5:おいしいものはあなたと一緒に
「予約した松葉です」
「いらっしゃいませ松葉様。初恋ショコラVeryBerryを2点でしたね」
ちょっと高めの甘い声の店員さんがにっこり笑って、いつもの店のロゴが入った袋じゃなくて黒に金の紐がついた紙袋に入れてくれる。
「こちらは初恋ショコラVeryBerry限定の袋です。普通の袋がよろしければお取替えしますが」
「い、いいえっ。限定の袋でお願いします」
「かしこまりました。スプーンはご入用ですか?」
「あ・・・いいえ、大丈夫です」
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
ここの店員さんとやり取りしてるとコンビニにいる気がしない。行ったことはないけど、執事喫茶って、きっとこんな感じなのかも。
そういえば、このコンビニって別名「執事コンビニ」だった。
秀志さんのマンションがある駅に到着したので、秀志さんに電話をかける。
「秀志さん?」
『かなちゃん、どうしたの?』
「あ、あの、今日って忙しい?・・・今からそっちに行ってもいいかな」
『かなちゃん。今、どこにいるの?』
「秀志さんのマンションがある駅」
『じゃあ迎えに行くから。すぐに行くからそこで待ってて』
秀志さんはそれだけ言うと、電話を切ってしまった。えーっと、私はここで待ってなくてはいけないようだ。
そして息をきらした秀志さんが現れたのは、本当に電話が切れてすぐだった。いつも涼しい顔してる人が、なんだかとっても焦ってる。
思わず顔を見た瞬間に噴き出してしまったら、ちょっと不機嫌になった。
「ひどいなあ、走ってきたのに」
「ごめんなさい。すぐ近くだから大丈夫だよ?」
「僕が迎えに行きたかったんだ。かなちゃん、久しぶりだね」
「うん、食事につきあえなくてごめんね」
「いいよ。だって今日会えたじゃない。そうだかなちゃん、夕食は食べた?」
もしかして、秀志さんって無意識に胸キュンセリフを吐くタイプか。それとも恋を自覚したからそう聞こえるだけ?
「え、まだだけど」
「じゃあ僕の家で鍋なんてどう?」
「うん、いいよ」
「じゃあ、これからスーパーに買いに行こうか」
そういうと、秀志さんは私の手を取って歩き出した。
「え・・・」
「かなちゃんの手、冷たいね」
暗くて顔を見られる心配がないって、素晴らしい。
スーパーで食材を買い込み、鶏肉の塩鍋。野菜たっぷり、スープはあっさり。しめのうどんまで食べてしまった。
そしていつものように秀志さんがお茶を入れてくれて(当然のように私に出してくれるカップに)、のんびりする。
でも私は内心どうやって切り出そうと困ってる。初恋ショコラが入ってる袋は冷蔵庫に入れてもらってるから、あとはデザート食べようって言うだけなのに。
「かなちゃん、さっきからなんか変」
「へ、変?」
「うん。やたら冷蔵庫ちらちら見てるし。あ、もしかしてデザート食べたいとか」
ナイス振り、秀志さん!!
「う、うん。そうなの。会社帰りに買ってきたんだ。一緒に食べよう?」
私はそういうと席を立った。
テーブルの上に並べた初恋ショコラVeryBerryを秀志さんは「おお~これが」としげしげと眺めた。
「へえ、ラズベリー、ブルーベリーに苺が乗ってるんだね。豪華だなあ」
「クリスマス限定だから。普段はシンプルなチョコケーキだよ。食べよう?」
私がそう言うと、秀志さんはいただきますといい、フタをあけて一口。すると、私の好きな顔をした。
「へえ・・・すごく甘いかと思っていたけど、そうでもないや。でも、すごく濃厚な味だね」
相変わらずのなめらかで濃厚な味わいのチョコレートクリームにしっとりとしたチョコスポンジケーキ。フルーツも乗っているせいか、甘酸っぱさも加わってさらに美味しい。
その後、なぜか2人とも無言で黙々とショコラを食べる。なんか、どうしよう・・・・言い出すタイミングが分からない。
「Berryよりも甘いキスをしてみない?・・・かあ」
「え。かなちゃん?」
秀志さんがびっくりした顔をしてこっちを見てる。もしかして独り言のつもりが声が大きかった??
「あ・・・え。いや、あの、このケーキのコピー・・・って。え?」
なぜか目の前が暗くなって、背中の後ろに手の感触。いつの間に席立ったんだ、素早い。
「まさか、かなちゃんから誘ってくれるとは。うれしいね」
「へっ?えええっ」
「で、僕にBerryよりも甘いキスをしてくれるのかな」
見上げると秀志さんが楽しそうに私を見つめてる。
なんか・・・・予想外な展開。もっと、さらっと告白するはずだったよね、私。でも、まあ・・・私の思いはかなったみたい。
私は立ち上がり背伸びをして、秀志さんにキスをした。
Berryよりも甘いかどうかは分からないけど。
読了ありがとうございました。
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初恋ショコラを無事使うことができました。
クリスマス向けの甘い話になったかなあ・・・不安です。
コンビニ店員さんの声は
某ユーザー様の好きなあの方をイメージしております。
なんか正統派(手袋して銀食器磨く系)の執事が似合いそう・・・
違うんじゃないの?と思っても、そこはスルーでお願いします。
ところで、本当にこんなコンビニあったらどうしましょうかね。