82.懐柔?
翌日、魔王城……。
「魔王様!夢魔族が同盟から離脱しました。」
「何と愚かな……それでは人族に攻められるだけではないか。」
「いえ、人族主体の新興多種族国家ストレンジ評議国入りするとの事です。」
「人族め……。また何やら企んでいるのではあるまいな……。」
「それは無いかと……聞いた話によると、ロストニア王国からの独立を果たし、その王国とは犬猿の仲の様です。つまり教国とも不仲と思われます。」
現魔王、妖魔族長は首をかしげ、報告に来た妖魔族の部下に聞き返す。
「時に勇者召喚したとの報告が有った、ロストニア王国はどうなっておる。」
「はい、そのストレンジ評議国と戦争したらしく物の見事に全滅生き残りも居りません、立て直しにはおそらく数年かかるだろうとの、報告が来ております。」
「勇者相手にその戦果か……。ストレンジ評議国とは事を荒立てない方が賢明か……。引き続きストレンジ評議国の情報収取に励め!」
「それなんですが、王国からの情報収集しか出来ておりません。」
「なぜだ!眷族達からの報告もあろう!」
「ストレンジ評議国では率先して魔獣駆除を行なっており、現在ストレンジ評議国内における魔獣は山奥に居る者だけです。」
「街道沿いにいないのか?」
「はい全て駆除されております。」
「冒険者の間者はどうなっている。」
「居るには居るのですが……。町から締め出され仕事も無く、物乞いの真似事をしている始末です。」
「何だと……。不味いだろ……。」
「何がでしょう?」
「そこまで徹底されると、何時こっちに矛先が向けられるか分からんだろう!それに我らは夢魔族を冷遇してたのだぞ、それがストレンジ評議国についたのだ!」
現魔王は危惧していた……。
だが既に妖魔族がストレンジ評議国の敵対勢力認定されている事を、まだ知る由も無かった。
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ジスト会議堂地下牢……。
地下牢には、セレクト砦戦役のロストニア王国軍捕虜が収監されている。
ロストニア王国軍魔術師団長ロイド・レイ・ディーハルトもその一人……。
「ロイド……。ストレンジ評議国に忠誠を誓わないか?」
「何を言っている。そんな事出来る訳ないだろ!」
現在、俺、琴音、鈴音、ラクトがロイドの懐柔を試みている。
「一応、血縁関係と言う事で俺達が来てるんだがな……。」
「お前らなんて、見たことも無い!どこぞの奴隷にでも孕ませられた口だろ……。」
「知らないのは当たり前か……。俺達は、かの大賢者の系統だからな……。お前の様な劣等系列とは異なるって事だな……。」
「馬鹿にしてるのか!私は大賢者様の兄の血統だ!」
「うん?だから……劣等系列だろ?違うか?」
「兄の方が優秀に決まってる!」
「なら魔術知識で勝負してみるか?恥をかくだけだぞ……。それとも……教えを請い魔術の深淵を覗くのと、どちらが有益か明らかだろうに……。」
「魔術の深淵か……。」
「お前達なら、道理が分かる筈だ……。それともどこかの馬鹿騎士に感化され、また我々に敵対するか?」
「知識を取るか、地位を取るかって事だな……。」
「ああそう言う事だ、それと魔術師達は騎士なんかよりも高い値段での交渉だから、ロストニア王国で保釈金が払えるか分からないぞ……。」
「そうか……ストレンジ評議国では魔術師の価値が高いのか……。」
「そうでも無い……。2割の住民は魔術を使える……。単純に騎士の価値が無いだけだ……。」
「そっ、そんなに使える人材が……。」
「故に騎士団長がいるだろ、彼奴の価値は、初級魔術師団員の1/10に設定している。最初に騎士達から交渉して行く。で、最後にロイドお前になる。」
「交渉の段取りを私に教えても良いのか?」
「別に構わん!魔術師団交渉時には、ロストニア王国は金を持っていると思うか?」
「無い事も無いだろう……。」
「だが、ストレンジ評議国はすでに独自通貨を持っており、ロストニア王国とストレンジ評議国の物価も10倍の差がある。その事もロストニア王国は分かっていないのだぞ!もちろん提示する金額はストレンジ評議国貨幣だがな……。」
「もう確定じゃないか……。考えるだけ無駄だな……。」
「まあ諦めが肝心だと思う。それにストレンジ評議国なら、魔術研究のみしてればいい……。それはそれでお前達にとっても本望だろ……。」
「確かに研究してる方が面白い……。貴族同士のお付き合いも疲れるだけだしな……。」
「そこでお前達に紹介してやろう……。」
親父を傍に呼ぶ。
「伝説の大賢者ラクトだ!今の肉体はホムンクルスとなっているが、本物だぞ!」
「はいっ~?」
ロイドが目を見開き、ホムンクルス体の親父を見る。
「本物か?」
「一応、体は偽物だが、頭の中身は本物だよな……親父?」
「お前が疑問視してどうする!」
「だって親父じゃん!元々、意識の転写って感じだろ……。そっちも偽物じゃないか……。ああ~ビックリした。すまんロイド全部偽物だこいつ!」
「親に向かって何言ってる!俺は情けないぞ、正臣!」
「いや~、よくよく考えたら全部偽物だよ……。うん?でも知識は本物って事でいいのか……。」
「いや、意識も本物だから……。」
「俺の親父は、清廉潔白のナイスガイだった記憶が……。」
「「にぃ、妄想し過ぎ!変態ヒキニートストーカーが父さん!」」
「そんなの親と認めないから……。」
「あの~。本当に大賢者様?」
「ああ、ロイドすまんな……。本物ではないと今分かったんだが、一応は大賢者で間違いない。色々と質問でもすれば、納得いくんじゃないか?」
「はぁ~……。」
いまいち、懐疑的な目で親父を見ている。
そしてポツリポツリと質問して行く、その度にロイドが驚きの表情を見せる……。
何か時間が掛かりそうなので、俺達は他の魔術師の懐柔に向かう。
150人近くいる捕虜の内、30人が魔術師だ……。
一応、騎士、魔術師、男性、女性と区別して牢に入れているが……、数日ごった返して入れている為臭いがきつい……。
そんな中を、分析を掛けながら歩いて行く……。
「おい!そこのお前!私等をいつまでここに入れてるつもりだ!」
声の方を向くと……、騎士団長か……。
「ロストニア王国が金を払うまでだよ……。」
「なっ!早く解放しろ!こののろま!」
「国王にでも言え……。」
「何だと!」
「お前分かってるのか……、お前は捕虜!現在戦時中!」
「なっ!無礼な!」
「お前がな……。」
「何だと!我は公爵だぞ!王家の血筋を引く者だ!分かっておるのか貴様!」
「知ってるよ……。その言葉は王家の言葉と取っていいのか?」
「何を言っておる、当たり前だ!王家の血筋は尊い物と決まっておる!」
「そうか……、良かったな騎士団諸君!騎士団長殿がロストニア王国の王族として責任をもって、ロストニア王国へ皆を返してくれるそうだ!賠償額が途方もない金額だが没落覚悟で皆の事を思ってくれているぞ……。はい!騎士団長殿に拍手!」
ぱち!ぱち!ぱち!ぱち!ぱち!ぱち!ぱち!ぱち!
「なっ!そんな筈無いだろ!」
「あら~、違うの?てっきりロストニア王国の戦争責任は、王族にあると思ってたんだが……。」
「くっ!」
「責任取れない様なら、公爵も降りたらどうですか?まあロストニア王国の貴族がどうなろうと関係ありませんから、お好きにどうぞ……。」
何も言えなくなった騎士団長を置いて、また分析を掛けながら歩いて行く。
そして目的の人物を見つける……。
魔術師団の女性牢に彼女はいた……。
「ここにロイド公爵の血縁の者がいる筈だが……。」
「はい、私です……。」
彼女は俺達が最初に捕虜にした者だった……。
「他に公爵縁の者はいるか……。遠縁でもいいぞ!何代前とかそう言うのでも構わん……。」
すると……12人の内、9人が名乗りを上げる。
「残り3人か……。お前達はどう言った血統だ!」
「私達は大賢者様の義妹になる系統です。ロイド公爵とは血縁にはなりません。」
「お前達も大丈夫だ……。一緒に来い!」
結局、女性は全員、俺の親戚筋と言う事になる……。
取りあえず、ロイドとラクトのいる部屋に皆を連れて行く……。
部屋では何を思ったかラクトが魔術の実演をしていた……。
実演項目、結界によるバックドラフト!
「親父、危ないだろ!室内でするな!」
「俺がそんなへまするか!ちゃんと結界張っている!」
「もういい!取りあえず俺達の親戚筋の女性、連れてきた!懐柔してくれ、ロイドも今さら王国に戻る気無いだろ!」
「ええ、大賢者様に教えて貰えるなら、別に王国など興味はありません……。」
「それじゃ、ロイドも懐柔を後押ししてくれ……。」
「良いですよ……。魔術師団の殆どが私の血縁ですから……。問題無いでしょう。」
「それと彼女はお前の娘か?」
「ええそうです。まだ名乗って無いのですか。ほら、ルビー……挨拶しなさい。藤堂様は大賢者様の息子ですよ!」
「「「「「「「「「「「「はい?」」」」」」」」」」」」
連れてきた女性全員が疑問の声を上げる……。
「ああ俺が大賢者の息子の藤堂正臣だ!そしてそこに居る胡散臭いホムンクルスが大賢者ラクトの偽物だ!」
「だから……。本物だって!」
「「「「「「「「「「「「はい?」」」」」」」」」」」」
またしても連れてきた女性全員が疑問の声を上げる……。
「えぇ~っと……。父様?どう言う事ですか?」
「しょうがないですね……。これではラクト様の魔術実演が滞ってしまいます……。私達が戦っていたストレンジ評議国は、大賢者ラクト様とその縁者が立ち上げた国なのです。先に教えて貰えれば、敵対する事も被害に会う事も無かったのですが……。戦う前から詰んでいたと言う事ですよ。」
「えぇ~っと……。」
「まだわかりませんか?大賢者様は私達の一族です。本来なら私達の敵はロストニア王国と言う事です。」
「つまり、敵に回してはいけない人達の敵に回っていたと言う事でしょうか?」
「そう言う事になりますね。」
「そうですね……。大賢者様相手であれば、あの一方的な展開も分かりますわ。」
「皆さんも分かってくれましたか?」
ルビーの後ろに控える女性達も、納得が言った様だ……。
「それでどうして私達はここに連れて来られているのでしょう?」
「それはですね、大賢者様の門弟にと言う事ですが、あなた達はどうしますか?大賢者様に魔術の深淵を教えて貰えますよ。」
「本当ですか?父様!私達も戦争するくらいなら、魔術の研究がしたいです……。」
「決まりですね……。藤堂様よろしくお願いします。」
「まあ、ルビー達もストレンジ評議国が受け入れよう。魔術学校及び研究所を設立し、そこの職員として働いて貰うと言う事でいいか?」
「はい、喜んで……。と言いますか、敵だった私達をすんなりと受け入れても大丈夫なのでしょうか?」
「まあ問題だと言えばそうだが……。制約魔術を受け入れてもらう……。お前達は分かるだろうが、名前を変えた奴隷契約だ……。そして勇者達に掛けた魔術師達より上位にいる俺達が魔術を行使する。雇用契約を受け入れた者達だけにするが、ストレンジ評議国に不利益をもたらす事が出来なくなる。」
「それでしたら大丈夫ですね。喜んでお受けいたします。」
流石は魔術師……。
地位と知識を天秤にかけ、あっさりロストニア王国での地位を切りやがった……。
他の女性魔術師達もそれに同意し、次は男性魔術師達の懐柔に挑む……。
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