24.交錯?
英雄候補なんて、面倒なフラグが立ってしまった事に、悲嘆しながらも、彩香さんに明日の予定を聞く。
『彩香さん、明日なんだが……。』
『私達の予定ね。午前中に、騎士と勇者で隊列組んで、大々的に町を出て行くそうよ。町の入り口から馬車で、ダラスのダンジョンに向かうって……。午前中には探索開始ね。』
『ダンジョンの情報は持ってるのか?』
『一応は、ゴーレム主体のダンジョンって聞いてるわ、今日、行って来たんでしょ。何か追加情報ある?』
『6階層まで潜って、転移の魔法陣敷いて来たよ。明日は、そこから始める予定。5階層までは、土人形みたいなクレイゴーレムだから、苦戦はしないと思う。5階層の、ボスにストーンゴーレム出たけど、膝関節潰したら、後は自重で自滅したね。6階層からは、ブロンズゴーレム、多少、敏捷性が上がった程度かな?』
『正臣くん達だから、簡単に言ってる気がするわ……。私達で大丈夫かしら?』
『大丈夫だと思うよ、彩香さんなら。自力で雷魔術編み出したんだし、金属系のゴーレムと相性、良いんじゃないかな。それに複合魔術、考えたら何でも、作っちゃいそうだよね。ただ、ダンジョンでの広域系の魔術は気を付けて使ってね、一応、閉鎖空間だからね。』
『それぐらいは、私も危惧してるけど、生徒達が無茶やりそうで怖いのよね……。』
『そうだよな、城に軟禁状態だったろうから、外に出たらはっちゃけそうだな……。』
『初の本格戦闘で、周り見え無くならなきゃいいけど……。チーム分けしての、探索だから、全員に目が届かないのよね。』
『そうなのか?』
『5チームに分かれるの、昨日言った、為政者2チームと勇者王チーム、それと、近藤先生のチームに私のチームね。ボス戦は全員合流してから、突入する事になってるけど……。』
『それじゃ、ボス戦の時にでも、まとめて奴隷解除するか。』
『その方が、合理的ね……。騎士達はどうするの?』
『奴隷にでもするよ。穏便に口止めできる。』
『その考えが、不穏なんだけどね……。』
『まあ、その、なんだ、争わないで済むって事で……。ご了承ください。』
『分かったわよ。それじゃ、明日お願いね。連絡は、こまめに入れるから。』
『了解、無理はしない様にね。』
明日の打合せを終え、琴音、鈴音、アサギに向き直る。
「正臣さん、身体の方、痛み取れたので、もう1回お願いします。」
「「にぃ……。」」
3人して、俺に群がってくる。
「明日の事もあるし、今の俺のテンションじゃ、余り乗り気になれないんだが……。」
「「「それでもお願い!」」」
3人とも、感覚に鋭い所があるから、先程の英雄騒ぎで、傷ついた俺を、癒してくれようとしてるのか?
「分かった、ありがっ……。」
「「さっ、早くっ!」」
「正臣さん、今夜は寝かせませんよ。」
俺が感傷に浸り、お礼を言い終わる前に襲って来た……。
どうやら、自分の欲求に忠実なだけの様だ……。
・
・
・
数時間前、王城一室……。
勇者達のダンジョン探索に向け、王国幹部が集まっていた。
「騎士団長、勇者達の様子はどうだ?」
「全て滞りなく、進んでおります。この分だと予定より早く、前線へ投入できるかと……。」
「魔術師団長も同じ意見か?」
「そうですね、多少、派閥の様な物が出来ておりますが、近藤殿と橘殿が上手くまとめているようです。」
「派閥とな?大丈夫なのか?まとまって反逆の勇者の様になられては困るぞ?」
「制約魔術が有りますので、王国へ背くことは皆無ですので、ご安心ください。」
「そうか、そちがそう言うのであれば間違いないだろう。して、宰相。今後の予定はどうなっておる。」
「そうですね、勇者召喚から10日経ちましたが、勇者の成長は順調です。このままダンジョンでのレベル上げを10日ほど行うと、低級の魔族と同等の力が得られるでしょう。後は前線で、魔族討伐によるレベルアップで、魔王討伐も可能だと思われます。ただ、気がかりな点もございます。」
「ほう、気掛かりとな?」
「はい、勇者召喚の日に、追い出した者達でございます。」
「そやつは、無職だったろうに、気にするほどの奴なのか?」
「いえ、そう言った部分では心配ないのですが、その泊まってる宿屋で、変わった料理が出されているとの、報告を受けております。なんでも古の調理器具を使っているとか……。今まで使い方すら解らなかった物が、いきなり使える筈もありません。故に無職の異世界人が、関わっていると思われるます。それに、奴は薬草採取専門で冒険者をやっておりますが、キリフトス家の3男と揉めてるとの報告も受けてます。何か得体のしれない物を、野に放ってしまったような気がしてならないのです……。」
「宰相が言うように、異世界人の考えは我々と違うだろうが、この国で生きるのにお金は必要じゃ。その為に冒険者になったが、討伐が出来るほどのステータスも無いから、止むを得ず、薬草採取に専念しているのだろう。それと、あやつについて行った二人はメイドなのだろう、調理器具の使い方を知っていても不思議ではない。宰相よ、そちの考え過ぎではないのか?」
「だと、宜しいのですが、上手く行きすぎている故、懐疑的になってるのかもしれません。」
「騎士団長、魔術師団長、そなた達はどう思う。」
「無職の異世界人など、取るに足らないかと……。」
「宰相殿が心配なのであれば、排除しても宜しいのでは?」
「そなた達はそう思うか……、勇者達が順調に成長し、魔族との戦争も近しのう。後方の憂いを無くすか……。無職の異世界人達の処分は、そなた達に任せる。好きにするが良い。」
「「「はっ!」」」
「良き報告を待っておるぞ。」
「「「はっ!」」」
ロストニア国王がその場を後にし、残った3人で会議を行う。
「それでは、明日なのですが、予定通り、勇者達にダンジョンへ行って貰います。護衛はどのような予定ですか?」
「5パーティーに対し、それぞれ、騎士2名、魔術師2名、計4名付ける。」
「それで問題ないと思いますが、ボス戦は全員で当たるのですよね?人数が多くなってしまいませんか?」
「ボス戦は勇者達のみに任せます。」
「それで、戦力は大丈夫ですか?」
「仮にも勇者です。行くまでに成長もするし、既に、騎士達より強い者もいます。」
「魔術もそうです、既に上位の魔術を使える者もいます。」
「そうですか、さすがは勇者、問題なさそうですね。」
「ダンジョン探索と言っても、基本ステータスの底上げが目的ですからね。そんなに、無理はしないでしょう。」
「現場指揮は、騎士団の方から出させて貰うが、異存はないか?」
「「ええ、お任せします。」」
「それでは、無職についてですが、明日にでも、秘密裏に排除すると言う事でよろしいですか?」
「問題ないだろう。」
「勇者達とも知り合いの様ですからね。王都にいない時に、狙うのがよろしいでしょう。」
「勇者達の出立時に、暗殺者を差し向けましょう。」
「冒険者をしているのが、幸いでしたな。」
「死亡が確認されても、城壁の外に放置すれば、魔獣の所為にできますからな。」
「まったくです。」
王城の会議室で、無職異世界人の暗殺が企てられ、夜が更けて行った。
・
・
・
翌朝
いつもの、鍛錬……。
なぜに、アサギ?
何故か、一緒に鍛錬する事になっている。
「アサギ、体力無い。」
「お勤め、淡泊過ぎ。」
「私、マグロじゃないです。頑張ります!」
と言う理由らしいが……。それでいいのか、アサギ?
「まあ、弱いより強い方が良いからな。」
ちなみに、アサギは光、闇、水、土、適性持ちのカルテット、この世界だとかなりの希少適性になる。多分、大地さんの影響だろう。
職業は、受付嬢LV9、となっている。スキルが、会話、情報精査、情報処理、受け流し、忍耐、先見、等だった。
やはり、先見スキルを持っていた……。
結構なレアスキルやら適性ではあったが、今まで仕事と両親の世話で、まともに訓練したことが無く、宝の持ち腐れとなっていた……。苦労適性とか付きそう……。
「アサギって、相当強くなれる要素持ってるな。」
「そうなんですか?でも私、戦闘なんてした事無いですよ。」
「これから覚えればいいさ。大地さんの影響がステータスに出てるから大丈夫だよ。」
「アサギも、魔闘術師になる。」
「教会を圧倒できる。」
そんな感じで、鍛錬を始めるが、アサギは、ストレッチでもうギブアップしていた。
俺達はいつも通りに、鍛錬をこなし、最後は皆で瞑想を行ない終了した。
「毎日こんな事してるんですか?どおりで強い筈です。こんな訓練してる人いませんよ。」
「だろうな、騎士達も着いて来れなかったからな……。」
「魔術師や騎士の訓練って何なんでしょうね。長時間していますけど。」
「何なんだろうな?確かに疑問だ……。」
「「お遊戯?」」
「そうかもな……。」
心底どうでもいいと思いつつ、汗を流し朝食へと向かった……。
朝食を終え、アサギに、俺達の予定を伝える。
「アサギ、勇者達は西門から、真っ直ぐダラスに向かうよな。」
「多分そうだろうね。」
「俺達は南門から出て、山沿いに西へ向かう事にする。勇者の後ろをついて行くと、何かと、疑われそうだからな。」
「分かったわ、ギルドには南の森に、薬草採取に行ったと報告しておくわね。」
「ああ、そうして貰えると助かる。」
「私はもう行くね。正臣さん達も気を付けてね。」
そう言い、アサギはギルドへと向かった。
俺達は、勇者の出発に合わせ、南門から出る予定だが、遅くなっても、6階層までの余裕があるから、特に問題は無いだろう……。
「にぃ、道具屋行こう。」
「にぃ、ポーション作って。」
「そういや、回復薬とか持ってなかったな、錬金で作れると思うが、参考資料として少しかっておくか。」
回復薬を求め、道具屋へ向かう事にした。
「こんにちは。」
「はい、いらっしゃい。」
店に居たのは、魔術師と言わんばかりの、とんがり帽子をかぶった、10代位にしか見えないの眼鏡少女だった。
「ええと、店主さんですか?」
「僕の事かな、いかにも僕はこの店の店主ですが、何かご入用かな?」
ロリ魔女メガネに僕っ子、属性詰め合わせな店主だった。
「ポーションを頂きたいのですが?」
「ポーションか~、実は在庫が少なくてね。一人3本までの限定販売にしているんだ。」
「なんでそんな事になってるんですか?」
「いや~、最近、薬草を大量に採って来てくれる、冒険者が居て、ポーションも余るくらい有ったんだけども。なんでも勇者達が、西のダンジョン攻略をするとかでね。何かあってからでは遅いって言って、昨日騎士が来て買い占めちゃったんだよ。」
「そんな横暴でいいのか、冒険者だって必要としてるだろ?」
「僕もそう言ったんだけどね、不敬罪にするって言われたし、しょうがなく売る事にしたんだ。」
「えっ!じゃあ、今あるポーションって……。」
「ああ、昨日から徹夜で作ってるんだけど、数が追い付かなくって、限定販売にしてるんだ……。」
余りにも、属性色が強すぎて気付かなかったが、目の下にすごいクマが出来ていた。
「大変だな、薬草は足りるのか?」
「実は底をついてるんだ。でも、この前、冒険者ギルドに入荷したばかりだから、しばらく入荷しないかもしれないな……。」
「そうか……。俺達が薬草卸してる冒険者なんだが、直接買ってくれるなら、今ある在庫全部置いて行くが、どうだ?」
「えっ!そうなの?すっ、ごい、助かるよ。僕はマリル。冒険者達も、これでクエストに行けると思う。幾つ持ってるんだい?」
冒険者にとって、ポーションは必需品だ……。
ポーションを持たずに、クエストに行く人は死を覚悟して行くか、パーティーに回復魔術持ちを、入れなければならない。
しかし、教会が回復魔術を独占してる為、余程の金持ちや貴族でないと、クエストに出れない事になってしまう。
ほとんどの、冒険者は前者に当てはまってしまう為、マリルのポーションが命綱となる。
「俺は藤堂正臣、こっちが琴音と鈴音だ。ちょっと待ってろ、今出してやる。」
そう言い、アイテムポーチに入っている、全ての薬草を出そうとしたが、琴音と鈴音に止められた。
「にぃ、ここだと置き切れない。」
「にぃ、アイテムポーチ貰う。」
「そうだな。マリル、アイテムポーチか収納あるか?」
「んっ、どういう事、アイテムポーチならあるが。収納って何だい?」
やはり、収納の魔法は、馴染みが無いようだ……。
「ああ、気にするな、アイテムポーチが有れば問題ない。」
マリルが、カウンターに行きアイテムポーチを取ってくる。
「これで良いかい。」
「ああ問題ない、数の方は面倒だから端数切捨てでいいか……。それじゃ、借りるけど。なにも入ってないよな。」
「入ってないから、好きなだけ入れてくれ。」
「了解した。」
俺達は、薬草を一旦、指輪の収納に入れ、数量を出す。
3人とも、暇が有ったら、薬草を採取していただけあって、1人2500束から3000束、持っていた。
俺達は顔を見合わせ、マリルに尋ねる。
「なあ、マリル好きなだけ入れるのはいいが、お金足りるか?」
「えっ、いったい幾ら持ってるんだい?」
「ええとね、3人合わせると、85万本位かな……。」
「………………本気で?」
「ギルドで売買すると、金貨850枚だね。」
「そんなに、持ってないです……。」
「それじゃ、どの位、置いて行くと良い?」
「ええと、500本位でお願いします……。」
「それだけで、いいのか?」
「はい、ギルドからの卸値が1本120ペロなんですが……。その……。」
「そうだな、間取って110ペロにするか。」
「はい、ありがとうございます。トウドー様!」
「ええと、何で様付け?」
「だって、薬草長者じゃないですか~。お金持ちですよ!御贔屓にして下さい!トウドー様!」
「さん付けにしてくれたら考える。」
様、何て呼ばれたら目立つだろ……。
「分かりました。トウド―さん。」
「それと、今日の分は55000ぺロだ、何ならポーション作るのも手伝うか。」
「ええっ~!いいんですか?」
「一々、反応されるのも面倒だ、回復もしてやる、こっちに来い!」
「なっ!何なんですかっ~!トウド―さんって!」
「よく言われる……。」
「「にぃの毒牙に、またしても……。」」
「ちげ~よっ!」
そんな感じで、マリルに回復魔術を掛ける、目のクマだと寝不足による、血行不良が主な原因だろう血液の循環を良くするイメージでキュアを行使する。
「目に見えて、良くなったな。」
「トウド―さんは教会の方では……、無いですよね?」
「ああ、違うが……?」
「どうして、回復魔術が使えるんですか?」
「あっ!」
やってしまった、回復魔術は教会の特権である、E級冒険者が使える筈、無かった……。
「ええっと、今僕は、トウド―さんの秘密を知ってしまった訳ですよね。」
マリルが、商人の顔になっている、これを交渉材料にしようとしてる訳だが……。
「マリル……、人を見て交渉しないと、取り返しがつかなくなるぞ……。」
「えっ!いいんですか?僕はトウド―さんの秘密を、うっかり話してしまうかもしれないんですよ。」
「そうか、お前の気持ちは、よ~っく分かった……、人の善意を踏み躙るんだ……、そんなにマリルが、俺の奴隷になりたいとは、思わなかったよ。初めてだな女性に、そんな好意を向けられたのは。そうか、そうか、もう何も言うな、皆まで分かった。」
マリルに手を向けもう喋るな、と言う仕草をする。
「どっ、奴隷っ~!」
「だから喋るなって!隷属魔術で縛ってやるよ。まさか、こんな拘束プレイがあるなんて、マリルって変態さんだなぁ~。」
「ひぃ~!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
必死に土下座をして謝ってくるのだが、俺達の事がばれる要素なのだから仕方が無い……。
「マリル~。俺、忠告したよな?」
「しました。すいません、トウドー様。」
「俺の不用意な行動がもたらした結果なんだから仕方ない……が、ばれる要素は、排除しなきゃならないんだよ。さっきまでは制約で済まそうと思たんだけどね……目の前に、変態さんが居るんだよな~。」
「にぃ、容赦ないから。」
「マリルと変態プレー。」
「まあ、当然の結果。」
「諦めろ、マリル。」
「そんな~!助けて下さいよ~。」
「「唯一の救いは、金持ちになれる……かも?」」
「本気ですか?」
「「あなたの心掛け次第。」」
「は~い!撲っ!奴隷になりま~す!変態奴隷で良いです。」
「ちっ!金に目がくらんだかっ!」
「守銭奴めがっ!」
「私達の奴隷にしよう。」
「にぃの、奴隷になるなんて、おこがましい。」
「にぃ、私達に任せる。」
「この雌犬、調教してやる。」
「おっ、おお……、それじゃ、任せる……。」
何故か、半ギレで奴隷契約を始める琴音と鈴音……。お前達は、どこに向かっているんだ……。
・
・
・