常識指導
タイトル詐欺かもしれないです。
裕也とリンラはまだ森の中にいた。
その理由は、やっぱりというか常識を裕也につけさせるためと、魔法詠唱を裕也に教えるためだ。
先ずは常識をリンラは指導していた。
「まずね、無詠唱を使うのは上級魔術師だけなの。と言っても、上級魔術師でも極一部の人しか使わない。使える人はまず確実に、王国筆頭の魔術師ってことになるんだよ……此処まではわかるよね?」
「ああ……無詠唱は使えたらまずいのか……」
「まずい?……王国筆頭の魔術師になるからお金とかいっぱい入るんだよ?それでもまずいと裕也は言うの?」
リンラの話を聞いた裕也は心の底から嫌そうな顔をする。
そんな様子を見たリンラは、少し食い気味に裕也に聞いてくる。
その様子を見た裕也は少し驚いた顔をしながら答えた。
「ああ……だって王国筆頭の魔術師なんかになったら、確実にめんどくさそうじゃねぇか…」
「めんどくさそう……?」
「自由に動き回れないだろう?嫌いな貴族たちにも頭を下げないと駄目なうえに、下手すれば護衛任されるかもしれないからな」
「……ユウヤって王族とか、貴族とかって嫌い?」
「あ~、嫌いって訳でもないが……身勝手なやつとか多そうじゃないか?」
その言葉を裕也が言った瞬間、リンラは苦笑していた。
その様子に、裕也は軽い疑問を感じたが、その疑問を振り払った。
実際には裕也が王国筆頭の魔術師になりたくない理由には、二つほどあった。
一つは、徳伊たちの事だ。
もし裕也自身が、王国筆頭の魔術師なんかになった場合、徳伊たちに迷惑をかけてしまうかもしれないからだ。
そしてもう一つは………。
「もし、大切な奴が出来たときに、そいつに大事が起きたら、すぐさま駆けつけることができないからな…」
「……ユウヤって意外と優しいよね」
「普通だと思うぞ?逆に利益だけしか求めない奴とでも?」
「最初は、そう思ってたね」
「そんな奴だと思われてたのか……ん?最初は?って、ことは今はどうなんだ?」
そう裕也が言うと、リンラはそっぽを向いた。
その様子に、『まずい事でも聞いたか…?』と裕也は思いながら、答えを待った。
そうしていると、リンラの方から小さな声が聞こえてきた。
「頼りになる素敵な人だなって……」
「そりゃあ……お褒めに預かり光栄でございます……とでも言っておこうかな」
「……こんな依頼受けるんだから、お金に目が眩んでる人だと思ったんだけどね」
「……そういや、これ依頼だったな」
遠いところをみて、誤魔化すように呟く裕也に、リンラは少し笑いながら言った。
「ふ~ん、ユウヤは今私と過ごしてる状態に、違和感とか感じないんだ~」
「なんで少し楽しそうなんだよ……なんだろうな、嫁さんと過ごしてる感じがするんだよな」
「へ、へぇ~……そ、それってどんな感じなのかな~」
最初は楽しそうだったリンラが、裕也に言われたことを聞いた瞬間、動揺を走らせて恥ずかしそうに、顔を少し伏せながらも、気になったようで裕也に聞いた。
リンラの様子に、裕也は気が付かなかったようで、少し頬を搔きながら答えた。
「なんだろうな……なんかこう……守ってやりたくなるって思うというか…って、守ってやりたくなるって、なんか上から目線な感じだな……忘れてくれ」
「……その続きってある?」
「あ、ああ……一応続きはあるが……聞きたいのか?」
「聞きたいっていうか……気になる」
「……なんか、そこに居てほしくなるっていうか……近くに寄り添って欲しくなるというか……ま、まぁあれだ。リンラも俺にとっては大事な奴ってことになってんのかもな……近くにいてほしいって思えるのは」
「……ユウヤ、それって告白なのかな…?」
「……は?あ、もしかしてそう聞こえたか?ならすまん……出会って間もないやつにそんなことを言っちまうなんてな……忘れてくれ」
そう言われたとき、リンラは何となくだが、顔をあげて裕也を見た。
そのユウヤの横顔には、少し寂しそうな顔が映っていた。




