襲撃
魔夜が激怒です!
大勢の人間がアルノ教会に集まっていた。数にして約500人くらいの人間が来ていた。
ボブロはそれを確認するとほくそ笑んだ。
ボブロはあの娘を手に入れることで女と力を手中に納めたのだ。
ボブロはただ美しかったから手に入れたのではない。その称号が最も眼を引いたものと言ってもいい。その称号とはーー
「ボブロ様、お時間です」
ボブロは思考を中断すると、男の言葉に頷き式場のドアを開け歩いていく。
同時に新郎であるボブロに無数の拍手が送られる。ボブロは満足気な顔で堂々と歩く。
神父の前に着くと一旦拍手は収まり、ボブロが口を開く。
「諸君、よく集まってくれた。礼を言おう」
ボブロはここで頭を下げる。
「さて、知らぬ者はいないと思うが婚約者は獣人だ」
この言葉に広間はざわつく。しかしボブロが手を挙げると一瞬で静まる。
「私は思うのだよ。元々獣人達は人間の実験で作られたのだ。ならば同じ扱いをしてやるのが慈悲ではないかね?」
ボブロは慈愛に満ちた顔で切々と訴える。
その顔と言葉に集まっていた人達も共感し、ボブロに尊敬の眼差しが集まる。なんて慈悲深く、博愛に満ちた人なのだろうと。
ボブロはその光景を見て嘲笑う。操りやすい愚民共がと。
ボブロは共感してありがとうとでも言うように頷き、話を続ける。
「わかってくれてありがとう。今日集まってくれた君達は非常に優れた人達だ。心が狭い人間にはとても受け入れることができず、獣人達を拒絶してしまう。それに比べ君達はとても勇敢だ。本当にありがとう」
ボブロは言い終わると再度頭を下げる。
そして花嫁入場の為の演奏が始まる。
ボブロは頭を上げ、花嫁がくるドアを見る。
ガチャ
ドアが開く。出てきたのは純白の衣装に身を包んだ獣人の花嫁ーー
「……貴様は誰だっ⁉︎」
ーー獣人の花嫁、ではなく黒の服に身を包む魔夜だった。
「御機嫌よう、クズ共」
魔夜は口を開くと毒を吐いた。満面の笑みだ。
「誰かこの無礼者を捕らえよ!」
ボブロは即座に捕縛の命令を出し、数人の男達が魔夜を抑えるため向かう。魔夜はそれを見て更に笑みを深める。
「私に近づくな下衆が」
魔夜の言葉と同時、男達は足を止める。
その様子に苛ついたボブロが声を荒げる。
「オイ!さっさと捕らえよ!」
男達は微動だにしない。そして、
ーーズルッ、ブシャァァッ
男達の身体がズレ落ち、鮮血が飛散する。
静寂が場を支配する。
カタッ
誰かが椅子に足をぶつける。次の瞬間、咳が切れたように悲鳴が飛び交いパニックに陥る。我先にとドアに走る招待客の集団。
その混沌とした中立ち止まる人影が3つ。
先程挑発的な態度をとった魔夜。赤髪の長身で自身に満ちた顔を張り付けた極夜。白髪で極夜より少し低い男は殺気を放ち、爛々と瞳を濁らせているのは白夜。
魔夜達は並んで立ち、ボブロを睨みつける。
「貴様等、我輩の花嫁をどこにやった!」
ボブロは目線は魔夜達に向けながら手首に隠してあったスイッチを押し護衛を呼ぶ。
ボブロは時間稼ぎのため、さらに叫ぶ。
「なぜこのようなことをする⁉︎貴様等の目的はなんだ⁉︎」
魔夜はこの言葉に笑みを浮かべて言った。
「私の望みはゴミが無様に死ぬこと」
これにボブロは我慢できず怒鳴り返す。
「ゴミ⁉︎ゴミだと⁉︎貴様等のような卑しい庶民如きが我輩をゴミ呼ばわりするなど、貴様等の方こそゴミだ!」
「キモい、喋るな汚物」
「お、汚物っ⁉︎」
魔夜は息を吐くように毒を吐く。ボブロは怒り心頭で言葉を止めてしまう。
「汚物、貴様が喋るだけで空気が汚れる。口を開くな息をするな言語を発するなさっさと死ね。貴様のようなカスが生きているだけで気分が悪くなる。貴様は生きている価値がないと気づけ低脳豚野郎」
魔夜は辛辣な言葉をボブロに浴びせる。
ボブロの顔は真っ赤に染まり、激怒しているのは一目瞭然だった。そこにボブロの護衛が到着したことを伝える合図が来た。ボブロはニヤァァと気味の悪い笑みを浮かべると魔夜に提案を持ちかける。
「ふん、貴様に懺悔の「死ねゴミが」チャンスを」
魔夜が言葉を遮りながら魔法を放つ。魔夜から放たれた氷の魔法は鋭利な無数の槍となりボブロに殺到する。そこにギリギリで護衛の男達20人が現れ魔夜の魔法を弾く。
「き、貴様……貴様ぁぁぁぁっ‼︎」
「ピーピー喚くな豚野郎」
普段の言葉遣いはどこへ行った?と疑いたくなるような言葉遣いをしながら魔夜は罵倒し続ける。ボブロは大声で護衛に命じる。
「あの女を殺せぇぇぇぇっ‼︎」
男達は一斉に動き出す。魔夜達はその場に留まり、男達が近づくのを見ている。男達が疾走し、至近距離に近づいてやっと動いた。
「『ブラックホール』」
魔夜の魔法、『ブラックホール』により男達は吸い込まれていく。至近距離にいた男達は一気に吸い込まれて潰れ、血を撒き散らしながら原型をとどめないほど破壊された肉塊を残す。少し遅れて来た男達はなんとか吸い込まれずに済んだが、一気に10人近くの男達が死んだ。魔夜の魔法から逃れて安堵する男達。その油断が命取りだった。
白夜と極夜は残りの男達の命を剣で刈り取る。油断していたのと白夜達との実力差によりさらに数を減らす護衛の男達。
1分後、白夜達によって残りの護衛は全て殺された。
「バ、バカな…」
ボブロは呆然とこの光景を眺める。人数は6倍以上だった。しかも相手は生意気なクソガキだ。なのになぜ負ける?
ボブロはそんなことを考えながら打開策を思考する。白夜達はボブロに歩み寄る。しかし、運はボブロを味方した。
ガチャ、ドドドドド……
大勢の武装したボブロの傭兵達が入ってくる。数にして2、300人といったところだ。
「1000人もいねーな」
白夜は少しガッカリといった様子で呟く。
「強者もいないとは。雑魚の集まりだ」
極夜は白けたといった表情で酷評する。
「どうでもいいわ。全員殺すから」
魔夜の言葉と同時に白夜達は動き出す。白夜が魔銃『喰炎』を作り出す。
その間にボブロの傭兵達は白夜達に殺到する。極夜が『炎帝』の炎で、魔夜は氷の魔法で対処していく。しばらくして白夜の魔銃が完成する。
「時雨!夢!」
「「いっけぇぇっ‼︎」」
天井付近から時雨が油を『水操作』で操り傭兵達にぶちまけ、夢は時雨を抱えて男達の攻撃を回避するように飛ぶ。
この間に魔夜と極夜は『喰炎』に炎を充填していく。男達は白夜達に剣や槍などで攻撃するが、その全てを夢の結界に弾かれる。
「白夜、終わったわ」
魔夜から充填の完了が知らされる。白夜は『喰炎』を掴み、引き金を引く。
夥しい炎が銃口から溢れ出す。炎の勢いは衰えず、延々と出続ける。白夜はそのまま回転をして傭兵達を消し炭にしていく。
しばらくして炎は消えた。生き残っているのはボブロと護衛の男2人、傭兵7人だけだった。
「あの護衛2人は少し強いな。誰が殺る?」
白夜は魔夜と極夜に聞く。極夜が一方出て、自分が殺ると主張する。
魔夜と白夜は頷き、それぞれ武器を抜く。
「ボブロはまだ殺すなよ。行くぞ」
白夜は双剣で傭兵達に斬りかかる。傭兵達も反撃しようとするが、白夜の『加速』についていけず一瞬で3人が斬り伏せられる。
「オラァァッ‼︎」
傭兵達の中でも強い男は白夜に剣撃を浴びせる。白夜は双剣で受け止め、『宿雷』を使い双剣から伝って男に電流が流れる。
一瞬固まった男は白夜に滅多斬りにされ絶命する。残った3人の傭兵達は逃げ出そうとするが
「『重力』」
「「「ッッッッ⁉︎」」」
魔夜の『重力』により地面に這い蹲る。
魔夜はさらに『重力』の質量を上げる。ミシミシと傭兵達の身体は潰れていき、遂に
ブチュン
潰れてただの肉塊となってしまった。これで300人近くいた傭兵達は一瞬で消えてしまった。
一方、極夜の戦闘は依然続いていた。
「ハッ!」
気合いの声とともに繰り出される護衛の男の蹴りを極夜は左手の剣で防ぐ。極夜は右手の剣で斬りかかろうとするがもう1人の護衛の男の銃撃によって回避する。
極夜は攻撃ができない状況に苛立っていた。
蹴りを主体とする男の攻撃を防ぎ、反撃に転じようとしたところにもう1人の銃撃が迫ってくるため回避行動を取るしかない。こんなことが何度も繰り返されていた。
「ハッ!」
再び蹴りが極夜を襲う。
「『炎帝の逆鱗』!」
極夜を中心に炎の柱が出現し離れたところにいた男は回避できたが、極夜に蹴りを放とうとしていた男は炎の柱に直撃した。
プスプスと全身を焦がして倒れた。
「この野郎‼︎」
残った護衛の男が地面に手をつく。すると魔法陣が浮かび上がりそこから黒い毛と赤い眼をした体長5メートルはある狼の『魔獣』が現れた。『魔獣』は唸り声をあげながら極夜に襲いかかる。
極夜は向かってきた『魔獣』を見て、冷めた眼を向ける。
「『炎帝・圧殺』」
極夜から『炎帝』の焔の腕が『魔獣』を鷲掴みにする。『魔獣』は逃げようともがくが逃げることができず悲鳴を上げる。
極夜は腕を『魔獣』に向けながら開かれた掌を握る。同時に『魔獣』を鷲掴みにしていた『炎帝』の腕も握り潰され『魔獣』は消えた。一片の肉すら残さずに。
当然、護衛の男は堪ったものではない。
「バ、バカな!俺の『魔獣』が……」
狼狽する男に極夜は剣を向けながら最期の一言を告げる。
「余に相対した時点で貴様の死は確定している。悔やむ事なく逝け」
極夜の剣で護衛の男の首が斬り飛ばされる。
これでボブロを除く敵は全て白夜達によって殺された。
ボブロは慌てふためく。あんなにもいた護衛と傭兵が全て殺されたのだ。
ボブロは生き残ろうと白夜達に頭を下げ媚びる。
「ど、どうか命だけは!なんでも、なんでも言う事を聞く‼︎金も好きなだけくれてやろう!それとも女か?女でもいくらでも準備してやろう!ん?違うか?そうか、貴族になりたいんだな‼︎我輩が口添えをして「黙れゴミが」『ボキッ』ギャァァァッ⁉︎」
みっともなく媚びるボブロに魔夜が苛々して右足の骨を思い切り踏みつけて折る。
魔夜はボブロの頭を踏み締めながら獣人の娘の場所を聞き出す。
「どこにいる?」
ボブロは血と鼻水で顔を汚しながらも答える。
「い、衣装室にいるはずです…。軽い催眠薬を飲ませるために眠らせていたので……」
ボブロの言葉に魔夜の眦が吊り上がる。そして残った左足も踏み折る。
「ガッ、ア゛ア゛ア゛ッ!」
魔夜はボブロの絶叫を無視し、外で待機させていたハデスとタナトスに携帯で連絡を取り救出に向かわせる。念のため時雨と夢にもついていくよう頼んで行ってもらった。
それが済むと白夜達はボブロから情報を聞き出すため椅子に縛り付け尋問を始める。
「今からいくつか質問するわ。嘘を吐けば骨を折るか手足を切断する。いいわね?」
「わ、わかりました……」
ボブロは顔を青褪めながら了解の返事をする。魔夜は頷くと質問を開始した。
・何故獣人を襲った?
→奴隷として高く売れるため。
・獣人の娘と結婚しようとしたのは?
→一番の理由はスキルが強力だった。遠くない日に国王が死ぬので少しでも役に立つ実績をつくり権力を手に入れるため。そして娘が美しく自身が楽しむため
・お前の今までの不正の証拠はどこにある?
→自宅の地下倉庫の床の隠し倉庫。
・この国に神はいるか?またどんな神だ?
→いるが、現れるのは時々だと聞いた。オリンポス12神。
・ハデスを知っているか?
→世界の敵。ここの国だけでなく全ての国が共通してこの考えを幼少より教えられる。
魔夜は聞き終えると白夜に交代する。
「さてと、聞きたい事はもうない」
「な、なら!」
ボブロは助けてくれと視線で訴える。白夜は優しい笑顔を浮かべて答える。
「ああ、俺はお前を助けよう。ただあいつらがどうするかは知らないがな」
「あいつら?」
ボブロは白夜の言葉に訝しげな表情をする?
白夜の言葉が理解できないボブロは混乱しながら白夜に質問の意図を聞こうとするが
「呼ばれたから来たが、本当にあの豚はいるのか?」
ーーそれよりも早く獣人の長・グロスが式場にやってきた。
グロスがボブロに何をするか楽しみです!
次回の更新は今週中にしますのでよろしくです!




