偽王
書き直しができてない……
「話は変わるけれど、王はどこにいるのかしら?」
魔夜は白夜達からフェルミナに向き直る。
「さぁ?アタイは呼ばれたところに行くだけさね」
フェルミナの態度から嘘を言っている様子はない。
「そう……なら、貴女は誰に雇われているの?」
魔夜は別の質問をぶつける。これにはフェルミナも言葉を濁して返す。
「それは教えられない。雇われた以上、依頼主は明かさないのがプロさね」
「まぁ目星はついているからどうでもいいけれど。知りたいことは一つだけだから」
なら聞くなよ!と白夜が心の中でツッコンだのは言うまでもない。
「この国に何が起こるの?」
魔夜の言葉にフェルミナは目を点にし、白夜と極夜は何を言っているか理解が追いつかずただ傍観している。正気に戻ったフェルミナが口を開く。
「何かが起こるってのは予測したのかい?それとも誰かから聞いた?」
「推測。あの王は操られていると見ればわかる。オマケに極夜から王の死の間際に対する王女のことも聞いているから貴女の雇い主は王女。おそらく前王はこの国を捨てようとした。だから王女は息子を使い王を殺して息子を王にさせた」
魔夜の推測にフェルミナは肯定する。
「大体当たりさね」
「ただ何が起こるかまではわからなかった。前にいたのが閉鎖的な国で他にも生きている人類がいるとは思わなかったから」
「閉鎖的な国?ああ、神国から来たのかい」
「神国?」
「アンタらの国にはもしかしてオリンポス12神がいたんじゃないのかい?」
「ええ」
フェルミナは1人納得すると魔夜達に神国のことについて話し出す。
「神国ってのはアタイら外の住人からしたら何がなんでも入りたい国でね。入ることができれば平和な国で生涯を終えることができる『楽園』と言われているのさ」
「『まぁフェルは行きたくない言うとんのやけどな』」
「余計なことは言わなくていい」
「『へいへい』」
横から口を出すカイを黙らせるフェルミナ。
「とにかく、アンタらの国はこの世界で特別な国ってことさね」
「「「………………」」」
話し終えたフェルミナ。しかし3人は反応せず、黙って顔を下に俯けている。
「フェルミナ、俺達以外の『神国』の人間はどのくらいこの外の世界を知っている?」
「アタイにそんなこと聞かれても知らないよ。ああ、ただ桁違いに強い奴等ばかりなのは確かだよ。アタイも昔戦ったことがあるけど、歯が立たなかった」
不満そうな表情をしながらそう話すフェルミナ。
「名前は?」
「確か数字が最初にある珍しい苗字さね。数字が12までだっけ?」
「『あってるよ。フェルもよく覚えとるなぁ〜』」
「簡単に負かされた相手だしね。少しは気になるもんさ」
フェルミナとカイの言葉に白夜達は頷きながら聞いていたが、次の言葉には思わず動揺してしまった。何故なら
「あの『龍虎』とはもう一度やってみたいもんさね」
「っ⁉︎何故お前が知っている!」
「え?ちょっ、落ち着け!とりあえずその魔法はやめるさね‼︎」
魔夜は魔法をフェルミナの周囲に無意識に展開していた。魔夜はそれでも魔法を解除せずフェルミナを睨みつけていたが、白夜と極夜が肩を叩き頷くと魔夜は渋々魔法を解除した。
フェルミナは解除された魔法を確認するとほっと安堵の息を吐く。
「で、『龍虎』について何を知ってるんだ?」
白夜の簡潔な問いにフェルミナから返ってきた返答は予想外のものだった。
ーー白夜達がリベンジする1時間前
「グロス、周囲に人は?」
「少し先に男が3人」
「俺が行く。幻覚を使い隅で隠れてろ」
「へーほー」
夢は【天魔】を発動し幻術を時雨達にかける。モルグは認識できなくなったのを確認するとグロスが行っていた少し先の3人の男に接触する。
「ご苦労。変わったことはないか?」
「「「ありません!」」」
まだモルグが王に牙を剥いたことは知らない様子の男達は敬礼した状態で待機している。
「ここは俺が変わろう。お前達はもう休め」
「「「了解しました!」」」
男達はそう言うとキビキビした行動でそこを離れる。
「もういいぞ」
モルグの言葉で幻術を解く夢。
「それで肝心の王様が全然見つかんないけど、どゆこと?」
「夢、そんな言い方は酷いでしょ」
責める様に言う夢を時雨がたしなめる。
夢は不服そうな顔をしながら引き下がる。
「早朝は大体寝室にいるんだが、すまない。こんなことは初めてでな。いつもは昼から活動していると確認は取れていたはずなんだが」
モルグは謝罪しながら他に王がいそうな場所を検討する。
「もしかしたら執務室にいるかもしれない。いつもはそこで書類仕事をしていると聞いている」
「なら早くしろ。既に30分は経っているんだからな」
「こっちだ」
モルグについて行く時雨達。執務室に着くまでに数回護衛やメイドと遭遇したが事前にグロスが匂いで気づき、夢が幻術で認識させなかったおかげで10分ほどで執務室に到着した。
「この中に人はどれくらいいる?」
「少し待て……(スンスンッ)…1人だ」
時雨達はグロスの言葉に頷くと臨戦態勢に入りながらモルグが扉に手をかける。
「開けるぞ」
モルグが一気にドアを開けると夢が結界で部屋を覆い、時雨が水魔法『水爆』を煙幕代わりに使い、グロスとモルグは一直線に机にかけて剣と鉤爪を突きつける。
「王よ、手荒なことはしたくない。そのままじっとしていろ」
「……ハァ、せめてこれだけでも片付けさせてくれませんか?」
王は書類を指差しながらお願いするが、モルグはそれを許さない。
「駄目です。貴方を連れて行きます」
「何処へ?」
「知る必要はない」
「そうですか……。モルグ、貴方は国思いの騎士だと聞いています。これも国を思う故の行動だと信じます」
モルグ達はここで違和感を持つ。王の今の言葉は表情や態度から本心である可能性が高い。嘘の可能性もあるがそう思うほど王の眼が真剣でこれから死ぬ可能性があるにもかかわらず真っ直ぐだったのだ。
「……【天魔】」
夢は【天魔】を発動して王を凝視する。すると一瞬目を見開き舌打ちする。
「こいつ偽物!本物じゃない!」
夢が指をパチンッと鳴らすと王の姿がぼやけ、パキンッと何かが割れたような音が響く。そしてそこにいたのは緑の髪と眼をした青年だった。
「なっ⁉︎幻術が」
青年は自身にかかっていた幻術が解けたと自覚すると悔しそうな顔で夢を睨む。その手には小指サイズの砕け散った宝玉が握られていた。
「リーフ⁉︎なんでお前が!」
青年ーーリーフを知っているモルグは驚愕の表情で凝視する。リーフはそんなモルグに悲しそうな表情をしながら話しかけ
「……!結界が破られ」
「貴様等、そこを動くな!」
怒声とともに入ってきたのは複数の服装と構えている杖からして魔術師である。魔術師達は扉を固めて魔法の準備も済ませており、こちらに警戒の目を向けている。少しでも動けば即座に発動するとその目は語っていた。
「貴方達が動かないで下さい。この人を殺しますよ?」
時雨はリーフの首に水でできた剣を突きつけて脅す。
「執事が死のうとどうでもいい。今は貴様等への対処の方が重要だ」
魔術師の中でも白髪を生やしたリーダー格の男が返答する。その間にもグロスとモルグは魔法を躱す準備を、夢は結界の準備をしていた。時雨はこの状況の打開策を一瞬で考え、相談もなしに実行する。
「『水竜』!」
時雨の『水竜』は魔術師達を噛み殺さんと迫る。
「「「「|『風壁』ウィンドウォール」」」」
しかし風の壁により『水竜』の身は削られ霧散する。だが時間は稼いだ。
「『結界』!」
夢が『結界』でドア付近にいた魔術師達を閉じ込め、後ろに控えていた衛兵達を入れないようにする。
「時雨!なんとかできない⁉︎『結界』がもたない!」
夢は必死に歯を食いしばりながら『結界』の維持に努めるが時間の問題だった。
「人数は約50といったところだ!」
グロスは敵の数を教えながら臨戦態勢に入る。モルグも抜刀していた。
時雨は考える。魔夜お姉様ならどうしていた?この袋小路をどう回避する?
白夜と極夜がここにいたらこう答えていただろう。「いや、【瞬間移動】と空間移動できる奴を捕えるとか無理だから」と。
時雨は自身のステータスに新たに刻まれた文字を見る。
水川 時雨 LV29
筋力:740
魔力:2100
耐久力:650
敏捷力:1020
スキル:【液体操作】【呪怨】【鮮血狂歌】
称号:【鮮血の女王】
【鮮血の女王】
鮮血に塗れ、鮮血を操り、鮮血を好む者の中でも王に君臨する者に与えられる称号。
【鮮血狂歌】
称号:【鮮血の女王】を持つ者のみに与えられるスキル。自身の攻撃で相手に血を出させた場合のみその血液を自在に操ることができる。また一定量に達すると【鮮血人形】を使うことも可能。
また、大量の魔力と体力を代償に歌うと耐久力を0にする代わりに一時的なステータス上昇を付与することができる。これは歌が聞こえる範囲にいる自身が付与したいと認識した生物のみ可能。またそれ以外の者には様々な状態異常が付与される。
「…………」
時雨はまだこの称号とスキルを誰にも明かしていない。打ちあけようと思ってはいたのだが、タイミングが掴めず言えずじまいになってしまっていた。
時雨は今は関係ない!と頭を振り現状の打開策を考える。執務室の前には『結界』を壊して捕らえようとする魔術師達と衛兵達。背後には何もなく、窓から見える青い空が今はとても腹が立つほどだ。
「………窓?」
時雨は窓を凝視しある策を思いつく。
「夢!窓から飛び降りるから『結界』を板状に足場にして!」
「了解!3カウントよろ!」
夢は時雨の考えを一瞬で理解した。モルグ達も同様に理解し窓際によりいつでも飛べるよう準備する。
「3…2…1!行くわよ!」
ガッシャーン‼︎と窓を割り飛ぶ時雨、モルグ、グロスの3人。夢は『天魔』で翼を生やしているので文字通り飛んでいる。
時雨達が落下しているなか窓際からこちらを見ている魔術師達が魔法を放とうとしていたが下の街の人間に当たる可能性があるため使えず悔しそうに時雨達を見ていた。
「『結界』」
夢は時雨達の落下している場所に板状の『結界』を張る。グロスはその『結界』に直撃する前に風魔法を使い、落下速度を緩和し安全に着地する。
「あ、とりま連れて来た。ほい」
「うわわっ!」
夢がぽいと投げたのは王の執事、リーフだった。夢が窓から飛ぶ際、リーフが目に入ったので一応連れて来たのだ。
「夢、グッジョブ!」
「ん!」
時雨と夢はグッと親指を立てると互いにドヤ顔をする。白夜がいたら「バカですか?」と言っているだろう。
「とりあえず連れて行き、そこで判断してもらうのがいいだろう」
モルグの意見に時雨達は特に反対することもなく頷く。
「ハァ〜……誰か助けて」
リーフはため息をつきながらこれからのことを考えるのだった。
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