URUOIファンタジー
十二歳の誕生日を迎えたあの日、突如として村の役人が我が家を訪れ。そして、有無を言わさず俺の肌の状態を確かめ始めた。
顔のあちこちを触ったり、おかしな機械を当てたり、様々な方法で俺の肌の状態を確認した役人連中は、やがて興奮を隠し切る事無く結果を告げ始める。
「このモチモチプルプルとした肌の質感!」
「溢れんばかりの水分量!」
「圧倒的油分!!」
「キメの細やかさ! 更にはくすみやニキビ等が無い清潔さ!!」
「お父様お母様、間違いありません! 彼こそ選ばれし子! 未来の勇者なのです!!」
役人連中が俺の事を選ばれし勇者であると告げると、両親は揃って目に涙を浮かべ抱き合うほどに喜んでいた。
ただ、そんな両親や役人連中の様子を眺めながら、当時の俺は内心苛立ちを感じていた。
何故なら、その時はまだ俺の誕生日パーティーの途中だったからだ。
突然やって来た役人連中にパーティーを台無しにされ、まだ子供だった当時の俺は、何故役人連中がパーティーを台無しにしたのか理由も分からず。
苛立ちとどうする事も出来ない無力さと、そして悲しみと。様々な感情が沸きあがった結果として、泣き出してしまっていた。
ただ、その時のそれは両親も役人連中も『嬉し泣き』であると勘違いしたので、実の両親にすら悲しみを分かってもらえない悲しさから、更に泣いたものだ。
そして、早いものであれから八年の年月が経過した。
二十歳となった俺は、今や自分が選ばれし勇者であると言う事実を受け入れ、そして確かな自覚を持っている。
当然、その使命も。
俺の使命。
それは、選ばれし勇者として、この大地を支配しようとする闇の軍勢と戦うこと。
そして、闇の軍勢を率いる『魔王ドライ』を打ち倒す事だ。
その使命を果たすべく、今日までトレーニングを積んできた。体力作りに剣術、そして忘れてはならないお肌のお手入れ。闇の軍勢と戦う為の準備は万端だ。
そして、その総仕上げを果たすべく、今日俺は城へと赴き国王の手から直々に勇者としての証を受け取る事になっている。
「よく来たの、勇者よ。うむ、顔を上げよ」
「はい」
「おぉ、何と素晴らしいもち肌、シミ一つ無く艶々じゃの。流石は勇者じゃ」
「お褒めの言葉、光栄であります」
絢爛豪華な城へと足を運び、通された外観に引けを取らぬ王の間で国王と対面した俺は、暫く国王から俺にかけられた期待や希望の話を聞く。
やがて国王からの話も終わると、いよいよ国王の手から勇者の証を受け取る時がやってくる。
「では勇者よ、我が一族に代々伝わる伝説の武具を受け取るがよい」
召使によって丁寧に運ばれてきた武器や防具の数々が、国王の手を介して俺のもとへと手渡される。
「これは勇者だけが使う事を許された伝説の剣、如何なる物をも切り裂く事が出来るとされる、その名を『コラー剣』と言う」
剣身には特徴はあまりないものの、鍔や握りに伝説の剣ならではの独特で豪勢な装飾が施されたコラー剣を受け取ると、その重みを噛み締めながら腰にさす。
「次にこれが、同じく勇者のみ使う事を許された伝説の盾、如何なる攻撃からも護ってくださる、その名を『ビタミンシールド』と言う」
剣同様に似た模様の装飾が施されたビタミンシールドを受け取ると、その重みを噛み締めながら背中に背負う。
「そして最後に、嘗てこの地を救った代々の勇者達も愛用していたと言われる伝説の鎧、その素材は伝説の鉱石である『セラミド』で作られていると言い伝えられており、ドラゴンの炎にも耐えうるとされておる」
最後に、青く輝く鎧を受け取り、先に受け取った剣と盾を外して着込むといったグダグダはあったものの、無事に鎧を着込むと、ここに総仕上げは完了したのである。
「おぉ! まさに伝承に描かれていた姿の通り!! 今ここに世界を救う救世主が誕生したぞ!!」
「では国王、早速、魔王ドライを倒すべく旅に出ようと思います」
「うむ。気をつけて行くのじゃぞ。行く手には、魔王配下の者達が勇者の旅を妨害せんと待ち構えておるからの」
「はい」
「そうじゃ、これはわしからの餞別じゃ、受け取るがよい」
そう言って国王が手渡してくださったのは、ぎっしりと金貨が入った革袋であった。
「頑張るのじゃぞ、勇者よ!」
「はい!」
こうして総仕上げを終え、いよいよ魔王討伐の旅へ旅立とうとした矢先の事。
ふと王の間の隅で俺の事を見つめている一人の女性の存在に気がつく。
「おぉ、姫、どうしたのだ?」
「お父様、私、どうしても一目、世界をお救いになる勇者様のお顔を拝見したくて」
国王が近づき声をかけたその女性は、どうやら国王の実の娘で、この国の王女のようだ。
恰幅のいい父親と異なり、グラマラスな体系に整った顔立ち、母親に似たのだろうか。美しい。
「勇者よ、姫のミネラルだ」
「ミネラルです。勇者様、どうかこの世界を、魔王ドライの手からお救いください」
「お任せください、ミネラル姫! この俺が、魔王ドライを見事討伐してみせます!」
「あぁ、頼もしいお言葉です。……あ、あら」
「姫?」
「あ、駄目……! お父様!! 私、もう、我慢できそうにありません!!」
「な! 駄目じゃぞ姫! 我慢じゃ!! 我慢するんじゃ!! こすってはいかん!!」
突如ミネラル姫が何かを訴え始めたかと思うと、国王は心当たりがあるのかミネラル姫に必死に我慢するように訴えかける。
そして、急いで召使を呼び例のものと呼ばれる何かを持ってこさせると、それをミネラル姫に手渡すのであった。
「あぁ……、生き返る」
何かを受け取ったミネラル姫は、それを自身の瞳に点眼すると、先ほどまでの慌て様が嘘のように落ち着きを取り戻していくのであった。
「すまんな勇者よ、お見苦しいところを見せてしまった」
「国王、先ほどの姫は一体?」
「うむ、あれは呪いなのだ。……魔王ドライにかけられた恐ろしい呪い、その名も『ドライアイ』」
「ど、ドライアイ!!」
「そうだ、故に姫は目薬が手放せんのだ。……頼む勇者よ! 魔王ドライを倒し、姫にかけられた呪いを解いてくれ!! もし姫の呪いを解いてくれたのならば、その暁には姫を貴殿の妻とさせる事も考えようぞ」
「分かりました!! ミネラル姫の為にも、魔王ドライを必ず討伐してご覧に入れます!」
勇者としての使命を全うする新たなる糧を得て城を後にすると、魔王ドライを討伐すべく俺は生まれ育った故郷を後に、魔王ドライの居城を目指す旅へと出発したのであった。
そこから魔王ドライの居城に辿り着くまでは、まさに苦難と出会いと別れの連続であった。
故郷を離れ辿り着いた街では、街の住民を困らせる魔王ドライ配下の魔物が住み着く洞窟の魔物を討伐したり。
そこを離れ新たなる街へと続く道中に発見した乾いた沼地では、今にも死んでしまいそうな程弱っていた野生のスライムを助け、後にそのスライムは仲間となり。
旅の仲間を増やしてやって来た新たなる村では、村を困らせていた盗賊団を懲らしめ、後に盗賊団の団長が新たな仲間となり。
更に旅の仲間を増やしてやって来た街では、街の大富豪の娘が魔王ドライ配下の魔物に誘拐され助けを求めていたので、快く助けを名乗り出。
娘が捕まっているとされる古城では、誘拐首謀者であるゴーレムとの壮絶な戦いの末、元盗賊団団長の必殺アイテム『イソフラボム』が炸裂した事で勝敗が決し。
見事、ゴーレムを倒し、娘を救出。無事に大富豪のもとへと帰す事が出来たのであった。
その後街中の感謝の言葉に見送られ進んだ森で、手作り化粧水の作り方に困っているエルフの狩人に、長年培ってきた自家製化粧水の極意を教え。
そのお礼として、エルフの狩人を新たな旅の仲間とし。
森を抜けた先にある街では、髪の毛の健康に悩む賢者に、良い影響を与える食材やその食べ方などを伝授し。
そのお礼として、賢者を新たな旅の仲間とした。
こうして旅の仲間を増やし、赴いた街では、魔王ドライ配下の魔物にして闇の軍勢の幹部である渇きの魔女が街を支配していた。
街を魔女から開放すべく、仲間と力を合わせ。
魔女の強大な魔法『からっ風』が街中に吹き荒れる中、激しい死闘の末、遂に賢者の最強魔法『ヒアルロン酸』が魔女を捉えるのであった。
その強大な力の前に成すすべなく溶けて消えてしまった魔女。
仲間も、街も、そして自分自身も傷付きながらも、何とか街を魔女の魔の手から解放する事に成功したのである。
この様に、道中様々な体験を経験しながら、俺は遂に、仲間と共に魔王ドライの居城の前までやって来たのである。
「いよいよ最終決戦ね! 勇者」
「兄貴、とっとと魔王倒して、兄貴の故郷に錦を飾りに行きましょう!」
「キュー! キュュ!!」
「いよいよ最後の大一番ですな、勇者殿」
「……皆、ここまで来れたのも、全部皆のお陰だ。本当にありがとう。そして、もう暫くだけ、皆の力を貸してほしい!」
頷く仲間たちの顔を一人一人確認し、俺も静かに頷くと、いよいよ敵の本城へと足を踏み入れる。
魔王ドライのいる魔王の間へと向かう道中、数々の魔物の妨害を跳ね除け。
遂に、俺達は魔王の間へとたどり着く事が出来た。
「良くぞここまでやって来た勇者とその仲間達よ。……お主達ならば、ワシの乾いた心を満たしてくれるやも知れんな」
「魔王ドライ! 覚悟しろ!! 行くぞ! 皆!!」
禍々しい姿をした魔王ドライを前に、一歩も臆する事無く、俺達は魔王ドライに戦いを挑んだ。
しかし、やはり闇の軍団を統べる者だけはあり、その力は強大で。
魔王ドライが繰り出す『赤城おろし』や『粉ふき』等の強力な魔法の数々に、俺達はピンチに追い詰められていた。
だがその時、まるで人々の希望が、諦めない心がコラー剣に伝わったかの如く、剣が眩い光を放ち始めた。
「こ、これは! まさか!! あの輝きは! 伝説の『モイスチャー』だとでも言うのか!!!?」
その眩い光に魔王ドライの動きが止まり、無防備な姿を曝け出す。
「勇者!!」
「兄貴!!」
「キュー!!」
「勇者殿!!」
「うぉぉぉぉぉっ!!!」
今がチャンスだとばかりに仲間達の声に押され飛び出した俺は、一直線に魔王ドライ目掛けて駆け出す。
「これで、終わりだぁぁぁぁっ!!」
そして、俺は眩い光を放つコラー剣を、魔王ドライ目掛けて振り下ろすのであった。
勇者としての日々は、そこで終わりを告げている。
あの戦いの後、仲間と共に故郷に戻った俺は、ミネラル姫と夫婦となり、ゆくゆくは新たなる国王となる予定だ。
大地に平和が戻り、勇者はその役目を終え、再び平穏な時代が流れるだろう。
だが、いつかまた闇の軍勢が勢いを取り戻した日に備え、伝説の武具は俺が、そして俺の子や孫が受け継いでいくことだろう。
読んでいただき、本当にありがとうございます。