70.邂逅?
正臣達が夢魔族の村に向かっている頃。
とあるダンジョン内では……。
「あなた一気に攻略するわよ!」
「任せとけ!」
コハクが数々の魔道具を使いこなし、ラクトが数々の魔術で敵を蝕滅していく……。
と言う事にはなっていないが、一般冒険者では考えられない異様なペースで潜って行く事になる。
さらに言うなれば、このダンジョンは入り口から、進入者を拒むために作られた罠が設置されており、正臣達が踏破して来たダンジョンとは趣が違っていた……。
1階層から腐敗臭を撒き散らし、動く死体、死霊等が襲って来る……、まさにバイオ状態……。
中には毒などの状態異常攻撃をしてくる敵も多く、もし正臣達がこのダンジョンの攻略するとなれば、出来ないとは言わないまでも相当な労力を強いられただろう。
だがしかし、コハク、ラクトはホムンクルス体からオリハルコンボディーへ魔石を換装しており、現在は状態異常攻撃が全く効かない……。
そして何より今回の秘密兵器?小型魔導車!
ダンジョン内での移動を目的とした、先頭にドリルの付いたボブスレーと言った所だ。
「だが……。何人たりとも私の前は走らせない!」
「コハクさん、アンデッドが走って向って来るんですが……。」
「タ~ラ、タララ、タララ、タタタタタタッタ~ン……。」
ダメだ……、例のドリフトアニメの音楽を口ずさみ始めた……。
案の定、この魔導車にはハンドル、クラッチ、ブレーキ、アクセル、シフト、サイドブレーキが付いてる事にラクトは今気付いた。
動力がエンジンと言う訳ではないので、あの重低音のエンジン音はしない。
キュイーーーーン!キュキュキュキュイーーーーン!
コハクが、アクセルを踏み回転数を上げた、高音域の回転音が響く……。
ガコッ!
ギアを入れ、クラッチを切る……。
ギュルルルルルルルルルルッ……!
タイヤと地面がかみ合って行く……。
そして一気に魔導車は加速して…………、アンデッドを轢き殺した……。
ドガガガガガガガガッ……!
アンデッド達が、魔導車の前面に当たっている音がする……。
「あらやだ!ドリル回すの忘れてたわ……。」
コハクがボタンを押すと先頭のドリルが回り出す……。
チュイ~~~~~~~~ン!
あっ!歯医者さんでよく聞く音だと思ったが、その音はアンデットを巻き込む事で音域が変わった……。
ビュビュビュビュビュビュビュビュビュ!
アンデッドの腐った血液や体液、細かくなった肉片が魔導車のボディーに降り注ぐ音になったのだ。
「あら、ワイパーも付けないと……。」
フロントガラスが赤や緑の毒々しい色彩に彩られる。
コハクはのんびりとした口調ではいるが、手足の動きが尋常じゃない。
向かうは3連コーナー……。
どこで覚えたのかヒールアンドトゥ等も駆使しているのが分かる。
こんなダンジョン内で、スピードを出す事なんてないが、ハンドルを握ってから目が血走っている様な気もする。
そしてドリフトからの溝落とし……って、溝が無い事は承知の様で、ドリルを壁に引っ掛けている……。
それにより現在コハク達は5階層に到達している。
1階層から物理的、魔術的罠をことごとく無視し、不死属性の魔獣を蹂躙してきた結果である。
「意外と呆気ないわね……。」
「あの……。コハクさん……。俺何もしないで、後ろに居るだけなんですけど……。」
「あら、あなた居たの?」
「酷い……。」
「冗談よ、それよりこのダンジョン何か違和感が無い?」
「違和感だらけだ……。通常ならダンジョンは外部の者を誘い入れる仕掛けがあっても良いが、今の所それが無い。」
「そうよね……。むしろ追い出そうと言う意図が見えるわね……。下層なら分かるけど上層でそれは無いわ……。」
「まあボス部屋辺りで、ダンジョンマスターがアプローチでもしてくるだろ……。」
「それもそうね、それじゃこのまま進むわよ。」
そうして潜るペースを落とさず、10階層へ向かう……。
「ヒャッハー!逃げる奴は、アンデッドだ~!逃げない奴は、訓練されたアンデッドだ~!」
「アンデッド供をよく殺せるな」
「簡単さ。動きがのろいからな!ホント、ダンジョンは地獄だぜ! フゥハハハーハァー」
小型魔導車のハンドルを握ってからのコハクはこの調子である……。
「はぁ~……。」
後ろに乗っているラクトは、軽いため息が出る……。
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一方その頃、ダンジョン内での二人の蛮行を見守っている人物達が居た……。
「なあ……、奴等の行動が美食勇者と大賢者の二人に見えて来るんだがどう思う?」
「そうだね、僕もそう見えてしまうのが不思議なんだが……。何なんだ?あの魔道具は……。」
「それを俺に聞かれても困るな……。」
「だろうね……。本人に聞いてみようか?」
「招き入れるのか?ここに……。」
「そのつもりだけど……。だめ……かな?」
上目使いでおねだりする女性と、ニヤニヤして目を背ける男性……。
男性の方は、この不死属性ダンジョンのダンジョンマスターなんだが……。
「だめ……じゃない……。」
そう言って、イチャイチャラブラブし出す……。
そうして一通りイチャつき、二人がベッドで話を始める。
「やっぱり最高の女性だな……。俺の眼に間違いは無かった……。」
「ウフフ……。それを言うなら僕の眼も負けてないね……。今こうして居るのが幸せだからね……。」
互いに言葉を交わし合い、二人が口づけをする。
ダンジョンマスターの手に力がこもり、もう一回戦の催促をするが……。
「ダメだよ……。また後で……。これからお客さん来るんだからね。」
「う~~~……。」
ダンジョンマスターは名残惜しそうに手の力を緩め、二人の身体が離れる。
「それでどうするんだい?」
「何がだ?」
「迎えやらなきゃ……。」
「そうだな……。あの戦闘力じゃ、下手な魔獣を迎えにやったら一瞬でミンチ出しな…………。彼ら3人に出て貰うか?」
「良い案だと思うよ……。礼節もきちんとしてるし、不敬にはならないと思う。本人だったら、それこそ気にしないだろうけど、意思の疎通が取れないとね……。」
「それじゃ、あの3人に任せよう。」
そうして、迎えの準備が進められた……。
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10階層ボス部屋……そこには上層ではお目に掛かれない3体の魔獣?が待っていた。
どれもが不死の王と呼ばれる存在……。
死霊魔術を極め自らもその魔術でアンデット化し、永遠の知識の探究者……エルダーリッチー。
見る者は魅了され、血を吸った人間を下級のヴァンパイアに変え眷族としてしたがえる……ヴァンパイアロード。
触れる者全てに様々な状態異常を起こすアンデッドクリーチャー、レイスの頂点……ワイトクラウン。
「コハク様、ラクト様、御迎えに上がりました。」
ヴァンパイアロードが話し出す。
「私達を知っているのね……。あなた達何者かしら……。」
「御迎え?……きな臭い迎えだな。」
「まあダンジョンマスターと話が出来る点は有意しましょう。」
「そう言って貰えると助かります。マスターがお待ちですので御案内させて貰います。」
「分かったわ、案内お願いね。」
3体の魔獣の後ろをついて行く事にしたコハク達は、とある人物と邂逅する事になる……。
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