復讐の一夜・6
ホント予定通りいかなくてすみませんm(._.)m
「終流・閃光!」
魔夜の魔杖がテトに襲いかかる。テトは危なげなく避けながら拳を放つ。
魔夜は突き出した魔杖を引き戻して拳を受け止める。テトはそのまま連続で拳を振るう。魔夜は回避に専念する。
少しの間テトの攻撃を避け続けた魔夜は氷の槍を生み出しテトにぶつける。テトは避けきれずに攻撃を中断する。その隙に魔夜は後方に飛び、距離をとる。
「いい加減諦めてくれないかなぁ〜?」
テトは魔夜に苛立ちながら諦めるよう促す。
魔夜は無視して魔法を放つ。
先程より2回りも大きい氷の槍がテトに放たれる。
「『消去』」
しかし突き出した右手に触れた瞬間消えてしまった。
「だから無駄って言ってるのに、なんで諦めないかなぁ〜?」
テトは魔夜が無駄に魔法を使ってくることに苛つきながら再度敗北を認めるよう促す。
それに対して魔夜は初めて反応を見せる。
「諦める、ね……」
魔夜は顔を俯けながらテトの言葉を呟く。その態度にテトは諦める気だと機嫌を直し魔夜に話しかける。
「諦めた方がいいって!無駄に痛いのなんて嫌でしょ?大丈夫!君は俺がずぅぅっと可愛がってあげるからさ!」
魔夜の人生を、魔夜達の人生を歪めた張本人であるテトは魔夜に優しく語りかける。その内容も胸糞悪くなるような言葉だが。
魔夜はテトの言葉を聞き流しながら考える。テトをどのように殺すか、苦しめるか、恐怖させるか、貶めるか、辱めるか、絶望させるか……。
魔夜は戦闘中もそれしか考えていなかった。
身体を侵食するような憎しみが、憎悪がそれ以外考えることを許さなかった。
魔夜は俯けていた顔をあげる。その表情は
「フフ……」
笑っていた。眼は狂気を宿し、雰囲気もいつもの冷静なものではなく、その身に纏う『憎悪』を目の前の男にぶつける『復讐者』に魔夜は変貌していた。
「貴方の名前……何だったかしら?」
魔夜の言葉にテトは白夜とのやりとりを思い出し少し苛つきながらも答える。
「テトだよ。全く、覚えといてよね。これから君のご主人様なんだから」
テトは魔夜の様子に気づかない。その頭には魔夜との今夜しか考えていなかった。
その油断、慢心、傲慢が命取りだった。
「魔銃・【虚無】」
パンッ
「…………は?」
テトに放たれた弾丸は腹部を貫通していた。
テトは突然のことに呆然とする。
「ククク……アハハハハッ!!」
魔夜の笑い声が木霊する。テトは腹部の傷を治すことも忘れその場に膝をつく。
魔夜はそんなテトを嘲笑う。
「ねぇ、何故私の弾丸が貴方を貫いたのか、知りたい?」
「ど……どういう」
「答えは簡単。貴方の魔法を無効化したから」
白夜はテトの圧倒的な身体能力はスキルだと考えたが、魔夜は違った。強化系の魔法と確信していた。それは白夜の言っていた「あいつは弱い」「鑑定石が使えなかった」この2つの情報と白夜が実際に戦った感想をまとめて魔法と断定した。
そもそもスキルを多く所持する人間は限られている。それに『硬化』と『加速』のスキルは会得しようとすればかなりの修練が必要になる。それを白夜が雑魚と断定した人間が手に入れることができるだろうか?
「貴方、魔法で私に勝てると思ったの?」
魔夜は魔導学園でズバ抜けた成績を修めた魔術師。その魔夜に匹敵する魔術師は少ないだろう。
「………調子にのるなよ餓鬼が」
テトは腹部の傷を『消去』して立ち上がる。その眼には先程とは違う、覚悟を決めた眼差しで魔夜を睨みつける。
「俺の魔法を見抜いたことは褒めてやる。だが、これでお前に勝ち目はなくなった」
「あら、面白いことを言いますね」
魔夜は小馬鹿にしながらテトを挑発する。テトはそれに対し何の反応も示さず魔力を高める。
魔夜は挑発に乗ってこなかったのが不満なのか残念な顔をしながら魔力を高めるテトを眺める。
「今のうちに攻撃はしないのか?」
テトは眺めるだけの魔夜に不思議そうな顔をしながら問いかける。
「絶望に落として殺す。それが復讐」
魔夜はそれだけ答えると魔銃を消して魔杖に魔力を流し込む。
テトはその間にも魔力を高め続け、遂に溜まり終わった。
「俺の魔法を、俺の力を思い知れ!全てを蹂躙し、破壊の鉄槌を!『流星群』!!」
テトから膨大な魔力が溢れる。しかし、何も起きない。観客席がざわざわと騒ぐ。
「…………チッ」
魔夜は舌打ちをしながら迎撃の魔法を準備する。しばらくの間、闘技場はあの魔法は何だ?不発か?と騒がしかった。
しかし、その集団の1人の言葉で闘技場は再び静かになる。
「そ、空から……」
その言葉に観客全員が上を見上げる。晴天の中、なにか点のようなものが見える。それは時間が経つにつれ大きくなっていく。
観客は気づいた。そして
『に、逃げろぉぉぉぉ!!!』
そこから一目散に逃げようと入り口に殺到する。なぜなら、その点は1つではなく無数にあったからだ。全部で30はあるであろう点、『流星群』はどんどん迫ってきている。
観客達は全員逃げ出し、今この場には魔夜とテト。そして観客席に紛れていた時雨がいた。
魔夜が大量の水を空間魔法で出現させ時雨に『液体操作』でコントロールしてもらっていたのだ。時雨はいざという時、魔夜を逃がす手伝いをするために一緒にいると聞かなかったので魔夜が観客席に紛れるよう提案したのだ。
「……………」
魔夜は瞑目し、あの日の出来事を回想していた。何もできず殺された両親。汚された身体、心、尊厳。明るい未来を壊され、復讐の道を歩まされた理不尽な出来事。
魔夜は眼を開ける。
「不倶戴天」
魔夜のステータスが跳ね上がる。
「暗黒魔法・『不可侵領域』」
魔夜の暗黒魔法により闘技場は黒い結界に包まれる。
「お、お前!それをどこで知った⁉︎その魔法は魔人の魔法だぞ!」
テトは魔夜の魔法が魔人の魔法と看破する。
魔夜は笑うだけで何も答えず『不可侵領域』の維持に集中する。
テトはその間に魔夜を攻撃して解除しようとするが
「次は負けない」
「お前はぁぁ……!」
テトの前に立ち塞がる時雨。その手には先程テトを貫通した魔銃・『虚無』と呪刀・怨念を持ち構える。
テトは一瞬で時雨に詰め寄り殴り飛ばそうとするが、『液体操作』で呪刀を形状変化させ血の盾で防ぐ。パパンッと2発テトの右足に撃ち込み態勢を崩したテトを蹴り飛ばす。
そして凄まじい轟音を立てながらテトの『流星群』が衝突する。立て続けにぶつかり続ける『流星群』だが、魔夜の『不可侵領域』はビクともしない。テトはその間にも攻撃を続けるが時雨がそれを阻む。
そして、テトの放った『流星群』は全て防がれ、遂にテトは追い詰められてしまった。
「クソッ、クソッ!」
テトは悪態をつきながら魔夜に攻撃しようとするが、時雨が尽く阻む。時雨達と相対した時の冷静さがあれば突破口を見つけることはできたかもしれないが、焦燥と怒りで動いている時雨を退かせることはできない。
魔夜は時雨とテトに視線を向ける。
時雨は魔夜の視線に気づき、テトから距離をとり魔夜の背後に回る。
テトも魔夜がこちらを見ていることに気づき血走った目で睨みつける。
「さて、貴方の魔力はどれくらい残っているのかしら?」
「………………」
テトは何も答えない。何故ならテトの魔力残存量は残りカスのようなものだったからだ。
まだ白夜が『硬化』『加速』と勘違いした魔法、『星の鎧』と『星の煌き』は維持できるが長くは持たない。
『消去』も何回か使えるがジリ貧だとテトは理解していた。
ゆえにテトは決断した。
テトは爆発的な加速で魔夜達との距離を縮める。魔夜は迎え撃つ構えを取り、近づいてきたテトに魔杖を突き刺す。テトは痛みに唸るが、御構い無しにそのまま前進する。
「まさかっ!」
魔夜はテトの狙いに気づく。
テトの視線の先、そこには時雨がいた。テトとの戦闘でボロボロになりながらも魔夜の時間稼ぎをしていた時雨にはテトと相対する体力はない。
魔夜はテトの狙いに気づき時雨を守ろうとするが、それよりも早くテトが辿り着く。
だが、魔夜の顔は歓喜に染まっていた。
「終わりね」
魔夜は空間転移で時雨の前に現れ、あらかじめ準備していた魔銃・【虚無】でテトの両手両足を撃ち抜く。地面に倒れるテトの腹部に魔杖を突き刺す。
ちなみにこの魔杖、スキルを阻害する能力がありある条件下で発動する。
「……っ!スキルが!」
相手に刺さった状態と大分使い勝手の悪い代物だった。だが、これによりテトはなすすべもなく勝負は決着した。
次回で『復讐の一夜』は最後となります!
その次から白夜と極夜がメインのお話に変わります。………え?グロスの娘はどうなったかって?
………………(´・_・`)