#5〜それぞれの戦況〜
ユウトは周りの状況をざっと見た。
今ユウトは敵の中心で2メートルを超える4体の魔物に囲まれていた。
その内の2体は剣を持っていた。
「さぁ、どうしたもんかな」
そう言うユウトにはこの危険な状況を楽しむ余裕がある様だった。
口元には余裕の笑みを浮かべ片手で短剣を弄んでいた。
そのユウトの態度が魔物を怒らせたのか、剣を持った魔物が雄叫びと共にユウトに飛びかかり、剣を振り下した。
しかし、その剣は空を切り地面へ突き刺さる。
一瞬でユウトを見失った魔物は辺りを見渡す。
「ここだよ、お間抜けさん」
その声は飛びかかった魔物の下からした。
魔物が慌てて下を見ると、自分の足元にしゃがみ込んでいるユウトがいた。
「まったくしゃがんだだけで見失なうとか魔物の目は節穴なのか?」
そんな事を言われ、とっさに魔物は剣を足元のユウトに突きたてようと腕を振り上げようとした。
しかし腕に力がはいらない。
自分の腕を見た魔物は愕然とした。
魔物の腕は肩の付け根から切断され、地面に突き立った剣にぶら下がっていたのだ。
魔物はいつの間に、と思ったが体の動きは早く、左腕を真下に振り下ろした。
「おせえよ」
だが、その左腕も切断されて空中へ舞う。
中を舞う左腕を愕然と見ていた魔物は次の瞬間視界がずれていくのを感じた
何を…と思った瞬間魔物の体は真っ二つに裂かれ地面へと転がった。
いつ動いたか分からない程に素早く動いたユウトに周りの魔物がたじろいでいると。
「おいおい、まだこっちは能力も使ってないんだぜ?まさか全員こんな間抜けじゃあないよな」
そう言って魔物の死体を踏みつけ挑発してくるユウトに恐怖で我を忘れた3体の魔物がユウトに飛び掛る。
「ハァ、本当に学習しない馬鹿共だな」
そう言ってユウトは短剣を一閃する。
すると剣を振り下ろしてきた魔物の首と体が分裂した。
次にユウトは振り下ろされた勢いをそのままに飛んできた魔物の剣を掴むと近くにいた1体に突き刺す。
最後に後ろに迫っていた1体に回し蹴りをし、よろけたところに短剣を振る。
ものの10秒もしない内に3体の魔物が倒れ、残り7体の魔物が唖然としているのを見てユウトは楽勝だな、と思っていたが、ふと疑問が浮かび魔物達を見た。
「7体…最初は20体くらいいたはずだぞ。どこいったんだ?」
そう言ってユウトは残りの魔物達を探す。
「いた!あいつらどこに行こうと…」
しているんだ?と言葉を繋げようとしたユウトはその魔物達が向かっている場所を見て固まった。
魔物達は中心に広がるアリスの魔法で出来たクレーターを通り、今まさにメグミとアリスが戦っている場所へと向かっていた。
「くそ!馬鹿ばかりだと思ってたが頭のいい奴がいるのかもな」
そう言ってアリス達の所へ行こうとしたユウトの前に残りの7体が立ちふさがった。
「おいおい7体だけで俺を止めるきか?死ぬぞ」
そう言ったユウトはしかし内心焦っていた。
こいつら7体を相手に負ける気はしない。
だがこれだけいると時間がかかるし、何より目の前にいる魔物達はユウトを向こうに行かせないために完全に防御に回るはず。
そしたら尚更時間がかかり、クレーターにいる魔物が向こうの魔物達と合流、40体近くの敵をアリスとメグミで相手にする事になる…
そこまで考えたユウトは
「考えてる時間が勿体無い。とりあえず急がないと2人がやばいって事だな」
言いながらユウトは短剣を右手に持ち魔物達の方に向けて。
「最後にもう一度言うぞ。本当に7体で止めるつもりか?死にたくなかったらどいたほうがいいぜ?」
しかし魔物達は動かない。
目の前で仲間が殺され、コケにされたのだから今更逃げるなんてプライドの低い奴はいないのだろう。
「じゃあ仕方ないな…ちょっとだけ使うか」
ユウトは右手でしっかりと短剣を掴むと右腕に力入れる。
するとユウトの右腕に黒いオーラに覆われ始めた。
「警告はしたからな…」
そう言ってユウトは右腕を横に振り払った。
すると黒いオーラがはけその正体が明らかになる。
次の瞬間、その場に血の花が咲き乱れた…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ユウトを止めていた魔物達が死ぬ前に見た光景は、この世のものとは思えない残虐な光景だった。
魔物達の体は切り裂かれ、皆地面に倒れていた。
なんなんだあれは…
魔物は自分の命が消えるまで考え続けた。
自分を殺した悪魔の様な姿をした正体を…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「よし。片付いたな」
そう言ってユウトは能力を解除した。
「何回使ってもいい気分にはならないな、この能力は…」
そう言いながらユウトはあの魔物達を切り裂いた自分の右腕を見つめる。
黒いオーラは無くなっていたが、魔物の返り血で真っ赤に染まっていた。
「そういえば…同じ様な光景を見る事がこの世界に来てから増えたな…」
しばらくユウトは腕を見たまま、この世界に来てから今日までに何体の魔物を倒し、何回魔物の血を浴びたかを考えた。
まだこの世界に来て半年だが、その数は少なくない。
元の世界に帰るためには必要な事たが、なれるもんじゃないな…
そこまで考えてユウトは顔を上げた。
「今はそんなことを気にしている暇じゃないな。さっさとアリス達の方に行った奴らに追いつかないと、合流されるとアリスにどやされるからな…」
そう言ってユウトは魔物の後を追って走り出した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「やぁぁぁぁぁぁあ!」
メグミの裂帛の気合いと共に振り下ろされた剣は、魔物の胴体を切り裂き地面へとねじ伏せた。
メグミが戦闘を開始してから1分。
メグミは3体の魔物を倒していた。
自分自身もここまで強くなっているとは思はなかった。
精々互角くらいの力が出せれば良いと思っていたが、これは予想以上。
相手の攻撃を難なく避け、一瞬で肉薄し、切る。
「こんな事、いつもの私じゃ出来ないわね…」
と独り言を言いつつもまた魔物の攻撃を避け切り捨てる。
今のメグミには恐怖など微塵もなかった。
あるのは、今なら倒せるという高揚感と今まで手も足も出なかった魔物相手に自分が圧倒しているという興奮だけだった。
「かかってきなさいよ化け物共。全員切り倒してやるんだから!」
いつもならこんな物騒な事は言わないメグミだが、興奮が抑えきれないのかそんな事を口走る。
それを聞いて逆上した魔物が攻撃を仕掛けるがメグミは凄まじい速さで剣を動かし返り討ちにする。
さらに3体の魔物が同時にメグミに飛びかかるが
「束になって来ても無駄!」
そう言ってメグミは剣を素早く横薙ぎに振る。
あまりの素早さに剣から衝撃波が生まれ魔物の体勢を崩した。
メグミは瞬時に1体の魔物に肉薄し切る。
そして残りの2体にも接近し切り倒した。
「アリスちゃんには悪いけど、撤退用の魔法はいらないみたいね。これじゃあ5分経つ前に終わっちゃうわ」
しかし、余裕な態度で言い放つメグミは冷静な判断力がなくなっていた。
あまりにも魔法の効果がすごく、その力に振り回されていた。
だから少しばかり怪我を負っても気にせず、ただ魔物を倒すためだけに剣を振るだけ。
攻撃を避け損ね魔物の爪が頬をかする。
だが、痛みは気にせず、魔物に剣を突き刺す。
8体目の魔物を倒したメグミは自分の血と魔物の返り血で真っ赤に染まっていた。
だが、そんな事はメグミにはどうでも良かった。
(戦いたい…倒したい…切りたい…)
魔法で暴走し始めた思考はそんな凶悪な考えを生み始める。
その考えで頭の中が真っ黒に染まっていく。
そして完全に黒に染まった…その後は体が勝手に動き出す。
目の前の魔物に一瞬で近づき剣を振る。
魔物も反撃に爪をメグミの心臓部に繰り出すが、メグミは伏せて避け魔物の足元から剣を振り上げ絶命させる。
さらに5体の魔物に囲まれていたが、自ら1体の魔物に接近し切る。
その間に背中に傷を負ったが気にせずに、次の魔物に向かって剣を構えた。
戦闘開始から3分が経過した…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アリスはメグミの様子を見て苦渋の表情を浮かべた。
メグミが今陥っている状態は"間接魔力暴走病"というこの世界の人間だけが発症する病で、自分の魔力と外から入った自分以外の魔力が体内で合成され、その合成された魔力が体に馴染まずに暴走し、軽く体に痛みが生じたり、頭痛がしたりという病気である。
しかし、数分で治ることから軽い病気と見られているし、発症までには早くても30分はかかるものだ。
だが、メグミの様子はまったく違う。
病気による痛みどころか、魔物にやられた傷の痛みさへ感じていないように見れる。
それに、メグミにアリスが魔力を渡してからまだ3分ほどしかたっていない。
そこまで考えてアリスは小さく拳を握り、自分の失態を悔やんだ。
(失敗したわ…流した魔力が大きすぎのか…それとも別の病気なのか…とにかく私の知識不足だったわね)
しかし、アリスは自分の失態を悔やむよりも先にメグミの状態について考えて。
(今は一刻も早く魔物を蹴散らしてメグミさんを助けないと あのままじゃメグミさんの体がもたない)
アリスは残りの魔力を全て使い1体でも多くの魔物を倒すため、メグミが巻き込まないように離れている魔物を狙って魔法を撃とうと、両手を魔物に向け、小さな"爆裂球"を作ろうとした。
「えっ…」
アリスは一瞬自分の目を疑った。
魔法を撃とうとした魔物のさらに奥。
クレーターの穴から魔物の団体様が来ているように見えたのだ。
「………疲れてるのかしら」
アリスは一瞬沈黙した後"爆裂球"を作るのを止め、自分の目頭を摘まむ。
そしてもう一度クレーターのほうに目を向ける。
魔物の団体様がいる。
「……ユウト……しくじったわね」
アリスはもう魔法を作るの事を止めた。
もうこの状況は私には手に終えない、と匙を投げた。
「自分のお尻は自分で拭いてよね。ユウト」
そう言ってアリスは戦場を見つめる事にした。