46.葬儀?
翌朝、訓練場で、いつも通りの日課をこなしていた……。
今日は、この世界での、死と向き合うと言う事で、皆、若干の緊張が見受けられる。
昨日、アイシャとキルト達を会せ、鍛錬及び部隊訓練の参加となったが、今朝からの参加となったらしい……。
現在キルト達は、鍛錬に着いて来れず、全員がのびている……。
「どうだ、大丈夫そうか?」
キルトに感想を聞いてみた。
「はっきり言ってきつ過ぎます……。藤堂様が強いのが頷けます。」
「そうか……。最後、瞑想するから、それまで休んでいいぞ……。」
最後に全員で瞑想を行ない、鍛錬を終了した……。
「藤堂様、これはどう言う事ですか?」
キルト達が、俺に群がってくる……。
「お~い!アイシャ。」
「どうしました、正臣さん。」
「キルト達に説明してくれ。経験者からの方が説得力あるだろ……。」
「………………、そうですね。」
キルト達の事を、アイシャに頼みその場から離れようとしたが、アイシャに言って無かったことを思い出し、振り向いた。
「アイシャ。キルト達の中から、アイシャ付きの斥候を一人選んでてくれ……。」
「私、付きですか?」
「アイシャも隊長だからな、現場での情報収集も必要になって来るだろ……?」
「それはそうですが……。」
「それでしたら、私にやらせて下さい……。」
出て来たのは、昨日、王城で拷問を受けていた少女だった。
「え~っと……。君は確か昨日、王城で……。」
「はい!ラーニです。昨日は、ありがとうございます。ぜひ、アイシャ様のお側に置かせて下さい。」
「でっ、その心は……。」
「ゆくゆくは、藤堂様の妾にと……。」
顔を紅潮させ、もじもじと身体をくねらせながら、とんでもない事をラーニが、言い出す……。
アイシャを見ると、顔を紅潮させ顔を反らす……。
バッ!
勢いよく振り向き、琴音と鈴音を見る……。
既に二人は、ダッシュで逃げており、その背中が遠ざかって行く……。
あいつらは、後でお仕置きだな……。
「ふ~……、妾の事は置いといて、ラーニはアイシャ専属で頼む。」
「はい!喜んで!」
そして屋敷に戻り、朝食を終え埋葬の準備をする。
会議堂でラウルを連れ、埋葬場所となる場所へと向かう。
途中、水が湧き出した池があり蓮の葉が浮いていた。
埋葬場所には、つぼみを付けた大きな桜の木があり、少女達が眠るには情緒ある場所だった。
そんな事を思いながら準備を開始する。
穴を掘り、合祀の為の石碑を置く。
石碑には、部位欠損の少女達から聞き出した、貴族からの被害者10人の名前を記してある。
そして少し離れた場所に、石材で火葬炉を作り、火葬の準備をした。
遺体を綺麗な布で包み、準備して行く。
準備していると、ぞろぞろと嫁達、異世界組、部位欠損の少女達を連れた使用人、魔闘部隊、斥候部隊の面々が集まって来た。
「え~っと!藤堂さん、葬儀とか分かりますか?」
「いや、分からないが……、近藤!分かるか?」
「俺に聞くな……。」
「正臣くん、お義母さん達の時、喪主したでしょ……。」
「あの時は遺体無かったし、親戚とかもいなかったし、来てくれたのは橘家御一行ぐらいだったからな……。」
「しょうが無いわね……。免許持ってないけど日本神道のでよければ、ある程度知ってるから。」
「彩香さん、助かるよ。」
「神葬祭って言うんだけど、知ってる筈無いわよね……。」
そう言うと、彩香さんが、琴音、鈴音の所に行って、何やら話し始めた。
「正臣くん、ちょっと着替えて来るわ……。行こう、琴音ちゃん、鈴音ちゃん!」
二人を連れ、会議堂に向かったらしい……。
しばらくすると、巫女服を着た3人が戻って来た……、3人とも良く似合っている……。
「って言うか……、それって、コスプレ衣装だよな……。」
「にぃ、形が大事。」
「本物とそんなに変わらない。」
「正臣くん、そんなに形式にこだわっても、私も正確に覚えてる訳じゃ無いから……、それに、ここって異世界だし、命が軽いのは理解してるつもりよ。それでも、死者を送るための神葬祭を行ないたいの、他にも祭事とかいろいろあるけど、そこまで出来ないわ……。だから、ある程度の柔軟性をもってくれると助かるわ……。」
「いや~、ごめん。葬儀の場で、不謹慎にも可愛いと思っただけだから……。」
「「「………………。」」」
彩香さんはもちろん、珍しく琴音と鈴音も、頬を紅潮させている。
「本当に不謹慎だな、藤堂。お前達が夫婦円満なのは、分かった……。準備出来たなら、始めようぜ……。」
「そっ、そうね……。」
彩香さんが何やら文言よ詠み始め……、神葬祭が始まった。
琴音と鈴音は、側で手伝いをし、俺達は作法なんか知らない為、合掌しながら黙祷した。
そして遺体に火がかけられ、火葬となった。
そこで、しばしの休憩となる……。
「まあ、神葬祭って言っても、正確に祭事をしている訳じゃ無いから、気持ちだけ込めてもらえれば良いよ。」
彩香さんが言う。
「まあ、これを国教にってのも、日本人の感覚でしかないからな……。」
「藤堂、教国ともやり合うつもりなら、宗教でないにしろ、何か必要になるんじゃないか?」
「近藤の言いたい事も分かるけど、俺の感覚だと宗教って、道徳教育による人心掌握の一つでしかないからな……。日本だと、武士道とかがそれに当たるんだが……。死ぬことと見つけたり、なんて、小説の受け売りを勘違いしてる人もいるけど……。でもあれは、鍋島藩の狂戦士育成計画の一つか?ハートマン軍曹と同じだな……。」
「ああ、そうね……。儒教とかも、特権階級が民草を支配する為に、作られたって聞いた事があるわ。」
「だから、人民の間では、道教が流行ったんだろうけどね……。未だに、儒教を国教として、宗主国から支配されてる国もあるくらいだしな……。」
「私が言うのもなんだけど……、政治に宗教が絡むと大抵、反乱が起きてるのよね……。」
「宗教の教義とか面倒くさいし、法治国家の方が、道徳と規律が分かり易いよな……。」
「そうそう、こういう風に生きるべきだ、なんて言われても漠然としすぎて、いくらでも曲解解釈できちゃうのよね……。」
「その点、アレして駄目、これして駄目、の方が分かり易いしな……。法整備も早いとこしたいが、教養が無い人たちに何言ってもダメだしな。」
そんな話をしている、俺達の脇で、頭に?マークを付けた近藤がいる。
「お前ら、難しい事知ってるんだな……。」
「いやいやいや、むしろ教師である、お前が知ってろよ!多分、吉田くんの方が知ってるぞ……。」
「そうなのか……。地味にショックだな……。」
「まあ、公務員なんて職についてしまうと、何もせずとも、安定したお金が入ってくるから。社会人になって勉強不足になり易いんだよな……。近藤は、そのパターンだな……。ある意味、羨ましいけども……。」
そう言うと俺は、日本での生活を思い浮かべてみる。
中卒と言う学歴不足、勉強して知識を得ても信頼が無い、故にバイトの掛け持ち、幅広い知識と経験があっても、雑用が追加され給料が変わらない。
同期のバイトと同じ時間給……。
どこでも、そうだったな……。
「はぁ~、正社員で採用されたのにな~……。」
「正臣くん、今さらよ……。日本だと15人の妻を養えないわよ。」
「藤堂……、俺もお前を、羨ましく思うぞ……。」
羨ましく思われてもな……、お前も頑張れとしか言えない。
近藤と話して、ふと、あの職業について思い出す……。
「近藤……。お前、誕生日はいつだ……?」
「何かくれるのか?4月19日だ、もう直ぐだな……。」
それを聞き、彩香さんに魔力通信を行う……。
『彩香さん、もう直ぐ伝説の職業が生まれそうだ……。』
『魔法使いね。』
『今日の裁判で、温情判決出していいから、近藤と王女を近づけないでくれ……。例えば1週間の労役義務とかでも良い。』
『了解したわ、私も見たいし……。』
彩香さんを守ってくれた礼もあり、近藤には王女を渡すつもりでいたが、表面上は敵対した方が、うまく行く算段だ……。
しかしながら、魔法使い職を見てみたい知識欲に、駆られている……。
ちょっと考えたふりをして、話し出す。
「う~ん……。まあ、覚えていたらな。」
魔法使い職が出たら、如何にもな杖でも渡そう……。
皆、雑談をして、暇をつぶしていたが、そろそろ、火葬も終わりそうだ……。
「皆さん、そろそろ終わりますので、骨を拾って、ツボに入れて下さい……。」
皆が群がり、ツボに纏めて骨を入れる。
部位欠損した少女達の骨は痛々しく、皆にもこの痛ましさが伝わってくれればと思った……。
石碑前に骨壺を埋め、皆が花束を添え、彩香さんが弔辞を読む……。
これで、神葬祭の終了とした……。
彩香さんが言うには、神葬祭とは全く別物になってしまったとの事だったが……。
ラウルによると、こんな大げさな葬儀は王侯貴族でも稀らしい。
それと言うのも、王侯貴族の間では、調略やら暗殺やらで、まともな遺体が出ない事が多く、教会に頼むと家が傾く位の、莫大な費用となるとの事……。
故に、土葬の時に簡略的な、祈りで終わりらしい……。
これで大げさって、教会の仕事って……何?
次のイベント前に一旦、会議堂に皆を集め、フード付きの外套と、目出し帽、覆面、仮面等を渡す……。
フード付き外套は、俺達が使ってる物と同じで、光学迷彩が発動できるが、それ相応の魔力操作も必要となる為、辛うじて彩香さんが使える位だ……。
そして、覆面、目出し帽、仮面等は、昨日母さんと暴走してしまった結果だ……。
色々と、バラエティー豊かに作って見たが、仮面舞踏会よりも、ハロウィンとか百鬼夜行に近くなりそうだ……。
「正臣くん、もう少しまともなの無いの?」
やっぱり、そうなるよね……。
俺は収納から、布を出し、その場で布口面を作った。
「これで、どう?」
「正臣くん……、拘るのは良いけど……。布だけでも良かったと思うよ……。」
「………………、そうだね……。」
どうせならと、布口面を作り皆に渡す事にした……。
そして、町の広場、公開処刑場へ向かう……。
処刑台は、ラウル達によって作られており、地下よりすでに護送済みだ……。
処刑台の前には、観覧席を設け王女に、目の前で見せる予定でいる。
自分の立場を、認識して貰うための一番の特等席だ……。
だが、ここで問題が発生している。
勇者王がいない……。
まあ、どうとでもなるけど……。
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