魔道士のおつかい
本当に長くてすいません(汗)
「魔道士と整理係」より。
魔道士のおつかい
ナナオが妊娠し、クロスビー家では俺が産まれてから30数年ぶりということで俺も使用人たちも、かなりの祝福ムードになっている。ナナオ本人も喜んでいるのは間違いないのだが「つわり」がひどいらしく食欲が落ちてしまい、うすい味のビスケットと水しか口にできなくなっているのが皆の心配の種だ。
「私も行きたい」
叔父上のところに行くと俺がいうと、ナナオには珍しくわがままを言った。
「どんな影響があるか分からないんだぞ?だめに決まってるだろう」
「そりゃそうだけど」
「やっと起き上がれるようになったんだから無理をしてはだめだ。そうだ、何か買って来よう。何がいい?」
「・・・じゃあ、初恋ショコラ」
ナナオが言い出したのは、我が家の書庫に眠るぽすたーの若い男どもが宣伝しているチョコレートケーキ。ひっじょおおおに気が進まないが、最近食欲がないナナオが食べたいと言っているものだ。俺の気持ちより、ナナオの食欲だろう。
「・・・わかった。容器ごと持ってこられるかは分からんが」
「うん。なかみだけでもいいよ?」
そう言ってベッドの中で笑うナナオに俺はキスをして、叔父上のところに向かった。
叔父上にもナナオの懐妊のことは伝えているので、クロスビー家の子供はお前いらいだなと喜んでくれたが、ナナオの調子を話すと心配になったようだ。
「本来なら、母親にいろいろ聞きたいだろうが無理だからなあ」
「その辺はナナオも分かっているようで、オーガスタ様やベルにいろいろ教わっているようです」
「そうか、それなら大丈夫かな」
「今日はナナオにお使いを頼まれまして。叔父上にお伺いしようかと」
「おや。何を頼まれたんだ」
「こんびに、というところで売っている“初恋ショコラ”を食べたいとナナオが言うのです。叔父上、この近くにこんびにってありますか」
「コンビニはあるけど・・・デルレイ、初恋ショコラっていうときの顔が怖いぞ。店に行ったらにこやかにな」
そういうと叔父上は手元にある紙に一番近くの“こんびに”までの地図を書いてくれ、送り出してくれた。
“こんびに”というのは、食品やいろんな雑貨が売っている小さい店のことだそうだ。王国にはこんな形態の店はない。
店の扉についてる“ぽすたー”に俺の顔は強張る・・・これは、書庫にしまいこんである若い男ども!!しかも人数増えてないか?
「わー、ポスターが新しくなってる~」
見知らぬ女性たちがうきうきと扉をあけるので俺も後に続く。店内はそんなに広くないので見渡しが可能・・・って、なんだあのきらびやかな一角。
あの男どもが全面に掲載され、中央にナナオが好きなチョコケーキ・・・ん?今回は上にフルーツが飾ってあるではないか。しかもその近くにはナナオが“ぱそこん”でにやついて見てた男どもが動いている小さな物体。女性たちはチョコケーキを買うだけでいいはずなのに、その物体に見入ってうっとりしている。
その場所にだけ聞こえるように男どもの一人が「Berryよりも甘いキスをしてみない?初恋ショコラVeryBerry」などと宣伝文句と思われることをいい、それをうっとり眺めてる(しっかり初恋ショコラは確保している)女性たち・・・・ちょっと近寄りがたい。あれに割り込むのは簡単だが、したくない。
だが俺の容貌がものをいったようで、俺に気づいた女性たちがそそくさと場をあけてくれる。
1個を手に取ると、会計と思われる場所に向かう。そこでお金を支払うと店員がクジをひくようにすすめてくる。
「初恋ショコラVeryBerryをお買い上げになったお客様にひいてもらってるんです。1個ご購入につき1回です。いかがですか」
そう言って真ん中に腕一つが入るような大きさの穴があいている茶色の箱を目の前に出された。
「この穴の中に入ってる紙を一枚とって、なかに番号が書いてあれば当たりです。同じ番号の景品をさしあげます」
透視の魔法を使えば箱の中身を見るのは簡単だ。だがこちらで魔法を使うのは仕事だけにしろと叔父上に言われているので、おとなしく腕をいれて紙を一枚とる。
開くと3番と書かれており、店員さんがおめでとうございますと細長い筒をくれた。なんだろうと思って店員の後ろにある景品一覧の「3」をみると・・・これは何かの呪いか?俺がもらったのは人数の増えた男どものぽすたーだった。
叔父上は初恋ショコラVeryBerryと細長い筒を持った俺を見て「お。無事に“はじめてのおつかい”を完了させたか。よかったな」とからかうように言う。
「ええ、なんとか。この容器、王国に持って帰ることが可能でしょうか」
「以前に味噌としょうゆを送ったときも容器は似たようなものだったから大丈夫だと思うぞ。あ、デルレイ、ナナオに私からだと渡してくれないか。なかにナナオが喜ぶこと間違いなしのものが入ってる」
そう言っておれによこしたのは封筒。
最近になって気づいたことがある。確かに叔父上は昔からランス様の暴走を止める人だと言われている。だが、ランス様が起こした騒動を叔父上が止めた事は一度もないのだ。
「クリスマス限定品が出ていたなんて!!わあ、美味しそう!!ありがとうデルレイ」
ナナオは初恋ショコラVeryBerryを非常に喜んでくれた。さっそくフタをあけて一口食べると「ん~~~おいしい」と残りも食べ始めた。
「ナナオがちゃんと食べてくれて俺もうれしい」
「ポスターもありがとうね。デルレイってくじ運いいのね」
「そ、そうか?」
くじ運がいいというなら、俺はこの男どものポスターなんか当てん!!だが、ナナオが本当に喜んでいるので、今書庫に持っていってしまうのも大人げないしな。
「アレンさんからの手紙も持ってきてくれてありがとう」
「ナナオが喜ぶものが入ってると言ってたのだが、何が入ってるんだ?」
「えっ・・・えっと、あっちの国の芸能情報?そ、そだっ。デルレイも一口食べてみてよ。フルーツの甘酸っぱさが加わっていっそう美味しくなってるし。ね?」
ナナオがスプーンですくった初恋ショコラを俺の前に差し出す。しょうがない、今はごまかされてやるか・・・でも、あのセリフは言ったほうがいいのだろうな。今なら体調もいいようだから・・・
「俺が甘いものは苦手なのを知ってるくせに・・・まあいい。」
ナナオが差し出してくれたものを口に入れる。う・・・甘い・・・甘いが、果実のおかげで酸味があるせいか、まあ食べられなくはないな。
「美味しいでしょ?」
「まあ、食べられなくはないな。でも俺が好きな甘いものはこっちだから・・・ナナオ、Berryよりも甘いキスをしようか」
「は?なにそれ・・・んんっ」
そういうと俺はナナオにキスをした。
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「残業が終わった後にこれを食べるのが楽しみだって言ってたじゃないですか。私は先輩が頑張っているのを知っていますから、これを差し入れたくて」
どうやら年下の同僚設定らしいクール系が袋の中から取り出したのはデルレイが買ってきてくれた初恋ショコラVeryBerry。
「私も隣で食べてもいいですか・・・美味しいですか。よかった」ここで微笑むクール系。
「先輩。俺とBerryよりも甘いキスをしませんか?といっても拒否をさせる気は毛頭ありませんが」
そこで近寄ってくるクール系の顔・・・暗転して初恋ショコラVeryBerryの宣伝。
「うわああ・・・最後まで見たかった!!見せようよ!!・・・あ、でもそれは既にCMじゃないか」
私は自分しかいないのをいいことに思わず画像に向かって叫んでしまった。
エルシーには図書室の掃除を頼んだし、他のみんなも忙しい。デルレイは間違いなく王宮で仕事中(これ重要)。
この状況じゃなきゃ、これは絶対見られないわ・・・アレンさん、ありがとうっ!!
アレンさんがくれたのは、画像石と手紙。
“ナナオへ この石にはデルレイが購入した初恋ショコラVeryBerryのCMの全バージョンが入ってる。デルレイのいないところで見たほうがいいと思うよ”
うん、これをデルレイが見たら間違いなく倉庫行きだよ。そうじゃなくてもいつのまにかポスターがなくなってるしさ。
私がその後全パターンをしっかり見た後、鍵のかかる引き出しにその画像石をしまいこんだのは言うまでもない。
読了ありがとうございました。
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初恋ショコラに出番が多い「魔道士と整理係」の
デルレイとナナオです。
ふたりのなれそめは拙作「魔道士と整理係」を読んでいただくと
なおいっそう楽しめるかと思われます(宣伝です)。
ちなみにこのとき妊娠してるのは長男という設定です。




