データよりも確率よりも
長くて申しわけありません。
「データによると、僕ときみは恋に落ちる確率は90%以上だよ。だから、とりあえずBerryよりも甘いキスをしてみない?」
相手の女の子は目を見開き固まるけど、彼はそんなことを気にとめることなく初恋ショコラVeryBerryを手にとって、フタをあけた。
「キスは無理?じゃあ、まずはこれでその気になってもらおうかな」
そういうと、女の子にスプーンですくった初恋ショコラを食べさせて商品とテロップが流れた。
「きゃ~♪私がこんなこと言われたら・・・うわー、どうしよう」
最近始まった初恋ショコラVeryBerryのCM“納得の迫り方”編(とファンの間で呼ばれてる)を見ていると顔がにやにやしてきちゃう。
初恋ショコラのCMも良かったけど、やっぱり私の好きな先輩アイドルが出てるこっちのCMは別格だ。前のCMもBDにばっちり保存してあるけど、こっちも当然コンプリート。
初恋ショコラを入手するのにコンビニをハシゴしてまわったのを教訓に、初恋ショコラVeryBerryは学校の近所のコンビニでばっちり予約済みだもんね。
今から食べる瞬間が楽しみすぎる。そのときには絶対彼で妄想するんだ。
ところが、だ。
予約した初恋ショコラVeryBerryを受け取るために行ったコンビニ。そこでばったり会った幼なじみの直孝の家に引っ張り込まれて抱きしめられた。混乱する私に直孝は真面目な顔でつぶやいた。
「希乃の好きなアイドルだって、こうやって好きな子に迫ってるじゃないか」
「は!?こんなパターンはないわよっ」
そういいつつ、私は “納得の迫り方”編の各パターンを思い出す。うん、やっぱりない。
「そうかもしれないけど、希乃が俺を見てくれたらなんの問題もない」
「はあ?なにワケわからないこと言ってるの?それより、離してよっ!」
私と直孝の身長差は、だいたい頭一つ分。そろそろ息苦しいから足でも踏んでやろうかしら。その前に一声かけるか。
「苦しい・・・離して」
私がそういうと、あわてて腕をすこしゆるめたので私はここぞとばかりに直孝を突き飛ばした。
「何すんのよおっ!!もう、最低!!」
いろんな罵詈雑言が出そうになるけど、今は逃げるのが先だ。私はあわてて直孝の家を飛び出した。
家に帰って、自分の部屋に入ると力が抜けてその場でへなへなと座り込んでしまった。
怖いというより、驚いた・・・直孝があんなことするなんて。
「はあ・・・クラスが違ってよかった。同じクラスだったら顔を合わしづらい・・・って、あれ?」
持っていたはずの初恋ショコラVeryBerry限定の黒に金の紐がついた紙袋がない。コンビニから出たときは間違いなく持っていた・・・ということは。
「・・・直孝のところか・・・・」
どんな顔して取りに行けというのか・・・ううう、450円もしたのに。あいつ、絶対許さない!!私と彼のスイートラブラブタイム(またの名を妄想時間)を返せ~~っ!!
頭がくらくらする・・・のども痛い。鼻もつまってるし。初恋ショコラは食べ損なうし風邪までひくとは最悪だ。それもこれも、みーんな直孝のせい!!
ヒエピタをおでこにはりつけ薬が効いて眠くなっていくなか、私は昨日に至るまでの私と直孝のことをつらつらと考えていた。
私と直孝は産まれた病院が一緒で、小・中は家が近所だからしょうがないにしても、なぜか高校まで同じだ。
幼稚園のころは「きーちゃん」「なおくん」なんて呼び合ってよく遊んだり、手をつないで2人で昼寝をしている写真なんていうものも存在している(私の中では黒歴史に近いものがある)。
中学生になると、直孝は他の女の子たちから騒がれるようになり、同時にヤツから希乃と呼ばれる私は、その女の子たちに目をつけられてしまった。
そこで、同じクラスにならなかったのを幸いに私は直孝から距離を置いた。高校受験のシーズンになると、直孝は専心館(男子校)に行くという噂をきき、自分と違うことにほっとしていたのだ。
ところが、だ。滑り止めに合格し、本命の泰斗高校受験日。なぜか直孝が同じ教室にいて・・・噂ってあてにならないということを私は実感した。
高校に入学すると、さらに事態は予想外の方向へ転がった。中学の頃は私が距離を置いたのにあわせたようにヤツも近寄ってこなかった。ところが現在は、名 前呼びを強要したり朝の時間が合えば(ヤツはバスケ部なので朝錬がある)、わざわざ私の家に迎えに来る。さらに私が図書室当番の日に部活がないと図書室 で私を待っているのだ。
司書の橋野さんや他の図書委員たちから“やさしい彼氏でいいな~”って言われるけど、ヤツは「ただの」幼なじみ!!だいたい私はアイドルの彼のように繊細でミステリアスな人が好きなのっ!!どうみても正反対だろう、あれは!!
直孝があんまり私をかまうので、最初「池野くんって、かっこいーよねー」って言ってた女の子たちもなんだか引いてるし。
「あ~・・・もうワケわからん・・・・」
悩むと熱が上がりそうなので、私は思考を放棄して眠ることにした。
階下でインターホンが鳴っている・・・今日は母が仕事休みで家にいるから出たようだ・・・
そして階段を上がる音がしたかと思うと、母が顔を出した。
「希乃、直孝くんがお見舞いにきてくれたわよ~」
「えええっ。なんで?」
「お母さんが知るわけないでしょう。あんた自分で聞きなさい」
そう言って母の顔が引っ込んだかと思うと今度は直孝が顔を出した。母はちょっとにやにやしながら「ごゆっくりー」と言い階段を降りて行ってしまった。
部屋で2人きり・・・気まずい。
「・・・風邪ひいたんだって?」
「・・・まあね。うつっちゃうからさっさと帰ったほうがいいよ」
ふと直孝の手元を見ると、見覚えのある黒に金の紐がついた紙袋。
「その紙袋、持ってきてくれたんだ」
「あ、うん。ほら」
渡された紙袋の中身を見ると、ちゃんと初恋ショコラVeryBerryが鎮座してる。よかった~。
「でも、中に入ってたやつは賞味期限が昨日中だったから俺が食べた。今入ってるのはさっき買ってきたんだ」
「そうなんだ、わざわざありがとう。だけど、買うの恥ずかしくなかった?」
よっしゃ、これで彼とのスイートラブラブタイムができる。私は直孝の手前にやつくのを頑張ってこらえた。
「・・・まあ、恥ずかしかったけど、希乃が喜ぶ顔が見たかったし・・昨日のことだけど、俺は謝らないよ」
「は?」
直孝は、戸惑っている私に顔を近づけてきた。思わず目をつぶると、頬になんか柔らかいのとちくちくした感触が。頬にキスされた?!
「今日はここまでにしておくけど・・・これから、覚悟してくれよな。クリスマスもあることだし?」
「な、なんの覚悟??」
「それは風邪が治ってからのお楽しみだな。じゃあ俺帰るわ。明日行けそうだったらメールくれよ。一緒に登校しような」
直孝が帰ったあと、初恋ショコラVeryBerryを一口食べた。
なめらかで濃厚なチョコクリームとしっとりとしたチョコスポンジケーキの組み合わせに甘酸っぱいベリー類がすごく合って美味しい。
だけど彼を妄想しながら食べるはずが、頭に浮かんできたのはなぜか直孝だった。
読了ありがとうございました。
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一度初恋ショコラを使って書いてみたかった
青い衝動爆発(ただし小さめ)話。