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闇堕の勇者  作者: 闇堕の凡夫
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討伐の対価

 帝都より船で三日、徒歩で二日かけてやっと辿り着くことのできる小さなネイカ村の住人達は、農業と、すぐ側に存在する森林の恩恵により生計を立てていた。


 ところが、最近その豊かな森に「魔獣」と呼ばれる魔物が住み着き、狩りや採集を行う村人達に危害を加え始めたのだ。

 困り果てた彼等は、なけなしの金をはたいて冒険者を募ったのだが、討伐に向かった彼等は無残に殺されるか、逃げ出す始末だった。


 村では、今年五回目の緊急集会を開いた。


 もっと腕の立つ……『五つ星』、いわゆる勇者レベルの冒険者を雇わねば、あの恐ろしい魔獣を倒す事は出来ないのではないか。

 しかしそんな予算、この村では到底用意することができない。

 集会が紛糾する中、ある噂を耳にした男の発言が皆の興味を引いた。


「五つ星、『勇者』の称号を持つ者の中で、格安で仕事を受け持ってくれる男がいる……ただし、彼は屈辱的な要求をしてくるという。それは……処女の娘を、一夜だけ夜伽として差し出せ、ということだ」


 当初、彼のその発言は

「そんな事は人道に反する」

 と反対意見の方が圧倒的に多く、否決されたのだが……他の策が次々に消えていき、最終的にその案だけが残ってしまった。


 集会から一週間後、一人の青年が、ネイカ村を訪れた。

 年の頃は、十代後半~二十歳手前ぐらい。


 端正な顔立ちに、上背こそ村に住む男達の平均よりはあるものの、どちらかと言えば細身で、あまり力強そうには感じられない。

 背負っている荷物は決して多くなく、装備も、短剣と革鎧を身につけている程度だ。


 そしてその青年は、村人が総出で彼を出迎えたことに対し、明らかに迷惑そうな表情をしていた。

 数十人いる村人の内の一人、大柄な体格の二十歳ぐらいの男が、困惑の表情で一歩前に出た。


「……あなたが、シアン・ロックウェル殿ですか?」

 こんな若者が本当に五つ星なのか、という疑いの眼差しだ。


「ああ、その通りだ……しかし、これはどういうことだ? 最小限の関係者、または生娘の家族としか合わないと連絡していたはずだか?」


 その青年……シアンは、数十人の村人達を見渡して、苦々しそうにそう口にした。


 総出で出迎え、といっても、村人たちはシアンを心から歓迎しているわけではない。


 相場より相当安い金で魔獣を退治してくれるだけであれば、また態度も違ったことだろう。しかし、まだ純情な、若く美しい娘を、シアンは対価として要求しているのだ。


 もちろん、命まで奪われる訳では無い。

 しかし、彼女の純潔は、村の安全と引き替えに永遠に奪われてしまう。


 シアンが仕事を引き受ける、ということは、ある意味、貧しい者達の弱みにつけ込む商売と言うこともできる。

闇堕あんだの勇者』……彼が不名誉な二つ名を与えられている所以(ゆえん)だった。


「……ここにいる村人、全員が家族の様なものです。余計な隠し事などしない。全員が運命共同体です……申し遅れましたが、私はハザルという者です。病で寝込んでいる、この村の長である父の代理として、このような辺境の村まで足を運んでいただいたことに感謝します」


「……報酬をもらって仕事するわけだから、礼の必要はないさ。それにしても……俺なんかに仕事を頼むなんて、どういうことだ? 手紙には『魔獣』と書いてあったが、その程度の魔物なら、二つ星の冒険者でも退治できるだろう?」


「ええ、以前実際に来ていただいたのはそのレベルの方々でした。でも、みんな殺されるか、大けがを負うか、逃げ出してしまいました……重体となった一人の方は、こう言い残されました。『あれはただの魔獣などではない、もっと恐ろしい、とんでもない大魔獣だ』と……」


 それを聞いて、シアンは

「ふむ……」

 と腕を組んだ。


「……まあいい、行ってみれば分かるだろう。報酬は手紙に書いたとおり、五千ゴルド。それと、知っているとは思うが……」


「……ええ、心得ています。ミナ、出て来なさい」

「……はい……」


 怯えたような表情で一歩前に出る、十代後半と思われる、栗色の長い髪と瞳を持つ少女。

 クリーム色の長袖の服、緑色の長いスカートに、家事をしていたのか、白いエプロンを身につけている。


 細身ながらも、服の上からも豊かな胸が見て取れる。

 顔立ちは整っており、小顔に二重の大きな目が印象的だ。


『……確かに生娘だ……シアン、こいつは上玉だぜ……』

 彼の右手の甲に存在する、入れ墨のような黒い顔が、不気味にうごめきながら、彼にだけ聞こえるように、嬉しそうに話しかけた。


(……悪魔め……今回はお前の出番、無しにしたいんだがな……)


 右手に巣くう悪魔に嫌悪感を抱きつつも……彼自身、その美少女に対する鼓動の高まりを無視できず、そんな自分にも嫌気を感じていた。

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