王殺し
ギリギリセーフ!セーフ!
深夜、小さな廃墟に薄暗い明りが灯っている。人影は2つ。そのうちの1つはフェルミナ。もう1つの人影はリーフに王の役割をやらせている張本人である、現王がいた。
「あ〜あ、暇さねぇ〜……」
「これから起こることを考えればこのまま暇な方が良いと思うが?」
「アタイにとっては戦えれば何でもいいさ。それが唯一の娯楽であり、生きる糧だからね」
「………流石【野獣の姫】。血に飢えている」
「血というより戦いにさね。それよりもアタイは王が女ってことに驚いたよ。あれかい、親に強要されてそう振る舞っているのかい?」
「さあ?そこまで教える気はないですよ」
王、もとい王女は優雅に微笑みながら回答を控える。その態度から聞けそうにないと判断したフェルミナは話を変える。
「まぁいいさね。ところで『化け物の祭り』はあとどれぐらいでくるんだい?」
「一月もせずに到着しますよ」
王女の返答にフェルミナは頷く。
「それにしても千を超える『化け物』の大群とは、面白い戦争にありつけて楽しみだよ」
そう言って笑う姿はまさに野獣。猛々しく、荒々しいオーラを纏ったフェルミナからは強者のプレッシャーが放たれる。
王女は表情を崩さないが青褪めているほどフェルミナのプレッシャーは強烈だ。
「『フェル、そこらで抑えんと王子、じゃないな。王女が倒れてまうで』」
「っとと、悪いね。ついつい」
頭をかきながら謝るフェルミナ。王女はプレッシャーから解放されてそれどころではなかったがここで返事を返さなければフェルミナのプレッシャーに負けたことになる。それだけはなんか嫌だ!と王女は意地で返答する。
「だい、じょうぶです。それよりも、傭兵達の招集をお願いします」
「あいよ。明後日には揃うさね」
フェルミナは王女の負けん気な態度を見て微笑みながら傭兵に招集をかけるため部屋を出て行く。
王女はフェルミナが出て行くとその場に尻餅をつき呼吸を整える。
しばらくして呼吸が整うとため息をつき、首にかけていたロケットを開く。
ロケットにはリーフと一緒に撮った写真が入っており、顔を真っ赤にしたリーフと無邪気に笑う王女の姿が映っていた。
「リーフ……貴方は、貴方だけでも、許してくれるかしら……?」
王女のか細い声は誰にも聞こえることもなく消えていった……。
ーー白夜と時雨の救出から一週間後ーー
「準備は大丈夫かしら?」
魔夜の言葉に他の面々は頷く。時刻は昼前。
場所は王宮近くの建物で誰も住んでいない部屋を勝手に開けて侵入し、そこで待機していた。
「王の部屋の座標は理解したから転移できる。そこで王を殺すのが一番だけど、できるなら拘束。もしかしたら操られていただけの人形の可能性もあるから」
魔夜の言葉に頷く時雨、夢、モルグの3人とグロス。モルグにグロスが獣人だとバレると面倒なので夢が幻覚をモルグにかけて人間だと思い込ませている。
グロスは生き地獄を見せるはずだった王に憤りがあったので今作戦て王に不満をぶつけたいために参加した。
「ハデスとタナトス、神無にはあるものを探して来てほしいの」
魔夜の言葉に首を傾げる3人だが、次の言葉で魔夜が何故国を落とそうとするのか理解する。
「『王の印鑑』を取って来てほしいの」
『王の印鑑』。それは王の証明であり証だ。この『王の印鑑』は神が認めた相手に送られる特別製でまず壊れない。例え破壊されても修復されるからだ。そして王以外には使えない。正確には王の血を引くものにしか使えない。これは神が認めた証。そう簡単に他の人間が使うことはできない。
最後にこの『王の印鑑』にはある機能がある。それはーー
「魔夜、貴方王になる気?」
「そんな面倒なことはしない。ただ軍隊は必要だと思っているけれど」
ハデスと魔夜が睨み合う。周りは話についていけずただ見守るだけだ。唯一話がわかるタナトスも魔夜を厳しい目で見ている。
「それは駄目よ。それをすれば貴方は私と同じこの世界の敵になるわ」
「敵?上等よ。こんな世界に敵だと判断されたところで問題はない。私達の復讐が達成されれば死んだっていいわ」
「軽々しく死んでもいいなんて言わないで!私が認めない!冥府の神である私が認めない!」
魔夜の死んでもいいという言葉にハデスは全力で否定する。多くの死者を見て来た彼女だからこそ、その言葉には重みがある。
「…………貴方は死者を受け入れる神。だからこそ否定するのでしょうけど、これは私達が生きている理由でもあるの」
魔夜もハデスの心情を理解し、それでも引けないと宣言する。魔夜は白夜と極夜に向かい合う。
「…………『王の印鑑』には神の力が封印されている」
「神の力?………ああ、そういうことか」
「……できるのか、そんなことが?」
白夜と極夜は話を理解し可能かどうかを魔夜に問う。
ニヤッといい笑顔で魔夜は頷く。
「できるわ。でも私にはできない」
「「は?」」
魔夜の言葉に白夜と極夜が同時に聞き返し、極夜はぶるっと身体を震わせ、白夜は何故か安堵する。
「ねぇ、極夜?お願いがあるのだけれど」
「ことわ(ガスッ)らぬ」
魔夜から放たれた神速の魔法か極夜の足元を削る。冷や汗が極夜の背を伝う。
「良かった、引き受けてくれて」
魔夜の笑顔に全員の顔が引き攣るが魔夜は無視する。
「極夜にやってほしいことは言わなくてもわかるわね?」
「だが何故だ?余が神の力を手に入れるなどできるのか?」
極夜の疑問には白夜も同じだった。神の力を手に入れるなら別に魔夜でもできるはずだ。
「「「神の力ぁぁっ⁉︎」」」
ここでようやく話が飲み込めた時雨達は驚愕の声を上げる。
「極夜、貴方には【炎帝】のスキルがある。そのスキルは王としての資質を持つものにしか手に入れられないスキルと言われているのよ」
「流石魔夜お姉様です!博識でいらっしゃる!」
「禁書庫の本で得た知識よ。【炎帝】のスキルは王位スキルと呼ばれるほど強力で過去の王にもこのスキルを持っていた」
「余の【炎帝】が……王位スキル……」
「そうよ。その中でも特別な人間は「神の如き力を振るった」とあるのよ。大地を割り、海を裂いたなんて話があるくらいにね」
「極夜が王かぁ〜」
白夜の言葉に他の面々は苦笑いを浮かべる。
当の本人である極夜は
「余が王………ククク、良い。良いことだなそれは」
笑っていた。満更でもない、むしろ喜んでいるくらいに笑っていた。
極夜は魔夜に向き直る。
「余は王になる!」
「いい返事よ、極夜」
極夜は楽しみだと言わんばかりに笑い、魔夜は微笑み、白夜は苦笑いを浮かべる。
「あ、死ぬ可能性あるから気をつけて」
「「え?」」
次回の投稿は明日です!