45.同士?
これから、両親を紹介する……。
憂鬱だが、情報を共有をして置いた方が、後で問題にならないだろう……。
「皆、聞いてくれ!紹介したい人が居る……、って言っても、俺の両親だが……。」
「えっ!藤堂さんのご両親が、こっちの世界に……。でも死んだって……。」
隣にいる吉田くんが声を上げる……。
「皆も知っていると思うが、俺達の両親は5年前の事故で、死んでいる……。それは間違いない!今から紹介するのは、両親の意識が宿っている物!と言う事になる。」
「物、ですか?」
「まあ、そこにいるゴーレムなんだが……。 中身が、両親と同じなんだ……。」
そう言うと、母さんと親父が前に出て来る。
「え~っと!ただ今ご紹介にあずかりました。正臣の母こと、元美食勇者、兼!大錬金術師のコハクです!以後、お見知りおきを!」
「ぴ~~~~~!」
「ああ、ごめんなさい、あなた。声帯戻してなかったわね。」
母さんが、皆の前で錬金術を行使する。
「あ~、あ~、テス、テス!同じく正臣の父、大賢者ラクトだ!よろしく頼む!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「………………、はい?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「………………。」
まあ、俺の嫁以外で知っているのは、大地さんとぺトラさん、サクさんとカレンさん、アレクぐらいだからな?
「ちょ、ちょ、ちょっと、藤堂様!本当ですか?」
「藤堂さん!どういう事ですか!」
「藤堂さん!………………。」
「……………………。」
「………………。」
「…………。」
「……。」
その後、しばらく質問攻めにあった……。
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「………………、と言う事なんだが、分かって貰えただろうか。」
「それじゃ、橘先生が言っていた、信用できる帰還者って言うのは、藤堂さんの両親って事ですか?」
「そうよ、吉田くん。その情報があったから、今、こうして居られるでしょ。」
「そうですね……。」
「それじゃ、大体分かって貰えたと思うので、次に、琴音と鈴音について話したいと思う……。」
「えっ!二人にも何か?」
「琴音と鈴音は、俺の妹って事になっているが、俺と血の繋がりが無い、いわゆる義理の姉妹だ!故にこの世界で結婚まで踏み切っている訳だが……。」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「はい?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
またもや、皆、同じ反応をしている。
「まだあるから、質問は後にしてくれ……。それで、本当の両親だが、父が神の使徒、反逆の勇者ユウキ、母が前魔王レミだ、俺の両親と共に、王国、教国連合軍と戦った……。そして……、帰還の祭にこの世界に残った……。」
「それって………………。」
「悲観しないでくれ……。この世界には魔術がある。万が一にも、生きている可能性がある……。落ち着いたら探しに行かせて貰いたい。」
「藤堂様!それでは時間が掛かってしまいます。ここを国として立ち上げると同時に、情報網を構築していきましょう……。」
「でも、それだと、国を私的に流用してしまう事に、なってしまう……。皆の迷惑になりたくないんだが……。」
「藤堂さん!何言ってるんですか……。ここに居る異世界組は、感謝こそすれ、迷惑だなんて思ってる人はいませんよ……。それに、情報網の構築は、国を強固にするための、政策の一つですしね……。皆も良いだろ?」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「お~!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「そう言って貰えると助かる……。」
すると、皆が二人に群がる。
「琴音ちゃん!鈴音ちゃん!……。」
「…………………………。」
「……………………。」
「………………。」
「…………。」
「……。」
今度の、質問対象は琴音と鈴音だ……。
「とっ、とっ、とっ、とっ、藤堂様~!」
声を掛けて来たのはラウルだったが、その目には、溢れんばかりの涙が溜まっていた……。
「ラウル、どうした?」
「どうしたじゃ、ありません!神の使徒に魔王ですよ!」
「お前には、初見の時に、それと無く言ったと思ったが?」
「………………、あっ!……言っております……、言っておりますが……。」
思い出したようだが……、納得いって無い様子でいる。
「それに見ろ!キルト達なんか、動揺せずに凛としているぞ……。」
ラウルと同じく、グレインガルドの住人であるキルト達は、直立不動でいる。
「藤堂様……。お言葉ですが……。彼らは皆、顔を引きつらせて、発声も出来ない様子ですよ……。」
キルト達をよく見ると、やたら瞬きをして、口角をヒクヒクと痙攣させている。
「だからと言って、事実は変わらないし、お前達への態度も変わらないぞ。」
「ですが……、立場が変わります!事実、琴音様と鈴音様は、魔国の王女と言う事になります……。」
「そうなるな……。」
言われるまで、王女と言う概念がすっぽりと抜けていた……。
地球では、自慢の妹達でしかなかったし……。
グレインガルドに来て、婚約者……、愛妻へと変わったものの……、この卑猥な肉食系姉妹と王女とでは、イメージのかけ離れた存在にしか見えない……。
「無理だ……。こいつ等に王女属性なんて無い……。」
「にぃ、ヒドイ!」
「私達は、お姫様!」
「「だから、にぃ、王様役!」」
「それこそ無理だ!それに、役ってなんだ、役って……。」
「藤堂様、その辺で……。それに藤堂様も、王、教王、皇帝と肩を並べる、立場になっています。」
「そうなのか?意味分からないが?」
「藤堂様は大賢者ラクト様のお子様であれば、賢者の職業がある筈です。」
「よく分かったな……。で、賢者がどうした……。」
「150年前までは、伝説の大賢者ラクト様、意外にも各国に、1人は賢者様が居られましたが、50年前の教国の賢者を最後に、現存している賢者は皆無です。
賢者様は、研究を生業とし、国の発展の為に各国が手厚く保護しており、当時の国のトップよりも、発言権が強かったと言われています。」
「50年前?」
「ええ、何でも<聖レイシスの福音>と言う儀式を、教会と共に行ったとか……。無理な儀式の影響で、その年の暮れにお亡くなりになったそうです。」
ここでそう来るか……。
大地さんはもちろん、親父と母さんの影響もありそうだ……。
「ですので、権力はございませんが、立場上は同位と言う事になります……。ただ、クロスティール諸国連合では、一概にそうとも言えませんが……。」
「まあ、俺達が作ろうとしている国も、王侯貴族みたいな特権階級を置くつもりは無いがな……。」
「そうですか……。私はてっきり藤堂様が王に成られるかと……。」
「ガラじゃない。」
「あはははっ!藤堂さんが、王様になったら男が皆、敵になりますよ。」
「へぇ~……、吉田くんは、そんな事を言うのか~。そうだね、付いてくるとしたら吉田くんみたいな、特殊性癖の持ち主だろうね。」
「そっ、それを、どうして……。」
「マリルから、相談受けてるんだよ……。」
「マリルさんが?」
「知ってるだろう、マリルが俺の弟子って言うのは……。ついでに言うと、隷属契約も結んでいるんだよ……。」
「どっ、奴隷なんですか?マリルさん……。」
「まあ、契約しているのは、琴音と鈴音なんだけどね。親同士が主従契約を結んでてね、子供同士でもって事で……。」
「そう言う事ですか……。てっきり、藤堂さんが……、って、魔王ですよね……。でも主従関係って……。」
「気付いて無かったのかい、マリルの種族……。」
「はい……。」
「でも安心していいぞ、マリルは魔族とのハーフだから、特に問題無いだろ……。魅了スキルの持ってないサキュバスハーフだ……。」
「サキュバスって、男を食い物にするって言うあれですか?私も魅了されて……。」
「だから魅了スキル無いから!サキュバスにとっては、致命的な欠陥品だぞ……。」
「それでも私は……。」
「それって、ただの幼女趣味だから、魅了どうのこうのじゃ無く、ただの性癖だからな……。」
「吉田様は、幼女趣味でいらっしゃるのですか?」
「そうだ!吉田くんは幼女趣味だ!そしてラウル、お前もケモミミ幼女趣味だ!」
「ラウルさんが……。」
「吉田様が……。」
見つめあう二人……。
互いに、意思の疎通が出来たのだろう……。
同士と認め合った二人……。
自然と差し出された右手を、握り合っていた。
数年後、この世界グレインガルドの裏で暗躍する、世界規模の巨大な秘密教団を作り上げる事になるとは、まだ誰も知らない……。
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吉田くんとラウルの話は置いておくとして……。
その後、それぞれ、現況報告をして貰い、最後にキルトから、ケモミミ勇者について話して貰った。
内容はこうだ。
キルト達と仲間の親達は、亜人大陸から連れて来られた奴隷だった。
親達は、亜人大陸で帝国と戦い捕まった、いわゆる敗戦奴隷……。
帝国との戦闘に赴く際、人族にして、亜人大陸の最長老サラに挨拶に行ったらしい……。
その最長老サラが、元ケモミミ勇者と言う事らしい。
その話が本当なら、170歳位の年齢になる……。
何か秘密がありそうだが……。
直ぐに会いに行くことも、無いだろう……。
母さんの肉体が、出来てからでも遅くない。
そして、食の安定、領地防衛線の構築が終わらない事には、安心して出歩けない……。
考える事は増えたが、琴音と鈴音の父、神の使徒ユウキの現存の希望も見いだせる、有用な情報だった……。
そして今日の会議を終える事にする……。
明日は、朝から色々と立て込む事になる、皆にゆっくりと休む様に促し、俺達も屋敷へ帰った。
だが、俺と母さんは、明日のために、屋敷地下研究室で、異世界組人数分の覆面と外套、キルト達の仮面、武装、モフモフの槍、水晶振動子出の魔力通信装置の製造、そして会議堂地下のダンジョン化計画の設計草案を練っていた。
途中、母さんが、建国するなら、独自通貨を作った方が良いとの指摘を受け、王国貨幣より上等な金属とミスリルを混ぜ込んだ合金で、偽造対策をする事等の案が出た。
通貨については、今度の会議の議題にする事にし、明日のイベントに必要な物の作成を急いだ。
全て作り終えた頃、既に日をまたいでいた……。
明日の……、既に今日なのだが……、今日行われるイベントは、この世界で生きて行くための覚悟を見る為に、皆に課せられた試練だと思っている。
問題は、勇者王が会議に顔を出さなかった事だ、さすがに勇者王も人殺しは、出来ないだろう……。
俺の方でも、覚悟をして置こう……。
でも、ライトだからな……、特に覚悟無くても殺れそうだ……。
そんな事を考えつつ俺は、微睡みの中へ落ちて行った……。
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