冒険の始まり
もう一つの連載が次で終わるので新しいの書き始め。タイトルは未定です。
こっちも練習になるのかな、とりあえずどんどん作品を書いて見ようと思います。
現実世界と魔法世界。
その日が訪れたのは突然だった。別たれていた二つの世界の境界線が交わり互いの領域を干渉しあったのは。
数ヶ月前の話だ。
自分は女神だと名乗る一人の女性が世界中の空一面に映像として映し出され、人々の心に直接語りかけてきたのだった。
現実世界と魔法世界が始めて交差した日、それは後に「女神の日」と名付けられた。
「皆様、御機嫌よう、私は女神です。世界を管理している者の一人なのですが、今日は折り入ってこの世界の皆様にお願いしたい事があります。それは――」
その内容は滅びかけているもう一つの魔法世界「ファンタジア」を救って欲しいとの事だった。
話を聞く限りでは御伽噺や物語に出てくるような魔物やら魔獣が居座っており、現世とは違って人が住まい繁栄する事が難しくなっている世界らしい。
そのせいでバランスが保たれなくなっていて世界が崩壊しかけているとの事だ。
そしてこの現世が選ばれた理由は、最も魔法の適正が高く人口が多いからとの説明をされた。
「皆様には戦える力を『魔法』を授けます。どうか魔法世界をお願いします。」
そう、こうして世界が変わった一番の事と言えば化学が発展した現実世界ではあり得なかった「魔法」という物が女神から人類に与えられたのだ。
最後に女神は念を押して一つだけ言い残して消えていった。
「命を掛けて貰う心配はありません。魔法世界には魔力体になって行ってもらう為、死する事はありえません。魔法世界で傷つき魔力が切れてしまえば現世へと呼び戻されますのでご安心を。」
この言葉に最初は信用しきれず人類は恐る恐ると説明を受けた手順で魔法世界へと干渉を始めたのだ。
『魔法』と『魔法世界』の使い方と行き方は全て心に直接語りかけてきたときに把握された。
そして現在に至る――
「お兄ちゃん! 見て見て、この腕輪綺麗でしょ! 私が魔法世界で手に入れて『物質変換』の魔法でこっちに持ってきたんだぁー」
自宅のリビングで朝食を取っている兄に対してツインテールを揺らし浮き浮きとした気分で自慢げに宝石が散りばめられているブレスレットを見せびらかす愚妹の奏がいた。
「おいおい、無闇やたらにあっちの世界の物を持ち込むなよ。危ないかもしれないだろ?」
「何言ってるの、魔法世界に行った事も知りもしない癖に。ふーんだ、これ売ってお小遣いにしよーっと!」
その通りだ、俺は恐れて魔法世界なんかに行った事も無いし知りもしない。お小遣い稼ぎなんかのつもりをしてるが、うちの愚妹はさながら宝物探しでもしている感覚なのだろうか。全く、危険極まりない行為だ。
「親父、奏が魔法世界から物持ち運んでるぞ!」
「はっはっは、良いじゃないか悠。お前は知らないかもしれないが、あっちの世界の物はこっちじゃ高く売れるんだぞ? さながらうちの娘はトレジャーハンターってか!」
この妹がいあればこの父ありだ。最近じゃ怒るどころか進んで宝物探しさせてるように感じる。うちの御剣一家は馬鹿ばっかりだ。
「女神様には感謝しないとね、魔法なんて便利な物をくれたんだし。お母さんなんて『身体強化』の魔法で買い物の荷物運びが凄い楽になったんだから!」
凄い庶民的な事を言ってるが、感謝だけじゃあっちの世界は救われないっつうの。
「はぁ、まぁいいや。俺には関係無いから、ごちそうさま。部活行ってくるわ」
「あ、お兄ちゃん。今日こそ帰ってきたら一緒に魔法世界を救いに冒険に出ようよー!」
「ああ、そうだな考えとく」
適当な返事をして妹をあしらい玄関口へと行き靴を履く、傍にある荷物を取って家のドアを開け放った。
夏場ならではの強い陽射しと共に眩い光が瞳を襲う、目も開けられないような光の強さだ。
そして御剣悠は学園へと向かうのだった。
住宅街を歩いていく、数ヶ月前のあの日と何ら変わりの無い風景だが、確かに変わっていた物がある「魔法」という存在のお陰で。
会社に遅れそうなのか住宅の屋根を伝い跳んで行く会社員。
自分の周囲に風を起こして扇風機代わりなのか涼みながら歩いている学生。
こんな光景は数ヶ月前にはありえなかった。
「おーい、悠。」
名前を呼ばれたので振り返ってみると、そこには友人の守野戦がいた。
「よっ、おはようさん。一緒に行こうぜ部活だろ?」
「ああ、お前か。いいぜ、一緒に部活行くか」
どうせ同じ部活で遭うのだからと一緒に行く事にした。
学園へと続く道を歩いていく。
「なぁ、お前ってまだ魔法世界に行った事無いのか?」
「何だよ藪から棒に。ああ、まだ行ってないけどそれがどうしたんだ?」
「いやな。お前の性格だったら、いの一番に『俺が魔法世界を救ってやる!』なんてな事を言いそうだなって思ってよ。」
「誰だよ、その熱血キャラは。俺に変なキャラ付けしないでくれ」
「何か冷めてるよな、今じゃ老若男女問わず誰もがあっちの世界を行き来してるってのによ」
実際そうだった、命の保障がされてるとわかった途端に誰もが興味を惹かれて魔法の世界へと冒険に出たのだったから。まるでゲームをする感覚で。
「それで戦、お前はどうなんだよ、世界は救えそうか?」
悠は憮然とした態度で皮肉も込めて戦に聞いてみた。
「あー、ありゃ無理だ。そんな簡単な話じゃないぞ、最初のクリアルって村があるんだけどよ。そこからちょっと出た所の犬の化け物と戦ってみたけどそりゃもう一苦労だったぜ。危うく食い殺されそうでちびったよ」
「何だ、死にはしないんじゃないのか?」
「バーカ、死にはしないけど死んだような感覚の恐怖とか衝撃がすげぇんだよ」
新しい情報を得た。どうやら魔力体ならではの事らしい。
――死にゆく感覚の恐怖と衝撃か。やっぱり碌でも無いかもしれないなあちらの世界は。
「それよりも毎日暑いよなぁ。なあ、悠! お前の『あれ』やってくれよ! 涼もうぜ!」
「んなことで魔法使うのかよ」
「なぁ頼むよー、学園行くまでの間だけさ」
「しょうがないな」
女神から与えられた魔法は人それぞれ得意とする特有の個性とも言える魔法が備えられたのだ。
先程の屋根を伝い跳んで行く会社員は恐らく『浮遊跳躍』と言った空気抵抗を使った魔法で、同じく風を巻き起こす魔法を使い涼んでいた学生は『旋風陣』と言って風を操るのを得意とした魔法だった。
そして俺に与えれ得意とするのは――
「『冷気』」
――氷や水、冷気を出すのを得意とした。
途端に周囲に冷気が放出され、見る見る内に温度を下げて行く。
「おお、来た来た。涼しい――って寒っ! おい、お前調整できてないぞ!」
「んっ? ああ、悪い悪いあんまし魔法使わないから調整が上手くできなくてな」
「ったく、しょうがねぇな。『発火』」
戦が魔法を唱えると、彼の手の平から炎が灯った。
「暖かいだろ、これでちょうど良いぐらいだな」
「おいおい、夏場に冷暖房を両立させるくらいの無駄遣いっぷりだな。良いのか? 魔力切れ起こしてあっちの世界に行けなくなるぞ」
「この程度じゃ魔力切れなんて起きねーよ」
魔力切れが起きれば魔力体になる事が適わず魔法世界へと行けないのである。
こうして魔力の、もといエネルギーの無駄遣いをしつつ他愛の無い話をしながら学園へと辿り着いたのだった。
「よし到着、んじゃ剣術部の部室にレッツゴーだぜ」
「そうだな」
剣術部は剣道の言わば母体でもある物だ、剣道がスポーツと比喩するならば剣術は武術と言ったところだろう。
悠と戦はそのまま本棟とは別の実技棟にある剣術部の部室に向かうのだった。
学園では学び舎である本棟とは別に部活などを行う実技棟に別れている。
「っはよーございまーす!」
「おはようございます」
「よう、お二人さん、おはよう! 今日も性が出るな、なっはっはっは」
部室に入るや否や、戦と悠の挨拶に答えたのはうちの部長である。
豪胆な振る舞いで男らしい体付きの頼れる人って感じだ。
「しっかり修行して魔法世界を救える勇者になるんだぞ!」
うちの部長はすっかりあちらの世界が気に入ってしまって勇者気分で事あるごとに行き来している猛者の一人だ。
とは言う物の若い学生であれば、誰もが自分が主人公ぶって魔法世界に夢見てる奴が大半だ。
「部長! 今日も俺は悠と修行、もとい戦ってても良いですか!」
「おお、いいぞー。お前たちの戦いは俺ら剣術部でも良い刺激になるからな! 存分にやってくれ!」
「あざーす!」
「ありがとうございます」
有難い申し出だ。気慣れた奴以外と戦うと癖でつい手加減をしたり全力が出せないでいてしまうからな、戦が相手だと練習が捗る。
いつも戦いになると相手の事を気遣ってしまい実力を出し切ることは一切無かったけど、戦の性格上は負かしても明るい素振りを見せてくれてどんどん強くなってくれる。期待に答えてくれる奴でやりやすい相手だよ。
「いつも悪いな、相手して貰って」
「んだよ急に気持ち悪いな。俺はお前に勝つのが目的なんだからよ、戦うのが運命なのさ!」
「はん、寝言は寝て言え馬鹿。今日も俺が勝つに決まってる」
「おお? 上等だ、魔法世界で培った戦闘技術を見せてやるぜ!」
準備体操を始める終えると御互いに防具を着ける。試合で使われるのは木刀だ。防具を付けてるとは言え、甘く見てれば怪我の一つや二つは簡単にするだろう。
悠の獲物は鞘付きの木刀で居合い術を型にしていて、相手の虚を突いた素速い戦いを得意とする。一方、戦は野太刀を使用しており長いリーチを得意分野として力強い一撃が得意だ。
実力は今や均衡していると言っても良いレベルだ。
準備を終えて、御互いが試合形式の位置に付く。
「悠先輩と戦先輩が戦うみたいですよ」
「おお、こりゃ今日はどっちが勝つか見物だな」
「最近は戦も強くなってきたからな、わからないぞー」
「いやいや、悠はまだ実力を隠してるって絶対」
位置につくと周囲にギャラリーが集まり始めた。だが、そんな事も気にせず精神を集中して戦いに意識を向けた。
「それじゃ、俺が審判を勤めるぞ。両者位置へ、魔法の使用は禁止だ。一本勝負!」
部長が審判役として前に出た。そして開始の合図を出すタイミングを見計らっている。
そして――――
「始め!」
――開始の合図が出た瞬間、悠は鯉口を切り開きつつ前に跳び出して木刀で一閃。
相手の獲物を弾く力と速さそして弱所を突く攻撃。本来ならば初太刀で斬り伏せられるほどの自信の木刀による一閃だが、戦には常日頃から練習として戦いをしている為に息を読まれていた。
すかさずその一振りを戦の自らの獲物の長い刀身によって受け切られる――が瞬時に鞘に刀身を収め再び斬りかかれる様に備える。
「うおっ、お前の初太刀は怖すぎるんだよ! 寿命が縮まるわアホ!」
文句の一つが飛んで来るが精神統一をしている悠の耳に入らなかった。
お返しとばかりに戦の豪快な一振りが真横から襲ってくる。
後ろへ跳んで回避しようとも思ったが長いリーチ故に斬りつけられる範囲から逃れられない。
そう踏んだ悠は鞘から木刀の刀身を出して刃の部分で受け、戦の振りとは逆方向に跳びつつ力を吸収して受け切った。
「お前って本当に器用な真似するよな、魔法世界に行ったらマジで勇者にでもなれんじゃねぇのか」
もう一度、斬りかかる為に呼吸を整える。そして一閃と飛びつく、その繰り返しだ。
――魔法世界か。興味が無いと言えば嘘になる。だけど、怖いのも本当だ。死なないとは言え、得体の知れない魔物やらが蔓延っている世界なんて好き好んで行きたくない。
一閃、また一閃、連撃を繰り出す。
だが戦は倒れない、さすが俺の親友だ。こいつと戦える事が楽しい。
――もしも一緒に戦えたら、もっと楽しんじゃないだろうか。全力で戦えて……それでいて世界を救う為になんて。
「魔法世界か、俺もお前と行ってみようかな……」
「ん? 隙ありだぜ悠! 必殺の技を食らえ、二連双打突きぃ、なんつって」
――しまった!
一瞬の考え事が命取りだった。その隙を突いた戦は刀身を頭の上に掲げ思い切り斬り払った。
反応が遅れた悠は咄嗟に防御へと手を回した為に、その力強い一太刀を真上から刀の腹の部分で真正面から受けてしまう。思わず膝を付く一撃。
そこに好機と見た戦は体当たりを続けさまに咬まして悠を吹き飛ばした。
「これで終わりだぜー!」
鋭くも長い突きを悠の胴体に目掛けて放たれる。だが突かれる事は無く、寸前でその一突きは弾かれた。
「『防御壁』! そこまで、一本!」
咄嗟に間に防御魔法を入れて部長が止めに入ってくれたのだった。
「おお、戦先輩が一本取りましたよ!」
「いや、今のは悠が油断していたせいだな。何か考えごとでもしていたんだろう」
戦の初の快勝にギャラリーは騒然としていたが、不思議と俺が落ち込むことは無かった。
「おいおい、らしくないな。どうしたんだ、何か悩みでもあんのか悠」
気を使いながら、倒れこんでいる悠に手を差し伸べる戦。
「いや、何でもない、今日の晩飯のこと考えてた」
「なんだそりゃ、あははは。でも、今日は俺の初勝利だぜ。また今度やるか」
「おう、いいぜ。その時は受けて立つよ」
その後は俺と戦は一緒にトレーニングメニューを行っていた。
「なあ、戦。」
「どうした?」
「いや、なに、お前とさ、魔法世界に行って世界でも救ってみようかなって考えたんだけどお前はどう思う?」
「へえ、急にどういう心境の変化だ? まあ、俺はお前とならできそうな気がするぜ。」
「そっか……」
そこで会話は途切れ、悠達は黙々と素振りを続けた。
「あれだ、魔法世界の事なら俺の方が先輩だから何でも聞いてくれよ。」
戦がそう言うと授業が始まる前の予鈴のチャイムが鳴り響いた。
それから悠達は部活を終えて本棟にある自分達の教室に入った。
教室へ入るといつもの光景が繰り広げられていた。それは魔法世界についての話題だ。
「なあなあ、俺は昨日の夜に魔獣十匹も倒したんだぜ凄いだろ?」
「はあ、どうせ村のすぐ近くにうろついてる犬っころの話だろ、俺なんか洞窟で大蛇と戦ってきたんだぜ。まぁ逃げ帰ってきたけどさ。」
「なんだそれ、駄目じゃん! あははは」
傍から聞いてると、まるでゲーム遊びの会話その物だった。
「おーい、お前ら授業始めるぞー」
気だるそうな声で教室へ入ってきた先生は早速と授業を始める準備に取り掛かっていた。
「一限目は魔法の授業だ。そろそろお前らも理解してると思うが、今はこの世界には魔法が溢れている。だけどな、誰もが正しい使い方をしてる訳じゃないんだ。だから正しい事を学べよ学生達よー」
その通りだ、魔法による弊害は多岐に渡って広まっていた。犯罪における魔法の使用はもちろん、事故等の事についてもだ。
今では魔法省などが設立されており厳しい魔法の取締りが行われていたりする。
新たらしい技術だと喜んで使う者もいれば不確定で不安要素があると言って頑なに規制を試みようとする者もいる。
だが、それらはすでに意味の無いことだった。利便性の方が弊害における問題より遥かに勝っているからだった。
「まったく、数ヶ月前には魔法なんて授業は無かったのに余計な仕事増やしてくれちゃって女神さんは……」
先生が仏頂面でぼやく。確かに実際問題、他の世界なんて関係ない人に取っては全てに対して良い迷惑だ。
そして授業が始まる直前に朝練の疲れか、そこで意識は途絶え悠は眠りこけた。
◇
「おい、悠。起きろって、ほら悠」
「んんー、なんだよ。授業中なのに何でお前俺のクラスにいるんだよ」
「アホ、何寝ぼけてんだよ。今はとっくに昼休みだ馬鹿。」
「なにっ!?」
勢い良く席から起きるあがると周囲は弁当などを広げてたりして昼食を摂り始めている生徒達が見受けられた。
「嘘だろ、俺ってば午前中の授業を全部寝過ごしたのか……」
「ぷはっはは、今日はとことんお前らしくないんだな。まぁ、いいや飯にしようぜ」
「悪いな起こして貰って、って今からじゃ購買も何も無いんじゃないか?」
「おっ、そうだな。んー……。あっ、そうだ良い物があったぜっ! ちょっと着いて来いよ」
何かを思いついたのか戦は教室から出て屋上へと向かっていった。それに悠は着いて行った。
「おい、屋上に来てどうすんだよ。こんな所に飯がある訳でも無いし」
「へっへっへ、それがあるんだよ。見てろよ? 『魔法袋』」
戦は魔法を唱えると、目の前に袋が浮かび上がった。
「なんだそれ…? 袋?」
「これはあっちの世界の道具とか入れれる魔法の一つだよ。『取捨選択』、えーっと『干し肉』を選んでっと」
すると目の前の袋から干し肉のような物が排出された。
「マジかよ、なるほどなこれでうちの愚妹はアイテムをあっちの世界からくすねて来てた訳か」
「何の話かわからんが、これで持ってこれるんだぜ現実世界によ。そんで最後に『物質変化』で完了っと。ほらよ、食べてみろって意外と美味しくてよ、気に入ったから袋に入れといたんだぜ」
戦は袋から出した干し肉を悠に手渡すと、自分の分の干し肉も取り出して袋を閉じた。
「おいおい、幾らなんでも食べ物って大丈夫なのか? 腹壊したりとか、病原菌とか……つか何の肉だよ」
「んー、まぁ大丈夫だろ美味しいし。それに腹壊したり病気になっても今は魔法があるからな、あっちで聞いた話じゃ牛だ。ビーフジャーキーだ。」
思い切って噛付いて食べてみた。すると確かに現実世界と変わらない味の美味しさを持つ食べ物だった。
いやそれ以上かもしれないと思った。仄かに香る芳醇な肉の香りに香辛料なのかハーブらしきスパイスも込めてあり噛み応えも最高の至高の一品だ。
「驚いた、う、旨いな!」
「なっはっは、だろ? 俺はこれでも味にはうるさいんだぜ?」
干し肉を夢中で食べる俺は、この時、確かに魔法世界に興味を抱き始めていた。
「ぷはー食ったぜ、ありがとうよ戦。良いもん食べさせて貰ったよ」
「俺とお前の仲だろ、気にすんなよ。それよりどうだ魔法世界に少しでも興味を持ったんじゃないか?」
「ああ、正直言うとかなり興味を持ち始めてる。新しい世界ってのも悪くなさそうだな。」
「おお、正直になってくれて嬉しいぜ。ならよ、放課後に俺が魔法世界の事をレクチャーしてやるからさ。一緒に冒険に出かけてみようぜ? な?」
「わかった、よろしく頼むよ。」
こうして悠と戦はあちらの世界に行く約束を取り付けて放課後にあちらの世界へと行く事になった。
放課後。
陽射しも収まりを見せ夕焼けが映し出される頃となった時間、まだ蒸し暑さのせいか蝉の鳴く声が響く。 悠は教室の中で親友の戦を待っている。
「魔法世界か、どんな世界なんだろう。魔物達によって人々が淘汰されていて住みにくくなっているとか世界が崩壊しそうだってのは聞いてはいるが。人間が住んでいる以上は文明はちゃんとある訳なんだよな、こっちと違ってるとは思うが。」
ん? 待てよ、てことは今朝うちの愚妹の奏が見せつけてた腕輪みたいなのはあっちの世界の人様から盗んできたって事か? あの馬鹿は何してるんだ。
悠が愚妹についての考えを張り巡らせていると、教室のドアから戦が入ってきた。
「よう、待たせたな悠。それじゃあ、早速だけど魔法世界のお勉強を始めようぜ!」
「何がお勉強だ、そんな難しい事なんて無いだろ。」
「まあ、そうなんだけどよ。まず初めに言って置くがあっちの世界に行く魔法は覚えてるよな? 女神の日に何か頭の中に直接叩き込まれたような感覚があった時に教わった奴だ」
「ああ、覚えているよ。」
「それが魔法世界に行く為と飛ぶ為の魔法だ。魔力体となってあっちの世界に行ける様になるってそりゃ誰でも知ってるか。」
「あぁ、知ってるが……。そうだ、魔法世界に行ってる間って現実世界の身体はどうなるんだ?」
「ん? あぁ、そりゃ魔力体に変換されてるから肉体は失くなるぜ。そんな事も知らなかったのか? って、そうかお前ってばずっと無関心だったもんな」
肉体が失くなる。少し怖いな、もしもそのまま無くなったりしたらなんて考えると。
「そんで、初めて魔法世界に行く奴は必ず女神の門って言って女神様と話をする場所に飛ばされるんだ。そこで大方説明を受けれるわけだ。」
「へぇ、丁寧なもんだな説明を受けれるなんて」
「まぁ、あっちからしたらお願いしてる側だしな、そう言った気遣いもあるんだろう。そんで一番重要なのがあっちの世界だと自分の名前と見た目が変わる!」
「はあ?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
――名前と姿が変わるって、それにどんな意味があるんだよ。
「いやさ、これがマジなんだよ。あっちの世界じゃ名前が変換されて真名っつうの? になるのと姿が勝手にあちら仕様になるんだとよ。これ、女神から説明受けれる訳なんだけどさ。」
「まあ、大方わかった。そしたら俺はどうすれば良いんだ?」
「とりあえず、女神の門に行って説明受けたら最初のクリアルって村に飛ばされっから、そこにある噴水で落ち合うとしようぜ。俺の真名はセン・シルヴァンって言って赤毛の髪の毛が逆立ってる奴だ」
セン・シルヴァン……? 赤毛で逆立ってる……?
「っぷ、セン・シルヴァンって何だよ。しかも赤毛って、あははははは」
「お前、笑ってんじゃねーよ。勝手に変換されるんだから、仕方ないだろ! お前の魔力体も見たとき同じ反応してやるからな!」
「あはは、悪いって。それじゃあ、そこで落ち合うとしよう。もう魔法使っていいのか?」
「ああ、大丈夫だよ。今の説明だけで何とかなるだろ、つか後わからないことがあったら女神様に聞け。」
戦は腕を組んで、後は知らん顔といった様子でそっぽを向いた。
「ん、わかった。それじゃあ、あっちの世界で落ち会おうな。」
俺は覚悟を決めて魔法世界の扉を開く魔法を唱えた。
「『扉開放』」
目の前に白調の石造りの重々しそうな扉が現れた開かれた。そして続けさまに魔法世界に飛ぶ、魔法を唱える。
「『魔力体転移』」
身体が真っ白い光を纏う、その光が扉に吸い込まれていく。まるで身体と意識が溶け込むような感覚だ。
視界が白に染められて何も見えなくなる。
これから始まるのだ、新しい何かが今この瞬間から――
まためちゃくちゃにならないと良いけど、最初は無理か。諦めて頑張ります!