夢の雑貨屋のサリア
1,日記と私
「こんにちは。私はサリア・ウィンディアです。覚えていますか?2年前に妹のユリカと一緒にこの日記帳......つまり、あなたを購入しました。私はガサツなので日記を書くのを5日でやめてしまいましたが、久しぶりにあなたを開いたのは理由があります。
私の母、マリー・ウィンディアが、流行り病にかかってしまったからです。その病は、普通なら薬を使えば大方一週間で完治するものですが、薬が無ければ二か月も三か月も長引きますし、何より母は持病のぜんそくがあるのです。そのため、急いで薬を買うお金を用意しなければなりません。ですが、父のジム・ウィンディアの仕事は、安定こそしていますが、稼ぎが少なく普段の生活費で精一杯、妹のユリカは母の看病で手が回らないのです。なので私は雑貨屋をすることにしました。昔から物を作るのが得意だったので。それを生かして雑貨を作って売ることにします。
明日から雑貨屋を開きますので、売り上げ金や売れた物などを記録します。これからしばらく、よろしくお願いします。」
そして、空いた所へ母の似顔絵を描いた。
(お母さん、頑張って。諦めちゃダメ。絶対に元気になってね。ユリカも、お父さんも、私も頑張るからね…...!)
「ふう。今日はこれくらいでいっか」
ここまで書いて、サリアは日記帳を閉じたのでした。
2,思ったよりも順調で
翌日、サリアは雑貨屋を開いた。その名も「雑貨ウィンディア」という、ありきたりな名前で。実は、サリアが住む村には雑貨屋がほとんど無く、違う街で雑貨を買う必要があったので、村人達は大いに喜んでいた。もう一つ、サリアの雑貨屋はちょっと変わっている。雑貨屋は普通、生活に使ういろんな日用品などを置いているが…...確かに日用品を置いているのだが加工の仕方が今までの物ではありえないのでした。
例えばホウキ。その小さなホウキにはサリアが自分で考えた、歯車で作った小さな機械が入っていて勝手に掃除してくれるという代物だ。子供達が「空を飛べるの!?」と聞くので、「ごめんね、勝手に掃除はするけど、空は飛べないの」と毎日言うはめに。さらに、ユリカが「お姉ちゃんなら、分かるかも」と言って渡してくれた、薬草百科を駆使して傷薬を作ったりもした。
あくる日、サリアの知り合いのリラおばさんが雑貨屋に来店した。
「こんにちは、リラおばさん」
「あら、サリアちゃん、こんにちは。どう?調子は」
サリアはちょっと考えてから、「まずまず、と言った所です」
と言った。その後リラおばさんと少し世間話をして、雑貨を買ってもらった。すると、おばさんは何かを思い出して言った。
「そういえば…...マリーの病気ってまだ治ってないのよね。うちの子、マリーと同じ病気にかかったのよ…...」
「え! おばさんのお子さんもお母さんと同じ病気に…...そうですか…...お大事にと伝えておいて下さい。ごめんなさい、何も出来なくて…...」
「いいのよ、気持ちだけで十分。ありがとう。…...でもねぇ、ここら辺には藪医者しか居ないし、薬は街で買うしかないし。おまけに街は結構遠い上に、薬は値段が高すぎるわ…...あっ、やだわ、最近愚痴っぽくなっちゃって」
「いえいえ、大丈夫ですよ。おばさんも大変ですね…...」
「本当にありがとう。サリアちゃんは優しいわね〜。それじゃ、さよなら」
しばらくしてサリアは、店を閉め、日記帳に、売り上げ金や売れた物を書いていたとき、不意にリラおばさんの言葉を思い出した。
<薬は街で買うしかないし。おまけに街は結構遠い上に、薬は値段が高すぎるわ…...>
(この村には、薬を買える裕福な人は少ないし…...誰も薬を作れる人はいやしないよ…...。……! そうだ、誰もいないのなら、本当にいないのなら私がやる! ユリカにもらったあの薬草百科があるわ!作り方なんて、自分で考えればいいもの…...)
サリアは、絶対に薬を作ると言う自信があった。そして星を見据えてこう思った。
(お母さん、もう少しの辛抱よ)と。
3,お願いだから…
サリアは、その次の日から、店を終えた後、薬草百科を繰り返し繰り返し読むようになった。
「アイピーの葉を煎じて…...そしたら、ハーブティーをろ過して…...水薬になるのかなぁ…...」
薬なんて作ったこともない(ド素人の)サリア。治る、とまではいかなくても、せめて少しでも症状が軽くなれば嬉しいな…と思っていた。
「できた!」
できたのは、調合薬のレシピである。作り方は下参照。
{アイピーの葉は、手に入り易いアイピーというハーブを乾かした物である。それを煎じ、ハーブティーにする。次に、口に入れても害の無い自家製傷薬を用意して、菜種油と混ぜる。この時、菜種油は入れ過ぎない様にする。ハーブティーをろ過機にかけてから、菜種油を入れた傷薬と混ぜる。3日置いておく。}
(こんなので良いかなぁ)
サリアは考えた。が、やっぱりド素人なのでこれに賭けるしかないと瞬時に把握した。
そんな時、手紙が届いた。宛先は父、ジムであった。
「親愛なるサリアへ 3日後、ユリカが店に行きます。その時は一応、店を閉店として欲しい。父さんは母さんの看病があるので残念ながら行けません。母さんの具合は、結構良くなってきています。心配ご無用!頑張れよ! 父さんより」
(うふふ、お父さんらしいわ)
サリアは、手紙を読み終わるとすぐに薬をレシピ通りに作ってみた。
「あとは、3日置いておくだけ…...一か八か、ね。これに賭けるしかないわよね…...」
…………そして、そこから2日ほど経った…
「今日はヒマだから…...お昼寝するとしますか」
昼になっても客が来ないため、閉店にして昼寝をしようとした時、
(あれ、外が騒がしい様な…...)
「お姉ちゃんっ!!! た、た…...」
来たのは、ユリカだった。
「あらら、ユリカじゃない! どうしたのよ、来るのは明日でしょう?」
が、ユリカは泣きそうだった。
「お、お母さ…...倒れ…...ううっ…...」
「お母さん? 倒れ…...?」
少し落ち着いてからユリカは言った。
「お母さんが、いきなり倒れて、もうダメかも…...って…...どうしたら…...」
これを聞いたら、居ても立ってもいられない!
「ユリカ! 薬持って来るから!」
「え…...? 『薬』?」
薬を持って来ると、「思いっきり走るよ!」と言い、二人で村外れの家へ走って行った。
4,君は英雄だよ。
「マリー…...」
サリアの父、ジムは、ずっとサリアの母、マリーを看ていた。
「「お父さん! お母さんは…...」」
ドアが開いて、サリアとユリカが入って来た。
「…...母さん、今は大丈夫だが…...(どうなるか…...)」
ジムは、言いそうになった言葉を飲んだ。
しばらく沈黙が続いた。
すると、今まで寝ていたマリーが本当に小さな声で
「…...サリア…...、ユリカ…...」
と言った。 マリーは熱があり、話すのも難しい状況だったが力を振り絞り、娘達に言葉を掛けた。
「お母さん! ………....」
サリアは目に涙を浮かべ、薬をカゴから持って来た。
「お母さんなら、絶対元気になるでしょう? だから私、薬作ったの…...」
だが、ユリカは首を傾げた。
「お姉ちゃん、流行り病って本当に治るの? こんなときにお姉ちゃんを責めたくはないけれど…...」
確かにそうだった。
「それもそうだけど、私はこれに賭けたの。病気で苦しんでいるみんなに少しずつ分ける為に大きな瓶に詰めて来た…...」
サリアの言いたいことが分かったのか、ジムは頷く。
「サリア、母さんの事は父さんとユリカに任せなさい。早くみんなに薬を!」
「オーケー、お父さん、ちょっと薬を器に…」
サリアは少し薬を器に移して、家を出た。
「リラおばさん、お子さんにこれを!」
「あれ、サリアちゃん。え? え? サリアちゃん! おーい! …...? こりゃ薬じゃないか…...まさか、サリアちゃんが…...」
こうしてサリアは病にかかった人々に薬を分け与えた。
(どうか上手くいってますように!)
一週間が過ぎた。
ユリカが、店にやって来て、村の広場に来る様に言った。サリアは何事か、と思いながら広場に行った。
すると、病にかかっていた者、その家族、村の子供たち、そしてサリアの両親がおり、「ありがとう、サリア!」と書かれた紙を持っていて、サリアが来ると、大きな歓声が上がった。
その人混みの中から、村長が出てきた。
「サリア・ウィンディア」
「は、はい」
サリアが返事をすると、村長はにっこり笑って言った。
「君はよく頑張った。薬の知識は浅かったろうが、それでも薬を作り、村人達の病を治した。私のせがれもその病にかかっておったが、君のおかげで今はいつも通りのいたずらっ子だ」
ここで、クスクスとみんなが笑った。
「そこで、君にこれを渡したいと思う」
それは英雄の証と表彰状であった。サリアは戸惑う。
「えっ…...で、でもこれ、英雄に渡される物でしょう...…」
「何を言っているんだい、君は立派な英雄だよ」
ここでまた大きな歓声が上がり、村長は言う。
「サリアよ。君はね、村人たちの命の恩人だ。私が村人を代表して言おう。本当にありがとう」
そして、英雄の証と表彰状を受け取ったサリアは、こう言った。
「いいえ、私は英雄ではありません。お母さんが病にかかり、ユリカが薬草辞典を持って来て、お父さんがユリカと一緒に頑張ってお母さんの看病をしてくれなかったら、私はこの行動をしていませんでした。そして、私の店に来てくれた方々、応援してくれた方々。その人たちがいなければ、私はみんなに薬を届けようとは思わなかったかも…...だから、この証は、みんなの物です」
エピローグ,笑顔のままで
その後、サリアは薬剤師となった。ユリカも姉に習い薬剤師の道を歩むことになった。
サリアの活躍で村は薬を専門とした研究所を作った。もちろん所長はサリア。
研究所には、多くの研究者が集い、昔はかかれば治らないと言われた病もワクチンなどが作られ、大幅に進歩していた。
サリアは、亡くなった後も名を残した。
彼女の名言にこう言うものがある。
「人は目指すからには諦めてはならない。たとえそれが間違った道だったとしても、他の場で生かせることがあるかもしれないから。これは、医学だけでなく、何にでも言えることです」
ーthe endー