93.奴隷商?
レジスタンスとの交渉が終わり、帝都3組織を含む、帝都全土、全24組織が参加を表明、約3600人の大組織が誕生した……。
これは俺達、ストレンジ評議国の橋渡しが有ったから成し得た事……だがヴァストラ帝国はグレインガルドでも最大の国土を誇る、3600人の大組織と言ってもたかが知れている……。
一応、俺達の思惑としては、この組織に奴隷解放した亜人が加わる予定だ……。
地方に有る組織の訓練も定期的に人を入れ替え、施設に来てもらい後は自主練、移動はこちらが用意する事となる。
亜人奴隷の数は帝国人民の1/3に上る……戦力としても、人族の身体能力を凌駕する、問題は魔力の扱いが不得手と言う事……。
その所為でヴァストラ帝国に良い様にやられている。
奴隷の中には魔族もいるが、こちらは幼い頃に魔国領から連れ去られた者達……、成人しても隷属魔術により、魔術の行使が出来ないようにされている。
結局、ヴァストラ帝国人に良い様に使われているだけだ。
そして……、奴隷解放時の魔族先導者に元魔王レミ、亜人先導者にケモミミ勇者サラを考えているが……。
ケモミミ勇者サラとの交渉が残っている。
亜人大陸へは、美食勇者コハク、大賢者ラクト、神の使徒ユウキ、元魔王レミに行って貰っている。
おまけに、兎のぬいぐるみも持って行っている。
母さんが言うには、同窓会の様な物だそうだ……。
兎のぬいぐるみもパワーアップしている……背中にがま口が付き、アイテムポーチになっていた……もちろん、本人は背中に手が届かないし、がま口を開ける指も無い……。
母さんがアイテムポーチを付けた時、がま口に届かない兎の人形が地団駄を踏み、壁をポフッポフッと殴りつけていた情景が思い出される。
特に危険は無いと思うが、暴走と言う意味では心配している。
まあ、矛先が帝国だろうから、その時はご愁傷さま……。
取りあえず、亜人大陸は母さんに任せる事とし、俺達は民間人の攻略をする。
面子は俺、安奈、彩香さん、元奴隷商デナリスだ。
安奈がいるのは前回同様、完全に俺のお目付け役、彩香さんは前回まとめ役をやって貰っていたが、どうもグレインガルドに来てから、性に合わないらしく吉田くんにまとめ役を押し付けて、俺について来た。
デナリスは、まあ本人の目的だからなのだが……。
他にも帝都には白面、評議国軍兵士等が入り込んでいる。
ん?どうやって入国?
そんなの、転移で一発!
身分証明?
偽装に決まってる……。
前回来た時に住民カードを衛兵に見せてもらっている。
ヴァストラ帝国もザルだからな……ばれないだろう……。
まずは、情報収集と言う事で、デナリスの顔見知りの奴隷商に来ている……。
俺達はデナリス以外、白い仮面を付けている。
デナリスを先頭に、入店する。
「これは、これは!デナリスさんお久しぶりです。」
線の細いいやらしい笑みをした男がデナリスに声を掛ける。
「お久しぶりです。ナハルさん!」
「この前の、奴隷バザーには来なかったようですが……、いかがしましたか?」
奴隷バザー、王国に近い村で、毎年行われる王国と帝国の奴隷取引だ……。
「ええ、今年はちょっとゴタゴタしてまして……。ナハルさんは最近出来た新興国の事はご存知ですか?」
「ええ、奴隷ギルドでも噂になっています。何でも、ロストニア王国の領地を取ったらしいですね……。ロストニア王国も落ち目ですかね……。おっと、デナリスさんは王国出身でしたね、これは失礼しました。」
ナハルがいやらしい笑みで、デナリスを見る。
「別に構いませんよ、まあそのお蔭で仕入れが滞ってしまった訳ですが……、命あっての物種ですので……。」
「賢明なご判断だったのでしょう……。それで、後ろの御三方は?」
「そうですね……元冒険者とでも言いましょうか、ここまでの道中の護衛をして貰いました。」
「そうですか……。さぞ御強いのでしょうね……。」
ナハルが俺達を値踏みする様に、いやらしい視線を送って来る。
一通り値踏みが済んだのだろうナハルが話を進める。
「それで……用件は何でしょう?」
「奴隷商に来たんですから、用件は決まっていると思いますが……。」
「おお、そうですね。では、早速見て頂きましょう、と言いたい所ですが、先日、予定していた良質な奴隷が入ってきていません……、在庫となると、質の低い者ばかりですが……。」
「それで構いません……、今回は私では無くて、この者達が必要としていますので……。」
「そうですか、それでどう言った奴隷をご所望でしょう。」
「彼らはこれから魔獣狩りを行ないますので、それに見合った者と言いますか、犯罪者でなければ何でも良いそうです。」
「魔獣狩り?」
「要は囮です……。これ以上は言わせないで下さい……。」
デナリスが、そこで話を打ち切る……。
帝国冒険者の間では、奴隷を盾代わりに使ったり、囮に使ったりと良くやってる事らしいが、あまり気分の良い事ではないが、今回は言い訳として使わせて貰う。
「そうですか……、因みに目標はどう言った魔獣でしょう?」
「金になる奴だ!」
俺はぶっきら棒にそう返事をする。
「もしや、ドラゴン……。なるほど、奴隷が必要ですね……。しかし冒険者では無いですよね……。」
「素材は高く売れる……冒険者でなくてもだ……。」
「分かりました……、それでは在庫しかございませんが見て行ってください。現在商品としてお出し出来る者が、15名います。」
「了解だ、取りあえずそれを見せてくれ。」
そうして、ナハルに客間へ案内される。
ナハルは、丁稚に一言告げ商品を連れて来させる。
しばらくすると、奴隷が連れて来られた。
「今出せる商品は、こちらになります。」
15人の男女が俺達の前に並ばされている。
全員が布一枚の貫頭衣……。
男性5人、女性10人……皆、獣人である。
男女が入り乱れての登場であるが……、男性の下半身にテントが張って無い……。
どんだけ元気が無いんだよ!と思いながら女性を眺める……。
まあ、男性もそうだが……女性もそうだ……。
これじゃ、生存本能が働いても、身体が動かない……。
「「「………………。」」」
小声で彩香さんと安奈が話しかけて来る……。
「正臣くん……。全員栄養失調ね……。」
「お腹だけが膨れてます。」
「ああ、奴隷生活長かったか……。」
鑑定を掛けるまでも無く、状態が分かる。
俺は、ナハルに質問する。
「主人……!皆、連れて歩くのに難があるようだが……。」
「はい、元気な奴から売れて行くものでして、入荷の予定が無い以上、残っていて動けるのはこれ位になります……。」
「………………商品管理も奴隷商の務めだと思っていたが……。」
「奴隷なんて消耗品ですからね……、まあ違った用途の奴隷はきちんと品質管理しますが……。」
「違った用途と言うと?」
「商用、戦闘用、雑用、性処理用だったりと用途によって、それぞれ調教を施していますが……、只今品切れです。」
「流行ってるんだな。」
「ええ、おかげ様で……。」
「でっ、残ってるのはこれ位だと……。」
「う~ん……。実は、まだ在庫は有るんですが……。見た目も、機能も良くない不良品です。でも、お客さんの用途でしたら、問題無いのかもしれません……。確認なさいますか?」
何となく予想は出来るが……。
「ああ、見せてもらおう。」
「すいません、場所移動します……。こちらではちょっと……。」
この部屋に連れて来れない程、酷い扱いなのだろう……。
「了解だ……。案内してくれ。」
俺達は、ナハルの後について行く……。
そこは奥は、あれだ……。
「保健所……。」
安奈が呟く……。
そう、犬猫が怯えた目をしながら、近づく者を威嚇する様子が思い出される……。
鉄格子が並び、その中に5名位づつ仕分けされ、亜人、魔族、人族がそれぞれ、押し込まれている。
臭いも酷い……。
一応、檻にトイレなどが備え付けられている様だが……、衛生状態が悪い……。
そんな中に押し込められているんだから……、当然、病人もいる……。
俺は1人の獣人に目を付ける……。
左腕は肘より先が無く、左足も膝上で無くなっている。
青白い顔、目の周りが窪み、焦点が合っておらず、床に伏せて動かない……。
これ死んでるんじゃないか?
俺は分析スキルを掛ける。
宇佐美 サクラ/28歳/女/半獣人/奴隷 病気|(感染率87%)
職業 / ライカンスロープLV05 / 闘士LV07
HP 18/113
MP 9/68
STR 35
DEX 32
VIT 45
INT 26
AGI 66
MND 37
LUK 35
スキル 拳闘 人化 獣化 統率
適性 火、風
称号 勇者の血族
「はい?」
「正臣くん?」
「彩香さん……、この人……。」
十中八九……、ケモミミ勇者サラの関係者だ……。
「ちょっ!」
彩香さんも分析したらしい……。
「どうかしましたか?」
ナハルがこちらに気付いたようで、声を掛けて来る。
「ああ、割と肉付きの良いのが居たんで、気になっただけだ。」
「ああそれですか……。そいつは軍からの払い下げ品です……ここに来た時には、もう腕と脚なかったのですが……、性的に使えそうだと思い引き受けました。ですが……調べたら病気に犯されていまして……、そいつの所為で、ここの何人か同じの貰って、処分待ちの状態です……。どんな病気かまで、分からないからおいそれと手が出せないでいます。」
「そうか……。売り物にもならないか……。」
それよりも不味いな……瀕死だぞ……。
ゲームだったら、ステータスがオレンジ色で表示されそうだ……。
う~ん!どうする?
一応、聞いてみる事にする……。
「これは引き取れないのか?処分するにも金が掛かるんだろ?」
「ええ、掛かりますが……。こちらも、商品として引き取りましたので、幾ら不良品とは言え、タダと言う訳には……。」
「そんな事は重々承知だ、タダほど怖い物は無い!とは言え捨て値で下してくれるんだろ?多少色も付けるし何なら他のも買ってやる……。そっちとしても処分代と食事代が浮くはずだ、悪い取引ではないと思うが……。」
「確かに……、ここに居る奴隷は、商品としての価値が有りません。お客様の用途を考えますと、こう言った者を安く仕入れた方が効率的ですね……。」
「ああ、そう言う事だ……。何ならこれからも取引してやる。処分業者には悪いが、幾らか金にはなるだろうし、こっちに回して貰いたい。」
「ですが……。これだけの人数ですと……。」
ナハルが言い淀み、デナリスの表情を伺う……。
「大丈夫ですよ……。彼らは元冒険者と言っても、研究に必要と言う事でやっていたにすぎません。今回の魔獣退治も素材集めと研究費用の足しにと言う事です。お金は持っています。即金の支払いで問題ありません。問題は保管場所と配送手段位です。」
「おお~そうでしたか……。」
多分、元冒険者と言うのが、引っかかったのだろう……。
「王国の貨幣で問題ないか?」
「ええ、大丈夫です。ギルドで両替するだけですので。」
「そうか、なら契約成立だ……。馬車と保管場所の確保が出来たら引取に来る。さっき見た奴隷も買ってやろう。」
「では先にお支払いの方宜しいですか?その後で隷属紋の更新を……。」
「問題無い。」
その後、犯罪奴隷を見せてもらったが、冒険者崩れのならず者と言った感じの奴隷が大半で、特権階級の癇癪により、犯罪奴隷となった者だけ買い取った。
そして奴隷契約を行ない、ナハルの不良品奴隷を買い占める事となった。
ナハルからは不良品がお金に変わったと言う事で大層喜ばれたが……、俺としては、不良品としての奴隷がこんなにいた事に対し、暗い影を落としていた。
今回はデナリスの言い回しに、助けられた気もするが……、デナリスのパトロンみたいな物だし問題無いか……。
そして定期的にデナリスに不良品を買って来てもらえれば、奴隷の殺処分の人数も大幅に減るだろう。
だが、新たなる問題も浮上している。
不良品を大量に買い漁る事になる……当然、目立ってしまうと言う事だ……。
噂程度ならほっといても良いが、お上に目を付けられるのは拙い……。
適当にワイバーン素材を市場に流して偽装しても良いが、そっちはそっちで勧誘とか来られそうだ……。
何か良い方法でもあればいいが……。
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