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A-to-Zombie!  作者: 時流話説
3/50

海老沢譲司 2


勢いよく部室の扉を閉じる。

何とか飛び込んだ、その室内は真っ暗なので何も見えないが、扉にはかちゃりと、鍵をかけた。

鍵をかけることができたという事に、感動を覚える。

だが―――。


どん、どん―――


ドアの外では、何かが激しくぶつかる音。

何かが、というかあの被害者だ―――彼らは被害に感染した。

そう、被害者は何か身体の異変が起こり―――あんな身体になった。

その体当たりは、体当たりしている本人の様子を見ることは出来なかったが、手加減のなさを感じるものだった。

体当たりと、叩きつけるのは―――おそらく手だろう、爪で細かく掻くような音がする。


それは長く続いたように思えたが、ふと、急に静かになり、物音、足音が遠ざかっていった。

他に、行ったのだろう―――。

他の人間をめがけて。


「はぁ、はぁっ―――」

今になって身体じゅうが熱い、熱くなる―――が、なんとか逃げ切った。


扉の中に人がいるかもしれないと、あたりを探す。

懐中電灯はない。窓を開けて日光を入れるか?

いや、危険だ。


「誰かいるか?」


返事はない。

だがしばらくは、あいつらと顔を合わせることはない。


スマートフォンを、つける―――時刻は十七時二分。

夕暮れ時である―――ああそうか、普段ならもうチャイムが鳴り終わり、帰路にさしかかっている、時間なのか。


スマートフォンの灯りで室内を照らせば、見える。

視覚的な雰囲気で言えば、倉庫のような場所だ、薄暗いが………。

いつ帰れるのだろう、しばらくは無理だ。


高校の部室棟のどれかであるはずだから、運動部関連の場所だ。

だが、なんだろう、これは

スマホの灯りを受けて、暗闇の中で、いくつか舞う埃が白くちらつく。



灯りをつけてからしばらくして気づく。

気づいたというのは場所について。

錆びついた(かご)の中に、サッカーボールが大量に重ねられている。

二メートル四方ほどのサイズのカゴはいっている。

ボールは白と黒のモノトーンだが、その二色を仕切るラインが水色だった、いま流行りなのだろうか。

なんにせよ、野球部員やバレーボール部員が出入りする場所ではない。


「つまり―――こ、ここは」


逃げ込んだ先が、サッカー部の部室であるようだ。


「誰か―――」


呼びかけたが、奴らに聞こえるかも、と思い返し、声を小さくする。


「誰かいるのか………?」


いないようだから考え直す。

さあて、どうする。


扉の鍵は閉めてあるが、鍵だけで何とかなるとは思えなかった。


先程閉めたばかりのドアを検分する。

その強度は大して無さそうだ―――教室の出入り口のものと大差ない。


おそらく大の男が数人がかりなら壊せるだろうし、大の男数人がかりで追いかけられたことがある。

今まで追いかけられていた。

逃げおおせた、途中で振り切った。


高校の敷地で逃げ回った、というのは、クラスメイトの男子と喧嘩しただとか、はたまた校舎裏の不良ども、先輩に怖い連中がいるとか、そんなこともない。

プロレスラーみたいにスキンヘッドな先生なら、一人いたが、その性格は優しい人だった。

生徒も生徒。

別段、荒れている治安の悪い高校というわけでもなく、健全な高校生たちである。


もしも不良生徒に追いかけ回される、そういうものだったら、どれだけマシだったか。

暴力と―――その奥にさらに恐ろしいものを感じる。


やっと逃げ切ったが、もう一度追いかけ回されたら、たまったものではない―――。

扉を、背で押しながら立つ。

扉から離れるのは無理だ―――そう思った。

吊り橋から飛ぶくらいの神経がいる。


もう一度、息切れしながら問いかける。


「誰か、誰も―――いないのか」


「誰なの………?」


帰って来たのは細い、女の声だった。

お、女の声―――いや。


僕を追いかけ回していた連中の、変色した顔が―――脳裏を()ぎる。


部屋の片隅を、見る。

自分の通っている高校の制服が、わずかな息遣いで動いているのが見えた。

顔はまだ―――



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