59.チーム戦?
2戦目が終了し、俺達が勝ち越している。
彩香さんが、盾を押したのは、ブローリーに筋肉反射をさせたからだそうだ……。
物理的力が掛かると、無意識に反対の力を掛けるらしい……。
だから、意図せず手を広げたらしい……、そんな知識、普通持ってないって……。
まあ、全勝で終わる予定だから、何の問題にもならないが……。
すると、ゲシュタルが、こっちへ歩いてくるのが見える……。
「M・T殿、頼みがある!」
「断る!」
「まだ何も言ってないだろう!」
「予想を言うぞ、冒険者ギルドの面子もあるから、手加減、もしくは、そうだな……。チーム戦と行った所か?」
「うっ……。その通りだ……。冒険者はパーティーで動くもの、1人より3人の方が、強さを発揮する……。だから……頼む!」
「本当にいいのか?残り3人のチーム戦で……。」
残りのタッグ戦となると、俺、琴音、鈴音のチームになる。
知っている人なら、絶対、勝負は避ける……、だが。
「俺達を侮って貰っては困る。迅雷疾風は昔、俺の冒険者パーティーだった。年数は立っているが、連携は1流だ!」
「本当にいいのか?」
「受けて貰えるなら、その方が良いに決まってるだろ!」
「もう一度聞く……。本当にいいのか?」
「くどい……。何度も言わせるな!」
「了解した……。チーム戦を受けよう。」
メリエルにそのことを報告、広報して貰う……。
メリエルは、その事を聞くと……。
「ああ~、もう駄目だ、あいつ!あんなのがギルド長なんてやってだぞ、内の支部……。はぁ~……。」
「最初の2戦見ても、気付かないもんだなぁ~。」
「馬鹿なんだよ……。まあ、決まったのなら仕方ねぇ~……。それと無く、正臣のオッズ上げてきてやるよ……。」
そう言って、舞台中央へ行く。
「さ~って!ここで、ルール変更だ!
皆も知ってると思いますが、冒険者が1番に力を発揮するのが、パーティー戦!
ここに残ったのは、万能と疾風迅雷!かつては共にパーティーを組んでいた仲間、連携も超1流のS級だ!
対するはE級冒険者夫婦が1組!
超1流S級パーティーvs夫婦の絆、どっちが上かこの後、決まる……。
勝負は15分後に開始だ!皆、賭け忘れの無い様にな!」
メリエルの声が、広場に響いた……。
俺は、皆と話をする。
「と言う事だ、琴音、鈴音。何かあるか?」
「あいつら馬鹿?」
「連携勝負って……。」
「皆まで言うな……。」
「正臣くんと琴音ちゃん、鈴音ちゃんに、挑むなんて無謀ね……。」
「安心感~半端無~。」
「でっ、どうやって盛り上げるの?」
「う~ん……。シンクロでもするか……?」
「だと、棒がやり易い……。」
「間合い調整しやすい。」
「で、フラットスリーてな感じで……。演武しながら入場するか……。少林寺っぽくしながら。」
「「にぃに合わせる!」」
「うわっ!それで済むの?」
「3人とも~凄いね~。」
するとメリエルから、中央への呼び出しがかかる。
「それでは、第三戦開始しま~す。選手の皆さん集まって下さ~い。」
「それじゃ行くか……。」
俺達は、6尺の木の棒を手に走って入場する……。
そして、棒を地面に突き、前回転、着地と同時に前宙2回転捻り……。観客に向け構えを決める。
それが、見事にシンクロする。
「「「「「「「「「「……………………。」」」」」」」」」」
一瞬の静寂……。
「「「「「「「「「「お~!」」」」」」」」」」
パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!
パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!
メリエルは、一番近くで見ていた所為か、感極まって拍手しながらピョンピョン跳ねてる。
「すご~い!すご~い!すご~い!」
そして、普通に歩いて入場して来たゲシュタル達は、気まずそうに立ち尽くしている。
「よう、どうしたギルド長?」
「お前ら、結成1月立ってない、冒険者パーティだよな?」
「そうだけど、問題あるか?」
「無いんだけど……。何でそんなに息が揃ってる……?」
「今それを聞くのか……。」
「すまん、忘れてくれ……。だが、そんな見世物で俺達は騙されん!冒険者はそんなに甘くない!」
「そうか……?まあいい、始めよう。」
そしてメリエルが開始を宣言する。
「第3戦、チーム戦!レディ~ゴー!」
開始と同時に俺達は、幅2m空け、琴音、俺、鈴音の順で横1列になり、棒を中段に構える。
一方、ゲシュタル達は、疾風、迅雷を左右前に、真ん中やや後ろにゲシュタルと言った布陣だ……。
鶴翼の陣とも言うのだろうが……、人数が足りなく陣になっていない。
それに、一人を囲もうとする意図が、見え見えだ……。
すると、ゲシュタルが魔力を練ってるのが分かった……。
待っていてやるか……。
「はっは~!警戒しすぎたな!M・T!」
そう言って、疾風、迅雷二人に魔術を掛ける。
「アクセルブースト!」
あっ!これどう見ても、加速魔術だ!
「ディスペル!」
速攻で、俺は魔術効果を消してやる……。
「げっ!何て事するんだ!」
「当たり前だろ!戦闘中なんだから……。魔術勝負でもいいんだが、つまらん結果になる……。こっちから行くぞ……。」
俺達は、疾風、迅雷、万能の3人のタイミングを見て、同時に無拍子で接敵する……。
カッ!!!
S級は伊達じゃない様だ……、3人とも反応して来た。
そして鍔迫り合い……等する筈も無く、俺、琴音がバク転、鈴音がバックステップ、俺達は鈴音が相対していた迅雷に3人で攻撃、これには、ゲシュタル達が反応出来ず、3本の棒が迅雷に突き刺さる。
「ぐえ!」
迅雷が、前から崩れる……。
「おっ、お前ら……。何者だ!」
「E級冒険者のE級パーティーです。クエストでの連携は、索敵1人、薬草採取2人位しかした事無いぞ!」
「嘘だ!」
「本当だよ。クエストは2回しかした事無い……。お前らの物差しじゃ、E級冒険者で間違いないさ……。」
「はっ……。どう言う事だ?」
「それじゃ、勝ったら教えてやるよ、ギルド長様!」
俺達の次の標的は、疾風!
3人で疾風の拍子を盗む……。
3本の棒は、疾風の腹に刺さる。
「ぐえ!」
疾風が、前から崩れる……。
兄弟仲良く同じ声で、気絶する……。
「さて、あと一人だぞ……。」
「くっ…………!」
「ちょっと待ってろ……。」
俺は、琴音と鈴音を呼び誰がやるか、決める事にした。
「ジャンケンな!」
「「負けない!」」
「「「最初はグ~!ジャンケン!ポン!」」」
琴音が勝った……。
「んじゃ、後任せた……。」
「任された……。」
そして、棒を鈴音に手渡し、ゲシュタルへ向き直る……。
「さあ、相手してやる……。」
うわ!また、ブルース・リーしてる……。
右半身に構え、右手をフリー、左手は顎の下、琴音好きだからな~……。
で、袴着てるから足さばきも分からない……、これ最強じゃね~……。
「来い!」
「………………、馬鹿にしてるのか……?」
俺に向かって、ゲシュタルが言う……。
「前見ろ……。相手は俺じゃないだろ……。」
琴音が話す。
「来ないなら、こっちから行くぞ。」
スッ~~~!
3mは有った、距離が音も無く、無くなる……。
無拍子とは別の技術、忍が使った技術と同じものだ……。
俺と鈴音は横で座って見ているから気付くが、相対した本人は見ていても、接近に気付かない……。
「なっ!」
割と早く気付いた様だが……、もう目の前に居る。
ゲシュタルが持っているのは、大型の両刃の剣、振るスペースが無い……。
ゲシュタルは強引に腕を振り回す…………が、悪手だ!
琴音は、軽く腕を躱し、その手に手を添え誘導する。もう片方の手で背中を引き、体を入れてやる。
あ~ら不思議……。ゲシュタルがお空を飛んでる。
そのままゲシュタルは背中から着地!
ドフッ!
うお~!良い音立ててる~!
「グフォ!」
「さて、戦闘不能にしなきゃね……。」
琴音はそう言うと、両手の人差し指を立て、頸動脈を抑える……。
10秒後、ゲシュタルは敢え無く落ちた……。
「メリエル。」
「戦闘不能により、勝者!チームM・T!」
「「「「「「「「「「「……………………。」」」」」」」」」」
あっ!やっぱ、こうなるよね……。
「それでは勝利チームの報酬として、冒険者引退が受理されます!」
「「「「「「「「「「「はぁ~。ギルドはそんな約束してるのか!」」」」」」」」」」
「えぇ~っと、冒険者ギルドジスト支部を辞めるには、ギルド長ゲシュタルを倒さねば成らないそうです。
ギルド長の権限で決まりました。この機に便乗したい方は、ただいま、気絶中ですので、ボコってくれて結構です!
もう一回言います。これは、ゲシュタルの独断です。
職員は一切この件に関わっていません。冒険者の自由はゲシュタルが握っています。
殺しても、お咎め無ですので、ボコって下さ~い!」
メリエルの言葉は間違ってはいない、そう言う条件にしたのは、ゲシュタルだ!
自由を愛する冒険者が、ゲシュタルの枷に嵌められている……。
それでは、ジスト支部の冒険者は、ゲシュタルの奴隷と同じ事だ……。
ゲシュタルは、分かっていないだろうな……。
それに、メリエルも相当鬱憤がたまってたんだろう……。
「「「「「「「「「「「「お~!」」」」」」」」」」」」
相当数の冒険者が、舞台上のゲシュタルを踏み始めた。
まあゲシュタルも丈夫だろうし、死なないだろ……。
俺は嫁達を連れ、美食亭屋台に向かった……。
そこには、ファナがいる。
「お疲れさまです、皆さん!」
「いや~、面倒だったな~。」
「これ、取ってたので、どうぞ!」
俺達は、ファナからカレーパンを受け取る……。
「取っていたって……。どう言う事だ?」
「500食、完売です……。売り切れる前に正臣さん達の分取ってたんですよ。」
「気が利くな……。」
「いいえ~、それ程でも~。」
ファナの頭をなでると、子供らしさが出て来る。
「そう言えば、初めて皆さんの戦いを拝見したんですが、あれどうやってるんです?」
「どれの事だ?」
「あの近づくの?」
「それも何種類か、してるからな~?琴音、鈴音、俺は同じだし、彩香さんは、ただ歩いただけだろ、忍のは、正直驚いた!ファナはどれが気になった?」
「ゲッ!違うの?」
「外から見ると同じに見えるのか?」
「うん……。皆、綺麗な動きしてた……。」
「正臣くん、体幹の事じゃない……。」
「「にぃ、正中線。」」
「それは~、私も意識してる~。」
「そう言う事か……。上半身がブレ無く動いていた事か……。確かにそれなら皆同じだな……。でもこれって対人戦用の技術だから魔獣にはな……。まあ、明日の鍛錬で皆にも教えるか……。」
「本当!やった~!」
「それじゃ、明日のために、さっさと屋台片付けるか……。」
そして、屋台を片付け美食亭へ向かう……。
美食亭には、安奈達異世界組も待ち合わせしており、今回の対抗戦の賭けで皆、大儲けしていた。
胴元をしていた、商業ギルドだが殆ど儲けが出ず、ただ働きしたような物だったらしい……。
そしてまた、明日から建国に向け、俺達は動いて行く……。
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