28.終息?
私達は、勇者王を追いかけ、10階層ボス部屋にたどり着いていた。
そこには、満身創痍の3人の生徒達、その後ろで怒鳴る騎士、魔術師がいた。
「おまえら、早く私を守れ!」
その声で、大場くん、長谷川くん、東条くんが騎士の前に立つ。
東条くんは、片手が動かなくなっているのか、片手が下がったままだ。
周りを見ると、7体のゴーレムの残骸が見える。
すべて、ミスリルゴーレム、魔術耐性のついているゴーレムだ、騎士の後ろの魔術師は、ただのお荷物でしかない。
それを庇いながらの、戦闘の悲惨さが目に浮かぶ……。
護衛が守られている、状況も可笑しいが、何よりあの騎士の言動がおかしい。いったい何様なのだ……。
残りのミスリルゴーレムは23体、後ろの方に特殊なゴーレムも見受けられる。
この戦闘への介入は死戦を潜る事になる。私の勘が警鐘を鳴らす……。
「でも、私は生徒を守るって、決めたから……。」
「お付き合いしますよ、橘先生。あれでも、可愛い生徒ですんで……。」
「あら、近藤先生、ただの変態では無かったんですね?」
「橘先生、ここは、格好を付けさせてくださいよ。」
「格好いいですよ。近藤先生。」
「では、行きますか!」
「百地さんと双葉さんは後方で待機、私達が彼らを拾って来るから回復お願いね。近藤先生、後ろは任せます。」
「あのっ~、指~……。」
「橘彩香!押して参る!」
自分に気合を入れる為、言っては見たものの、若干の中二病臭さに恥じらいを感じつつ、ゴーレムの群れに突っ込んでいった。
「橘先生~、かっこいい~。」
「それじゃ、私も、近藤丈志、押して参る。」
「2番煎じじゃ~駄目ですよ~……。変態~……。」
「近藤先生は、橘先生の後方です。退路の確保してください。前に出ても役立ちません。」
「了解しました……。」
後でそんなやり取りも聞こえた来たが、大場くん達の救出が最優先だ。
いらつく騎士達には護衛に、戻って貰おう。
ゴーレムを1体づつ屠り近づいて行くと、いらつく騎士がこっちに気付いたらしく、叫んで来る。
「そこのお前、早く私を助けろ。」
その顔は忘れた事などない……。正臣くんを殴った男……。キリフトス家、次男ノットだ……。
どうせ、私達の敵なのだから、存分に盾役をさせてやる。それにしても、勇者制約が何故か、この男で発動する。
「あなたは、派遣騎士団の指揮官ですか?」
「そうだ、私はこの騎士団を、王より預かっている。」
そう言う事か、制約の権限を、この男に貸し出されているのだろう……。ますます、腹立たしい。
とりあえず、気絶して貰おう。こいつの命令で、大場くん達は体力限界が近い。
「今、行きます。」
そう言うと、ノットは安心したのか目を反らした。
今だっ!
さっき破壊した、ゴーレムの腕を、槍で手繰り寄せ投げつけてやった。
投げられた腕は、魔術師達の脇を通り、ノットの後頭部へ命中した。
「なっ!何をする。」
取り巻きが騒ぎ出す。
「すいませ~ん。戦闘中なもので、不可抗力です。それよりも、早く私達勇者を守って下さいよ。護衛なんでしょあなた達は。」
命令権が切れたのか、大場くん達も動きがスムーズになった。
「大場くん!助けに来たから下って、双葉さんの治療を受けなさい!」
「「了解した!」」
「ちっ!」
一人の男が舌打ちしてる。長谷川くんが、私の事を良く思っていないのは分かっている、彼だろう。
「騎士の人達はそれまで、戦線維持!お願いね。」
「近藤先生、大場くん達を!」
「退路は確保している、いつでもいいぞ。」
大場くん達3人は何とか、逃げ出す事に成功し、双葉さんの所まで、行くことが出来た。
大場くん達が回復するまで、この戦線を維持しなければならないが、既に騎士一人は無謀ともいえる特攻後、ミスリルゴーレムの拳に圧殺されている。
魔術師はと言うと、結界を張ってその場にいる。魔力が続く限り無事だろうが、この量のミスリルゴーレムにいつまで耐えられるのか……。
私は槍の長さを生かし、ゴーレムの攻撃範囲外から、関節を狙い攻撃する。
魔力を這わせることで、何とか攻撃が通っているが、無力化するのに最低でも4回は攻撃しなければならない……、完全に手数が足りない。
しばらく、そんな戦闘をしていた……。
どのくらい時間が経ったのだろう、じりじり前線が後退している、どうしても圧力負けする。
「双葉さん、回復状況!」
「あと少しで回復終わります!ちょ、ちょっと~!長谷川くん、何してるの!」
「かっ!海人!やめろっ!」
後で、何かやってる様だが、こっちはそれ処じゃ無い……。ここを抑えなければ、生徒達が危ない!
不意に後ろで、魔力を感じる。
ドゴッ!
後から、凄い衝撃が来た。
私は、その衝撃でゴーレムの目の前に、飛ばされてしまった。
「あっ!」
ゴーレムの右腕が、横から飛んで来る。私は、必死に槍で受け止めようと間に入れた……だが。
槍は中ほどで折れ、そのまま、私は吹き飛ばされ、壁に激突した……。
そしてそのまま、地面に伏した。
内臓をやられてしまったのだろう。
喉元に熱いものが、こみ上げて来る。
目には近藤先生が倒れているのも見える、さっきまで私のいた所だ。
近藤先生を見ると体から、煙を出し燻ってる様にも見える。
ああ、私を庇ってくれたんだ……。
ごめん近藤先生、せっかくの行為、無駄にしちゃった……。
皆は逃げて、前線維持出来なくなったから……。
百地さん、あなたなら皆の所まで引っ張って行けるわ……。
双葉さん、皆の怪我お願いね……。
大場くん、もっと考えて行動する様にね……。
東条くん、もっと前に出てもいいのよ、自信をもって……。
長谷川くん、あなたも短絡過ぎね……。
あ~あ、どうせなら、『この戦いが終わったら、私、結婚するんだ。』って、みんなに自慢でもして置くんだったな……。
8年間の思いがやっと成就したのに……。
正臣くんの事、もう見れないんだね……。
まだ何もしていないのに……。
ごめんね、正臣くん……。
不意に涙が、あふれて来る。
涙と共に、思い出もあふれる。
正臣くん……。
正臣くん……。
正臣くん……。
正臣くん……。
正臣くん……。
正臣くん……。
正臣くん……。
正臣くん……。
正臣くん……。
正臣くん……。
ヤダよ……。
死にたくないよ……。
助けてよ……。
正臣くん……。
視界が闇に染まってくる。
『任せろ!』
・
・
・
・
・
・
・
・
俺は焦っていた。俺の直感が急げと叫ぶ!
5階層を出て、
6階層
7階層
8階層
9階層
邪魔するものを一撃のもとに葬り、目の前の物を踏み越え最短最速で向かっている。
ジェミニズリングから微かに感じ取れる、彩香さんの魔力を頼りに……。
10階層、やっと着いた。
10階層到着と共に、魔力の収束を確認する。
直感がヤバイと警鐘を鳴らす。
俺の足は止まらず、魔力収束した方へ行く。
一人の男が魔術を放つのが見えた。
ドゴッ!
魔術の着弾音が響く。
直ぐに何が起こったか分かった。
近藤が燃えていたのだ。
ボス部屋、入り口付近にいたのは5人、一人の男は魔術を放った男の、襟を締め上げている……。
もう一人の男は、女の子に回復を受けている。
もう一人の女の子は唖然と、その現状を見ていた。
彩香さんはどこだ!
見渡すと壁に叩きつけられ、地面に倒れ込むのが見える、口から吐血している。
俺は現状を無視し、彩香さんの下に駆け付ける……。
『……てよ……。』
『正…くん……。』
ジェミニズリングを通し、声が聞こえて来る。
『任せろ!』
俺はすぐさま、収納から、生命の原液を出し自分の口に含む……。
そして口移しで、生命の原液を彩香さんの体内に流し込む……。
祈るような思いで、彩香さんを抱きしめる……。
回復魔術も同時の行使する…………………。
頼むっ……、間に合ってくれ…………………。
時がゆっくりと流れるのを感じる………………。
「…………………………。」
「…………………………。」
「…………………………。」
「…………………………。」
「…………………………。」
「ま……、正…く…ん……。」
俺の懇願は……、彩香さんに届いた。
「しゃべるな!今は休め……。」
「近……先……が……。」
「分かってる。近藤に礼を言わないとな……。」
「…ん……。」
彩香さんを抱え、近藤のもとに行く。
「近藤……!起きれるか!」
「い…ま…、無理……だ……。」
俺は生命の原液を、近藤に掛ける。大盤振る舞いだ、彩香さんを守ろうとしてくれたからな……。
「これで、命に別状はないだろう。肩を貸せ……。」
そう言って、近藤を無理矢理立たせ、勇者達のもとに連れていく。
「琴音ちゃん達のお兄さんですね。」
そう声を掛けて来たのは、百地忍。
指には彩香さんが貸した、婚約指輪がはまっている。
「そうだ!君が百地さんか、彩香さんと近藤を頼む……。」
「何をするの~。」
「この現状を治める。」
そう言い、事態を終息すべく、ミスリルゴーレムへ向け歩き出す。
残っているミスリルゴーレムは16体、他に違うのが1体いる。
俺は6尺棒を収納から出し、膝、肩を狙い振っていく。
時折、アブレシブジェットを発動させ、次々と無力化する。
足場の邪魔になるような、残骸を収納に収めつつ、終息へと近づいて行く。
「すっ、凄~い!」
「あっ、あれで無職!」
違う種類の1体、あれはオリハルコンだろうか……。
ミスリルゴーレムを駆除し終えると、上位種らしきゴーレムと相対する。
「お前が、親玉か……。話は通じないだろうがな。」
俺は、アブレシブジェットを発動、ゴーレムに切りかかる……。やはり、オリハルコンっぽい、分析を発動。
オリハルコンゴーレム:オリハルコンで出来たゴーレム
オリハルコンで確定した。
「まあ、やりようは有るからな。」
オリハルコンゴーレムが、殴りかかってくる。
移動速度が今まで相対したゴーレムとは、比べ物にならない、オークキングより速い。
腕の振りも、勇者達では反応できないだろう。俺は予備動作を見て、動きを察知する事で対処できている。
間違いなく、今までで一番強い。
琴音、鈴音には及ばないが……。
「お兄さん~!無理です~。」
気の抜けた、声が掛かる。百地さん、みたいだが……。心配してくれてるのだろう。
「やばいよ!やばいよ!何で彼奴あんなのと、正面からやってるんだ……。逃げ……。」
「あいつ無職だろ……。大丈夫なのか?」
「お兄さん、逃げて下さい!」
「俺でも、あれは無理だな……。」
生徒5人は俺の敗退、濃厚と思っているようだ……でも。
「大丈夫よ。正臣くんなら……。」
大分、呼吸が落ち着いて来た、彩香さんが答える。
「どうしてそんな事、言えるんですか!躱すのがやっとじゃ無いですか……。」
「私の旦那様ですもの……。私の前で、負ける筈無いでしょ……。」
「先生~。理由になって無いよ~。」
「橘先生って、そんな無茶、言う人だったんですね……。」
「まあね……。」
近藤は会話に混ざって無い、寝てるみたいだな……。
「それじゃ、奥さんの前出し、格好付けさせて貰いますか……。」
俺は、収納に武器をしまう。
「「「「えっ!」」」」
徐にオリハルコンゴーレムに向け歩き出す。
多少、生物と違いがあるが、所詮人型、大丈夫だろう……。
オリハルコンゴーレムの右腕が、横から俺に迫ってくる。
俺は、それを躱しオリハルコンゴーレムの、顔付近に手を入れてやる。
オリハルコンゴーレムの脇の下と俺の脇の下辺りを中心にゴーレムが宙を舞い、そのまま、頭頂部から落とす様に、天地投げを決めてみる。
ドッゴッ~ン!
オリハルコンゴーレムの首は地面に、突き刺さった。
「「「「へっ!」」」」
「あれが私の旦那様よ……。」
俺は、動けなくなったオリハルコンゴーレムの魔石を抜き取り、本体と共に収納にしまった。
「さて、彩香さんも近藤も、怪我は回復したみたいだな……。」
「あっ、そう言えば痛くないわね……。見惚れてて、忘れてたわ。」
「百地さんちょっと来てくれるか……。大丈夫だと思うが、これを飲んでくれ。」
そう言い、収納からコップを出し、そこに生命の原液を注ぐ。
「え~と~。これは~?」
「薬草の汁、通称、青汁だ。」
「何の罰ゲームよ!」
「冗談だ……。さっき、彩香さんと近藤に使ったものだ。百地さんはまだ本調子じゃないだろ?念のためにな。」
そして百地さんに飲んでもらう。
「う~ん。うま~い!」
結構乗りが良かった。
「これで大丈夫だろう。しばらくすれば全快するはずだ。」
「すいません、お兄さん。私の回復が未熟な所為で……。」
「えぇ~と。君は?」
「はっ、はい!斉藤双葉17歳高校2年血液型A型生徒会副会長聖女職彼氏は、居ないです……。」
「……凄い自己紹介だね、よろしく双葉さん。」
握手を求め、手を差し出す。
「よろしくお願いします!」
顔を真っ赤に俯き、たどたどしく手を握ってくる。
「あら~、双葉ちゃん~、ふ~ん、がんばって~ね~。応援するよ~。」
百地さんが、握手している双葉さんを、ニタニタしながら見ている。
「正臣くん……。また~。」
彩香さんも、気付いた様だ。
やっぱり、そうなのか?後で、琴音と鈴音に相談して置こう。
さて、問題は勇者王なんだが、ここまでの事態を招いた、責任も取って貰わないといけない。
罪状確認、器物破損1件、殺人未遂2件、大きいのは此れだけだが、被害総額試算すると、転移魔法陣1基、国家予算10年分くらいか白金貨10万枚として、生命の原液1滴エクストラヒールと同じとして、約半分無くんってるから……、250ml使用で、1滴0.001g=白金貨5枚だから、250÷0.001×5=125万、白金貨125万枚併せて、135万枚だな……。俺達の労力、生徒達の賠償請求合わせると、安く見積もって白金貨160万枚か~……。
「なあ、彩香さん、勇者王に責任、取って貰いたいんだが……。被害総額と賠償請求で、少なく見積もっても白金貨160万枚なんだよ……。」
「160万枚?白金貨1枚、1000万ペロよね?」
「そうだ、つまり16兆ペロだね。」
「こっち世界の価値って?」
「宿屋一拍3500ペロ、カレー500ペロ、日本より若干安い位だ。」
「そう…………。私達、責任取らないから……。個人に請求してね……。」
・
・
・