるのは遅くなった。
カーテンやバリケードがわりの卓、机の隙間から日光が差し込んでいた。
「あいつは冷静だよ―――外出は一人か、言われた時はびっくりしたけれど、まあ四人とも襲われに行くのは馬鹿ってもんだ」
食糧を取りに行くだけなら、可能だろう―――と竹部。
「振り込んでも一人やられるだけなら安いって判断した―――、みたいなことだろ」
どうしても麻雀の用語が出てきてしまう帯金。
「あー、あいつらしい、っちゃぁ~~~あ、らしい、な」
記憶を辿りながら返答する檜垣。
「まあ、心配はしてねえよ、ていうか俺、あいつのこと嫌いだし………この前あいつのドラ5に振り込んだときに、あいつ、しこたま笑いやがった」
「ああ―――」
「あれは、ね………」
くっくっく、っと二人とも静かに笑いだす。
あの勝負は傑作だった。
大逆転で喚いたあいつが大声を上げたから、他の卓から覗き込んでくる者もいたくらいだ。
「笑うだろう、あれは」
「クソゲーだなっ!」
ひがむ檜垣はそのままぶつぶつと悪態をつく。
駄目だなあれは、そもそもドラという要素が駄目だと。
「はい、お前らサボんなぁー、牌を混ぜろぉー」
じゃらじゃらと、男三人で卓を囲んでいる。
外出係を決定した際、三人は衣服を脱いで逢野に預けていた。
だから肌の露出が多い。
室温は決して、寒くはないので命の危険はないが、仮にこの事件が真冬に発生いたらと思うとぞっとする。
「今―――『入ってきたら』どうしようもないんじゃないか?」
帯金が呟くと、二人の手が止まり、固まった。
「なんでそんなこと言うんだよ」
「ううん?俺は思ったことを言っただけだが………」
「入ってきたら何とかしろよ、お前が」
「あー。努力はするよ」
何か武器として使えそうなのは掃除用具の中のモップぐらいか。
それよりまず、バリケートを抑えることに力を使いたいが。
ろくなものもない―――バリケートに何か使えそうなものをホームセンターからとってきて欲しいとすら思う。
そこまで行くと逢野一人では無理だが。
いずれにせよ、遠出するときのことも考え始めてよいかもしれない。
「車で行くか」
「あああ~………」
言って、反応はあった。
帯金の車がある………のだが、それでも迷いはある。
たとえ車でも、本当に安全に移動できるか疑問である。
「本当に行けるのか?だって道がヤバいぜ、道だってヤバいぜ」
昨日に比べて叫び声の頻度は減ったものの、それでも雀荘の周囲の道に、何かの気配は感じる。
「それにだ――この格好で行くのか?」
竹部はパンツ一丁で言った。
雀荘「四風」では半裸の男しかいない。
見ようによっては、男だけで脱衣麻雀をやっている画に見えるので、これはこれで狂っている。
荒廃した屋外とはまた、違う意味で地獄のような光景、恐怖である。
しかも慣れない三人麻雀なのでいつもとは感覚が狂い、さらにテンションが下がる。
外出係に衣服を預けたことを、少しだけ後悔するが―――必要なことだったはずだ。
別の手段を考えなくもないが、この雀荘には、道具が何でもあるわけではない。
「うーん流石に、ちょっと迷うな」
「いや、ちょっとは無いな―――かなり、迷うだろそこは」
まあとにもかくにも、外出係、逢野待ちだなという結論に至る。
何か進展を、新しい情報も持ってくるかもしれない。




