【虚滅】
少し長めの投稿になりました。
「………何だこれ?」
気がつくと白夜は真っ白な空間にいた。
辺りを見回してもここが現実とは思えない。
「うーん、夢か?変な夢だな」
白夜はこれが明晰夢かぁ〜と感心しながら眺めていると不意に声が聞こえた。
『君は何故力を望むの?』
「ああ?何だ急に。声?」
姿が見えず、男か女かもわからない機械的な声に白夜は訝しみながらも会話を試みる。
『君は何故力を望むの?」
しかし帰ってきたのは先程の言葉と同じだった。白夜はそれを確認すると今の状況を考える。とりあえずこの真っ白な空間にいることは考えても仕方ないから無視だ。今は質問について考えることにした白夜は本音を言うか嘘を言うか悩む。別に本音を言ってもいいのだがこの偉そうな声が若干苛つくのだ。
白夜がウンウン悩んでいると見えない声から注意が飛んできた。
『嘘は駄目なの』
どうやら心を読まれたみたいだ。
「なら、俺が答えた後にはこの状況を説明しろ」
白夜は即座に条件を加える。
『もちろんそのつもりだよ。だから正直に答えてね?』
白夜はあっさりと了承を得れたことに拍子抜けしながらも答える。
「復讐のため」
『復讐してどうするの?もう死んだ人は帰ってこないよ』
「死んだ人間が帰ってこないからどうした?俺が復讐したいと思うから復讐する。家族を殺され、魔夜と極夜、俺自身もあんな目に合わせた奴らを生かしておくのは無理だ」
見ず知らずの誰かわからない相手に話すことではないが白夜はこの声の主が他人とは思えなかったため白夜は正直に心の内を吐露する。
『その道は血塗られた道だ。君の親はそんなことして欲しいと本気で思ってるの?』
『やめた方がいいの。今ならまだ引き返せるの』
言葉は否定的だが何処か期待しているその声に白夜は躊躇いも無く宣言する。
「血で満たすのが俺の望みだ。引き返す?巫山戯るなよ。俺は復讐をやめない」
白夜の過激な発言は誇張や冗談ではないとその姿からもわかる。
「俺達が復讐をするのは親の時間を、俺達の幸せな未来を奪ったからだ。そして俺達を汚し嘲笑い奴らの娯楽のためだけに拷問されたからだ……!!」
『…………………』
見えない声は黙って話を聞いている。白夜は当時のことを思い出しながら話しているため無意識にスキルの【殺意】が発動している。
「俺達の復讐は止まらない。必ず復讐を果たす。たとえ外道に堕ちようと非道に走ろうと奴等へ復讐する。たとえ家族が否定しようと俺はこの道を進み続ける」
『…………いい感じに壊れているね』
「壊れているからどうした?憐れみなんかしやがったら殺すぞ」
白夜がドスの効いた声で上を睨みつける。そこには何もないがなんとなくそこにいるような気が白夜にはしたのだ。
『クスクス、殺すって、君は面白いことを言うねぇ』
「ああ?」
それに対し見えない声は笑い、白夜はその態度に苛つく。
「じゃあ何か?幽霊とかか?」
『近いけど違うね』
白夜の突拍子もない考えを肯定する声。白夜は内心驚きながらも平静を装う。
『まず僕達は生きていないよ』
『私達は貴方とずっと一緒にいるの』
その言葉を聞いて白夜は首を傾げる。生きていないのは予想できる。だがずっと一緒にいるとはどう言う意味かわからない。自慢ではないが白夜は友達がいない。知り合いはいるが最初の時雨のような奴ばかりで白夜は孤独になっていた。魔夜達と立てたルールがあったため1人で孤立するように演じていたから仕方ない。何もしなくても孤立してたとかは一切ない。絶対にない。確実にない。
『ほらいるでしょ!ずっと君と一緒にいた相棒が!』
『すぐに遠ざけたの。でも今は一緒にいるからいいの』
「ちょっと待て。今のでわかった。つまりあれか?」
白夜は後半の言葉にあった『すぐに遠ざけた。今は一緒にいるからいいけど』にある予想が浮かぶ。それはつまり
「魔剣か?」
『『正解〜!』』
言葉と同時に2人の人影が現れる。1人は黒い髪の女の子。もう1人は白い髪の男の子。年は10くらいで幼い。容姿は瓜二つで髪が一緒だったら見分けるのは至難だなと白夜は考えながら突如現れた2人組に話しかける。
「それで、お前らは何?」
『僕達を読んだのは君だよぉ〜』
『来る予定なかったの』
2人の言葉に白夜はまたも首を傾げる。
『君が僕達に血を与えすぎたせいで暴走したんだよね』
『本来なら何年か先に会う予定が大幅に早まったの。だから私達がこうして具現化したの』
「へぇ〜、それで何かようか?」
白夜は面倒くさそうに欠伸をしながら聞く。夢の中で欠伸とはおかしな話だが。
『そうだね。本題に戻ろうか』
『これが最後の質問なの』
同時に途方も無い殺気が白夜を襲う。常人ならそのプレッシャーで動けなくなるほどだが、白夜は【殺意】のスキルを持っているのだ。この程度の殺気なら何の恐怖も感じないと白夜は酷薄な笑みを浮かべる。(本人は不敵な笑みのつもり)
『君は【虚滅】を受け入れるかい?』
『受け入れれば死と再生の力が手に入る』
『代償として使えば使うほど君の心は【殺意】に染まる』
『大切な家族や愛する人もその手にかけるかもしれない程の【殺意】に』
『『それでも力が欲しい?』』
「前振りが長すぎだろ」
白夜が愚痴るが2人は何も言わず返答を待っている。白夜も巫山戯た雰囲気をなくししっかりと向き合い答える。
「その力を寄越せ!」
『『承知した!』』
叫ぶと同時に2人は黒龍と白龍に変化し、白夜の眼に入っていく。
突然の変化と白夜の眼が追いつけないほどの速度で迫った黒龍と白龍に白夜は身動きできなかった。
「がぁぁぁっ!眼が………っ!」
黒龍と白龍が眼に入り込むと頭が沸騰したかのような痛みと眼が焼け爛れたような痛みが襲いかかる。いや、実際に眼は焼け落ちているのでような痛みではないのだが。
「俺の眼……?だが見えている……どういうことだ?」
白夜は痛みが薄れてきたおかげで冷静に状況を見極めようとする。
『その眼は邪魔だったから燃やしたの』
脳裏に響く黒髪の女の子の声。
「燃やすな!まぁおかげで再生の力ってのはわかったけどな」
白夜は先程言っていた『死と再生の力』に驚愕する。代償もあるがそれを上回る性能だ。
「死の力ってのはどういう能力だ?」
白夜は内心ワクワクしながら聞くが帰ってきたのは意外な返答だった。
『残念だけど、まだ君には使えない』
「何故だ?」
『これまでに殺した人間の数が少なすぎるからさ。あと5000人は殺さないと使えないね』
『殺しまくれば使えるの』
この言葉に白夜は苦笑いする。これまでに白夜が殺してきた人間もその数には到達しているだろう。つまり
「10000人殺して使えるってことか。難儀なスキルだな」
『それほど強力ってことだよ。性能は期待していいよ』
その言葉と同時に白夜の意識が薄れていく。
「なん、だ……これ?」
『そろそろ時間だね。ちなみにこの力は君にしか使えない』
『【復讐者】でも共有は不可なの。でも安心するの』
『君の姉と弟にも共有な魔剣がいるからね。まぁ僕達には劣るけど』
白夜は朦朧としながらも理解する。
そして意識が消えていき、現実へと帰還する。
次回の投稿も土曜日です!
投稿して早9ヶ月。切り目がいいわけではないですが年の終わりなので感慨深いです!
至らぬ点もありますがこれからもよろしくお願いします!




