暗殺
久々の投稿ですみませんm(__)m
「すみません……王が攫われました」
「過ぎたことはもうよい。今は王を取り戻すことが先決だ」
「はっ」
時雨達が窓から飛び降りて『結界』の上を走って逃亡したのを防げなかった魔術師である白髪の男、フェルベン・アズリオはお妃様に頭を下げる。フェルベンはお妃様の態度に心の中で感嘆の声を上げる。愛する夫を殺され息子が攫われたのだ。普通の常人なら絶望している。しかし目の前にいるお妃様は王を助けることだけ考えている。これほど強い女性もいないだろうとフェルベンは再度尊敬の念を心の中で叫びながら部屋から去り、王を探しに行く。
部屋に残されたのはお妃ただ1人。お妃はドカッと近くにあったソファに座ると
「チッ……無能が」
先程とは180度違う表情で吐き捨てるお妃。
「厄介な奴らだ……。あの兄弟は早めに始末しておくべき…」
お妃が手をパンパン取り急ぎ2回叩くとどこから現れたのか仮面をした男2人と女1人が膝をついて待機していた。
「手段は問わぬ。報酬は1億。迅速に殺せ」
「…………」
「…………2億。でなければ受けない」
仮面の女が金額を吊り上げる。
「なっ⁉︎貴様等如きが、この私に交渉しようというのか!」
「相手は強者……俺達が死ぬ確率は高い。正当な額だ」
仮面のリーダー格の男の言う通り今回の依頼には死の可能性が極めて高い。金額を上げるのもわかるが流石に倍額を一気に出せと言われても今のお妃にそこまでの金銭的余裕はない。
「……ならば1億五千。これ以上は不可能だ」
「……承知した。では」
頷くと同時に目の前から消える3人組。お妃は3人組が消えると近くにあった椅子を掴み思い切り壁に投げる。椅子は足が折れ壁には窪みができる。こんなことをしても気が晴れないがこうでもしないとやってられない。お妃は心の中で盛大に愚痴りながらこれからのことを考えるのだった。
夕刻、人目につかないスラムの路地に仮面をつけた怪しげな3人組がいた。
「……標的の3人を1人ずつ消す。まずはこの魔導学園最弱の白崎白夜からだ」
どこから手に入れたのか白夜の学園での成績を記した紙や先生からの評価が書かれた紙を他の二人に見せる。
「……これなら一人でやれる。この男弱すぎ」
仮面の男の言葉にリーダーの男、紫波 燕は腹部に膝蹴りを入れる。
溝に入れられた仮面の男、紫波 海はその場に蹲りながら燕を睨みつける。
「何しやがる……!」
「馬鹿な弟をしばいただけだ。そこで蹲ってろタコ」
そう言いながら蹴り飛ばす燕の攻撃には容赦がなく、顔を蹴られた海は鼻を折られ意識を刈り取られる。
燕は気絶した海から仮面の女に向き直る。
「雇われている私は何も言うことはない。ただ死にそうになったら逃げる」
「それでいい。まずは白崎白夜を殺す。ところでいつまで気絶したフリをしている?起きないと殺すぞ」
「チッ、ぶっ飛ばそうと思ってたのに……」
悔しそうに舌打ちをしながら起き上がる海。その顔には傷がなく、折れた鼻も治っていた。燕は2人の顔を確認する。
「行くぞ」
そして燕達は白夜を殺すために行動を起こした。
「…………」
燕達が動き出してから1時間後、白夜は1人で魔法の鍛錬をしていた。白夜は魔法が苦手ではないが魔夜のように強くはない。だから少しでも強くなるために普段から鍛錬は欠かさず行っていた。もちろん体術、双剣も合わせてだ。なぜなら白夜には分かっているからだ。自分が魔夜と極夜のような才能が欠けらもないことに。昔からあの2人に勝るところが一つもない。頭の回転の速さは2人が上。魔法は魔夜が、体術では極夜が上。白夜は何一つとして勝てていない。それなのになぜ2人に引けを取らないのか。それは陰で努力し悪知恵を働かせ続けて来たからだ。
料理中の攻撃は元々白夜が考案したものでほぼ毎回白夜が料理を作っていた。ワザと勝負に負け魔夜と極夜の攻撃をその身に浴びせられながら回避術を死ぬ気で学び、今では魔夜達よりも回避術が上だと自信を持って言える。それでも白夜は対等とは思えない。たかが回避術。他は全て負けている。そう思っているからこそ白夜は陰で努力を怠らない。
「っと、今日はこのくらいにしとくか」
白夜は発動していた魔法を解除する。練習していた魔法は雷魔法の『雷装』でこの魔法は自身のスピードを上げる付与魔法の一種だ。
「帰ったら風呂入って寝るか〜」
白夜は大きく伸びをしながら歩き
「っぶな⁉︎」
思い切り後ろに飛んで空から降って来た仮面の男を躱す。しかし
「こっちもかよ!」
躱した先には仮面の女がナイフを突き出しながら突進していた。白夜は【空力脚】で足場を作り女の頭上を回転しながら回避する。
「『水牢』!」
それさえも読まれていたのか着地と同時に白夜を水が覆い閉じ込める。水圧もかなりかかっておりまともに動けない白夜。
「『破壊拳』」
燕の拳は『水牢』に軽く触れる。白夜は何も起こらないことに違和感を感じたがすぐにその身を持って知ることになる。
『水牢』の表面が小刻みに波打ち始めそれはどんどん大きくなる。大きっていく波打ちはもはや爆発と言ってもいい。そしてその反動は『水牢』に閉じ込められている白夜にも迫り、ついに白夜にまで到達する。
「『ガッ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ‼︎⁉︎』」
白夜に伝わった振動は白夜を破壊していく。
全身を殴打されている感覚だ。それも一発一発が骨を折るレベルで、だ。白夜の身体は痣だらけになり骨もかなり折られている。
まさに『破壊拳』と呼ぶにふさわしい威力だ。ドサリと地面に倒れる白夜。
「ガハッ……。誰、だ……ゴラ……」
白夜は全身ズタボロとなりながらも立ち上がり剣を抜く。すでに『再生』は発動しているがダメージが大きすぎてすぐには治らない。
「ハッ、その状態で立つか。『剛拳』」
「『流水』!」
燕の拳を流して避け、白夜はそのまま後ろに全力で飛び距離を取る。
「【殺意】!」
白夜は全身の痛みを無視して【殺意】を発動させる。折れた骨はすでに修復されているが完全には治っていない。
「オラァッ!」
白夜は地面に穴をあけるほど踏み込み斬りかかる。燕は不敵に笑い、白夜の剣を籠手で防ぐ。
「『海神の大津波』!」
海の魔法で生み出された津波が燕ごと白夜を押しつぶす。水中で揉みくちゃにされる白夜。突然のことで対応できなかった白夜の息は限界に達し、必死に水面に出ようとするが荒れる津波の前では何もできない。
しかし白夜は水中で【空力脚】を使って無理やり足場を作り全力で蹴る。
「プハッ!ハァ、ハァ……」
「【破山脚】!」
「んの、クソガァッ!」
休む間も無く攻撃される白夜は怒号を放ちながら燕の蹴りを双剣で受け止める。
燕の蹴りの余波で津波は吹き飛ぶ。
歯を食いしばって耐える白夜だが完全に力負けしている。そして敵は1人ではない。
「『海神の槍』」
「『炎の矢』」
どうやら燕ごと白夜を串刺しにするようで避ける隙間がないほど密集した魔法攻撃が殺到する。白夜を押さえつけている燕から逃れる術はなく、魔法を回避する術もない。
何もできない……が1つだけ方法がある。
しかし未完成で満足に使えない方法に頼るべきか……?
「やるしかねーだろ!『雷装』!」
「何を、グハッ⁉︎」
魔法がぶつかり辺り一面に粉塵が舞う。
海と仮面の女はその場を動かず粉塵が消えるのを待つ。
しばらくして粉塵が晴れるとそこには鍔迫り合いをする白夜と燕の姿があった。
次の投稿は明日です!