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復讐の夜  作者: 榊原灰人@vtuber
80/83

暴走2

「オラァッ!」


「グルァッ!」


互いの剣がぶつかり辺り一帯にその振動が伝わる。

鍔迫り合いになり少しの間拮抗するが、次第に極夜が押し込んでいく。


「終流・流水」


剣を流しながら回転し反撃する。無防備な背中を斬られる直前、極夜の身体から炎の拳が白夜めがけて飛んでくる。

バク転しながら躱すがその間にも無数の炎の拳が飛んでくる。

最小限の動きで回避していく白夜だがこのままでは拉致があかないと判断し突撃していく。


「「終流」」


極夜は炎を止め迎撃の体勢をとる。

だがそれは悪手だった。


「三日月!」


斬撃が飛んでいき迎撃の体勢を取っていた極夜は反応がわずかに遅れてしまう。

ギリギリ躱したものの白夜から一瞬だが視線を外す。

その隙は致命的だった。


「終流・半月!」


腕をクロスして振り抜く。防ぐこともできず右脇腹を斬られる極夜。


「ア゛ア゛ア゛アッッ!」


叫ぶと同時に火柱が上がり極夜諸共辺り一帯を焼き尽くす。

それは近くにいた白夜も例外ではなく、避けることもできず火柱が直撃する。


「ゲホゲホ……クハハハ、やってくれんじゃねーか!」


楽しそうに笑う白夜に炎弾が無数に飛んでくる。


「洒落せぇぇっ!」


白夜は避けるでもなくその全てを斬り裂いていく。

斬って斬って斬って斬って……魔法が止んだのはしばらくしてからだった。


「キハハハハッ!どうしたぁ、もう品切れかあ?」


口調がいつもと変わりチンピラのようになる白夜。しかし視線は極夜の挙動に集中しており油断はしていない。

対して極夜はというと


「……………」


無言だった。

先程までは呻き声をあげ続けていたのだが、魔法が止んだと同時に俯き黙り込んでしまった。


「死ね」


【魔銃】で『鷹』を作ると極夜に連射する。

しかし弾は極夜に届くことはなく、直前で消えていく。


「ハァ?どういうこったこりゃ。………なら直で行くだけだ!」


【加速】を使い極夜との距離を一気に縮める。それでも微動だにしない極夜に悪寒が走る。そしてそれは的中していた。


「なるほどなっ!」


極夜の周囲は呼吸すれば喉が焼けるほど温度が上昇していた。

熱源は極夜。これほどの高温になったのは熱源が異常ということ。つまり極夜は今、人では耐えられない程の熱を発している。


「アッハハハ!」


それでも構わず突っ込む白夜。身の危険など御構い無しだった。


「終流・半月!」


白夜の凶刃が極夜の首に狙いを定め、命を奪わんと迫る。


「…………図が高いぞ、下郎が」


しかし凶刃は一本の長剣で阻まれる。

それを認識した瞬間、本能的にヤバいと直感した白夜は一撃でも与えようと全力で剣を振るう。

一方、極夜はどこから出したのか一本の紅い長剣で双剣を捌く。


「っ!」


「無様よの」


極夜の力に押し負け右手を上にあげられた白夜の隙を容赦なく攻撃する。

腹を思い切り斬られながら飛んでいく白夜。


「………あれでは足りぬか。それにしても」


極夜は頭上を見上げる。


「魔夜がそこまでボロボロなのは初めて見るな。何があった?」


「ゲホッ……。いって、くれるわね……」


そこには血だらけで満身創痍の魔夜の姿があった。風魔法を足に使い地面の代用をしている。


「早く、白夜を正気に戻して……。今すぐ、この国を、ゲホッ、手に入れるのよ」


血反吐を吐きながら魔法の準備に入る魔夜。その先には【虚滅】(ウロボロス)により傷を再生した白夜がいた。


「余に任せておけ。1人でじゅう」


「時間がねぇから手ぇ貸せ!」


「わかりました」


魔夜の豹変に思わず敬語になる極夜。それくらい怖かったのだ。


「シシシシ、2人で殺るってか?いいねぇ!殺しがいがあるぜ!」


正気を失っている白夜が突撃してくる。

その速さは先程までとは比べものにならず、極夜でさえ追うのはやっとであった。


『重力世界』(グラヴィティワールド)


「カハッ」


しかしそんなものは関係ないと言わんばかりに魔夜を中心として半径10キロほどに圧力をかける。白夜はそれにつかまり地面に叩きつけられる。

極夜は【アンチ魔法】のおかげで効果を発揮していないが、身体に若干の圧力がかかっている。

極夜の【アンチ魔法】は完全無効化ではない。正確には効きにくいだけなのだが、【アンチ魔法】の性能が良すぎて普通の魔法は一切効かないのだ。魔夜のような超一流の魔法使いならダメージを与えることもできる。


「極夜」


「【炎帝】・(カイナ)!」


炎の腕が白夜を掴みその身を焼いていく。


「ガァァァッ、ア゛ア゛ア゛ッ!」


「潰れろ!」


極夜の手が閉じられ炎の腕が白夜を握り潰す。


「残念外れ」


「っ、【炎帝】・逆鱗!」


声が聞こえた瞬間色々な疑問を押しつぶし火柱をあげる極夜。

魔夜も高く舞い上がり白夜の姿を探す。


「キハハハハッ!どうだ、俺の『殺意幻影』(ファントムキル)は?リアルだろ、アレ」


しかし堂々と目の前に白夜は現れ、種明かしをする。

魔夜と極夜は白夜の話を聞きながら目配せする。


『殺意幻影』(ファントムキル)ってのはな、俺の【殺意】の幻覚が進化したものなんだよ。つっても『殺戮(キリング)本能』(インスティンク)状態じゃねーと使えない代物らしくてな。これが使いづらいったらない。でもな」


「終流・一閃“焔”!」


魔夜の【憎悪】により【アンチ魔法】を使えなくして『空間転移』した極夜が背後から斬りかかる。

しかし手応えはなかった。


「バカな⁈」


気配はもちろん肌をピリつかせるような殺意があったにもかかわらず、極夜の剣は幻影を切り裂き霧散する。


「キハハハハッ!そぉらよ!」


背後から膨れ上がる殺意に気づき咄嗟に防御するが間に合わず、決して浅くない傷を負う。


「おのれ……っ」


「シシシシ、話は最後まで聞けよ。んで続けるとな」


『氷結鎖』(フローズンチェーン)!」


氷の鎖が白夜の両手両足を縛り身動き取れなくする。

それでも足りないのか魔夜は鎖でグルグル巻きにして転がす。


「だから聞けって」


しかし白夜は鎖に捕まっておらずその横にいた。氷の鎖の中には誰もいない。


「もういいや。サクッと殺るか」


黙ると同時に空を駆け上がる。魔夜も撃ち落そうと魔法を連発するがそのどれもが躱される、もしくは当たっているのに次の瞬間には別の場所にいたりする。

この不可思議な現象に苛ついた魔夜は一掃を決める。


『無慈悲な(クルーエル・)星の雨』(スターレイン)


「キハハハハッッ、俺を殺す気満々じゃねーか!」


無数の星が降り注ぐ。地面を抉り、1つ1つが命を奪う暴力の塊。

それを笑いながら避け続ける狂人がいた。


「キハハハハ、面白ぇぞ!小細工なしで全部避けてやる!」


魔夜にかろうじて認識できる程の速度で躱し続ける。それでも当たればいいというヤケクソの気持ちで魔法を発動し続ける。

当たりさえすればあとはどうとでもできると考えている魔夜だが、極夜はそれだけでは足りないと予測し魔力を密かに溜める。


「アアアアアッッ!」


「キハハハハ!無駄無駄ぁ!」


『無慈悲な(クルーエル・)星の雨』(スターレイン)は1つも白夜に当たらず、少しずつ数が減っていき、完全に星の雨が止む。


「ハァ、ハァ……」


「俺の勝ちだ!」


地面に膝をつく魔夜を嘲笑う白夜。しかしその嘲笑はすぐに止む。


「そうか、まだ力が有り余っているようならこれをくれてやる!」


極夜の魔力が解放される。


「『炎竜帝』・火之迦具土(ヒノカグツチ)“不知火”!」


白く発光した灼熱の焔が白夜の頭上から落ちてくる。完璧に虚をついたその攻撃に『殺戮本能』状態の白夜は不敵に笑う。


「上等だぁ!俺もとっておきを見せてやるよ!」


そう叫ぶ白夜は双剣を構え、『雷装』と【加速】を発動する。


「まだだ……まだ行ける」


ブツブツと呟く白夜。しかし次の瞬間、極夜でさえ認識できない速度に達した白夜は白い焔に向かい全力で走る。

この時、白夜のスキル【空力脚】と【加速】が合わさり【天歩】に進化していた。自身を加速させるスキルと魔法を使い続けていたのでそのおかげだろう。

【天歩】の能力は一時的な敏捷ステータスの5倍上昇。前の【空力脚】の性能を上げ、空気を圧縮して走るだけでなく無風状態でも走れるよう魔力を足場にすることができるようになった。

【天歩】を使った白夜のステータスは現在こうなっている。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

白崎 白夜 LV32


『殺戮本能』状態


筋力:1,720(+17,200)=18,920

魔力:1,005(+10,050)=11,055

耐久力:1,250(+12,500)=13,750

敏捷力:3,010(+30,100)=165,550


スキル:【殺意】【天歩】【魔銃】【宿雷】

称号:復讐者(???・拒絶)


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


敏捷力が桁1つ飛んでいる。これではとてもではないが、今の魔夜や極夜の攻撃が当たることはない。よほどのことがない限りは。

白夜はこの敏捷力をフルに生かして全力で白い焔に斬り込む。


「終流絶技・“神喰雷獣”(ヴァジュラ)!」


終流絶技。これは『師匠』でさえ使うことができない個々の技。

白夜達はこの絶技を各々が2つずつ習得している。

白夜の絶技、“神喰雷獣”(ヴァジュラ)は双剣に電撃を集中させ、超高速で振りながら敵に突っ込む技だ。

聞くだけだと簡単そうだが、それだけではない。それと同時に自身を中心に球体状の雷を纏うのだ。

これにより触れたそばから雷が焼いていき、それでも焼かれない場合は白夜が斬り刻む。

少しでも斬られれば電撃が傷口から血液を伝い相手を感電させる。


これには『師匠』も絶技として認めざるを得ず、白夜の終双剣流の絶技となっている。


「ハァァァァッ!」


「ガァァァァッ!」


ーー白夜と白い焔がぶつかる。


そして白夜と白い焔削りあいが始まった。

超高速で剣を振るい打ち払おうとする白夜。

ありったけの力を込めて焼き尽くそうとする極夜。

両者の力は拮抗していた。


「………フフフフ」


電撃と焔の余波で周囲が破壊されていく。

轟音が響き、地震でも起きているかのような振動。

白夜と極夜は全力でぶつかり周りに意識を割くことなどできない。できなかった。


「とっておき……全力ね……フフフフ」


故に気づけなかった。魔女の怒りに、逆鱗に。そして【憎悪】に塗れた視線に。


「『不倶戴天』……」


魔夜は【憎悪】の能力、『不倶戴天』を発動して自信を強化する。


「私の力は憎んだ者に対して力を発揮する。………貴方達がとっておきを使うのなら、私も切り札を使ってあげる」


魔夜は魔杖を地面に突き刺すと深呼吸して目を瞑る。

その間にも2人の拮抗は崩れず膠着していた。


「【憎悪】……『我憎むはこの(リ・グラドビューテ)世の全て』(・ゾルド)


空気中に漂う魔力が魔夜に集まる。元々膨大な魔力を有している魔夜の魔力が高いのは当然。だからこそ気づけなかった2人の失敗。

それは致命的だった。

そして気付くべきだった。魔夜がなぜ瀕死だったのかを。魔夜に余裕がなかったことを。


「我が魂は黒く染まり、その道は血に塗れ、薄汚れたものなり。ならば染まろう。この手を血に濡らし、この心を黒く汚し、希望という名の光を奪う者になろう」


聞いたこともない詠唱。その詠唱は酷く悲しく、また苦しく痛いものだった。


「我は黒き者。この世界の敵なり」


ーー大気が振動し、空が黒く染まる。


「故に我は命を奪う。愛する者も、友と呼ぶ者も、家族でさえも、我は奪う」


ーー3人の周囲は黒い靄に覆われ先が見えなくなった。白夜と極夜もこの異変に気付くが余裕がなく、ただ早くしなければもいう思いが強かった。

この時、白夜が『殺戮本能』状態でなければすぐに止めて魔夜の元に行ったかもしれない。しかし現実は厳しかった。


「顕現せよ、我が【憎悪】!『憎悪に塗れた慟哭(リ・アルドノ)は命を殺す』(ア・ブロウド)!」


闇が極夜の『炎竜帝』・火之迦具土(ヒノカグツチ)“不知火”を後押しするように合わさり、白と黒が混じった炎が白夜に襲いかかる。


「っっっ!」


言葉を発する余裕もなくなった白夜は歯を食いしばりながら双剣で斬り続ける。

だが、それも僅かな間だけだった。

白夜の桁違いな敏捷力でも剣速が追いつかず、白と黒の焔が白夜を呑み込む。


ーーーーその寸前で消失する。


「……な、にが……」


呆然とする白夜だが、身体が悲鳴をあげそのまま気絶する。

ボロ屑のように落ちてくる白夜を重力魔法で軽くして受け止めたのは魔夜だった。


「限、か、い……」


元々かなりの傷を負わされていた魔夜は白夜と同じく気絶する。

そんな2人を何とも言えない表情で見下す極夜。


「…………余が『王印』で正気を失い、暴れるのを止める。だというのに、余が自力で戻れば白夜が正気を失い、魔夜も途中から暴走」


ハァ、と嘆息する極夜は苦笑しながら2人を抱える。


「情けない姉と兄だな」


極夜はスラム街を歩きながら、最後にそう呟くのだった。

次回の更新は土曜日か日曜日にやります。

今度こそ!絶対に!( ̄^ ̄)ゞ

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