11.盗賊団?
「本当なの?お母さんは知ってたの?」
「ええ、知っていたわ。結婚する時に、そう告白されたわ。」
「そうなんだ……。知らなかったのは、私だけなのね……。」
アサギさんが、自分の出生で知らない事があったのに、戸惑っているのだろう暗い影が見える。
「教えなかったのは悪かったと思っている。でも、周りに知られてしまうと厄介にしかならないから……、解ってくれ。幸いトウド―くんも日本人の様だし、この話はしても問題にならないだろう?婚約者が日本人なら、私達も安心して任せられる。」
「そうですね。俺も、アサギさんと同じで異世界人ハーフですからね。って、サラッと婚約決定してるんですね。」
「そう言わないで頼むよ。って、ハーフってどういう事だ日本人じゃないのか?」
「まあ、そこら辺の説明も厄介なんですよ。」
「まあ、お互い様だな。私の方もかなり面倒だ。」
「ここからは、オフレコでお願いします。厄介にしかなりません、結界も張らせていただきます。アサギさん、ぺトラさんもよろしいですね。何なら制約魔術も、掛けたいぐらいなんですが、互いに家族の事ですから、信用させて貰います。」
そう言うと、部屋に結界を張り、親父たちの魔石に魔力を流す。
「呼ばれて飛び出て、じゃ、じゃ、じゃ、じゃ~ん。」
「あなたっ!うるさいわよ。」
「すいません、家の両親です。いつもこんな感じなんで、軽く流してください。」
アサギさん達が、魔石から出て来た、半透明の人型の者に対して、驚いていた。
「俺が、藤堂ラクト、正臣の父にして、この世界で大賢者をしていた者です。」
「私が、藤堂コハク、正臣の母です。この世界では元美食勇者、兼大錬金術師で通ってます。」
うちの両親の自己紹介が終わり、アサギさんとアサギさんの両親が自己紹介を始める。
「はっ、初めまして、本日、マサオミさんの婚約者になりました。アッ、アサギと申します。よろしくお願いしましゅ。」
「アサギの父のダイチです。50年前に教国の勇者召喚、聖レイシスの福音で修道女アンジェラに受胎しました。異世界転生です。向こうでは、遺跡観光の途中、飛行機事故で死亡しました。享年36歳、本名、斎藤大地です。」
「アサギの母、ぺトラです。修道女アンジェラの義妹の娘です。夫、ダイチと共にA級冒険者をしておりました……。」
どこから話していいのやら、気まずい雰囲気が流れる。……ので、俺達も自己紹介をする。
「と言う事で、俺がこの二人の子供の藤堂正臣です。そして、こっちが、神の使徒、反逆の勇者ユウキと魔王レミの子供の琴音と鈴音、この前まで俺の義妹だったが、召喚に巻き込まれてから、婚約者になりました。」
「琴音です。」
「鈴音です。」
ああっ~ますます混沌としてしまった……。
「あの~、難しくて分からないんですが。婚約して問題ないですよね?」
アサギさんが確認してくる。
「問題ない。」
「むしろ、予定通り。」
「この娘がアサギちゃんよね。大歓迎よ。」
「また正臣ばかりっ、訴えてやる。」
「まあ、そう言う事だから……。でもいいのかアサギ、色々、訳ありだぞ?親父達と大地さんも関係がありそうだし……。」
「大丈夫です。私も人様に言えない事が増えましたし、秘密の共有って事でお願いします。それにマサオミさんについて行くと良い事ありそうですしね。こう見えて人を見る目だけはありますから。」
アサギがそう言って、優しく微笑む。何気に呼び方も変わっていることに気付いていたが、俺も変えていたので婚約を互いに、了承したって事でいいのだろう。
婚約については、今の所、名目上だけにして置いてほしい。色々、この国でする事があるから、落ち着くまで待ってほしい。落ち着いたら、必ず迎えに行くので、今まで通り、ギルドの受付で働いてくれって事になった。ギルドには頻繁に顔を出す予定なので問題ないだろう。
その後、俺達のこれまでの経緯と、親父達の経緯を話した。アサギ達は、俺達と同じように王国にも教国にも、被害にあっているので、俺達の計画に乗ってきた。
続いてアサギ達の、経緯について聞く事になった。
大半が大地さんの話で、やはり親父達と大地さんは同じ飛行機事故にあった様だ。
教国では、神の使徒を造ろうとしてたらしく、修道女に異世界人の魂を受胎させ、教育、洗脳、薬漬け、訓練等をしていたらしい。
7歳になり覚醒の儀で、神の使徒作成が出来ないと分かり廃棄されたが、修道女アンジェラは自らお腹を痛めて産んだ子を諦めきれず、教国中を探し回り5年かけて、とある町のスラム見つけ出したそうだ。
その頃の記憶は、曖昧でよく覚えていないらしい。その後、母アンジェラが立ち上げた孤児院で数年過ごし、この世界での成人に当たる15歳になって冒険者をするようになった。
数年後、クエストに行ってる最中に、母の孤児院が何者かに襲撃され、母アンジェラと数十人の子供が殺されたらしい。運良く義叔母とぺトラは、隣町に買い物に行っており、命は助かったが、住む場所もなくなり路頭に迷う事となった所を大地さんに出会い助けられ、それから一緒に冒険者をしていた。
冒険者をしながら、かつての襲撃者の捜索も同時に行っていたが、尻尾を掴めそうな所で義叔母が姿を消し。後日、教国首都、近くの河原で惨殺死体で発見された事で、それまであった襲撃者の足取りが途切れたらしい。
それ以降の捜索を苦渋の思いで断念したことで、十数年もぺトラが連れ添ってくれた事に気付き、遅ればせながら結婚しアサギが生まれたらしい。
知ってか知らずか分からないが、教会の連中がアサギに目を付け今に至るって訳だ。
親父たち以上に、過酷な人生を歩んできた様だ……。でも、親父達は散歩のついでに魔王に会って来たよ。って、乗りで話すからなぁ~。
「今の話を聞いて、教国が完全に俺達の敵に認定されました。教国の勇者召喚で飛行機が落ちた訳ですし、両親の敵です。」
「「そう、父さん、母さんの敵っ!」」
「俺達の肉体の敵だっ!」
「食事が出来ないって~のっ!潰すっ!」
最後のはどうなんだろう?美食勇者の逆鱗に触れている。
「大地さんの事は、教国の連中は知っているんですか?」
「いや、知らないはずだ。召喚された時に付けられた名前は廃棄された時から使って無いし、教国では、死んだ事になってるはずだ。それにこの話は、結婚する時、ぺトラに話してから、今まで話したことも無い。」
「一応、警戒はして置くか……。コハえもん、コハえもん、何か出してぇ~。」
「人を猫型ロボットみたいに呼ばないっ!テレレレッテレー、ま゛どう゛ゆ゛びわ゛~。」
「時代を感じる。」
「オオヤマさんだ。」
「懐かしいですね。私がこっちに来る前に代替わりしてましたが。」
大地さんも、やはり見ていたらしい、さすが世界的アニメだ。
「母さん、説明っ。」
「そうね、このアニメはドジでおっちょこちょいな主人公を未来からやって来た猫型ロボットが……。」
「いやっ、いやっ、違うから、指輪の、せ、つ、め、いっ!」
「そうなの?仕方ないわね……。この指輪は、オリハルコン製で魔術を付与できるわ。はいっ!あなたっ。」
「それじゃ、付与するか。魔力察知、気配察知、自動魔術結界、自動物理結界、状態異常無効、こんなもんで大丈夫か?」
そんな感じに、ドンドン魔術を付与していく、物の数分でアーティファクトが出来上がった。
アサギ達は目を白黒させて、指輪の製造過程を見つめていた。
「こんなすごい指輪貰えないです……。」
「いやっ、後で渡す予定の婚約指輪なんか、もっとすごいよ。」
「「「えっ!」」」
「だから、気軽に持っててほしい。大地さんとぺトラさんは元凄腕冒険者だったかも知れないが、7年間も動けなかったから、筋力もすごく落ちてる。昔みたいには動けないだろう。3人とも、戦闘に関しては期待できない。危なくなったら即逃げるって事、前提の指輪だ。保険と思って使ってくれ。」
「そんなに言われるなら、いただいておきます。」
無事に貰ってくれたことで、これからの予定を話す。
「俺達3人はこれから、キリフトス領に行って来る。なるべく早く制圧して来るから、大地さんとぺトラさんに移り住んでほしい。大地さんとぺトラさんの死を偽装する。そうすると、アサギと教会の繋がりも絶つことが出来るだろ。ギルドの方には、うまく誤魔化して貰えると助かる。食を探究する薬草採取専門の冒険者って事でいい。変に戦闘で目立ちたくない。」
「分かったわ。ギルドには適当に誤魔化しておくわ。ルーとエミルの恨みもお願いね。」
「任せとけって、言いたい所だが。生かして拘束して置く予定だ。」
何だかんだで、結構時間が経ってしまいもう昼を周っていた。夕方にはキリフトス領に着くだろうと、王都を出て行く事にした。キリフトス領には南門から道が出来ており、迷う事は無い様で、乗り合いの馬車も丁度出発する所だった。
「冒険者の兄さん達も、キリフトス領に行くんだろ?最近物騒だし、護衛してくれるなら安くするから乗ってかないか?」
馬車の御者が誘ってくるが、俺達にも用事がある。
「誘って貰えるのは大変有難いんですが、薬草採取しながら行こうと思ってますし、訓練も兼ねて走って行こうと思ってますので、気持ちだけいただきます。」
「そうか、なら仕方ない。お互い道中、気を付けてな。」
「そうですね。ここで話しても進みませんから、機会があればまた……。それじゃ、お先に失礼します。」
そう言い、俺達は王都を後にし、キリフトス領へ向け足を踏み出した。
王都から30分ほど走ると、そんなに高くはないが山脈がそびえているのが見える。その山の合間を縫って道があり、山の梺は森に囲まれている。
盗賊臭がプンプンする。
「とっ……、思ってると、出て来るんだよな。」
「テンプレ。」
「お約束。」
目視はしていないが、俺達の周りに怪しい集団の気配を察知した。近くには、斥候らしき気配を感じる。
「どうする?後ろから乗合馬車来てるし……。」
「時間短縮。」
「悪!即!斬!」
「俺達、斬撃系の武器、持ってないよな?」
「「悪!即!撲!でっ。」」
「んじゃ、とりあえず。斥候の事情徴収からするか?俺が捕まえて来るから、斥候の目を引いてくれ。」
「「了解した。」」
俺は、光学迷彩を発動後、斥候が居るであろう樹の影に向かって行った。
一方、琴音と鈴音だが外套を脱ぎ、グラビアポーズを取り始める。今、着ているのはスパイセットで革のボディースーツ、某アニメのセクシー女スパイを意識してるのだろう……。確かに目を引いてくれとは言ったが……。色々と足りない……。
すぐに斥候は発見でき、後ろからスリーパーで頸動脈を締め上げ失神させ、二人の元へ戻って来た。
「お前ら、何やってるんだ。」
「セクシーポーズ。」
「正臣さんを悩殺。」
「いやっ、ある意味、確かに目が釘付けになったよ……俺が。頼んだのは斥候の目だよね。」
「分かった。今度はジョジョ立ち。」
「そして時が動き出す。」
「確かにそれも格好がいいよっ。格好はいいが、目が釘付けになるのは、俺なんだよっ!」
「それは、しょうがない。」
「ポージングするのが、私達。」
「「正臣さんは、私達に夢中。」」
「分かった、分かった。俺はお前達に夢中。それでいいな。」
「「当然!」」
時間短縮って言っていたにも関わらず、ネタを仕込んでくる。いつもの、やり取りも終わり盗賊の斥候に話を聞く事にする。面倒だが気付けを行い覚醒させる。
「うっ。」
「おい、起きたか?」
「何だお前らは?」
「いやっ、質問したいのは、こっちだ。お前、盗賊だろ。後、あっちに40人位か。仲間じゃないのか?」
「いや俺は、ただの旅人だ。」
「まあ、嘘付いてもいいよ。面倒だし奴隷契約しちまうから……。それとも、仲間共々、殲滅しても良い?」
「奴隷。」
「殲滅対象。」
「「二択。」」
「まっ、待ってくれ。俺達は、元々ただの農夫だ。頼むっ……。命だけは助けてくれ。あっちには、妻や子供達もいる。」
「正臣さん、面倒なフラグ拾った。」
「盗賊団壊滅、資金充実の方欲しかった。」
それにしても、如何したものか。もうすぐキリフトス領なんだが、どっちから干された農夫なんだ。
「まずは、みんなの所へ行くか。嘘をついてる可能性もある。」
「うっ、嘘じゃない。本当だっ、信じてくれっ!」
「現状、信用できる要素が何一つ無いんですよ。実際、見ない事にはね。」
「うっ、分かった。連れていく。」
手を後ろに拘束された、自称農夫が渋々了解する。この人は現状を分かってるのだろうか?盗賊行為を行った時点で盗賊認定、即首が飛んでもおかしくない状況だと言う事を……。
歩きながら、話しかける。
「元々は、どこの領地に住んでたんだ。」
「キリフトス領だ。ここから山を越えて南に行った山沿いに、小さな開拓村を作ってたんだが、オークに襲われて逃げて来た。領主に掛け合って助けを求めたが、これから忙しくなると一蹴され、討伐隊を出してもらえなかった。」
「また、あいつらかっ~!」
「またって、どういうことです?」
「いやっ~。キリフトス家のやった尻拭いが、巡り巡って俺達に来るって事っ。」
「本当に面倒。」
「害虫の血統。」
「「「ツケ払わせてやる。」」」
俺達の殺気にやられたのか、元農夫の顔が青くなっていた。そして、農夫の仲間たちがいる所へ到着すると、拘束されている仲間をみて、若い衆が10人ほど殺気立って、こちらに向かって来た。
「おいっ!ランドルさんを放せっ!」
鍬や鋤を手にして、威嚇してくる。
「ランドルさんとやら、今のままだと殲滅対象なんだがどうする?」
「まっ、待ってくれ。説得する。」
さっきから、青くなってる顔が、紫色に変わりそうなほど、焦っている様子が見て取れる。
「お前達、この人達には手を出すなっ!確認に来ただけだっ!俺もすぐに開放して貰えるっ!」
「なに言ってるんですか、ランドルさん。こんな弱そうな奴ら、俺達で何とかなりますよっ。」
「おっ、お前らっ、止めろよっ。、絶対止めろよっ。ほっ、本当~にっ、止めるんだぞっ。」
拘束されてるランドルが、超一流リアクション芸人の様な事を言い出している。
「正臣さん、振りなの?」
「正臣さん、殲滅する?」
「俺も異世界の常識疎いから、分からん。来たら殺さず、確保でいいんじゃないか?出来れば怪我人も出さない方が良いだろう。」
ランドルがまだ頑張っている。
「俺はまだ死にたくねぇ~。いいから、止めてっ~。マジで、止めてぇ~。助けてくれぇ~。もう、本当に勘弁してくれぇ~。」
「任せて下さい。ランドルさん。お前ら行くぞっー!」
「「「「「「お~!」」」」」」
「いやぁ~。来ないでぇ~。」
勢いづいた若い衆の掛け声と、ランドルの悲鳴が同時に聞こえ、農具片手に向かって来た。
「「やっぱり、振り。」」
「いや、あれは本気で懇願してるように見えたんだが……。」
俺達は、光学迷彩を発動して、若い衆の側面に回り込んで片っ端から、首筋に手刀を這わせ気絶させていった。
若い衆はと言うと、俺達を見失い、足が止まった所で一人ずつ、倒れて行くのを待っているだけだった。
全員が倒れるのを只々唖然と、見守るしかなかったランドルは、腰が砕け失禁していた。
「さて、ランドルさん説得、失敗でしたがどうしましょう?とりあえず、命に別状有りません、全員拘束させてもらいますがね……。」
「ああ、すまない……。他の奴らを呼びに行きたいんだが、足が動かないんだ。」
「気にしないで下さい。ちょっと、面白かったし……。」
「人を見て笑い者にするとか、ひどい奴だな……。」
「好き好んで、男の失禁なんて見たくないですよ。どちらかと言うと、説得の内容ですかね。」
そして、全員を拘束して回った頃には、やっと立てるようになったランドルの拘束を解き、残りの皆を呼びに行った。
そこには、ランドルが言った通り、女子供が集まっていた。村長はと言うと、オークから皆を守るために、最後まで村に残り戦って行方知れず、逃走の指揮を村長の息子であるランドルがとったそうだ。
ここから、村までは山を突っ切って行って、3時間ぐらいそんなに遠くは無いようだが、近くにまだオーク達がいるかもしれないので、確認に行ってない。 村を追われ、皆で移動していたが食糧不足に困窮され、やむなく若い衆で盗賊行為を行っていたと言う。
女たちはそれでも盗賊行為を止めるように言っていたが、ランドルをはじめ若い衆は、簡単に食料を入手できた事に味を占めて、繰り返してたそうだ。
「うん、完全に盗賊団だね。」
「「情状酌量の余地なし。」」
「「「有罪っ!」」」