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乙女ゲー悪役ヒロインの野望~私の逆ハーレム大作戦~

 サラ・フラウ、それが私の名前だ。

 昨日、10歳になったばかりの、ぴちぴちな幼女……よりは妖艶な年増である。

 金色に艶めくロングストレートの髪は、黄金のようだとか、その瞬く瞳は海の欠片を映したアクアマリンという名の宝石のようだとか、海の至宝である真珠のような肌だとか吟遊詩人が歌いだす――というか歌っていたレベルの美少女である。


 なので外を歩くとそんな美しい私を一目見ようと現れる男達がいたものだ。

 このロリコンがと罵ると喜ばれるので言うのを止めたのは、私にとって懐かしい思い出だ。

 そんな私はつい先ほど、前世の記憶を思い出した。


 平穏というには色々あったよーな気がする人生という名の尊い経験が私の中に流れ込んできた。

 昔の私の名前もなにも思い出せないが平凡な生まれで会ったのは確かだ。

 そして“オタク”という人種であったらしい。


 なので私の名前と置かれている状況から、この世界が前世でプレイした乙女ゲームの世界と酷似していると気付いた。

 そしてもう一つ重要な情報があって、それは、


「サラ・フラウって悪役令嬢じゃない。高慢で残酷で性格最低な悪役、炎を操る魔法使いだよね……でもって最後には破滅するという……待て、落ちつけ私。そう、落ち着くの、ほら、ひっ、ひっ、ふー、ひっひっふー」


 何か深呼吸が違った気がしたが、そのあたりの事はどうでもいい。

 事前に気付いて良かった。

 これで対策が打てる、そう、私の勝利へのビクトリーロードは今目の前に続いているのだから!


 そしてそこまで考えた私は行動を開始した。

 まずは高慢さを一部抑えるのである。

 何故一部かといえば貴族とは高貴なものであるので、ほどほどに高慢であった方が貴族らしいと安心さえるようなのだ。

 

 やっぱり前世が庶民なのでそちらのような対応をしてしまった事があったのだが、それ以来その人物は助長したというか色々と面倒な事になったのだ。

 貴族として生まれたからにはそれなりの立ち振る舞いが要求される……私は即座に順応した。

 そもそもこの世界で10年生きていて、貴族令嬢としての教育を受けてきた私に死角はなかった。


 ただ高慢だけではない人柄を武器に私は着々と人脈を広げるべく行動を開始する。

 まずは、何故か侍女ではなく、私につけられていた執事のジルを味方につける事にした。

 確か彼は、ゲーム中ではサラの忠実な下僕として悪事に手を貸している程度に忠誠を誓っていたはず。

 なのでこの秘密を共有し、手助けしてもらおうと思ったのだが、


「ちっ、小賢しい知恵を付けやがって」


 黒髪に緑色の瞳をした13歳のイケメンはそんな事を抜かしやがりました。

 何でいきなりご主人様にそんな台詞を突き付けるのかと私は思っていると、


「私が今までどうしてこんな小娘に仕えていたと思いますか!? こんな傲慢で世間知らずな見かけだけのいい駄目娘なんて成長したら、素晴らしい悪女になると思ったんですよ! そのために私は、この能力も高く女の子にモテモテな私がわざわざ悪女になるように誘導したというのに!」

「全部お前のせいだったのか!」


 私が悪役になるような道を歩いていたのは、この執事のジル君の陰謀だったようだ。

 何だこの展開と私は思って彼を見ていると、


「良いですか、悪役の魅力というものは、絶大な権力を持ちつつ、愚かでその力を自分の欲望のままに振り回す圧倒的な存在なのです! 敵対するものは全て滅ぼし、その屍の上で高笑いをしながら貪欲に自らの欲求のままに獣のように走り回り、時に狡猾にそれまで隣同士で歩いていたものを蹴落とし……」


 陶酔したかのような執事のジル君。

 何か語り出したよこの人と、唖然として見守っていた私はそこでようやく正気に戻り、


「悪役なんて御免だわ! ヒロインと接触した時点で私の人生破滅へと一直線なのよ!」

「分かりました。では私の悪役ご主人様になって頂くためにそのヒロインを暗殺してきます。それで一件落着ですね。そのヒロインの特徴を教えて下さい」

「教えてたまるか! いい、私は悪役になるつもりはさらさらないの! ただでさえ貴族に生まれて贅沢に暮らせているという利点があるんだから、それを生かす道を選ぶわ!」

「そんな凡人のような人生を送らせるために、私は貴方についていたわけではありません!」

「私の人生は私のものよ! 大体悪女になったら貴方だって切り捨てられるかもしれないのに、どうしてそうしようとするの?」

「分かっていませんね、役に立たなくなったらぼろ雑巾のように捨てて欲しいんです!」


 執事のジルは言い切りやがりました。

 ああ、駄目だこの人、もう手遅れだと私は絶望に似た何かを覚えつつ、けれど現時点で一番の敵である彼をどう味方につけるかについて瞬時に頭を働かせて、 


「そうね、だったらこういうのはどうかしら。私はいずれ逆ハーレムを築き、その内の一人として貴方を囲い、いずれ捨てるの! どう!」


 ようは悪女な私に酷い目に遭わされたいのかな~、と思って行ってみると、そこで執事のジルは立ち上がり私の手をそっと握り、


「素晴らしい、それでこそ我が主」


 目を輝かせて私の前に跪く。

 どうやら正解だったようですが、これはないとしか私には思えなかったのでちょっと引きました。

 そもそも攻略したい相手が私にはいるので、逆ハーレムと言ってもただ単に振るだけという事務のようなものなので本音を言うと、上手く騙せたわ、という感じです。

 そんなこんなで、前世の知識を生かしつつ、フラウ家を更に富ませます。

 

 もちろん私が破滅するヒロインという疫病神とのフラグは折る為に全力を尽くし、執事のジルの手助けもあってか現在までヒロインとの接触はありません。

 ただ少し頑張りすぎてしまったのか熱を出してしまい、その時の執事のジルは私を優しく看病してくれました。

 ただの変態さんではなかったようです。


 そんなこんなで更に家が富んだ私は、ある舞踏会の日、その攻略したい相手に会いに行きました。

 将来は俺様イケメン貴族になる予定だけれど幼い頃は大人しく繊細な銀髪に紫色をした少年、イーグル・リセット君です。

 はっきり言いましょう、私は彼の見た目が好きです。


 性格は好みではありませんが見た目が大好きです。

 なので彼の性格を幼い頃から私好みの従順で優しい性格にしようと近づく事にしました。


「初めまして、私はサラ・フラウと申します」

「え、あ、えっと、僕はイーグル・リセットといいます、です」


 顔を赤くして自己紹介をするイーグル君。

 第一次遭遇は上々、好感度マックスでいけそう。

 この美貌でイーグル君がころっと落ちたらいいなと思いつつ、会話を進めて行く。

 こうしてこまめに舞踏会などを通してイーグル君とお話をしていくと、ある日彼は不安そうに、


「あの、どうしてこんなに僕ばかり気にかけていらっしゃるのですか?」

「私の将来のお婿さん候補だからですわ。見た目が好みですし」

「見た目、ですか?」

「ええ」


 微笑む私だが、イーグル君は少し複雑そうな顔をして、


「……他の奴に取られるよりはいいか。もっとも手を出したなら、そいつら全員闇討ちだけれど」

 

 ぼそっとイーグル君が怖い事をのたまいました。

 えー、あれ? 純情で幼げでか弱い美少年だったと思ったのですが気のせいだったかな、と思った私は、その後、執事のジルと口で戦うイーグル君を目撃して、もっと調教しなくちゃ! と焦ることとなりました。

 そして現在の所それは上手くいっていると私は思っています。


 そんな私ですが、ある日とうとう、あの恐ろしき破滅への女神、ヒロインのユリアと出会ってしまいました。

 悪い奴に騙されて借金にあえぐ彼女ですが、それでもひたむきに生きているというかこう……ここで彼女を見捨てた時点で敵認定されそうという思いと、出会ってしまったがために見捨てられなかったというのと、侍女が欲しくなったという理由から彼女を侍女に私は迎えました。

 教育を施して玉の輿にしておけば敵にはならないだろうという私の算段から、彼女には色々と手を貸し、イーグル君以外の良さそうな男を見つくろいましたが、


「私は今はただただ、サラ様に恩返しがしたいのです」


 と断る始末。

 良い子過ぎてユリアちゃん、疫病神と思ってごめんなさいと私は思いつつ、素晴らしい良縁はどれもユリアちゃんの納得できるものではないらしい。

 そうなってくると彼女のお相手は、寄宿舎に入ってからではないかと私は推測する。

 その誰かとくっつけてしまい波風立てずにゴールインすれば……晴れて私の覇道が始まるのだ!


 そんなわけで寄宿舎にやってきた私だが、そこでは何故か執事のジルが追いかけるように入学して来たり、イーグル君も別の寄宿舎に行く予定と聞いていたというか、ユリアが来るので接触させないために誘導しておいたのにやってきたり、ユリアが同室でやたらスキンシップをしてきたり、ユリアのために攻略対象と接触していたら何故か彼らと私にフラグが立ったりといった逆ハーレムになりかけて……現在修羅場の真っただ中に私はいます。

 取り囲むようにいる彼と彼女達に見下ろされる私。

 

 どうしてこうなったと今すぐ躍り出したい状態ではあるのだが、彼らは笑顔で私に問いかける。


「それで、サラは一体だれを選ぶんだ?」


 その問いかけに私は、彼らの思いをどうかわし逃げるのかについてひたすら考え……その日から私をめぐる彼らの戦いの火ぶたが切って下された。

 そんな私が身の危険を感じて、全力で彼らに諦めてもらうようありとあらゆる手を尽くすのはまた別の話である。


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― 新着の感想 ―
[一言]  どんな作品を書いているか気になったので読んでみました。 こういう癖のあるキャラクターだと設定などはかどるかもしれませんね。 楽しめました。それでは。
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