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ペンタゴンからの返事を受けた男

 その青年は、ある大学のアメリカ学生だった。俗にいうエリート校でもなければFランクと呼ばれるようなバカ大学でも無い。

 青年はどこにでもいるような普通の大学の普通の学生だった。

 しかし、どういうわけかどの授業でも隣の席に座っている学友のK氏は違った。

 彼の日本語訛りの強い英語は時としてディスカッションを停滞する事がしばしばあれば、大学の授業中に眠りこける事もあった。

 彼は将来的に自由の国アメリカで仕事をして、ガンショップを経営したいと時折言っていた。

 そもそも日本ですら就職が怪しいK氏がアメリカで就労などと片腹痛い話であった。

 今日の昼休みもまた、アメリカで働く夢の話を聞かされる事になった。

「聞いてくれないか?」

「また、夢の話か?」

「いや、今回は違う」

「どうした? 夢を諦めるのか?」

「それも違う」

「では、何の話だ?」

「返事が着たんだ、今朝」

「返事?」

「そう、返事。これを見てくれ」

 そう言って、K氏が青年に見せたのは一つの封筒だった。

 封筒の左上、差出人の住所には〈|The Pentagon(アメリカ国防総省)〉とだけ書かれていた。

 間違いなくこの封筒はペンタゴンがK氏宛てに送られてきた封筒だった。

「一体どうしたというのだ?」

「この前、エージェントの者が人材を探していたようなので、履歴書を送ったんだ」

「エージェント?」

「そう、エージェントさ。彼等は常日頃から様々な手段を用いて人材を探している」

「お前から連絡を取ったのか?」

「いや、向こうから連絡が来た。先任者が数名退職したらしく大至急人員を欲しているそうだ」

「穴埋めにエージェントがお前みたいな人間に連絡を寄越したと言うのか?」

「そうだ」

 意味が分からない。この男はマトモに英語すら話せない男だ。アメリカの機密に関わる施設の職員になることなんぞ夢のまた夢のような話だ。

 いや、単純に返事としか言っていない。きっと断られているだろう。封筒の中身が気になる。

「ああ、そうだ。わかったぞ!」

「どうした?」

「封筒の中身を見たのか?」

「いや、まだだ」

「なら開けてみると良い。それは不採用通知に違いない」

「それは無いだろう」

 K氏は封筒の先端を破き、中の書類をゆっくりと取り出した。

 その書類には確かに〈採用通知〉と書いていた。

 それを見たK氏はこの上なく幸せそうな顔をした後、書類を開く事は無く封筒に戻した。

「どうだ、見ただろう! 採用されたぞ」

「信じられない話だ、よもやペンタゴンがお前のような人間を雇うとは」

「これで私はアメリカの社会人として仲間入りを果たしたわけだ」

「そうだな」

 休み時間の終わりを告げる呼び鈴が鳴り、会話が途絶えた。

 K氏は既に帰宅したのか、今日の他の講義には顔を出す事無く一ヶ月が過ぎた。

 そしてその二週間後、久しぶりにK氏の姿が見えた。

 随分と身体が膨よかになっている様子だった。

「随分と太ったじゃないか」

「まかないが出るからな」

「身体を殆ど動かさない仕事にでも配属されたのか?」

「いや、かなり身体を動かす仕事だ。狭い作業場に所狭しと走り回る仕事だ」

「随分と激しい仕事のようだな」

「全くだ、私と同じ時期に配属された同僚は手を火傷してしまったよ」

「それは災難な話だ」

「それで話がある」

 とK氏の顔つきが僅かにだが変わった気がした。

「話とは?」

「俺と一緒に働かないか?」

「私がか?」

「そうだ」

「私にできる仕事なのか?」

「俺ができる仕事が、お前にだってできるはずだ」

 確かに。と私は思った。

 だがしかし、ペンタゴンでの仕事とは一体何をすれば良いのか想像がつかない。

 そのままトントン拍子で話が進み、エージェントを通してK氏の職場に紹介され私がK氏の職場で働く事になった。

 時給十八ドルと決して高い金額では無いが気楽にできる仕事だ。

 私は一日八時間、毎日ハンバーガーのパテを焼いている。

 流石は天下のマクドナルドだ、ペンタゴンの中にマクドナルドがあるなんて。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大きな話かと思えばそういうオチww おもしろかったです
[良い点] こういう気楽な話待っていました
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