あなたにラム肉
今日も電話はならない。
電話が来るのは、2か月に1度。
あなたが本当に忙しくないときだけだ。
テレビ局のプロデューサーのあなた。
土日休みのわたしと違い、あなたの休みは不規則だ。
もう、かれこれ2か月会ってない。
「忙しい」これは本当と踏んでいる。
金廻りのいいあなた。
他に女がいるのかもしれないけれど。
あなたはくっさいもの好きだ。
お気に入りはウォッシュチーズ。
リヴァロやエポワス、ビュー・シャンポール。熟成が進んでぐじゅぐじゅしたやつで。
レバーパテはスプーンで掬って食べる。
カレーはスパイスの調合から始めるし、
香草も大好きで、わざわざパクチーを買いに、1時間かけて千葉の農家に行くほどだ。
「ワインに合わない」という理由で、
なぜか、くさやは嫌い。
ただのワイン好きという説もあるけれど。
最近のお気に入りは、ラム肉。
この前は、
ラムチョップが食べたいと言われ、
わたしは東京中のデパートに電話して、ラムチョップを探した。
だからだろうか。
あなたはすぐに喰いついた。
ラム肉の串焼きに。
わたしは神楽坂に住んでいる。
商店街にある大野牛肉店で、毎週日曜、焼き串が販売される。
定番のねぎまから豚タン、牛ハラミまで。
こんがり焼けるお肉の匂いにつられて、人々が行列を成すなか、
わたしは、見つけた。
ラムの串焼きがあるのを。
「一本200円」
メールで伝えると、
「食べて感想、すぐ俺に」
あなたはすぐに喰いついた。
ラム串とチーズで赤ワイン。
あなたの願望は適っていない。
月に一度の休みは、大抵平日。
毎週日曜限定の、ラムの串焼きには、未だありつけてない。
私は食が細い。
「1本だけ?」
不愛想な店長に怪訝な顔をされながら
今日も、わたしはラム串を1本買う。
あなたに「美味しかった」と伝えるため。
あなたが来たいと思わせるために。
「いいでしょ?」
今日も買ったとメールを送る。
あなたにもっと会いたくて
あなたのラム串になりたくて