92.カスケード?
ヴァストラ帝国、帝都……。
とある民家、一室……。
獣人達が数人がいる中、代表して金髪の青年が声を上げる。
「ほんとに、援軍送って貰えるんですか……。今さら来れないってのは無しですからね……。」
「ああ大丈夫だ……我が主はこの国の奴隷に対し憂いている……。そなた達と接触が無ければ、この国を潰していただろう……。」
そう答えるのは、半孤面をかぶった3人組の真ん中にいる男……。
金髪青年は思う……。
怪しい風体だが、この男の実力は本物だ!敵対するよりここは利用させて貰おう……。
そう我が国の奴隷解放……そして皇帝政権の崩壊の為に……。
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時は半年前に遡る……。
金髪の青年ナバール・ヒル・ケルフィー22歳、帝国騎士爵を持つ一代限りの貧乏貴族……。
5年前のロストニア王国との戦争、撤退時、殿を務め、あの蓮華こと聖剣使いラウル・ジ・キリフトスと一時ではあるが互角に打ち合った事で、その技量を買われ騎士爵を叙勲された。
彼の中に亜人の血が流れている為、実力主義の帝国にしては、出世出来ていない。
幼少時にナバールが憧れた年上の少女はもういない。
その彼女は当時住んでいた領主の奴隷であった。
その事に気付いた時には、彼女はもう死亡していた。
そんな事もあり彼もまた、帝国の奴隷政策を憂いている一人でもあった……。
そして月日が流れ、青年となったナバールの取った行動は、帝国内部改革……地下組織”カスケード”の結成である。
現在、地下組織”カスケード”の幹部と共に隠れ家に来ており、我々にコンタクトを取って来た者が目の前に居た。
外套を纏い半孤面をかぶった怪しげな風体が三人……。
どうやって、この場所を突き止めたのかわ知らないが、只者では無い事が分かる、あの蓮華以上の圧力を感じる……。
その半孤面のリーダーらしき男が口を開く。
「我が主の命により、反帝国組織”カスケード”へ援助をさせて貰う。」
「そんな直ぐ、信じられるか!お前達は何者だ!」
「あまり詳しくは話せない。だが我が主が行おうとしている事は、そなた達にとっても有用だ。武器、活動資金を提供する用意がある。名前を知らないと不便だろう……私達は白面、私の事は一尾と呼んでくれ。」
「ここしばらく、我々の事を調べていたのは、お前達か……。」
「そうとも言えるし、そうで無いともいえる。私等以外にも探っている者がいる様だが……。」
「「「「「「なっ!」」」」」」
「何、心配するな……。すでに我らで処分している。」
「「「「「「なっ!」」」」」」
ナバール達は白面と言う組織の、底が見えない事に恐怖する。
多分、探っていたのは帝国内部監察官!見つかったが最後、死を待つだけと言われる諜報、暗殺、拷問のエリート達だ。
それを既に処分済みとしている白面……。
ナバールの勘が警鐘を鳴らす……逆らうなと……。
「すまない……礼を言う……。」
「別に構わない……。我らの前をウロチョロしていた虫を掃っただけだ……。」
「それで、私達にして欲しい事は……。」
「まずは帝国の情報を貰いたい。」
「それ位なら別に構わない……、まだあるんだろう……。」
「奴隷解放。」
「それは組織の目的でもある……問題ない……。」
「そして現帝国政府の崩壊……。」
「「「「「「なっ!」」」」」」
一尾と名乗る男に、サラッとヴァストラ帝国崩壊を求められる……。
「りっ、理由は……。」
「そなた達も言ったであろう……、奴隷解放が目的だ……。」
国の政策で年に何千人の奴隷が誕生する……その供給を断たなければ、奴隷が増え続けるだけなのだ……。
そして……その元凶が帝国政府そのもの……。
「そうか……、そうだよな……。」
「分かった様だな……。」
「ああ、私達も腹をくくらねばならない様だな……、だが、私達だけでは到底、政府を崩す事は出来ない……。」
今まで私達がしていた工作活動は盗賊団に偽装して、奴隷商を襲っていただけの行為……。
資金は私の資産から、出している。
仲間を集めても100人強……到底、帝国軍と事を構える事も出来ない。
「それについては、現在交渉中だ……。そなた達と似たような組織が、帝国内にいくつか存在している……。」
「そうか……!その全て同時に奮起すれば……。」
「それでも届かないだろう……。」
「ではどうやって……?」
「その為に我らがいる……、我が主であれば、一人でも潰してしまうだろうが……。」
「そんな人が……。」
「現在訳あって、行動に制限が付いている。」
「そうか……。残念だ……。その人がいれば政権交代も楽だろうに。」
「心配するな……、そなた達を一騎当千の強者にする為に来ている。」
「「「「「「え?」」」」」」
この男……今なんて言った?
「分からんのか?お前達に訓練を付けると言っている。」
「え!一緒に戦うんじゃ……。」
「それはもちろん約束しよう……。だが今のままじゃそなた達は弱すぎる。幾ら帝国内で強いと言っても、帝国軍を相手にするとなると2、3人相手にしたら終わりだろ……。我らとて、体力は有限だ、どの位の人数を相手に出来るか数が限られている。」
「それはそうですが……。」
「なら話は簡単だ……全体の戦力を上げる。100人が100人斬れば、万に届く……。」
「むっ、無茶苦茶な!」
「やって見れば分かる事……。だが、信じられないのも事実。故にヒントをやろう……。先日ロストニア王国で大規模な戦闘が行われた……。その事を調べると良い……。冒険者ギルドにその結末が伝えられている筈だ……。」
「冒険者か……。」
冒険者……、確かに冒険者には、数万の魔獣と相対する者もいると聞く……。
しかしそれは、パーティー戦……特にレイド戦とも聞く……。
「聞いてみれば分かる!我らが言ってもにわかに信じられないだろう……、冒険者ギルドの様な第3者ならそれも信じられよう……。」
「た、確かに……。」
「それでは我らの用は済んだ……。後に返答を聞きに来る。それまで訓練に励むと良い……。」
「待ってくれ!連絡方法は……。」
「こっちから、接触する。それ以外の方法は、無理だ。そなた達の能力は低い下手すれば全て明るみに出る。こちらが全て計画する大人しくしていろ……。」
「…………分かった…………。」
そうしてナバール達の前から白面を名乗る3人が音も無く姿を消した。
そうナバール達が見ている目の前でだ……。
「「「「「「なっ!」」」」」」
「おい!ナバール!」
そう声を掛けて来たのは、ナバールの幼馴染であり、ナバールの片腕サジだ……。
「あいつ等、目の前から消えたぞ……。」
「そのままだな……。分かっている、私も目を反らした記憶が無い……。かなりの手練れだ……私が足下に及ばない程のな……。」
「お前でもか……。」
「だがこれは好機だ!私達の目的も叶えられそうだ……。」
「おいおい、信用して大丈夫か?」
「敵対していたら、俺達は死んでいたぞ……。それに信用するんじゃ無く、私達の目的に利用すればいい……。彼方も表立って行動は出来ない様だし、丁度いい……。」
「お前、貴族になってから、腹黒くなったな……。」
「褒めるな……、照れるだろ……。」
「いや、褒めてないし……。」
その後、ナバールはカスケード幹部を集め会議を開き、白面の思惑に乗る事に決まったが、カスケードの意思にそぐわなければ即離脱する事とした。
その決定が彼らカスケードが伝説となる幕開けとなった。
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所変わって、ヴァストラ帝国、帝都内とある商家……。
そこには、藤堂家、白面、それと元奴隷商人デリナスの姿があった。
「キルト帰って来たか……。」
「はっ!藤堂様の言う通り、カスケードと接触してきました。」
「で、どうだった?」
「はい、あの様子だと次の接触でいい返事がもらえそうです。」
「そうか……。それにしても、面倒だな、これ!」
「ダメですよ、正臣さん!」
「安奈も、心配し過ぎじゃないか?俺も動きたいんだけど……。」
「そうですね……。それじゃ、ストレンジ評議国に、お帰りになりますか?まだ、仕事の方が残っていますし……。」
ニコニコと笑顔で安奈が言うが……。
ダメだ……、目が座っている……。
「いや、こっちの目星がついてからな……。」
そう、安奈から条件付きで、帝都行きが了承され、ストレンジ評議国、商業ギルドで身分証を発効後、正規の手続きを得て、商人として帝都に来ている。
帝都拠点は、中古物件を改造した商家だ。
扱っている物は、塩……。
この世界でも、良く流通しており、特に目立たない。
これを隠れ蓑に、レジスタンス組織との接触を図っている。
キルト達3兄妹が接触したのもその一つだ……。
後、二組織この帝都に存在する。
帝国全土となると、20は下らない……。
白面の人数も増え、白面、妲己、玉藻の各9人の3隊となっている。
帝国に潜入していたのは白面、諜報部隊発足初期の頃からいる、ベテランとなっているが……。
魔道具の演出的な使い方が上手くなっているに過ぎない……。
多少、強くもなっている様だが、俺から言わせて貰えれば余計な事が多すぎる……。
だが今回の様に仲間を増やす上では、功を奏している様だ……。
「で、他はどうしている?」
「はい、そちらの方も、次回の接触で引き入れます。」
「そうか……。それじゃ、俺は訓練施設でも作ろう……。」
俺達はこの拠点の他、倉庫を一つ購入している。
そこに、ユウキさんから借りて来たダンジョンコア《不死属性》を使い、ダンジョンを作成!地下訓練施設とする予定だ……。
ユウキさんのダンジョンコアは、生産に向かない為、持ち出し自由のダンジョンコアとしている。
まあ、付属で不死王3体がセットで付いてくるのが、難点とも言える……ちょっと口煩い。
彼らのスキルで、DPを使わずにアンデッド魔獣を召喚できるのが良い所だ。
原理は一切わからない謎スキルだが……。
そうして俺達は倉庫へ向かう。
倉庫内に地下へつながる階段を一つ……。
地下1階には訓練施設、地下2階には不死王達の住まい……全2階層最強難易度のダンジョンが出来上がった……。
倉庫地上部には人避けの魔導具を置き、会員証の作成……。
会員証をレジスタンスに渡せば、秘密訓練場が出来上がる。
帝国諜報部も手を出せないだろう……。
地下2階不死王達のボス部屋を通り、拠点の商家へダンジョンを繋げる。
「ねえ、正臣さん。このダンジョン攻略不可能じゃないかしら……。」
「どうだろう……?正攻法なら、攻略できるのは琴音と鈴音ぐらいかな?」
「正攻法じゃないなら?」
「う~ん……。安奈達、ハーレムメンバーだな……。」
「ああ、そう言う事……。どんな手を使っても、ダンジョンコア触ればいいのね……。」
「まあ、そう言う事だ……。」
安奈に、ダンジョンマスター攻略の裏技を教えたが……、攻略しないよね……?
「それはそうと、レジスタンスの教官はどうするの?」
「アイシャ達に頼もうと思うが……。」
「う~ん……。魔闘部隊より、評議国軍にして貰えませんか?」
「どうしてだ……?」
「だって、ストレンジ評議国と言うより、藤堂家の私設特務部隊ですよ。彼女達……。要は懐刀です。」
「安易に表に出すのが、勿体無いって事か……。」
「レジスタンス強化が表って事は無いでしょうが、むやみに他国へ見せる事も無いと思います。」
「そうか……、東条くんと相談してみよう……。」
「後は白面も共に訓練させて見ては如何ですか?正面切っての戦闘も熟せれば、白面の死傷率も下がります。結構危ない事させているんでしょ?」
「そうだな……、白面達にも訓練参加して貰うか……。白面の訓練は俺がしても良いよな?」
「………………はぁ~、しょうが無いですね……。身内ですので、許可します。」
「ありがとう……安奈!」
「ですが……、現地民との接触禁止と、仮面を付ける事が条件です。それ位はして下さい……。」
「了解です……。」
こうして、ヴァストラ帝国攻略が開始された……。
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