1:きっかけはピンチョス
「ん~、この小籠包美味しい~」
「スープがたっぷりだなあ。かなちゃん、ヤケドしないようにね」
はふはふつるん。口の中でスープがじんわり・・・ああ、幸せ。
11月の初めに、そんな会話をしながら向かい合わせで食べてる私たちは、傍から見るとカップルに見えるかもしれない。だけど、その実態は茶飲み友達。
「私がそんなドジをすると思う?秀志さんこそ、ふいにネタが浮かんじゃって手元がおろそかにならないようにね」
「うん、気をつけるよ・・・あちっ」
言ってるそばから、舌をやけどしたらしく顔をしかめていた。
私と秀志さんが出会ったのは、私の親友・由梨が開催した結婚披露パーティーだ。
さすが、由梨が選んだだけあってここの料理は美味しい。色鮮やかなテリーヌといい、ほうれん草のキッシュもハーブの香りがする牛肉と、塩釜で焼かれた魚も最高だ。
デザートのテーブルもまるでたくさんの宝石が置かれているみたいに、一口大のさまざまな種類のケーキが置かれている。
私以外の女性たちは食べ物のテーブルよりも、医師である藤倉さんの同僚に興味があるらしくて料理はほぼ手付かず。なんともったいない。
「さて、次は何を食べようかな」
「チーズとエビをスモークサーモンで巻いているピンチョスが美味しいよ」
横から声をかけてきたのは、背がひょろりと高くて色白、モスグリーンの横長長方形のメガネをかけたスーツ姿の男性がにこにこ、皿に料理を盛って立っている。
「・・・・それはありがとうございます。じゃあさっそく取りに行ってきますので、失礼します」
「ここにあるから、一つどうぞ?」
差し出された皿には確かにそのピンチョス。さあどうぞと言わんばかりに目の前に皿を差し出すメガネ男子。
「・・・・じゃあ、いただきます」
手に取ったピンチョスを口にいれると、確かにスモークサーモンの塩気とあっさりめのチーズ、ちょっとレモン風味のエビがいい感じに合わさって、美味しい。
「うわ、美味しい!!」
「でしょう?初めまして、僕は佐々山秀志です。藤倉とは中学からの付き合いで、学部は違うけど大学も同じだったんだ」
藤倉さんの同級生ってことは、この人は31歳。
「初めまして、私は松葉香奈子です。由梨・・・藤倉さんの奥さんとは小学校の頃からの友人なの」
「小学生?そりゃすごい!」
いきなり話しかけられて驚いたものの、佐々山さんは話題が豊富で思わず会話が弾む。
「え!佐々山さんも、あのDVD見たの?なんか嬉しいなあ。私の周りで見た人誰もいなくって」
「それは僕も同じだよ。面白いのにね、あのオペレッタ時代劇」
「殿様が歌うシーンが最高ですよね」
「そうそう!あの傘、カラーで見たかったと思わない?」
「それ思いました!!」
「僕、仕事柄不規則で藤倉に招待されたものの出席できるか心配だったんだけど、出席できてよかったよ」
不規則な仕事・・・確かにサラリーマンには見えないけど、何やってるんだろう。
「職業は一応物書きなんだ。ミステリーを書いてるんだけど、やっと専業で食べていける程度でね」
「ごめんなさい。私、海外ミステリーは好きなんだけど国内には疎くて」
「いいよ。僕の作品を読んでくれる人ってマニアばかりだって、担当の人にも言われてる。ところで、松葉さん」
「はい?」
「さっきのきみの食べっぷりを見込んで頼みがあるんだ。僕と茶飲み友達になってくれないかなあ」
「はあ?」
「僕さ、打合せで外出する以外ほぼ毎日部屋に引きこもりなんだよ。で、原稿が上がるとあちこち散歩して美味しいものを食べるのが息抜きなんだ。だけど、一人だと頼める料理の数も知れてるからちょっとつまらないんだよね。
どうかな、きみの都合のいい日だけでいいから、僕と一緒に散歩して食べ歩きしない?もちろん、食事代は僕が出すよ」
ここに招待してる人は親しい人だけだと由梨が言ってたから、この人は藤倉さんの親しい友人で間違いないだろう。まあ人畜無害そうだし話も合うみたいだし。
「わかりました。本当に私の都合のいい日だけでよければ」
「ほんと?よかったー。じゃ、メールアドレスと電話番号交換しない?」
普段なら絶対に初対面の男の人にアドレスなんか教えないのに、なんだか流れで交換してしまった。
こうして、私たちは「茶飲み友達」になったのである。
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初恋ショコラが出てこない。なんてこったい。
この話には初恋ショコラのほかに
いろんな食べ物を出そうと考えたのですが
文章にして人に伝えるって難しい。
私の書いた文章でおなかがすいた~って思ってくれる人が
いてくれたらいいなあ。