65.調停者?
ジスト郊外
「あれが、ジスト……。」
「前に来た時とは、別物ですね……。」
「それに、何だこの馬車……。」
「道も平坦だぞ……。」
「と言うか、もう着くのか?」
「馬も、全然疲れてませんね……。」
思い思いに感想を述べている。
「もう間もなく着きます。お昼、食べてから会議堂に向かいますよ……。」
そうして、ジストに到着、守衛に客人がいる事を伝え、仮認識票を7人分貰い、アイリス達に手渡す。
「この認識票が無いと、捕まりますので無くさない様にして下さい……。尚、冒険者のギルドカードは身分証明書に成りませんから、そのつもりで居て下さい。」
「覚悟はしていたが、ギルドカードが意味をなさないとは……。」
「それはしょうがないです。冒険者と言う名の、浮浪者って認識ですんで……。では、美食亭に行きますよ……。」
そうして、美食亭に到着する
7人を引き連れ、中に入るとファナが出て来た……。
「いらしゃ……、お帰りなさい!正臣さん!」
「ただいま!」
「あれ!ファナちゃん?」
アイリス達が、不思議がっている……。
「ああ、ここは王都から移転して来たサクさんの店だ……。」
「「「「「「お~!ジストに来てたとは!」」」」」」
この女性冒険者6人も、サクさんのファンらしい……。
「私、こっちに本拠移す!」
「ちょ、それなら私も!」
「みんな、移ろうよ!」
「ここ美味しいよね~。」
「お店無くなった時、ショックッだったんだよね~。」
「私達、これから評議国民ね……。」
やはり、美味しい物が無くっちゃ、生活したくないよな~……。
「ちょっと!あなた達、まだ依頼中!王都に戻ってから、移住する成りなんなりする様に!その時は私もついて行くから!」
「まあ、まあ、取りあえず、新作カレーでも頼もうか。ファナ!例の人数分頼む!」
「了解で~す。」
少し前から、米と鶏肉を美食亭に卸し始め出来たメニュー!唐揚げカレーライスを注文した。
やっぱり米があると、シックリくる……。
そうして、皆で食事をとると……。
「「「「「「「私達、絶対こっちに移住するから!」」」」」」
「トウドーさん、その時はご贔屓にして下さい!」
やっぱり食の力は偉大だ……!
移住者が増える理由の半分はサクさんの力だな……。
そんな事を思い食事が終わると、会議堂に向かった。
「ラウル居るか?」
「はい!藤堂様!」
「王都からのお客さんだ、客室を用意してくれ!それと、誰かアサギ達も呼んでくれ!」
アイリス達はキョドリながら、客室に案内される。
さて俺はと言うと、執務室に向かう……。
「ただいま!」
「「「「お帰りなさい!」」」」
執務室に居たのは、安奈、琴音、鈴音、吉田くんだった……。
「どうしました?セレクト砦に居る筈じゃ無かったでしたっけ。」
「王都冒険者ギルドの、副ギルド長アイリスが来て、交渉中なんだが、会議に掛ける案件が出来て戻って来た……。」
「どんな案件です?」
「王国との交渉で、仲介に冒険者ギルド入れたいんだけど、どうだろう……?」
「それでしたら、僕等の管轄だね……。」
「そうなんだけど、軍の管轄でもあるし、国としての管轄でもあるからな……。でも王国へは、吉田くんに行って貰う事になるだろうね。」
最近、外交部門は各国へ、独立の旨を伝えに飛び回っている……。
「そうですね……。でも、冒険者ギルドの仲介で大丈夫ですか?」
「悪い様にはならないと思うが、こっちが勝って捕虜もいる事を伝えないと駄目だし、王国の領土が欲しい訳じゃ無いから、こっちから出向くつもりもない!」
「下手に出向くと、属国にでも、なられそうですね……。」
「地球にも、関わったら破滅する民族とか要るし、王国とは距離を置きたい!150年間、進歩しないどころか退化した国なんて要らないだろ?」
「そうですね。王国から、さらに金を巻き上げて終了で良いですね……。」
「丁度、宰相の土地を搾取した事だろうし、捕虜の返還で他の貴族からも、巻き上げる口実が出来た。」
「後は、ダンジョンを潰して回れば、生産性も落ちるでしょうね……。」
「それは、その内な……。」
王国には、今回をきっかけに激貧国になって貰おう。
「それで、会議と言うわけですね……。でも、会議に掛けるほどですか?」
「どちらかと言うと、捕虜の値段かな?今回生き残ったのは、高級装備に身を包んだ貴族と、魔術耐性のある魔術師だ、その他モブは殲滅されてる。」
「武装は没収で良いですけど、中身に差が出ますね……。」
「それで捕虜を全員奴隷に落とした上で、値段付けて買い取って貰おうかと思って……。」
「それで良いと思いますよ。会議に掛けるまでありません……。終わったら、収支報告で良いんじゃないでしょうか?」
「一応、評議国なんだから、先に知っとかないと不味いだろ……?」
「正臣さん、私の方から皆に言っておきます……。それと、魔術師達って王国に帰さないつもりでしょ……?」
「安奈……。気付いてたの……?」
「はい、評議国が人材不足ですし、魔術師なら論理的に攻めれば懐柔も可能かと、感情優先でも無いでしょうから……。」
「それもあるけど、魔術師団長って、大賢者ラクトの系譜だから落とし易いかと……。でも馬鹿だったら要らないかな……。」
「それでは、お義父さんに、お願いするんですか?」
「にぃ、大丈夫?」
「アレだよ?」
う~ん……。そうだった……。
「まあ、子孫の怠惰に、決起してくれることを祈ろう……。」
完全自己中な親父が、どこまで他人に興味を示せるかだな……。
「「ダメじゃん……。」」
「やっぱり!」
「「母さんに頼む!」」
「そうするか……。」
まあ、本人から説得して貰うのが一番だろうが……、期待しないでおこう……。
と言う訳で、今後の方針を整理する。
まずは、戦後処理、次いでダンジョン攻略、教国への対応、各国との国交って所だな。
そう言えば、マリルが魔王レミについて話してたな……。
そろそろ、前魔王の捜索も、視野に入れて置かないとな……。
………………、王国との大口の貨幣取引?……、独自通貨の発行に調度良いんじゃないか?
為替レートは……、財務部門と、商業ギルドに相談だな……。
国営の銀行も必要そうだが……。
う~ん……、分からん……、両替所だけで良いのか?
取りあえず、明日の会議に掛けるか……。
「安奈、もう一つ会議に掛ける案件が出来た。」
「なんですか?」
「評議国の独自通貨。」
「今ですか?」
「今回を期に、王国と評議国の価値を明確にしたい。」
「完全に、王国と決別する訳ですね……。分かりました、皆にも伝えておきます……。」
安奈にその事を伝え、明日午前の会議が決まった。
その後、財務部門の2人も混ざり、独自通貨について詰めていった……。
その結果、自分達の慣れ親しんだ紙幣の導入の案も出たが、グレインガルドの原住民にとって、解り辛いのではないかと言う事で却下され、通貨単位をEtとし、ミスリル金貨(ミスリル32%金68%、10000Et)、ミスリル銀貨(ミスリル18%銀82%、1,000Et)、ミスリル白銅貨(ミスリル10%銅72%ニッケル18%、100Et)、ミスリル青銅貨(ミスリル3%銅95%錫2%、10Et)、ミスリル軽銀貨(ミスリル3%アルミニウム97%、1Et)の各硬貨の草案が練られた。
その後、安奈達は明日の会議に向けて書類作成に掛かり、俺は開発部門で沙姫、弥生に硬貨のデザインを依頼し、資材となる合金の作成に掛かった。
硬貨のデザインだが、日本の硬貨と同じデザインで、軽金貨が1円玉、青銅貨が10円玉、白銅貨が100円玉になっており、銀貨が500円玉を1000と変えているだけだった。
手抜きが良く分かるデザインになっていたが、ある意味分かり易い……。
唯一のオリジナルデザインとなったミスリル金貨は、ワイバーンの絵柄と10,000の文字を組み合わせ、裏には蔦の葉が描かれていた。
うん、良いんじゃないか……。
後は……、プレス機と選別機が必要か……。
金型の素材はクロムでいいとして、動力に魔法陣を組まないとな……。
選別機は魔導映写機を応用すれば、何とかなりそうだな……。
取りあえず、明日まで試作の硬貨を作るか……、生産態勢はそれからでも良いだろう……。
それから、開発部門で試作硬貨の製造を行ない、ある程度形が出来た頃には随分時間がたっていたことに気付き、客室に居るアイリス達に明日の予定を伝え、会議堂を後にした。
翌朝、会議堂に来て早々アイリス達に声を掛けられる。.
「ちょっ!トウド―さん!ここのメイドさん下さい!」
そしてどこで知ったか知らないが、7人が俺に向かい土下座してくる……。
「なっ!朝から何言ってる!」
「だって、ここの料理美味いだろ!聞けば皆程々に料理できるって言ってたから……、一人ぐらい良いかな~って……。」
「ダメだ!ここの使用人は雇用契約をしている大切な仲間だ!ここ以上の給料と社会保障を提示するなら、引き抜かれてもしょうがないかとも思うが……。冒険者ギルドで生活の安全と安心を保証できないのは、身をもって知っている……、使用人の未来を危険にさらす事は出来ない!」
「ダメか~……。」
「それと何か勘違いしてるかも知れないが……。俺と彼女達の立場は一緒だぞ。この国に主従関係と言うものは基本存在しない……。お互いが敬意を払う事により、この国が出来ている。」
「そうなのか……。それじゃ調味料等は分けて貰えないか?」
「それに関しては、王国との交渉次第だな……。ただ、評議国は王国に対して、不快感を持っているって事は理解してくれ……。」
「うわ~……。交渉決裂が目に見えるようだ……。」
「だろうな……。一切譲る気は無いからな。話し方一つで王国をボコって放置も在り得るから、冒険者ギルドの王国からの撤退も考えてた方が良いぞ……。」
「えっ!もしかして、貧乏くじ引いた……?」
「考え方次第とだけ言っておく……。」
アイリス達は、評議国と王国の溝の深さを知らない。
俺達が一方的に、毛嫌いしているのだから当たり前である。
その後、7人を連れ会議室に向かうと、安奈達が独自貨幣のプレゼンの準備をしていた……。
「あれは何してるんだ?」
アイリスが、投影機等の機材を見て疑問を投げかける。
「会議の準備……。」
「だから……。あの道具は何なんだ?」
「聞きたいのか?」
「………………、聞かない方がよさそうだな……。」
「賢明な判断だ……。」
アイリスも、冒険者ギルド幹部なだけあって、察しがついたのだろう……。
投影機も立派な戦争の道具に成り得る事を、そしてここがロストニア王国ではなくストレンジ評議国……、その上この会議室には評議国幹部しかいないのを……。
「アイリス。これから会議するけど、皆に調停者として紹介するから、その辺の椅子にでも座っていてくれ……。後で意見も貰うと思うんでその時はよろしく。」
「トウド―さん、程々に頼む……。王都ギルドの代表として来ているが、私の一存で決めれる事が少ない……。」
「そんな難しい事をお願いするつもりは、無いから大丈夫だと思うよ。」
「そうしてくれると助かる。」
そして、皆が会議室に集まると、会議が始まった。
「それでは会議を始める前に、紹介したい人が居ます。アイリス、前に……。」
アイリスが俺の呼びかけで、前に出て来る。
「彼女は、王都冒険者ギルド副ギルド長のアイリス、俺が王都で世話になった数少ない人物の中の一人だ。何故この場に居るかと言うと、今回の戦争の調停者として、評議国と王国との間に王都冒険者ギルドで入って貰うためだ。アイリス……。」
「アイリスと言います。王都冒険者ギルドの副ギルド長を務めています。以後お見知り置きを……。」
係留
パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!
紹介も終わり、アイリスに席に戻るよう促す。
「それでは最初の議題は、今紹介したアイリス達、王都冒険者ギルドに調停役をして貰ってもいいか?って事だが、意見ある人はいるか?一応、軍部は
賛成だそうだ……。」
「正臣くん。いいかしら……。」
彩香さんが、手を上げ発言を求める。
「どうぞ……。」
「今回の戦闘に顔出してないけども、戦略兵器などが他国に漏洩しても大丈夫なの?捕虜の返還ってそう言う事よね……。」
「大丈夫だと思うよ、捕虜達も何で捕まったか分かっていないと思うし、たとえ漏洩しても対策を練れるとはとても思えないからね。」
「ならいいけど……。評議国を軽視して攻め込んでくる国もあると思うのよね……。」
「その時はその時で……。」
「どうせなら全員口封じの方が、安心出来るけど……。」
その言葉にアリエルが反応する。
「ちょっと待ってください!そうすると私がここに来た事の意味を失ってしまいます。」
「まあ、待って俺としては、ロストニア王国から金品巻き上げたいから、口封じで殺すのは無しの方向なんだけど……。」
「それでもいいわよ……。徹底的に戦争できない位疲弊させるのであればだけど……。」
「皆もそれでいいか?」
皆が無言で頷く。
「と言う事で、捕虜の返還が決まった訳だが、アイリス達には中立の立場で、交渉の席を設けて貰いたい……。それと、まだロストニア王国から降伏の宣言とかも来てないから、早々に砦まで来いと伝えてくれ、このままだと王国中の貴族共を根絶やしにしなければならない、はっきり言って面倒だ!」
「根絶やし……ですか。」
「住民達には手を出すつもり無いし、冒険者ギルドは中立を保つんだろ?」
「はい……、そのつもりです。」
「それじゃ、アイリス。捕虜名簿と賠償請求等の書類、持って行ってくれ……。」
昨日の内に準備して貰った、書類をアイリスに渡す。
「それで調停場所なんですが……。」
「そうだな……。戦争現場で良いんじゃないか?簡易施設でも建てれば出来るだろ……?それに王国へ進行する気が無いと言う、アピールにもなるだろうし……。」
「簡易施設なんて、そんな簡単にできませんよ!」
「それなら建物はこっちで準備する、それと万が一が無いとも限らないからクレア達を護衛に付けよう……。」
「えぇ~っと……、クレアさん達ってE級パーティーですよね……。」
「そうだけど何か問題あるのか?」
「無いですけども……。私が連れて来ている冒険者パーティーはA級なので……。」
アイリスが申し訳なさそうに、護衛を断って来る……。
「問題ないだろ?戦闘力と危機管理能力ならクレア達の方が上だ。」
「えぇ~っと、ちなみにどの位の強さですか?」
「確かキリフダンジョンの43階層を、単独アタックしていたな……。もう間もなく、攻略すると思うが……。」
「へっ?ダンジョン攻略?……前代未聞だぞ!そんな冒険者パーティー聞いたことも無い!それにキリフダンジョンって、ここから北にある新しいダンジョンだろ、情報が無いのにそこまで潜っているのか……?その強さなら、S級冒険者以上だぞ!」
「冒険者のランクって、当てにならないからな~……。それにクレア達が低級冒険者なのは、冒険者ギルドの依頼を受けてないからだし……。」
「そうなんだ……。」
「まっ!そう言う事だから、王国への連絡お願いします。」
「………………、了解した……。」
アイリスも無事了解してくれたので、次の議題に移る前にアイリスに会議室からの退出をお願いする。
アイリスの退出後、独自通貨のプレゼンを行なった。
商人ギルドも大金を儲けるチャンスが、巡って来たとばかりに乗り気になった様で、独自通貨の発行には賛成してくれたが、高額通貨も作ってほしいとの要望もあり、オリハルコンと金の合金で出来た100万Etのプレートの作成を決定した。
その後、元奴隷商人デリナスを中心に捕虜の値段が決定され、会議が終了した……。
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