56.呪い?
さて、お花畑を解放するか……。
異世界組、皆と共に会議室に集まっている。
トン!トン!
「失礼します!犯罪者1名連れてまいりました。」
数人の魔闘部隊員が、地下牢より、お花畑を連れてきた。
「もう下がって良いぞ!」
「はい!」
魔闘部隊員は、お花畑を残し、部屋から出て行く。
「申し開きは有るか?」
「なっ、俺が何したって言うんだ……。」
「分からないのか?」
「分かる訳ないだろ!」
「それじゃ、もう1週間、牢の中で過ごせ……。以上だ、解散!」
「ちょっ!ちょっと待ってくれ!王女を助けようとしたことか?」
「助ける?何から……。」
「だって、王女を殺そうとしてたんだろ!」
「そうだ……。」
「だから、助けようとしたんだ!」
「すると、お前は王女の仲間って事でいいのか?」
「当たり前だろ、こっちに来てから色々と世話になったんだから……。」
「お前の言い分としては、犯罪者と結託して、俺達、異世界人を殺そうとしていたって事になるが、お前はそれでも王女の味方、つまり我々日本人を裏切っていたと、認識で間違いないな……。」
「何でそうなるんだ!」
「当たり前だろ……。王女は俺達を拉致監禁、詐欺行為、不正奴隷、恐喝、殺人斡旋、を行なった実行犯の一人だ!お前はその仲間、共謀した事になる。」
「王女がそんな事する訳ないだろ!」
「それじゃ、お前をこの世界に召喚したのは誰だ!」
「王女だよ!お前も同じだろ!それがどうした!」
「お前は望んで、ここに来たのか?」
「そんな筈無いだろ!校門の所でいきなりだったんだから!」
「それを、拉致と言うんだよ。まさか知らなかったのか?」
「それ位知ってる……。」
「それじゃ、誰から召喚と言う名の拉致されたんだ?」
「……王女。」
「分かってるじゃないか。そして、俺達は地球へは帰れない、つまり監禁されている訳だ……。違うか?」
「そうとも、取れる……。」
「取れるんじゃない、そうなんだ!そして拉致監禁した実行犯が、王女って事は理解したか?」
「分かった……。」
「お前はすぐ忘れるから、メモでもしておけ!」
俺は紙と鉛筆をお花畑に渡し、書き取りタイムを取る。
「書き終わったか?」
「書いた……。」
随分、素直に書くもんだと思いながら、話を続ける。
「で、実は巨大組織が裏に居る、その名もロストニア王国!王女はそのロストニア王国の幹部工作員の一人にすぎない、分かるか?」
「ロストニア王国って、そう言う組織なのか?」
「そうだ……!その幹部達が、率先して俺達、日本人を騙し恐喝して、奴隷契約をした……。そして、あろうことかこの世界の亜人、いわゆる魔族と言う名の一般人の大量虐殺を、要求して来たんだぞ!お前はそれで良いのか?」
「良くない!」
「分かってるじゃないか……。忘れないうちに、書いておけよ。」
またしても書き込んでいく……。
すると、彩香さんより魔導通信が来た。
『正臣くん、分かったわ!彼、思考障害持ってるんじゃないかしら……。』
『はい?思考障害……。』
『ええ~と……。統合失調症とかパラノイアとかかな。感情の起伏で、脳が働かなくなるの……。だから、記憶とか思考が出来なくなったりするわ……。』
『あっ!そうなのか……。回復魔術で治るかな?』
『やって見る価値はあるかも。神経系の異常のはずだから、脳から送られる電気信号の正常化で良いと思うわ。』
「藤堂さん書き終わったぞ。」
今までの勇者王の行動が、彩香さんの考察により、全て納得いってしまった……。
「そうか……。ちょっと見せてくれ……。」
俺は、紙を取り読む振りをしながら、彩香さんに連絡を入れる。
『彩香さん、皆にもそれと無く、この事伝えてくれ……。』
『了解!』
異世界に病気と共に来てしまったのは、不幸としか言いようがない……。
この世界には、そんな病気があるなんて、認知されないだろう……。
だが幸いに、彩香さんの考察で病気の疑いが提唱され、魔術による治療を受けれる……。
もしかしたら、地球での投薬治療よりも、魔術の方が効果的かもしれない。
何せ、体内に魔力を流せるのだから……。
「よく書けてるな……。」
「そりゃどうも……。」
「所で、ここまでは理解したか?」
「ああ、王女達が犯罪組織にいたって事だろ……。」
「で、王女は現在、更生させるべく、仕事をして貰っているから、邪魔はするなよ。ちなみに危険は無いから安心しろ……。」
「分かった。」
「さて、王女の話はここまでだ……。次にお前の処遇になる。」
「覚悟は出来てる……。」
「お前がした犯罪についてだが、多分自覚が無いだろう……。」
「その通りだ……。」
「まず1つ目が逸脱行為だ、これは軍法会議に掛ける案件になる、実際法律を整備してないが、道徳的観念からお前は有罪になる。何故だか分かるか?」
「さっぱりだ……。逸脱行為ってのはなんだ?」
「ダラスダンジョンで、抜け駆けして窮地に陥ったよな。」
「おっ、おう……。」
「あれの事だ……。その為急遽、彩香さん、近藤、忍、双葉の特別班で救援に向かった。そして、彩香さん、近藤、忍の3人が死に掛けた……。下手したらお前を含め、全員死亡だ!」
「それは分かるか?」
「その所為で、借金、背負ったから分かる。」
「正確には違うぞ、借金は回復薬の代金だ……。慰謝料も含めているから、そう感じているだけだ。それに、逸脱行為は成功すれば、犯罪にならない、手柄の没収されることが殆どだ……。つまり成功しても何にもならない。そして、失敗すれば死刑もあり得る。まあ、一人の行動により、集団が全滅する可能性もあったんだから当然なんだが……。理解できてるか?」
「何とか……。」
「で、次が今回になる。奴隷の逃亡!この世界のルールだ……。 死刑が適用される、と言っても裁判にも掛けられないがな……。そして、威力業務妨害……。ふ~……。死刑が2件と懲役1年ってとこか……どう思う?」
「良く生きているな~って。」
「だろう……。で、もう一つ、俺達は今、国造りで大変なんだよ……。それを邪魔してるのはどう思う?」
「………………、邪魔ですか……。」
「そう、この時間が勿体無い……。」
「俺、要らないですか……。」
「そうだな……、今のままだと、俺達の国には必要ないな……。」
「皆もそう思ってるのか……。」
「俺の言葉が、皆の総意と思っていい……。」
「そんな~……。」
「悲観する事無いだろ……。今自分のした事を言ったばかりだ……。お前なら、そんな犯罪者と一緒に居たいのか?」
「うっ……、居たくないです、何されるか分かったもんじゃない……。」
「と言う事で、しばらくは現地人と過ごせ……。立場は奴隷だから、皆にかしこまる様にしろよ……。それと、お前の健康診断を最初にして置くから、ここに残れ……。」
「はい、分かりました……。」
「それじゃ、皆、今日の会議は終了だ、各自仕事に戻ってくれ……。彩香さんと、双葉は健康診断に付き合ってくれ、これが終わったら開発部に顔出すからそのつもりで……。」
皆が、会議堂から出て行って、俺、大場、彩香さん、双葉の4人が残った……。
「大場、ここに座ってくれ、まず分析を掛けるぞ……。彩香さんも頼む。」
大場要/17歳/男/人族/呪(安定)/奴隷
職業 / 勇者王LV03 /
HP 110/110
MP 45/45
STR 120
DEX 16
VIT 90
INT 12
AGI 48
MND 16
LUK 13
スキル 竜牙剣 精神異常(安定) 狂戦士
適性 光、聖
「「うん?………。」」
「彩香さん、これは……。」
「確定で間違いないんじゃないかしら……。」
「でも、一体どこで……。」
俺と彩香さんの会話に、大場が不安になったのか声を掛けて来た。
「ななな、何かあったのか?」
「………………、あった。」
「ただ、命には別状ないんだけど…………。」
「やっぱり、問題だよな~、これ……。」
「覚悟は出来てるから、教えてくれないか?」
「でもお前、精神値低いぞ……。」
「それでも、自分自身と向き合わないと……。」
「良く言った、さすが勇者王。」
「実はな……。呪われてるぞ……。」
「スキルに竜牙剣、精神異常(安定)、狂戦士も付いてるわ……。」
「は…………?」
「そうなるよな……。」
「双葉さん、呪い解けないわよね……。」
「解いた事、無いですね……。」
「それは大丈夫だ、前に親父から、解呪の魔術教えて貰ったから……。ただ、それでどこまで取れるかなんだが……。取りあえずしてみるか?」
「藤堂さん!お願いします……。」
大場が、足にしがみ付いて来た……。
「おっ、おう。ちょっと待ってろ!」
大場を引き離し解呪を掛ける。
あっ!これ奴隷魔術と同じだ……。
感覚的に察知し、解呪を止める。
「えっ!どうしたんですか?」
大場も魔力の感覚が分かったのだろう、疑問を投げかける。
「解くのは、直ぐ出来るが……。呪われた原因を探ろう!お前の装備品が怪しいと思うんだが……。装備品のある所へ行くか……。」
俺達は、会議堂地下に行き、装備品の前に居た……。
「なあ、聖剣って誰に貰ったんだ……。」
「騎士団長に推薦されて、謁見の間で王様に貰ったぞ……。」
「ああ、そうか……。俺、お前が聖剣使ったところ、見た事無かったんだが……。どう見ても、あれが原因だぞ……!」
「でも聖剣なんだろ……。呪いって……。」
「教国産だぞ多分、ラウルも持ってた。教国で祝福を受けるんだとよ……。祝福=呪いって図式もあるしな。」
「何で聖剣を俺に……。」
「さっきも言っただろ……。ロストニア王国がお前を殺人マシーンに仕立て上げる為だよ……。ふ~……。どれ、解呪してやる。」
大場を解呪し、聖剣に向き直る……。
そして六尺棒を取り出し、魔力を這わせ、聖剣に叩きつけた……。
パキッ!
持ち主の居ない聖剣は、オリハルコン素材だと言うのに、簡単に折れた……。
「よしっ!」
「ああ~っ!俺の聖剣が……。」
大場が、未練がましく嘆く……。
「そっちの鎧も呪われてるな……。」
聖剣の魔力が大きくて気付かなかったが、煌びやかに装飾された鎧も僅かに、魔力を感じた……。
「この鎧は誰から?」
「これも王様からだよ……。まさかこれも壊すのか?」
「そのつもりだけど……。何か?」
大場が鎧に抱き付く……。
「ちょっと待ってくれよ……。結構気に入ってるんだ……。」
「疑わしきは罰せよって、言葉知ってるか?」
「正臣くん、それ反対!疑わしきは罰せずよ!」
やば、恥ずかしい……。間違えた……。
「……知ってる。ただ俺の勘が、その鎧はダメと言っている。」
「それじゃ、しょうが無いね……。有罪ね!仕事もあるし、さっさと壊しましょ。」
「と言う事で、退いてくれ……。」
「嫌だ!」
「何か、子供みたいだな。」
「17歳は、まだ子供よ。」
俺は、大場に睡眠の魔術で眠らせ、鎧を奪う……。
「彩香さん、一応分析して置く?」
「ちょっと見せて……。」
双葉も気になるのか、聞いてくる?
狂戦士の鎧
説明:闘神勇者テツヤが使っていた鎧。ロストニア王家宝具。
付与:スキル 狂戦士
「ああ、これダメな訳だ……。闘神勇者テツヤの狂戦士の鎧だ……。俺の血統が受け付けないわ、これ……。」
「どう言う事、正臣さん?」
「闘神勇者テツヤって、俺の両親、大賢者ラクト、美食勇者改め大錬金術師コハク、そして琴音と鈴音の両親、神の使徒こと反逆の勇者ユウキ、魔眼の魔王レミを、王国と教国、そして魔国に打った張本人だからな……。」
「で、どうするの?」
「そうだな……。あの装飾が気になるし……。処分は母さん達に任せるか……。」
あの装飾品の、魔石がどうも、大賢者の石とか大錬金術師の石に似ているのが気になり、ここでの処分はしない事にした。
大場に掛かっている、狂戦士の呪いも解いておく……。
これで、完全に、フリーの大場の出来上がりだ……。
分析で確認すると……。
大場要/17歳/男/人族/奴隷/熟睡
職業 / 勇者王LV03 /
HP 110/110
MP 45/45
STR 120
DEX 16
VIT 90
INT 12
AGI 48
MND 16
LUK 13
スキル 竜牙剣 勇気 剣士
適性 光、聖
「大丈夫そうだな!」
「その様ね……。」
「でもこれって……。」
「「勇者王っぽいの?」か?」
人の鑑定を余りしたくないのは、こういった意味不明なことを、悩んでしまうからだ……。
取りあえず、精神的に弱い部分が露呈し、病気じゃ無い事が確認できた……。
病気じゃなくて良かったと内心思いながら、勇者王はさらに微妙な立場に、立たされることになる……。
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