鍛錬2
遅くなりましたァァ!
「全力で相手をしてやろう!『金龍化』!」
極夜の身体を金色の焔が包み込む。
「ならこっちも!【鮮血狂歌】!」
時雨は自身の腹部に水の剣を突き刺し血を噴出させてスキルを発動する。
そして互いにゆっくりと歩みを進める。
攻撃も、防御も整えた。相手を倒すために最善を、相手を潰すために全力を、相手を殺すために死力を。
今の2人の心境は同じであり、また違った。
動いたのは同時だった。
「オラァッ!」
極夜の拳が血で止められる。
そのまま血で腕を掴み真上に放り投げた時雨は水魔法で空中の身動きのとれない極夜に追い打ちをかける。
「『炎壁』」
「チッ」
しかし炎の壁により全ての水は蒸発して届かない。地面に足をつけた極夜は爆発的な踏み込みで時雨に肉迫する。
その手には二本の剣が握られている。
「終流・『焔』一閃」
「『血桜』!」
渾身の一撃が血でできた満開の桜の花に防がれる。幾重にも重ねられたその花を切り裂くことはできず剣は途中で止まっていた。
「『鮮血・彼岸花』!」
「ガハッ⁉︎」
鋭く尖った血の花により極夜は身体を貫かれる。致命傷は炎を集中して防いだがあまりにもな攻撃の数には流石に無傷とはいかなかった。
「私の勝ちな気がするけど、まだやる?」
時雨は勝利を確信していた。
極夜の身体に微量だが時雨の血を入れた。つまりその気になれば極夜をいつでも殺せる。なぜなら時雨は自身の血を操ることができるから。
それは血を操り相手の心臓を貫くことができると言うことであり完璧な勝利と言っても過言ではない。だからこそ時雨は勝利を確信した。確信してしまった。
「……………………」
「負けて何も言えないのは仕方ないわよ。圧勝してた筈の私に負けたんだから。でも年上にも威厳があるの。魔夜お姉様に認めてもらうためにもね」
時雨とてこんなにあっさりと勝てるとは思っていなかった。だからこそしてしまった勝利への確信。
「…………クク」
「………何笑ってんの?」
「屈辱だ。少しばかりの優勢で勝利を確信するような愚者に愉悦に浸られ、余が下に見られるとは」
「ハァ?アンタ何言ってんの?」
極夜の言葉と態度に苛つく時雨。しかし極夜は笑うのをやめない。
「確かに最初、侮ったのはの余の間違いだ。だが、それも今の貴様を見ると間違いではなかったと思う。ここまで愚かだったとは」
「…………何が言いたいの?」
「すぐにわかる」
極夜はそう言うと金色の焔の全身に纏う。そして
「【炎帝】」
「やっと使ったわね………!」
極夜の【憤怒】を除いたら最も強いスキルだ。
「けど、もう手遅れね。私の血はアンタの身体に侵入して………え、嘘……?」
「どうした?先程までの威勢が失せているぞ」
「な、なんで⁉︎」
慌てふためく時雨。それもそのはず、極夜の身体に侵入させた血液が消えてしまっていたのだ。
その姿を見て笑う極夜に時雨は叫ぶ。
「どうやって私の血を排除した!」
「【炎帝】で余の身体の異物を燃やしただけだ」
「ホント、反則でしょ……!」
時雨は悔しそうに歯噛みする。極夜が言い放った【炎帝】のスキルによる身体の異物排除は並の者には真似できない芸当だ。なぜなら極夜が行ったのは【炎帝】のスキルで時雨の血液をピンポイントで燃やす、つまり一歩間違えれば死ぬ可能性もあったのだ。
いくら【炎帝】で身体を炎に変えれると言っても身体の中の血液を燃やすとなると話は変わる。自分で内部に攻撃するようなものなのだ。当然失敗すればダメージはあるし、燃やし過ぎて血液全てを蒸発させる可能性もある。
しかし極夜はそれを嘲笑うようにやってのけた。
「幕引きだ。死ぬ気で守れ」
魔力が高まっていく。力の波動が時雨や白夜にも伝わり、予感させられる。
ーーーー全力の一撃がくると。
「受けて立つ。【呪怨】」
時雨は自身に【呪怨】をかけ、無理矢理に強化する。すると全身に黒い線が浮かび上がり、まるで呪いに蝕まれているかのようだった。
「こい……!」
覚悟を決めた時雨。それを見て笑う極夜は全力の一撃をぶつける。
「『炎竜帝・火之迦具土!」
「『鮮血の城』!」
極夜の放った炎は時雨を燃やし尽くそうと全方位からその猛威を振るう。
それに対して時雨は血液を魔法で増加させ全方位からの攻撃に対応する血の城を作り上げる。
『鮮血の城』は炎に燃やされていくが時雨が脆くなっていったところから修復していく。
「オォォォォッッ‼︎」
「アァァァァァァァァッ‼︎」
しばらくの間、拮抗し続けていたがそれも終わりを迎える。
「言った筈だ。次はブチ抜くと」
ーーーー極夜の炎が『鮮血の城』を突き破り侵入する。
「しまっ」
「燃え尽きろ」
巨大な火柱が上がる。それは人など簡単に灰にするほどの大きさで『鮮血の城』を破られた時雨も例外ではない。
「待て何してんだバカ!殺し合いじゃねーだろが‼︎」
慌てて救出に向かう白夜だが、火柱が消えるとそこに残るのは何もなかった。
「お前、マジでバカか⁉︎何で殺しにかかってんだ!」
「喚くな。死んではおらん」
「知ってるよ!だけどあぶねーだろうが!」
「間一髪……危なかった」
「ありがとうハデス。でも、本当に死ぬところだったわね……」
時雨を助けたのは気絶していたハデスだった。気がついたのは少し前で極夜と時雨が最後の攻防をするところだった。
『影移動』で奇襲する気を伺っていたのだが時雨が『鮮血の城』を破られたのでギリギリのところで影の中に引きずり込んで惨事を免れたのだ。
極夜と白夜は気づいていたので止めなかったが、それでも危険だった。
「中々に楽しめたぞ。よもやここまでやるとは思わなんだ」
「極夜のその口調に慣れてきた自分が嫌になるわね……」
「初戦闘でボコボコにされた……」
清々しい笑顔の極夜に対し、2人の顔は沈んでいた。
「余に負けるのは仕方ないことだ。なぜなら勝つのは余と決まっている。それが運命だ」
「うるっさいわね!その上からの態度なんとかできないの⁉︎」
「喧しい女だ。上からの態度をやめればいいのだろう?」
「そ、そうよ」
癇癪を起こした時雨に珍しく素直に言うことを聞く極夜だが、白夜は嫌な予感がしておりそれは的中した。
「………プッ」
「「その喧嘩買ったァァッ!」」
極夜は上からの態度はやめたが、弱者を嘲笑った。これも上からの態度に入るのだがツッコンだところでだろうと白夜は諦める。
ハデスと時雨は怒り心頭で極夜に魔法を放つが【アンチ魔法】により無傷。
そして4人の鍛錬は終わったのだが、実際何もしていない白夜としては「俺来た意味なくね?」と思うのだった。
ちょっと就活で忙しいですが、頑張って更新していきます!




