死刑
ーー白夜の死刑執行日当日ーー
死刑場には大罪人を見ようと沢山の人が集まっており死刑場はざわざわと騒がしい。
死刑場の周りは人で埋まり、今回の死刑される3人の大罪人は両手両足を十字の木に縄で縛り付けられている。
1人は白夜、あとの2人は
「わしは、わしは何もしとらん!誰かが嵌めたのだ!わしは無実じゃぁぁ!」
ボブロ・グス・リースは大声で喚く。ボブロは王を殺した時、夢に操られていたので全く記憶がないのだがそれを証明する手段がないので仕方ない。白夜としては殺すより生き地獄を味わせたいと思っているし、グロスとも約束したのでかなり不服だ。
そしてもう1人はというと
「………聞いていないのだが⁉︎」
神無だった。元々死刑囚なのでなんとも言えないが、死刑と知らされたのが木に縛り付けられてからだったので文句も言いたくはなる。
「魔夜と極夜は…………」
白夜は人混みを見渡し魔夜達を探す。既に縛られて1時間は経つが魔夜達を見つけることができていない。
「静まれ!王がお通りになる!」
するとそこに貴族らしき男が来て場を鎮める。民衆も一瞬で黙り、死刑場に静寂が訪れる。少しして馬に跨る王子から王様となった男とその護衛4人がこちらに向かってくる。人々は平伏し地面に頭がつくくらい下げている。王はそれが当然であるかのように通り抜け、白夜達の前まで来て馬から降りる。
「頭を上げてくれ。私は皆にそんなことをして欲しくない」
新しき王は頭を下げる国民に頭を上げるよう促す。白夜はこの時点で吐き気がしていた。
「(頭を下げた時に言えよ。今更言っても気色悪いんだよ)」
白夜のそんな心中の罵倒に気づかず国民達は顔をあげ、王子に感謝の言葉を口々に言い出す。
なんて優しい王なのだろうと……。
「胸糞悪りぃ……」
「何か言ったかな?」
白夜の独り言を聞き取った王子は白夜に何と言ったのか聞き出す。それに白夜は笑顔で答える。
「胸糞悪りぃんだよ」
場に静寂が訪れ、すぐに罵倒に変わる。
「貴様言うに事欠いて王に何ということを……恥を知れ!」
「これだから犯罪者は。さっさと死ね!」
「早く殺せぇ!」「殺せ!」「すぐにその口を閉じさせろ!」「殺して!」「首を斬り落とせ!」
口々に白夜を殺せと叫ぶ国民達。
白夜は王子の方を横目で見る。
そこにあったのは自分を信じ切っている愚かな国民達を嘲笑う愉悦の表情だった。
「皆やめるんだ。そんなことを言ってもこの罪人は死ぬ。もう決まっていることなんだ」
この言葉に国民達は一斉に黙る。
「まるでペットだな」
白夜は国民達を馬鹿にしながら王子の方を見る。
「それで、俺の斬首は誰がやんの?」
「君は僕自らが斬り落とそう」
王子はそう言うと腰にかけてあるピッカピカの剣を鞘から抜く。
その動作だけで「素晴らしい」「剣の才能もおありになるのか」などとのたまう国民達。
腰の剣を見ながら抜くやつに才能を見た?
馬鹿だろ。できるのは悪知恵働かせんのと権力かざして威張り散らすだけだろーなーこれじゃあ。
「貴様ぁぁ…またも王を愚弄しおってぇ!」
「あ、口に出てた?気にすんな。全部ホントのことだしな」
死刑される人間とは思えないほど巫山戯たことを言う白夜に国民達は怒りをあらわにする。しかし、またしても王子がその場を諌める。
「君は国民達に悪影響を及ぼしかねない。早い所執行させてもらうよ」
王子はそう言うと白夜のところから離れ、ボブロの前まで歩く。
「ま、待ってくれ!バルド、わしじゃ!ボブロじゃ!」
それまで黙っていたボブロは王子が前に来るとすぐに命乞いを始める。どうやら知り合いのようで王子ーーバルド王子に懇願する。
「わしは嵌められたのだ!王を殺した時の記憶などない!頼む、わしは何者かに催眠でもかけられていたのじゃ!」
「……………」
バルド王子は黙ってボブロを見つめ、口を開く。
「……貴方には幼き頃からお世話になりました。それは今でも感謝しています」
バルド王子の言葉にボブロはパァッと顔を笑顔にすると調子に乗って喋り出す。
「そ、そうじゃ!わしは其方をそこまで育てた恩人じゃ!その恩を忘れるなどあってはならんはずじゃ!」
「では、なぜ王を殺したのです?」
「言ったであろう!わしは誰かに」
「操られていた、ならば誰に?」
「それはっ……」
バルド王子の言葉に返せなくなるボブロ。それもそのはず。夢の『天魔』により記憶を消しているのだ。今のボブロには誰かに操られた。しかし顔も名前も思い出せない。今までの行動さえも思い出せないのだ。
「話は以上です、ボブロ様」
「や、やめろ!やめてくれぇぇ!!」
ボブロはみっともなく懇願し続けるがバルド王子は何の躊躇いもなく剣を突き刺す。
ボブロは身体を貫く痛みに絶叫をあげるがバルド王子は容赦無く剣を引き抜き再度突き刺す。またも絶叫するボブロ。そんなことが何回も繰り返されボブロの悲鳴も次第に小さくなり、聞こえなくなった。
白夜は遺体となったボブロの顔を見る。
そこには痛みと絶望に彩られた悲痛な表情が刻まれていた。
白夜はその顔を観察する。
「………………」
「おや?貴方も死が怖くなったのですか?安心してください。痛みもなく殺して差し上げますよ」
白夜がボブロの死刑を見て顔を下に俯かせたのを怖がっていると勘違いしているバルド王子は白夜に優しく囁きかける。
それは見当違いも甚だしい。なぜなら
「………クククク、アハハハハハッ‼︎‼︎」
白夜は笑っていた。心の底からまるでおもちゃで遊んだ少年のように。
白夜はひとしきり笑うとバルド王子を見る。
「なぁ、1つ聞きたいんだけどいいか?」
「何かな?」
「水川 時雨って知ってるか?」
「水川 時雨?……ああ!その人なら僕が命じて保護しているよ。なんでも神々が治める国の住人。しかも【12神族】と婚約している方だからね」
「まぁ、君には【12神族】と言っても伝わらないだろうけどね」
白夜の質問に対して饒舌に答えるバルド王子。喋っても問題ないと判断しているのだろう。白夜は無表情をしているが心の中では驚愕していた。
「(なんで此奴が【12神族】を知っている?そもそもなんで日本以外の国があって他にも人間がいることに気づかない?それに【12神族】のトップメンバーなら余裕で外の世界に来れるはずだ。それがなぜ……)」
「今はそんなことを話す時でもないか…。それじゃ次の死刑を執行しようか」
バルド王子は神無の前に立つ。
「誰かわからないけど、手早く済まそう」
「ほう、それは有難いな」
神無は強がってそういうが手は震え、顔も青褪めている。バルド王子は死に怯えている神無を見てニヤァと汚い笑みを浮かべ神無に剣を突き刺す!
「モルグゥゥッ!!」
白夜の突然の轟音にバルド王子を含めた人間が動きを止めて白夜を見る。
見るとそこにはいつの間にか十字の木の縄から脱出している白夜の姿があった。
十字の木には何かが切ったような痕があり、誰かが魔法か何かで白夜の縄を切ったのだろう。
「【魔銃】・蟲喰!」
白夜は蟲喰を王子に連発する。
「…………へぇ、弾丸を斬るか……」
「あと少し遅れれば依頼人は死んでたけど、ギリギリだったね…」
しかし、赤髪の女が大剣で弾丸を全て斬り伏せる。白夜は蟲喰を神無の縄に撃ち解放する。
「さて、神無は予定通り俺の仲間に合流よろしく。モルグは俺と一緒にこの赤髪と王子の相手」
白夜はモルグから双剣を受け取り鞘から引き抜く。
ーー殺セ
ーー殺シテ破壊シロ
「……うるせぇ」
久々に聞く呪いに白夜はげんなりしながら双剣を構え、モルグも腰から長剣を引き抜いて構える。
「フェルミナさん、依頼を1つ増やします。私に歯向かう愚か者を殺してください」
「金は5割り増し」
「いいでしょう」
「承った!てなわけだ、アタイも本気でいかせてもらうよ!」
赤髪の女ーーフェルミナは大剣を片手で構え、獰猛に笑う。
「上等だ。お前を殺して王子を殺す」
白夜は全力で地面を蹴り、フェルミナとの距離を一気に縮める。
「終流・【紫電】」
最初から大技を繰り出す白夜。しかし
「甘いさね!」
フェルミナはその全てを大剣で弾く。白夜の顔が驚愕染まる。
「次はこっちの番だね。『大切断』」
フェルミナの上段からの振り下ろしを白夜は全力で避ける。大剣が地面に触れた瞬間、ドゴォォンと凄まじい音を立てながら地面が切断される。
「『加速』!」
白夜のスピードが跳ね上がる。白夜はフェルミナの周りを走りタイミングをずらしながら攻撃する。しかし、フェルミナは白夜の攻撃を全て叩き伏せる。
「俺を忘れるな」
声の方向はモルグだった。モルグは離れたところで剣を上段に構えている。白夜は何をする気だ?と首を傾げていたがすぐに答えはわかった。
「鎌鼬」
モルグの剣線は風の刃となってフェルミナに迫る。
「チッ」
フェルミナは跳躍して鎌鼬を躱すが、空中では回避ができない。
「魔銃・【鷹】」
白夜は即座に魔銃を生成し空中にいるフェルミナに連射する。大剣でほとんどは弾かれたが、全て防ぐことは無理だったようだ。
「女のアタイに容赦はないのかねぇ。4発も貰っちまったよ」
フェルミナの右腕、右腹部、左腹部、左足から血が流れていた。
「あんだけ撃ってそれだけしか通らなかったとか、冗談キツイっての」
「ハハハハッ、アタイを殺したかったらもう少し強くなってからにするべきさね。反省はあの世でしなぁ!」
「死ぬのはお前だ!」
両者弾丸のように突っ込んでいく。
「終流・【陽炎】!」
白夜は斬り合う直前で【陽炎】を使い、横に流れながら斬ろうするが、簡単に剣を上に弾かれ白夜はの身体は無防備になる。
フェルミナがそれを見逃してくれるはずもなく、大剣で斬られそうになるがフェルミナはそこから一気に後ろに跳躍する。
フェルミナが跳躍して鎌鼬が通り過ぎる。
「あと少しだったのだがな」
「今回の依頼は当たりだね。こんないい感じの獲物と殺しあうなんて滅多にないさね」
フェルミナは笑うと大剣を両手で構える。
「こっからはアタイも本気で行く。簡単に死ぬんじゃないよ!」
白夜は空気が変わったフェルミナに警戒しながらモルグを見る。モルグもフェルミナの変化に厳しい顔をしている。
そして、その警戒は正しいとフェルミナが行動で示す。
「【野獣の本能】!」
間に合ってよかった!
次回も土曜日に更新しますのでよろしくです!