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08話

 あのあと、司書さんがが生徒会の顧問であることを知った。

 司書さんって言っていたけれど、顧問ということはやっぱり先生になるのかな……?

 追加情報で知ったことといえば、生徒会役員は部活動が免除されること。掛け持ちはOKらしい。

「司は弓道部なんだ。こんなに細っこいけどインターハイに行くくらいには強いんだよ」

 従弟のことを嬉しそうに話すのは司書先生。

「おまけに中学のときから全国模試で常に上位常連者。嫌みな奴だろ?」

 なぜか蒼兄までもが自慢げに話す。

「嫌みな奴だろ?」なんて言うけれど、その声には親密さを感じた。

 私からしてみたら、成績云々抜かしても嫌みな人に思えるけれど……。

「それだけの努力はしてますから」

 涼しい顔でサラリと答えた先輩はやっぱり嫌みな人だと思う。

「翠葉ちゃんは何部に入るのかな?」

 それは今日二度目の質問だった。

「まだ、どんな部があるのかも把握してなくて……。できれば毎日活動していないところがいいなとは思っているんですけど」

「うーん……文化部なら結構あるんじゃないかな? 外部講師を呼ばなくちゃいけないような部は週に一、二度しか活動しないはず。確か、茶道部、華道部、和筝部――ほか、何があったっけ?」

 司書先生が先輩に聞くと、何を見ることもなく、空で答え始めた。

「写真部、放送部、パソコン部、園芸部、料理部、手芸部――手芸部は部内で和裁、洋裁、パッチワークと三部門に分かれてる、あとは美術部。このあたりが週一、二で活動してる部」

「合唱部や吹奏楽部は文化部だけど、実際のところは運動部と変わらなかったりするんだよなぁ……。練習前にマラソンと腹筋背筋するから結構ハード。放送部も週に二回の活動とはいえ、発声練習欠かさないし。……ま、何かしら翠葉に合ったものがあると思うよ。毎日の部活でなければ生徒会に入ったとしてもそんな忙しいことにはならないだろうしね」

 また生徒会の話? と思ったとき、蒼兄が私の眉間を指でつついた。

 どうやら、嫌だと思ったのが顔に出ていたらしい。

「眉間にしわ寄ってる。生徒会だっていつも忙しいわけじゃないよ。常に何かしらの雑用はあるけど、とくに忙しいのは学期始めと学期末、イベントの前後だけ。その間、部活で大きな大会や試合かがない限りは生徒会が優先される」

「……蒼兄、詳しいのね?」

 不思議に思って訊くと、意外な言葉が返ってきた。

「だって俺、生徒会役員だったし。……あれ? 話したことなかったっけ?」

 私は思い切り首を横に振る。

「聞いたことない、初耳」

「蒼樹は外部生のくせに入学時から学年で成績トップだったからね。そりゃ推薦されちゃうわけだよ。翠葉ちゃんもがんばって二十位以内を死守してね?」

 ここぞとばかりににこやかに話しかけてくる司書先生。

「確か翠葉ちゃんは上位二十位以内に入ってたはず――」

 司書先生が手元にあるパソコンのキーを何度か叩く。すると、先輩がため息をついた。

「秋兄、『はず』で推薦したわけ?」

 司書先生はその言葉を無視してカタカタとキーボードを打ち続けた。

「内進生の進級テストの結果と入試結果を総合して――」

 タンッ、とエンターキーの小気味いい音が響いた。

「出た。現在学年で十位だね。問題なし」

 ……え? どうしてそんなことがわかっちゃうの?

 不思議に思っていると、気づいた蒼兄が笑顔で説明してくれた。

「さっき秋斗先輩が説明してくれただろ? この棟が重要書類保管棟だって。いわばトップシークレットの宝庫なんだ」

 蒼兄……それとこれは話が別だと思うの。

 この棟の管理をしているのが司書先生だとして、こういうのはプライバシーの侵害って言わないかしら……。

 司書先生が慌てて付け足した補足説明。

 成績閲覧時にはパスワード等が必要らしく、そのパスワードは三日に一度変わるという。さらに、そのパスワードを知る人は校長先生とこの棟の守人である司書先生のふたり。

 アクセスできるパソコンはこの部屋にある一台と校長室にある一台のみ。

 ここにあるパソコンに関しては、パソコン自体のパスワードを司書先生が毎日替えるため、二重三重にもセキュリティがかかっているという。

 一般のネット回線とも隔絶されているので、ハッキングされることもないらしい。

 職員が資料を必要とした場合、まず学年主任に申請書を提出し、学年主任から司書先生に連絡が入る。その後、司書先生がパソコン操作をすると、二階フロアの一番端にある職員専用資料室へと転送されるのだとか。さらには、職員の用事が済めば、転送されたデータは自動的に削除される仕組みになっているという。

 この高校は試験が多いことでも有名で、刻一刻と成績順位が変わるため、一括して紙にプリントアウトされることはないとのことだった。

 一応、徹底したマニュアルのようなものがあるみたいだけれど、今のはやっぱり違うと思うの……。単なるプライバシーの侵害でしょう?

 人の成績を勝手に見てくれるな、と無言で訴えると、司書先生は少し申し訳なさそうにし、蒼兄はどこか面白そうに笑っていた。

 恨めしく思いつつ、その場はお開きになった。


 自宅に帰る途中、道が違うと思ったら、家から車で十分ほどのところにあるショッピングモールに着いた。

「お買い物?」

 助手席のヘッドレストに手をかけ、バックで駐車している蒼兄に訊く。

「買い物って言ったら買い物」

 不思議に思いながらついていくと、蒼兄が入ったのは携帯ショップだった。

「携帯を買うの?」

「そう、翠葉にね」

「え?」

「父さんと母さんからの入学プレゼントだって」

 言われてもしっくりとこない。

「携帯、必要かな?」

「学校に行くようになれば、ないよりはあったほうがいいと思う。俺ともすぐに連絡がつくし」

「そっか……」

 今まではほとんど家か病院だったし、自宅にはたいてい両親のどちらかがいたから携帯電話の必要性を感じていなかった。

 ずら、と陳列している携帯を眺めて思う。

「ねぇ、蒼兄? これは形とかデザインが違うだけで中身は一緒なの?」

「……そうか、そこからか」

 蒼兄は苦笑を浮かべつつ、わかりやすく説明してくれた。

 音楽が聴けるとかテレビが見れるとかお財布機能がついてるとか――。

「それって電話なの?」と思うような機能が満載で驚く。

「あのね、電話とメールとデジカメがついていたらそれで十分。……そのほかの機能はついていても使いこなせる自信がないよ」

「なるほど。じゃぁ、このあたりかな」

 蒼兄がピックアップしてくれた三種類の中から選ぶことにした。

 角が四角くて、一番薄い携帯を手に取る。

 色は、ブラック、パールホワイト、シルバー、メタリックレッド、シャイニーピンクとある。

「うーん……シルバー、かな」

「これ?」

「うん。これがいい」

 蒼兄はものを確認をすると、近くにいた店員さんに声をかけ手続きをお願いした。

 手続きに二十分ほどかかるとのことで、隣のカフェに入った。

「お昼食べてないからお腹空いたろ?」

「うん、少しだけ」

「ここで軽く食べよう」


 お昼時は過ぎたというのに、未だ混んでいる店内。

 運よくカウンターにふたつ席が空いていたので、蒼兄と並んで座った。

 ガラス越しに道行く人を見ながら蒼兄に話しかける。

「蒼兄、今日は入学式の日だったよね? 高校初日だったよね?」

 わずか半日ちょっとで色んなことがあった気がして、思わず確認してしまう。

「そうだな。初日だな」

 何事もなかったかのような、平穏な答えが返ってきた。

「私、大丈夫かな? ……色々ちゃんと、できるかな?」

 蒼兄がこちらを向く気配がしたので、私も蒼兄の方を向いた。

「最初から自信がある人なんてそうそういないよ。まずはやってみればいい。何かを積み重ねるとそれが自信になるから」

「……そう、なのね。体調崩すのは何度繰り返してもなんの自信にもつながらないけど――そうじゃないことも、あるのね……」

「翠葉はさ、少し物事を前向きに考える癖を付けたほうがいい。きっと、そのほうが色んなことが楽しくなる。体調を崩すのだって何度も経験すると、どうしたら体調が崩れるのかわかるようになるだろ? 全部が全部マイナスじゃないよ。……たとえるならさ、弾けなかった曲が練習を重ねて弾けるようになる。それと変わらない」

「蒼兄は――」

 言いかけてやめる。

「蒼兄、なんだか達観したおじいちゃんみたい」

 ごまかすように笑って言ったら怒られた。

「俺はまだ二十三歳だっ!」

 蒼兄はとても前向きな人だと思う。

 それは一緒にいて、今までの蒼兄を見てきてそう感じるのだ。

 落ち込むことはないのか、と疑問に思う。

 ないわけはないんだろうけど――。

 それも積み重ねなのかな……。何度も落ち込むと、気持ちを切り替えるのもうまくなるのかな……。

 ……私はまだだめ。何度落ちても浮上するのに時間がかかる。

 自分でもわかってる。浮上するのに時間がかかりすぎること。

 もうちょっと上手に気持ちの切り替えをできるようになりたい。

 蒼兄はいつだって私のお手本。いつも色んなことを教えてくれる。でも、いつまでもこのままじゃいけないんだろうな。

 わかってはいるのだけど、なかなか変えられなくて……。でも、変わらなくちゃいけないとも思う。

 もっともっとがんばらないと……。まだまだ全然足りてない。

 もっと、がんばらないと――。

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