15.ゴーレム?
屋敷内に戻り、2階に来ている。
使用人達には、無視してていいと言っておいたが、さすがに、廊下で倒れている者に関しては邪魔だったらしく、廊下の隅に退かされている。
客人たちは、全て奴隷なのだが、使用人達は、藤堂家の身内扱いだ。使用人を使おうとすれば、有無を言わせず麻痺する仕組みになってる。
「ラウル、俺の許可なく使用人を使ったら、こうなるからな。」
「はい、肝に銘じておきます。」
「それじゃ、客人の説明!ああ、ライトの仲間は分かる。4人とも、牢に入れて置け!」
「それでしたら、彼から説明させていただきます。彼は、王国軍の北方司令官補佐のサミュル、ドリエル侯爵家の長男です。それと、お共に、ホーミル子爵家、長男ジャークとエネランド子爵家、次男デリスですね。」
「こいつらは、何しに来たんだ?随分、臭うが……。」
「魔族との戦争の、打合せですね……。」
使用人達を襲っていた5人の内、3人がこいつ等である。もう2人はと言うと、反対側に転がっている。
「こっちの2人は?こいつらも貴族か?こいつらも臭いが……。」
「いえ、こっちの2人は、商談に来た武器商人と奴隷商人です。」
「武器商人はともかく、奴隷商人が奴隷になる、なんてな……。」
「藤堂様が、やられたんですよね……。」
「残りの奴らは?」
「商人たちの、お供でついて来た者達です。」
「そうか……。どうしようか……。とりあえず、臭いから外で洗って来させよう。」
「そっ、外ですか。」
「だって、奴隷だぞ。お前らは、奴隷に対してどういった対応をしてた。洗うだけマシじゃないのか?」
「そうですね、私も奴隷になったんでした。破格の対応だった為、忘れてました。」
そして使用人達に、外で洗って来てもらう事にした。
問題は、貴族たちか……。あいつ等の領地も貰ってしまうか……。
「琴音、鈴音、あいつ等の領地、搾取でいいか?」
「問題ない、この国、全て搾取する。」
「この国の北方を、帝国、教国、魔国の盾にしても良い。」
「それもいいな。南方を搾取するだけの方が、面倒にならなさそうだ。敵対するのは王国だけでいいしな……。でも、教国も潰す予定だし……。う~ん。」
「藤堂様、それでしたら、大丈夫かと……。彼らの領地は、隣の領地ですので、しばらくは時間が取れます。ゆっくりお考えなさいませ。」
「そうか、それなら、搾取の方向で動こう。商人達は、この国の者か?」
「はい、そうでございます。奴隷商も買い付けに、帝国との国境に行く位ですね。」
「それじゃ、奴隷にしてても問題ないか。御用商人とかは、いないのか?」
「いる事は居るのですが、生活用品のみ取り扱ってますので……。」
いまいち、御用商人の取り扱いが不明だ。ただの御用聞きにしか聞こえない。『ちわっ~、三河屋で~す。』ってくるのか?
「サブちゃんくるかな?」
「三郎に、改名させる。」
「まあ、楽しみは、後に取っとこうな。今は、貴族と商人だ。ラウルっ!貴族はどれくらい放置しても問題ない。」
「そうですね……。1週間は大丈夫かと……。」
「商人はどうだ?」
「それなら、特に時間は問題ないです。」
「それなら、こっちの用が済んでからで、問題ないな。それまで保留だ。」
勇者救出計画後に、処遇を決めることにし、とりあえず、部屋に軟禁しておくか。その間、ラウルに懐柔でも、させて置こう。
次に対処するのは、牢に囚われていた者達が、4人いた。
4人とも元騎士で、クレア達と同じく左遷され、クレア達の村のオークへの譲渡へ、反発した者達だった。
クレアの知り合いもおり、素直に藤堂家の支配下に入った。クレア達の部下と言う、位置づけで納得してくれた。
兵士、戦奴もいるが、数が数だけに面倒だ……。
兵士に、頭の回る奴とか居ないだろうから、しばらく放置、幹部クラスのみ対処しよう。
奴隷なんだが、ラウルが藤堂家の奴隷になった事で、そっくりそのまま、藤堂家の奴隷になっていた。後で、契約解除しないといけないが、急ぐことも無さそうなので、放置の方向で……。
と言う事で、居住環境から整えよう。一階には俺達の部屋と、親父達の部屋を用意してもらう事にする。
それと地下に研究室だ。人型ゴーレムを用意して、魔石を組み込み、親父達には自立起動して貰おう。
そうすれば、勝手にホムンクルスとか作るだろう……。
機密レベルとかも、設定しないといけなくなりそうだが……。
んっ?
「なあ、ラウル。この世界に自立起動型のゴーレムなんているか?」
「ダンジョンに行けば、居ない事も無いですが。どうかしましたか?」
「いや、ゴーレムでも造ってみようかと思って……。」
「なに言ってるんですかっ!そんな技術は、150年前の勇者を最後に、消失しましたよっ!」
「そうなのか?その勇者って誰だ?」
「美食勇者ですよ。文献通りだと、料理、出来るゴーレムだったらしいです。さらに、近くで材質を見ないと、ゴーレムだと解らなかったとか……。」
「「フィギュア。」」
「母さんなら、やるな……。クレイゴーレムなら、錬金と土魔術で何とかなりそうだな。」
「まさかっ、つっ、作るんですか?」
「そのまさかだよ。これから、地下の牢を一つ潰して研究室にする。そこで、作るから立ち入り禁止だ。お前は、1階に俺達の居住スペースを確保しててくれ。3階は執務室、会議室、書庫等の、領地経営に必要な部屋を集積させろ。2階は客室のままでいいが、過剰な装飾品は撤去しろ、ラウルは使用人達と一緒の住居だ。……そう言えば、執事長はどうした?」
朝から屋敷にいるが、執事長が見当たらない。
「藤堂様が起きて来られる前に、お見苦しい者を御見せする訳には、行きませんので護衛の騎士と共に、使用人の宿舎で軟禁してます。」
「そうか、あいつは何者なんだ?ただの執事長じゃないだろ?」
「ええ、そうです。私の領地経営補佐をやっていました。それと私達の、剣術の師匠で、先代の懐刀でした。」
「その割には……。」
「言いたい事は、重々承知しておりますが、私達にとっては、優秀な人材に違いありませんでした。」
「……そう言う事にしておいてやろう。だが、俺達から見れば凡庸だぞ、お前が使いたいなら、補佐に使うと良い。」
「有難うございます。是非、お役立たせて見せます。」
「それじゃ、俺達は地下に行くから、お前は上の方を頼む。使用人を使う時は、お願いする様にしろ。命令すると罰則が発動するからな。クレア達が起きて来たら、地下に来るように言ってくれ。」
「了解しました。」
そして俺達は、地下に向かった。
地下は、石材を組んだ作りになっており、側面に魔石灯で明かりが灯されている。所々、土がむき出しになっていて、強度的に不安だ。圧縮するイメージで土魔術を行使し、補強を行う。
牢は鉄格子なんだが、一々通るたびにライト達が目に入るのも嫌なので、土魔術の練習がてら鉄格子に土を這わせ、土壁にしてみる。
もちろん、入り口も土壁の扉にしたが、鍵穴は鉄格子のままだ。中身は鉄格子だから、崩されても脱出は出来ないだろう。
そして、最奥へと到達したが、どう見ても狭い……。
地上でなんか、危な過ぎて研究させられないし……。
よしっ、もう一階層、増やそう……。
最奥の床をはがすと土が出てきた。土魔術で、穴を掘って階段を整形、補強して行く大体6m位下がっただろうか。
余った土を収納に入れ、屋敷の外側、騎士訓練所の下に向かい横穴を掘って行く。
訓練所の下辺りで、高さ5m縦横10m四方の部屋を作った。扉は、土を圧縮し、備え付けた。
光魔術を魔石に込め、魔力灯にして壁に装着し、完了でいいだろう。
そろそろ、親父達に出て来てもらおうか。
「親父、母さん、出て来てくれ。」
「1日ぶり~ふ。」
「あなたっ!古いわよっ!」
「母さん軽く流してあげなよ。突っ込んだら喜ぶし……。」
「そうね。所でここは?」
「ああ、キリフトス家を制圧したから、地下に研究施設でもと思って部屋作ったんだ。」
「それじゃ、ここを好きに使っていいのね。」
「ほどほどに頼む、一応拠点だし無くなると困る。」
「分かったわ、善処しましょう。」
「それで、とりあえずの体として、ゴーレム作ろうかと思うんだが。どうだろう?」
「そうね、いい案だわ。この魔石を体内に埋め込むのね。私達、魔力は使えるけど。成形は出来ないから、そこは正くんお願いね。」
「さっき大量に土を、手に入れたから、大丈夫だ。」
「クレイゴーレムか~。ちょっと物足りないけど、う~ん……。私は、レディを所望するは。」
「俺は、クリスタルボーイだっ!」
「えっ、ライブメタルなんて持ってないぞ。」
「外見よ、外見っ!」
「親父は、ガラスでいいんだな……。石英ならその辺に、転がってるだろうし。」
「ごめんなさい。普通のでお願いします。」
「とりあえず、人型には作るから、その後自分で弄ってくれ……。」
「分かったわよ。泥人形レベルでいいわ。その後で、大錬金術師の本気を見せるから……。指だけは5本にしてね。出来ればオリハルコン鋼糸で形を作ってから、土で肉付けして、その方が魔力、通しやすいから。」
「了解っ!」
そして、ゴーレム作成を始める。最初に母さんの個体から作る事にした。
オリハルコン鋼糸を20本束ね手、脚に五本ずつ這わせていく。
身長は確か160cm位だった筈、関節を球状にしてから、琴音と鈴音にも手伝ってもらい、土で肉付けしていく、最後に土魔術で圧縮し強度を持たせる。
大体こんなものか……。
「母さん、どうだ?」
「まあ、初めてにしては、なかなかね。後は、魔石をセットすれば完成ね。」
「どこにセットする?」
「首元が良いわね。戦闘時、頭だとあからさまに弱点だから。」
「それじゃセットするよ。」
そして魔石をセットする。魔石から全身に魔力が通るのが見える。
「こいつ、動くぞ。」
「ま、正臣曹長、ゴ、ゴーレムが動きだしました。」
「いやっ、やらないで良いから……。」
「……正くん、声帯付けてないわね。魔力でしか話せないわよ……。60点かな。ギリギリ及第点……。」
「一応、合格なんだ……。」
「指先まで動かせるからね。ゴーレムとしては上出来よ。」
「ゴーレムは、どんな魔術で動くんだ?」
「体は今作って貰ったのでいいわ。動力の魔石に制約魔術、掛けるのよ。」
「そんなんで出来るのか?」
「難しく説明しても、混乱するだけだし……。ゴーレムは胎児が語源のはずよ、刷り込みしてやれば、良いのよ……。王様の言う事わぁ~絶対~い!みたいな……。」
「そうか…………。」
母さんは、王様ゲーム乗りでゴーレムを作るらしい……。
「親父も同じでいいか?」
「ああ、任せる。」
そう言い、親父にも同じゴーレムを作った。
2人のゴーレムが完成し、キリフトス家での経緯を話した。
「それで、ここでホムンクルスを、作っていてほしいんだ。」
「そうね、食事の要らない身体だし、24時間体制で製造するわ。」
「何か必要なものはある?」
「そうね、賢者の石!って言いたい所なんだけど、あんなもの私の魔力増幅、魔力効率上昇、必要魔力軽減装置の前では、霞んで見えるわ……。
と言う事で大量に魔石、頂戴っ!それと、収納に入っているはずの素材も置いて行って……。
魔石はダンジョンの魔獣が落とすから、刈って来て。ゴブリンの屑魔石でもいいわ……。錬成で使えるから。
王国内だと、王都から西の山の手前に一つ、北東の大森林の手前と中に一つずつ、後は教国と魔族領の国境付近に一つ、南に行った海端に一つダンジョンがあるわ。勇者たちは西の山に向かうだろうけど、魔石の質だったら大森林の中ね。
魔獣は、獣タイプが多いから魔術耐性も弱いし、離れて弾幕で一掃できるわ。
器材は私の錬金で、準備するとして、正くんの体細胞が必要かしら、血液でいいわ、そこから培養していくわ。」
「クローン人間みたいだな。」
「基本そんなに変わらないかな。私達の意識は魔石にあるし、体情報も正くんの遺伝子に、組み込まれてるからね。それを抽出して、育てるだけよ。」
「そうなのか?」
「そりゃ、何も無い所から、物を作り上げるのが、錬金の基本だけど、最低でも素材が無いと、取っ掛かりすら掴め無いでしょ。手を叩けば、何かが出るなんて事は出来ないわ。」
「それじゃ、他に必要な物は無いのか?」
「とりあえずは、時間と言った所かしらね。さすがに2、3日で出来ないし、1月は欲しいわ……。この体の改修もしないとね。」
「分かった。それじゃ、レベル上げついでに、魔石取って来れば良いんだな。」
「そうして頂戴…。」
話が一段落、付いた所でクレア達がやって来た。
「「正臣さん、クレア達来た。」」
「母さん、クレア達、紹介するよ。今度、側室で藤堂家に入る事になる。クレア、レイラ、エストだ。」
「あら、正くん、また3人も増やしたの?」
「正臣、お前は……。」
「「「正臣さん、人形が喋ってるんだけど……。」」」
クレア達が唖然として、喋るゴーレム2体を見つめる。
「この2体のゴーレムなんだけど、俺の両親なんだ。」
「正臣さん、ゴーレムから生まれたの?」
「さすがにゴーレムから生まれないよ。ゴーレムに両親の意識が、宿ってるって感じかな。美食勇者コハクと大賢者ラクトが俺の親だ、訳あって今はゴーレムになってる。」
クレア達に、俺達の経緯を説明すると、皆、驚愕してた。
俺の血統もそうだが、琴音と鈴音の血統も、この世界では在り得ないのだから、当然である。ファナはともかく、彩香さんとアサギについての説明でも、驚きを隠せないでいた。
「私達が、その面子の中で、側室になっても良いんですか?」
「それは問題ない。問題なのは、親父達をここに残して行く事だから、クレア達には面倒を掛ける事になる。」
「それのどこが問題なんですか?」
「この2人を残すって事は、この地下空間に、広域殲滅兵器を残すのと同義だからな。」
そう、この2人はこの国に並々ならぬ殺意を抱いている。身内になったクレア達を置くことで、抑制を促そうとしている。
「だっ、大丈夫なんですか?」
「どうなんだ、母さん!」
「大丈夫よ、クレアちゃん達の事もしっかり守るから。身体が出来るまで大人しくしてるわ。」
「俺達が居れば、軍隊が攻めて来ても、クレア嬢達を守ってやるさ。」
かっこいい事を2人は言っているが、一番の危険人物が自分達だと、自覚は無いようだ。母さんに至っては、時限装置付きのようだ。
「それじゃ、頼むよ。クレア達も分からない事があれば、何でも聞いてくれて大丈夫だ。領地経営にしたって、ラウルに聞くより発展的な意見がもらえると思う。」
「任せて。この領地に摩天楼を建ててやるわよ。」
「バベルの光。」
「ガーゴイル。」
「秘密結社は、作らんでも良いからな。」
クレア、レイラ、エスト、そして、親父達に領地経営を頼み、勇者救出までの間、俺達はダンジョンで魔石集めを行う事にした。
屋敷1階に戻るとラウルが、俺達の部屋を作り終え、3階の部屋を整えてる最中だった。
「すいません、藤堂様、まだ、3階の準備が出来ておりません。」
「それならいい、3階はそんなに急がなくても大丈夫だ。それよりも、俺達はダンジョンで、魔石を集めて来ることになった。」
「すぐ、ご出立なさいますか?」
「一度、王都に戻ってからと考えてるんだが、近場にダンジョン無いか?」
母さんの情報は150年前の為、一応、ラウルにも聞いてみる事にする。
「それでしたら、王都、西の山の手前にあります。あそこが一番近いです。管理は王国で行っています。次いで近いのが、王都からここに来る途中の街道から、山沿いに北へ向かった所にあります。20年位前に見つかって、まだ、10階層位までしか攻略されていない為、入場規制が敷かれ、王国騎士団が管理しています。」
「魔獣はどんな感じだ?」
「人型の魔獣が多く、ゴブリン、コボルト等です。8階層でミノタウロスを見たとも聞きました。」
「正臣さん、マツザカっ!」
「正臣さん、ヨネザワっ!」
「よしっ!美食勇者の歴史を継ぐぞっ!行くぞっ!お前らっ!ダンジョン攻略だっ!」
「藤堂様、入り口には、騎士団が駐在していますよ。王都で許可を貰わないと入れないかと……。」
「問題ないっ!俺達の覇道を、遮る者は蹂躙するっ!」
「すき焼きっ!」
「ステーキっ!」
俺達の異常なテンションを、止める事は出来ない。この世界での唯一無二の楽しみが、目の前にあるのだから……。
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