復讐の一夜・5
今週は3連休なので明日と明後日も投稿します!
闘技場は四方を高いコンクリートの壁で囲まれている円形の会場だ。入り口は2箇所あり、その他にはない。
闘技場に入ると壮大なファンファーレが鳴る。観客席も待ってましたと言わんばかりの大歓声を上げ、早く試合を始めろなどの野次が飛び交う。
魔夜はそれらを流し闘技場の中央に立つ男、テトに視線を集中させていた。
あの夜と変わらない姿に魔夜の心が憎悪で溢れる。それを悟らせないよう魔夜は無表情で歩き、テトの目前まで行く。
2人は向かい合うと歓声は収まり、同時にテトが一枚の羊皮紙を魔夜に手渡す。
「『死の制約』。それに名前を書いて契約内容を言えば契約成立だからねぇ〜」
「知っているわ」
魔夜は人差し指にテトが持ってきていた針で指に軽く刺し、そこから出る血で名前を書く。すると羊皮紙は紅く光り、テトと魔夜は契約内容を述べる。
「舐めた真似をしてくれた白髪の餓鬼と金髪の男には死を。この女は絶対服従を俺に捧げる」
「私達兄弟の拷問を余すことなく受け入れ、最後に無慈悲な死をこの男に与える」
「「『死の制約』」」
最後に魔夜とテトの言葉が重なり、紅く光っていた羊皮紙は弾けて霧散し宙に溶け込むように消えた。
魔夜とテトは背を向けて少しの距離をとる。
しばらくの間、静寂が支配する。
そして、
「試合、始めぇぇっ!!!」
審判の男の合図により、魔夜とテトの殺し合いが始まった。
先手は魔夜だった。
魔夜は『重力』でテトを潰そうとするが、テトは『消去』で打ち消す。
魔夜は消されても動じずに『瞬間移動』を使いテトの背後に周り、『魔杖』で突き刺す。
「聞いてなかったのぉ〜?」
しかしテトには突き刺さらない。テトは裏拳で魔夜に反撃に転じ、魔夜は『魔杖』で防ぐがその後にくる右の蹴りをギリギリ受けるが、身体が宙に浮きそのまま蹴り飛ばされる。魔夜は闘技場の壁に激突し軽く吐血するが倒れない。
「いやぁ〜、それにしても君自ら俺の相手をしてくれるなんて嬉しいなぁ〜。そんなに俺のことが好きなのかな?」
テトは魔夜に向かって歩きながら話かける。その内容を聞いて魔夜は不機嫌な表情を浮かべるが答えない。
テトは無視されたことに苛つき、舌打ちをする。
「死ね」
魔夜はまた『瞬間移動』でテトの背後に周り込み『魔杖』に体重を込めて刺そうとするが、僅かに血を流させることしかできなかった。
「だからさぁ〜」
テトは『魔杖』を掴み
「無意味だって言ってるだろ!!」
思い切りぶん投げる。しかし、ガスッと鈍い音がして飛ばされたのはテトの方だった。
テトは前のめりに飛ばされて地面を転がる。その原因である魔夜を見ると、『魔杖』を全力スイングした状態だった。
魔夜はこちらを見るテトを確認すると
「………ぷっ」
嘲笑った。その表情は相手を全力で馬鹿にしていた。
「お前ぇぇ!俺を笑うなぁぁぁ!!」
当然、煽り耐性の低いテトは耐えきれずに叫ぶ。魔夜は表情を引き締め、突撃してくるテトに無数の魔法を放つ。
テトは視界一杯に広がる魔法を見ても顔色一つ変えずに魔夜に突撃する。
魔夜の魔法がテトにぶつかっていく。しかし、迫る速度が遅くなるだけでまるで効いていない。
魔夜はそれでも放ち続ける。
「無意味だって……、分かれよ!」
テトは鬱陶しくなったのか、地面に拳を叩きつけ衝撃波で魔法を打ち消す。
魔夜はその衝撃で地面が揺れてバランスを崩し魔法を一瞬停止する。
その一瞬でテトは地面にクレーターを作りながら魔夜に接近する。
魔夜は慌てて逃げようとするが、焦って尻餅をついてしまう。魔夜は顔を青褪める。
テトは勝利を確信した表情で魔夜に飛び蹴りを放つ。魔夜は眼前に迫るテトの蹴りをまともに受ける。
魔夜はまたも吹き飛び、壁に激突する。
「全く、これで終わりだろ。審判さん、宣言よろしく」
テトは審判の男に試合を終わらせるよう促すが、それは早計というものだった。
「舐めてくれたものね」
その声は審判から発せられた。テトは怪訝な顔をするが、空を覆うように現れた巨大な魔法陣にそれどころではなくなった。
「何が………!」
魔法陣が輝き、大量の水が闘技場に降りかかる。テトは逃げ場を探すがどこにもなく水の濁流に飲まれる。
テトは大量の水に掻き回されながらもなんとか脱出しようとするが、意思を持っているかのように水が荒れに荒れ、それでもなんとかして壁に張り付く。水は闘技場の高い壁の半分ほどまで満たされていた。
「ゲホッゲホッ……クソがぁぁっ!」
「フフフフ、楽しんでもらえたみたいね」
魔夜は必死に壁にしがみついて耐えているテトを笑って見ていた。魔夜はテトの蹴りが直撃する寸前、審判の男と空間魔法で入れ替わり、自分と審判に幻術をかけてテトを嵌めたのだ。
魔夜は少し時間のかかる魔法の準備を始める。
テトはその間も脱出しようとするが、水が荒れすぎて身動きできなかった。
そして、魔夜の魔法が完成した。
「『稲妻』」
魔夜は雷をテトに落とす。
テトに雷が直撃、水も感電しテトに延々と苦しみを与える。
しばらくして電流も収まり、テトはプスプスと身体を焦がしながらも魔夜を睨みつける。
「あら、しぶといわね」
魔夜はテトのしぶとさに舌打ちをする。
「『消去』」
テトはスキルで傷と大量の水を『消去』する。一瞬で傷と水が消された魔夜はうんざりした表情を見せながら闘技場に『瞬間移動』する。
2人の睨み合いは一瞬、そして第二ラウンドが始まった。
次の更新は明日の昼ごろにします!




