3:気づきのアジフライ定食
秀志さんは新作が出ると、私に初版本を贈ってくれる。どうしてそうなったかといえば、食事をおごってくれる人に敬意をはらおうと試しに1冊読んでみたら、面白かったので勢いで感想メールを送ったことが始まりだ。
秀志さんの作品は派手さはないけれど、とても丁寧な作品だ。事件が起きたことで登場人物たちに及ぼす波紋と探偵役の警部のアクロバティックな推理がパズルのピースを埋めるようにピタリとはまる。この作風だと量産はできないだろう。マニアなファンばかりってのは納得。
そして今週は、新作を渡したいからついでに美味しいアジフライを食べよう、と誘いのメールがきていた。
目の前に置かれたアジフライ定食は、一口かじるとサクサクの衣とふんわりとした食感で幸せな気分になる。つけあわせがスパゲティサラダと千切りキャベツ、なめこと豆腐の味噌汁ってのがまたいい。
「やっぱりここのアジフライは美味しいなあ。ねえ、かなちゃんは初恋ショコラって食べたことある?」
「なんで急に?食べたことあるけど」
秀志さんの脈絡のない質問には慣れてるはずなのに、さすがにアジフライ定食からの初恋ショコラへのシフトは驚く。
「今度初恋ショコラのクリスマスバージョンが発売されるでしょ」
「ああ。初恋ショコラVeryBerryね。私、初恋ショコラのときに結構探したから今回は予約したよ」
「えっ?そんなに好きだったの?かなちゃん、甘いもの好きだね~」
「え。う、うん・・・まあね」
初恋ショコラも好きだけど、宣伝してるアイドルグループも好きなので余計に食べたかったという理由もあるんだけど。
「仕事の合間にテレビ見てたら、僕でも知ってるアイドルグループが出てきて“Berryよりも甘いキスをしてみない?”ってセリフを言うから、びっくりしたよ。」
そういうと、秀志さんはきれいな箸使いでアジフライを取ると、ぱくっと口にいれた。そして満足そうな笑みを浮かべている。ほんと、幸せそうに食べるよなあ・・・この人のこんな顔をいつも見られたら幸せかも。それにどんな顔して「Berryよりも甘いキスをしてみない?」って言うんだろう・・・・って。何考えてるの、私?!
なんで急にそんなこと。この人は、茶飲み友達なんだからっ。そうよ、友達なんだから。
「かなちゃん、難しい顔してアジフライ睨んでどうしたの」
「ん?いやー、確かにあのセリフはびっくりだなあと思って」
「難しい顔して、考えてたのはそれ?・・・本当かなあ」
秀志さんが心配そうに私を見ているので、聞こえないフリをしてアジフライ定食を食べることに集中した。
家に帰って秀志さんの本をめくる。いつもならすぐに没頭できるはずなのに。
私以外を散歩と食事に誘わないでほしい。
私だけに幸せな顔を見せてほしい。
・・・・そして、「Berryよりも甘いキスをしてみない?」と言うのなら、私だけに。
気持ちを自覚してしまったら、もうだめだ。私は欲張りになってしまう。
4年ぶりの気持ちに、自分で自分に驚いてしまった。
読了ありがとうございました。
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気持ちを自覚するのに場所と時間は関係ないってことで(汗)。
私は青光りした魚を生で食べるのは非常に苦手なのですが
(できれば心の底から遠慮したいくらい)
焼いたり、煮たりしてあればたいていは好きです。
ただ「たいてい」というのは本人しか分からないため
家族からは「豆吉の”たいてい”はわからん」と言われております。