88.調停?
エルフ族族長以下47名を捕虜及び犯罪奴隷とし、再びエルフ族に連絡を入れた。
そして、今現在エルフ族全員がこのドワーフ村に揃っている。
残っていたエルフは全部で78人、女子供が殆どで、薬師を長として取り仕切っている長老の奥さん、シュラザートさんがその代表として、交渉の席に着いた。
前々から旦那のログワーズに対し、思う所が有った様で今回の不祥事でそれが爆発、傲慢な態度でいたエルフ族の男達共々処分しても構わないとの事、完全に見棄てる形となった。
そして残りのエルフ族は、ドワーフ族と共にストレンジ評議国入りをお願いされた。
結果的にエルフ族は分裂、長老派は奴隷、薬師長派はストレンジ評議国入りが決定された。
「良いのですか?それで、同胞でしょうに……。」
「ああ構わないよ……。あんた達、人族だって同胞だからと人族全員を助ける事なんてしないだろ?」
「それもそうですね……。むしろ敵対してる所の方が多いですし……。」
「そう言う事。私等は私等で、ストレンジ評議国に興味が有るからさ……。ドワーフ族、ピグミー族、そして私等エルフ族とで纏まれば、錬金の道が開ける可能性があるんだろ?そんな事言われて私等、薬師が興味を示さない訳が無い!こんなふざけた同胞達と一緒に沈むつもり何か無いさ。」
やはり生産職とでもいうべきか、職人魂に火が付いた様だ!
「シュラザートさん、あなたの選択が間違いじゃ無い事を約束しよう。ようこそストレンジ評議国へ!」
「これからも宜しく頼むよ!」
こうしてネレイド族を除く、精霊族の大半がストレンジ評議国に入る事となった。
その後、ドワーフ族、ピグミー族、エルフ族は村の破棄と引っ越しの準備。
帝国兵から保護した他の魔族は、サキュバスの村へ送迎となる。
俺達は帝国兵の死体と捕虜、エルフ族の捕虜と奴隷を持って、ジストの町に帰還。
で、色々と重なったので、整理しよう。
差し当たって明日、王国との調停、そしてサキュバスの村の要塞化、精霊族の受け入れ態勢構築……ここまでは良い。
現魔王へ保護した魔族の返還、帝国兵の対処……この辺は要相談だな。
魔族に対しては実害も無いし、しばらく放置でも良いが、帝国の奴隷解放も約束しているし、これを機に帝国の情報整理でもするとしよう。
まあ、自国の整備が最優先なのだが……。
俺はそんな事を考えながら、ジストへと帰還した。
翌日
今日は王国との調停、俺達はセレクト砦に来ている。
調停には俺、ラウルの他、俺の補佐として彩香さん、外交担当の吉田くん、軍の総司令の東条くん、軍部会計の堀田くん、そして外に評議国軍及び魔闘部隊が待機している。
「それじゃみんな今日は頼んだぞ!」
「「「「了解!」」」」
準備が出来たので、調停場所へ向かった。
そこには大きめの天幕が張られており、その天幕の前でアイリス達、王都冒険者ギルド職員が調停役として待っていた。
「ようこそ、お出で下さいました。ストレンジ評議国の皆さん!」
「アイリス達も調停役、引き受けて貰い感謝する。」
何気ない挨拶を交わす。
「ロストニア王国の代表団もお待ちです。ストレンジ評議国の代表団はこちらへどうぞ……。」
俺達は、アイリス達の後について天幕へ入って行った。
中には、大きな長テーブルに白いテーブルクロスが掛けられ、それ相応の見栄えになっており、右側にはロストニア王国の代表団8名が座っていた。
そして一番上座に、ロストニア王が座っている。
俺達は左側に行き、上座からラウル、俺、彩香さん、吉田くん、東条くん、堀田くんの順に席に着いた。
俺の正面に居る、ロストニア王は歯を食いしばり、怒気を抑える事無く歪んだ顔でこちらを見つめる。
おっさんから、見つめられる趣味は無いんだが……。
そして中央に冒険者ギルド職員3人が座る。
こっち側にアイリス、そして中央に多分ギルド長、でっ、王国側にもう一人、誰かは分からない?
そうして、調停会談が始まった。
「それでは、お集まりの様ですので、私達冒険者ギルドが調停役として会談を始めたいと思います。」
ギルド長らしき人が開会を宣言する。
すると直ぐに王国側の多分、成り上がりの貴族が話し出す。
「我が王国はそなた達をストレンジ評議国として認める用意がある。まずは、そなた達が拉致した者達の解放を要求する。話はそれからだ!」
あっ!そう言う事言うんだ……。
数日の猶予を持たせた結果が、こんな回答とは……。
「何か勘違いしているようですが……。先日、独立を宣言しましたので、我々はあなた方から認められなくても、独立国ですよ。お分かりですか?」
「はっ!何を言っておる、そこはロストニア王国領だ!我らが主導で国家の運営を指導してやると言っておるのだぞ!」
「破綻寸前の国が何を指導できるのですか?我々と思想すら違っていると言うのに……。もしかして、我々の独立宣言の内容をご存じないのですか?簡単に言うと、もうロストニア王国のやり方にはついて行けないので、我々は独自で生計を立てます……。と、書いてロストニア国王へ書簡を送ったんですけどね。」
「だから、要求をのまないと独立を認めないと言っておる。」
「国家の定義ってご存知ですか?領土、国民、主権です。我々は王国南西領貴族がまとまって独立しました。この時点で領土はロストニア王国から切り離されたと考えます。そして国民ですが、これはストレンジ評議国に住民登録した事で国民が出来ました。そして主権は、国民が持っています。その国民の代表者が政府を運営しています。独自通貨も発行し、経済がそれで回っています。もうロストニア王国が主権を手にする事が出来ないですよ。何なら国民全員から、主権を取り戻しますか?全力で我々ストレンジ評議国議会が阻止しますけど……。」
「くっ!キリフトス伯はそれで良いのか!」
あっ!こいつ逃げた……。
「ええ、問題ありませんよ、父上……。」
!?、父上!先代キリフトス伯か……王都にいるとは聞いていたが……交渉の席に出してくるとはな……。
「それと父上、私はもうキリフトス伯ではございません。ストレンジ評議国ジスト代表ラウルです。家名も捨てましたので、あなたとはこれから他人と言う事になります。」
……何だと!ラウルがカッコイイだと……。
と言うか、吉田くんがサムズアップしてるのだが……。
ラウルも吉田くんにアイコンタクトで返してる。
うわぁ~!こいつら何か企んでるだろう……。
予想はつくが……ロリ教団とか、ロリ教団とか、ロリ教団とか……。
………………そりゃ、家名も邪魔になりそうだ……。
「捨てただと!貴族としての誇りは無いのか!ラウル!」
そりゃ、怒りたくもなりますよね~……。
「ええ、藤堂様にポッキリ折られましたね。お蔭でスッキリしました……。あなた達はロストニア王国貴族に縋り付いているようですが……、無知とはよく言った物です……。はぁ~~~。」
彩香さんが俺に小声で話しかけて来る。
「ねえ、正臣くん……。煽り方が何処となく正臣くん達に似て来てるんだけど……。」
ラウルを見ると確かにそんな気がする……俺の付き人をしていた所為なのだろうか……。
「ラウル!きさま~!」
ラウルの親父が激高して来たので、俺がこれを止める事にした。
「お戯れはその辺にして貰いたいのですが……。一応、ここは公式の場……。私達、ストレンジ評議国とあなた達、ロストニア王国はまだ戦時下ですよ。これ以上の暴言は、戦争再開を意味する事をお忘れなく。」
「くっ!王よ!」
先代キリフトス伯は、腕を組みロストニア王へ判断を委ねた。
ロストニア王は静かに口を開く。
「まあ独立したと認めよう……。だが!そちらに王国の勇者が3人いる様に見えるのは気のせいか!」
「へぇ~、そう見えますか……。残念ながら、この世界に王国の勇者は存在しません。」
「待て!そちらに居るのは橘殿だろ!それに、吉田殿と東条殿だ!間違いなく王国の勇者だ!」
「違いますよ~!王国の勇者ではありません……。強いて言えば、王国に拉致同然に召喚され、勇者と言う名の戦闘奴隷を違法に強要された異世界人ですよ……。違法奴隷としてダンジョン攻略していた所を、私が奴隷から解放し、生活を保護してあげただけです。彼女達は違法奴隷にされた事は相当恨んでいますから言葉を選んだ方が良いですよ。それと制約魔術と隷属魔術は、属性が違うだけの同じ魔術と言う事も知っていますから……。」
「………………。」
ロストニア国王以下、他の貴族達も口をあんぐりと開け、驚いていた。
「後、ロストニア王国側の言い分はありませんね。」
ギルド長がロストニア王国の話を切り、こちらに向け声を掛ける。
「それではストレンジ評議国側の意見をどうぞ。」
「では、失礼して……。まず初めに言って置く、私達がこの席に着いたのは、ロストニア王国の今後の展開を聞くためだ!全面降伏か!戦争再開か!その2択しかない!簡単だろ?」
「くっ!降伏した時の対応を聞きたい……。」
「特に何もない。金貰って、捕虜帰して終わりだ。こんな貧相な土地奪ってもしょうがないだろ……。」
「くっ!戦争を再開した場合は……。」
「それも言わなきゃ分からないのか?お前達の首が王都の広場に並ぶだけだ……。ああ……それだと王国国民は喜びそうだな!」
「くっ!共存……、同盟は……。」
「無い!……あんた等と組むと、ストレンジ評議国自体崩壊の可能性も出て来る。……自分達の価値が分かって無いのか?自国を亡ぼせるスペックを持ってるんだぞ!凄いじゃないか!あんたらの名前がこの世界の歴史書に刻まれるんだ!精々教国に助けを求めると良い!」
「くっ!すまん!ちょっと相談させてくれ!」
「ああ構わないが、長くは待たないぞ!」
すると隣にいた彩香さんが、俺の袖を引っ張る……。
「まっ、正臣くん……。プッ、プププッ!何か、プッ。”くっ!”って言ってるんだけど……。プッ!」
そこには、必死に笑いを我慢している彩香さんが居た……。
笑い上戸の彩香さんは、おっさんが何時、クッコロ!言うのか、想像していたらしい。
だが、ロストニア王国側はそれどころじゃない……。
時折、声は聞こえて来るが、碌でも無い事を考えている様だ。
「ああ、コホン!」
俺が咳ばらいを一つ。
「そろそろ決めて貰いたいんだが、参考に今回の戦争の概要を伝えて置こう。ロストニア王国軍5万に対し、ストレンジ評議国軍約3千!ほぼ一方的な蹂躙により、生存した王国兵約150人を捕虜にした。こちらに死者は出ていない。戦闘所要時間、約1時間って所だ。」
「うっ、嘘をつくな!そんな戦闘聞いた事も無い!」
「当たり前だ!俺達の初戦闘なんだからな。はぁ~……。面倒くさい……。どっちでもいいからさっさと決めろよ!通達はしてあっただろうに……。」
それから1時間が経過……。
俺達はこの調停に飽きてきている。
ロストニア王国は立場分かっているのか?
「なあ、次の返答で決まらなかったら戦闘再開な!捕虜は斬首って事で……。」
「まっ!待て!」
「待て?戦闘再開って事か……。」
「ちっ!違う!」
「それじゃ、降伏な……。捕虜の見積もり預けたろ、さっさと金出せよ!」
「くっ!」
彩香さんが俺の袖を引っ張る。
おっさんが”くっ!”って言う度に、袖を引っ張るのは止めて欲しい。
お蔭で相当数、俺の脳が揺らされる。
「堀田くん!見積もり確認お願い!今日の為替相場1:13だって。」
「分かりました。」
そして堀田くんがロストニア王国側に向き直り口を開く。
「それでは、捕虜の返還交渉しましょうか!」
そうして、王国の全面降伏が決定し、捕虜の買取が行われた……。
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