プロローグ3
教室から出た裕也は男子トイレに入った。
そして裕也は、トイレの洗面台の前で息を整えていた。
別段息苦しくなった訳でもなく、唯々少し気が休まるからである。
『余命宣告2週間』その言葉が、胸に重みがかかる言葉になった。
徳伊達3人とバカ出来る期間は、それ程長くないということだ。
しかし裕也の余命宣告はあてにならない。
何故かというと、此処まで期間が短くなるということは、下手したら明日死んでいるかもしれないからだ。
人間はいつ死ぬかわからない、しかしその言葉の体現者になるとは裕也は思ってもみなかった。
徳伊たちには、裕也の病気の事は言ってない。
変な心配を掛けたくないのと、気を遣われると楽しくできないと思ったからだ。
「……ふぅ、気休めになったかもな…」
裕也は自分が死ぬまで、徳伊たちに自分が病気だと知られたくない。
しかし、何処から情報が洩れるかわからない、そのため明日から学校をやめることにした。
これが徳伊たちとの最後の下校になる。
そう思いながら、徳伊たちの待っている下駄箱に移動した。
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裕也が下駄箱に行くと、楽しそうに談笑する徳伊たちの姿があった。
その姿を見て、行くのを躊躇した。
もうすぐ居なくなってしまう人間があの輪の中に入ってもいいのだろうかと……
(気にしないほうが良いんだろうけど、やっぱし考えちまうな)
「おーい」
「お、裕也来たか」
「結構長かったね、何か言われてたの?」
「……暑い」
こうやって話をしてくれるのも、もう少ないのか……。
「ああ、徳伊の事でな……」
「俺か!?……なんかしたかな…」
「……変態発言」
「うん、それしかないよね」
「ひでぇ!俺を何だと思ってんだ!」
「「「変態」」」
「そんなハモらなくても…」
こうやって、徳伊をいじることも少ないのか…。
「それじゃあ、行くか」
「待たせた本人が仕切るとは…」
「うるせえ、変態」
「風当り強いのは何故!?」
笑いあえることも少なくないのか…。
___いや違う少ないんじゃなくて、もうないんだ。
わかってる、もう命が2週間よりも少ないことは。
わかってる……もうほとんど動けないことは。
わかってる………もう……わかってるんだ。
「あ~、俺買い物に行かないといけねぇの忘れてたわ」
「おいおい……せっかく待ったのにそりゃないぜ」
「徳伊なんて、買い物行くの毎回忘れてるじゃん……それで徳伊のお母さんから、怒られて走って買い物に行く姿見てるよ?」
「う……見られてたか……」
「……徳伊がこんなのはいつもの事。それより帰ろ?……暑くて仕方がない」
「そーだな~。裕也、今度なんかおごれよ~!!」
「おう、取りあえずアイスでいいか?」
「いやそんな事よりコンビニのトイレ近くの本を……「徳伊?」はい、何でもありませんだから、その手を下してください彩花様」
徳伊は土下座しそうな程のおじぎをした。
それを見てため息をつきながら、手を下す彩花。
「それじゃあ、またな!!」
そう言って、靴を履き替え急ぎ足で走る裕也。
「また明日な!」
「またね!」
「……また明日」
それを見送る徳伊たち三人。
そして、徳伊たちの視界から裕也の姿が見えなくなった。
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徳伊たちから離れた裕也は徳伊たちが、使う下校の道から大分と離れたところで息を整えていた。
そして裕也はさっき言われたことを思い出していた。
(また明日……か……)
裕也に明日が来るかどうかわからない、しかし確かなのは明日から学校に行かない事だ。
「……徳伊たちになんかおごれるか……?まあ、考えていても仕方ないか」
そして裕也は少し歩きだすと、町の掲示板があった。
「ん、こんなところに掲示板があったのか……ここ通らないから知らなかったな」
その掲示板には、行方不明の人を探していますという風な物が多数あった。
「……そういや、最近行方不明遂げるの多くなったな……認知症で行方不明ならまだしも、無職の行方不明とかニュースでやってたな…まあ、無職の奴も認知症だったってパターンあるか」
そんな事を呟いきながら、歩いていると立ちくらみがして頭を少し抑えた。
「もう限界来たのか……?今までにない感じのめまいしたから……あれ?ちょっと待て……なんか周りの風景が違う気がするが気のせいか……?」
さっきまで通っていた道と違うところに入った気がした裕也だったが、気にせずに道を歩いた。
……確かに何かが変わっていることに気が付かないまま