02.再会?
「こっ……ここは……?」
周りを見渡すと、どうやら薄暗い部屋に居るらしい。体の自由は利かないみたいだ。
自分の現状を確認していると、
「「やっと起きた……。」」
二重和音ともとれる二人の少女の声が聞こえた。
目をやると二人の影が見える。
この二人は、俺の5歳下の双子の妹なんだが、状況把握が追い付かない。
「状況説明してもらえるか。」
「「お城、出てきた。」」
言葉足らずで、低テンションの声で説明を受ける。15年一緒にいる為その説明でこっちの世界に来てから今までの状況をだいたい把握することが出来た。
ここは町の宿屋辺りか?「ほっ。」と一息する。
なぜ、布団で簀巻きになっているか分からないが、どうやら思惑通り事が進んだ様だ。
「慰謝料貰えたか?」
「「一人当たり、金貨1枚」」
何かいつもより、そっけない感じがする。それに二人して、ジト目でこっちを睨んでいる。
あの目の二人は危険だ。
確かバイト先の忘年会で無理やり酒を飲まされて事務のお姉さんから、童貞奪われた挙句、朝帰りした日があった時以来か。
次の日、女の匂いがすると散々匂いを嗅がれ、マーキングするかの様に、抱き付かれて仕事に行けなかった記憶がある。
小さい頃から、「「にぃの、お嫁さんになる」」なんて言われて嬉しくはあるんだが、妹なんだよなぁ~。
今回のジト目の原因はなんだ?橘先輩を頼ったからか?でも、二人も懐いているから問題ないはず。だとすると………思い当たらん。
直接、聞くしかないか。
「琴音、鈴音、不機嫌な理由教えて貰ってもいいか?あと、そろそろ解放してくれないか?」
「にぃが、一人でどこか行こうとした。」
「逃げないなら、解放する。」
「あっ!」
城での王様とのやり取りをそう解釈したのか。橘先輩への一言も原因だな。二人が俺と騎士の間に入ってきたのも納得できる。って俺を拉致するためだろが………。心配かけたか…。
「二人を置いてどこか行くわけないだろ。城でのやり取りで誤解を受けたのなら謝る。すまん、心配かけた。」
「にぃの隣が琴音のいる所。」
「鈴音も、にぃ、離さない。」
そう言うと、簀巻きの俺に抱き付いてきた。少しすると、二人の寝息が聞こえてきた。
転移してから、緊張していたのはこの二人も一緒だった。そして、最後のやり取りが緊張のピークだったに違いない。こんな小さい体でよく頑張った、さすが俺の自慢の妹だよ。
そして簀巻きから解放されないままの、俺っ!
・
・
・
そして翌日。
トン、トン
ノックの音の後、少し間を置いてドアが開いた。
「おはよう。正臣くん、起きてる。」
橘先輩が来たようだ。
俺はと言うと、まだ簀巻きのままベットに横たわっている。横には、まだ、夢から覚醒していない二人の妹が抱き付いている。無事、抱き枕としての任を全うしたようだ。
「おはよう、橘先輩。妹達には手を出していませんから、誤解しないで下さい。それと、出来れば助けてほしいです。」
「あははっ!その状況で軽口叩けるようなら、まだ余裕そうね。」
そう言いながら、妹達を起こし、拘束を解いていってくれる。
宿屋の受付に行って、水を貰い、顔を洗ってくる。
その間、橘先輩は部屋で待っていてくれた。
「橘先輩が俺を訪ねてきたって事は、今後の事について話があるんですよね。」
「そうなんだけど…。まずは、私たちの状況から話すね。」
「分かりました。」
「私達は、勇者として城に残ることにしたの。私と近藤先生で生徒たちのまとめ役、王国とのパイプ役をする事になりそう。私も魔族との戦いには思う所があるんだけど、いまの現状では生徒達を放って置けないし、選択肢が少なすぎるわ。訓練の間に少しでも情報を手に入れたいと思うの。」
世話好きの橘先輩は、異世界でも先生がよく似合う。
「それで、あなた達なんだけど…。王国からは、「お金を渡したんだから、後は好きにしろ、ただし勇者の事をむやみやたら広めない事。」だそうよ。」
「要は慰謝料として貰ったお金の中に、口止め料も含んでいるって事か……。」
王家公認で犯罪が行われているなど、一般の人々が聞いたら王家の存続が揺るぎかねない。その為の口止め料なのだろう。うっかり、広める事になったら、暗殺者とか送られそうだしなぁ。
「「了解、善処する」と言ってて下さい。」
「分かったわ。でっ、あなた達はこれからどうするの?」
「そうですね~。俺達も、しばらくは情報収集ですかね。お金を貰ったんだけどその価値すら分からない。」
そう言って、琴音、鈴音を見た。
「そうだ琴音、宿代っていくらだった。」
「3人部屋で、一人一泊大銅貨3枚と銅貨5枚。」
「今残っている、お金は?」
「金貨2枚、銀貨8枚、大銅貨9枚、銅貨5枚」
『日本の価値観で考えると、素泊まり3500円ってところか。そうすると大銅貨1000円、銅貨100円として、銀貨10,000円、金貨100,000円となる。王国からは30万円貰ったことになるか。食事することを考えると、20日間、持たないなぁ。そうすると、まずは金策かぁ~。』
そんな事を考えてると「ぐぅ~。」っと鈴音が盛大にお腹を鳴らした。
顔を赤くしてうつむいている。家族なんだから気にしなくて良いんだが、恥ずかしい様だ。そういえば、こっちの世界に来てから、食事をしていない事に気づいた。
「橘先輩、これから食事に行こうと思うんですが、どうしますか?」
「私は城に戻るわ。生徒達も心配だし、王国からの言伝と、正臣くん達の様子、見に来ただけだから。」
「分かりました。後で橘先輩と連絡とる方法ありますか?」
「そうね~。城門の所の守衛に話しつけておくわ。あなた達に対して王国は後ろめたい所あるから断らないと思う。」
「分かりました。こっちでも情報収集しますから、何かあったら連絡します。」
「分かったわ。それじゃあ、私は城に戻るけど気を付けてね。」
そう言って、橘先輩と別れ、俺達は食事に向かった。
宿屋の1階でも食事が出来る様だが、基本、朝と夜の2回らしい、共に銅貨5枚約500円となっている。すでに朝食分は、終わっていた。
受付をしていた女将さんと少し話し、この世界には、冒険者ギルド、魔術師ギルド、商業ギルド等が存在する、お金を稼ぐには何かのギルドに登録するのが手っ取り早いらしいと言う情報と宿屋の女将さんおススメの食堂を紹介してもらい、食事する事にした。隣の建物なんだが……。
食堂へ入ると、数人、食事しているのが見える。
食事時でないのに、人が居ることは結構流行っているのだろう。メニューを見ても、良く分からないので、おススメを3つ注文した。
体感10分もしないうちに、料理が運ばれてきた。何かの肉、パン、サラダ、スープとなっている。
まあ、これが、この世界での、一般定食なのだろう。肉は塩と香草で味付けされており、不味くはないが薄味である。素材の味を楽しむためだと思っておこう。パンも固い。スープにつけて食べる様だ。スープも塩をベースにしているがだしを取っているのか怪しい。サラダは塩を掛けているだけの様だ。
この世界の一般に出回っている料理は、少々残念な様だ。料理で革命を起こせそうです。
ああ、城の料理はどうなっているんだろう。食べてから出て来るんだった。
食事も終わり一息ついていると、向かい側に座っている妹達の指が気なった。
左薬指ではないが指輪をしている、転移前、予定していた墓参りに行くため俺たち3人は皆、形見の指輪をしていた。
『あれっ、物に対しても鑑定、効くはずだよなぁ。』
そう思い、指輪を鑑定してみる。
形見の指輪
説明:伝説の大賢者、大錬金術師が共同開発し、オリハルコン、ヒヒロイカネの合
成に成功、すでに技術が喪失しており、幻の合金で出来た指輪。
魔素の親和性も高く、付与出来る魔術も多いとされる魔導具。
付与:隠蔽(任意) 封印(任意) 偽装(任意) 収納
制約魔術無効 状態異常無効 回復力上昇
自然魔素吸収上昇
「あっ!」
口を半開きにして、固まってしまった。
一分位そのままだったのだろう俺へ。
「にぃ、どうしたの?」
先に食べ終わった鈴音が声を掛ける。首を傾げ俺を見て来るが、言葉が見つからない。
この場所ではさすがに不味い。とりあえず、落ち着け、落ち着け………。
何度か繰り返し、落ち着いたところで、話し始める。
「今後の事なんだけど、二人には話しておかなければいけない事がある。宿屋へ行って1週間ほど宿泊の予約を取り、今日は部屋で会議と行こう。」
そう言い食堂を後にする。食事代は銅貨5枚だった。
宿屋へ向かい、1週間分の宿泊費、銀貨7枚、大銅貨3枚、銅貨5枚を払い、3人部屋を予約する。一応、気の利いた女将さんが先程まで居た部屋にしてくれた。3階の一番奥の部屋である。
部屋に入り、ベットに腰を掛け、重たい口を開いた。
「さて、何から話そうか……。まずは、さっき固まっていた理由から話そう。二人とも鑑定は使えると思うが、俺達のしている指輪を見てほしい。」
そう言うと、二人とも素直に鑑定をはじめたようだ。少し待っていると思っていた反応を示す。二人とも、固まってしまっている。間を開けまた話し始める。
「さっきの俺も、同じ反応だったと思うが聞いてくれ。城での事についてだ。俺達が魔石に触った時のことだ。何があった?」
「何かが、弾けた音がした。」
「そう、俺達だけが聞こえた、あの音だ。そして、この指輪に付与されている魔術を見てくれ。」
「制約魔術無効!」
「いきなり毒を盛ったりはしないだろうから。皆は何かしらの制約を受けて、勇者になったんだと思う。皆が奴隷と言う可能性も捨てきれない。」
「「みんなを助けなきゃ!」」
「まぁ、待て。王国は勇者たちに訓練を行うと言った。何かやらせるにしろ、まだ、時間があるという事だ。その間、俺達は力を付けなくてはならない。幸い俺達は、ラノベで言うハズレであり、アイテムチートみたいだからな。」
指輪を見せて、微笑む。二人も安心したのか、微笑む。
「それじゃ、指輪の検証するか。」
「まず気になるのは、(任意)の部分なんだが悪い予感がするから、収納から検証しよう。」
指輪を差し出し「収納っ」と言う。
鑑定の要領で行ったがうまく行ったみたいだ。目の前にアイテム欄のようなものが見える。自分にしか見えないようだが
「消えろっ」
アイテム欄は消えたようだ。
同じように、二人にもさせてみる。どうやら問題ないみたいだ。
先程のアイテム欄に幾つかアイテムが入っているのが見えた。その中でものすごく気になっている物がある。
『大賢者の石』、『大錬金術師の石』である。妹達には入っていない様だ。
アイテム欄の文字を触ると取り出せるようだ。その2つを取り出し鑑定を掛けてみる。
大賢者の石
説明:大賢者の意思を魔石に投影させた石。
魔力を通すと反応する。
意思と石をかけてるからネ。
大錬金術師の石
説明:大錬金術師の意思を魔石に投影させた石。
魔力を通すと反応する。
意思と石をかけてるからネ。
何か、最後の一文が不安を煽ってくる。
魔力の使い方は良く分からないが、異世界に来てから、道場で鍛錬していた気の使い方が、魔術の使い方と似ていたので気を込めるように二つの魔石を握ってみる。
魔石が光を帯びて行くのが分かった。3D照射機のような光の帯が、人の形を作っていく。
魔石の上、約5cmほど浮いたところに15cm程の人型の者が現れ、その者たちが喋りだす。
「この魔石が動作したと言うことは、グレインガルドに来たようだな。」
「その様ね、あなた。」
聞いたことのある、懐かしい声が聞こえてくる。
「お前達も、随分大きくなって、あれから何年経った?」
「そうね、琴音、鈴音も立派なレディーね。」
俺達を他所に勝手に話をしている。間違いなく、俺達の両親、父ラクトと母コハクである。
「おっ、親父たちなのか?」
「どこからどう見ても、お前の親だろっ!。」
「いやっ、ちっちゃいし………。」
琴音、鈴音も頷いている。
「まあ色々と訳ありだからな。今説明してやる。」
突っ込むところが多すぎて、感動の両親との再会にはならなかったが、久しぶりの家族団らんとなった。