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覇軍中学

やや曇り空の湿った空気が流れる日曜日の昼下がりにテンプレ学園サッカー部は準決勝の試合会場である破軍中学校舎まで足を運んでいた。

 破軍中学の校舎は新設校だが統廃合前の校舎を利用している為、真新しい所は無い。しかしその内部の設備は充実し、スポーツクラブのようなトレーニングマシンに身体を休める温泉や、リラクゼーションシステムも全ての生徒が利用出来るようになっていた。校庭はサッカー場と野球場の一面ずつあるのは普通だが、来年の冬にはサッカーグラウンドは人工芝に張り替える予定があり、充実した環境の学校だった。ウォーミングアップをしながら陽介は緑のユニホームに袖を通す相手チームの風貌を見て行く。そこにはドレッドヘアのブラジル人らしき大型の兄弟のように顔が似ている男がいる。ほ~という顔の陽介はスパイクの紐を結び、

「マジで外人も混じってるな。それに水城さんの調査通りJユース代表が三人もいる。これは事実上の決勝戦だな」

「陽介、絶対に勝つぞ。勝つんだ」

 最近、明らかに調子が悪いときが見え隠れするタイヨウを心配し言う。

「タイヨウ、大丈夫か?」

「俺っちは問題ない。それより目の前の試合に集中だ。もしかしたら雨が降るかもしれない。また細工戦みたいな泥試合はカンベンだぜ。俺っちのイケメンフェイスが汚れちまう」

「ダボが何言ってやがる。まぁ、今日は準決勝だし観客もそれなりにいる。カワイイ子も結構いるからモテモテになれるな。目立ちたいのは俺もそうだがあんま無理すんなよ」

 顔色が最近優れず、夜も早く寝てしまうタイヨウを心配するが、本人は何も問題無いといい健康診断でも何も引っかからず病気というわけではなさそうだ。

 天候は崩れて行き暗雲立ち込める準決勝は今迄とは各段に違うレベルの相手だった。個々の技術も圧倒的に高く、金の力にものを言わせて将来有望な学生を国籍問わず集めた集団は明らかに都大会のダークホースだった。そしていつもと同じ昼行灯顔の前田監督は試合前の作戦会議に入る。そして桐生が破軍について補足説明をした。

「去年まではこんな学校じゃなかったんだがな。統廃合の煽りで公立から私立になり、その私立を運営する財団の圧力でこういう多国籍軍になったらしい。今はまだいないようだが、Jユース代表のファンタジスタ宝井一馬もいる。奴が来る前に試合を決定させるぞ」

 格上にぶつかるにはまず開始早々に奇襲をかけ、相手のペースになったらひたすら守りを固めカウンターの機会を待つ。勝つためには高い位置でボールを奪ってからの速攻。全員が意思を統一し、ピッチに散って行く。センターバックを務める鬼瓦は相手チームよりも味方チームの緊張感を感じ、初の目に見えた格上というのもあり多少萎縮するチームメイトを見て新入り同然の鬼瓦が桐生に言う。

「勝てるのか?」

「勝てる勝てないじゃない。ここで優勝すれば冬の全国大会はシードで本戦から参加できる。このアドバンテージは目と鼻の先だ。俺達が勝つのはテンプレ。行くぞ!」

 褐色でわからないが桐生の顔は少し固く疲れていた。ボールをタイヨウと蹴りあい開始時間まで足をならす陽介はまだ到着していないJユース代表の宝井について思う。

(宝井一馬? 誰だそれ? でもJユースのファンタジスタって事はキャプテンよりスゲーって事か。今はいないから関係ないか。集中、集中!)

 胸のエンブレムに手を当て集中しようとすると、鬼瓦が衝撃的な発言をする。

「待て桐生。俺はここに来た時、この破軍中学のスカウトマンに声をかけられた。聞けばお前も半年近く前から声がかかってるそうじゃないか。まさかこの試合にテンプレが負けたら転校し、今度は破軍で決勝を戦うって事はないよな?」

『――!』

 その鬼瓦の言葉にテンプレ学園全員に衝撃が走る。

 ボールの動きが止まるテンプレ側に破軍の連中も気付くが、特に視線を合わせず練習を続ける。そしてテンプレの10番は頷き語る。

「鬼瓦の言っている事は事実だ。俺は破軍から金銭で引き抜かれようとしている。これはスポーツに貢献する学生を助ける生活補助などのシステムと一緒で、国が三年前から定めた制度で違法じゃない。しかし今は試合前だ。答えは試合が終わってから話す。今は目の前の試合に集中しろ。行くぞ!」

 まばらに返事をしたテンプレイレブンは試合開始時間になり各々のポジションにつく。

 明らかに桐生の移籍騒動が影響する鬼瓦以外の選手は固くなっている。

「キャプテン……」

 じっ……と水城はグラウンドに立つテンプレ学園の10番を見据える。

 その水城の心配そうな視線に気付く陽介は憤慨し、

(試合が終わってからじゃ全部が遅いんじゃねーのかキャプテン……少しは水城さんの気持ちを考えたらどうなんだ!)

 そして、その移籍騒動がテンプレイレブンの心に暗い陰を落とす中、陽介が京乃と戦う為の試練とも言える運命の準決勝が始まった。


 FW・タイヨウ(11)陰松(18)

 MF・桐生(10)明石(7)木戸(19)永倉(5)安岡(4)

 DF・鬼瓦(2)藤堂(3)芹沢(15)

 GK・結城(1)

 控え・小泉(8)坂田(6)沙原(9)岡村(13)朝倉(21)


    11     18 

   

  19    10     5 

       

    7      4


  3     2     15 

    

        1   


 キックオフのホイッスルが鳴り、タイヨウが陽介にボールを蹴る。

(危っ!)

 ちょっと弱いボールに焦りながらトップ下の桐生にボールを渡すと、破軍中学の前衛はもう桐生に迫っていた。それに気が付いていた桐生は、

(――全員の寄せが早い。こっちの奇襲が読まれたのか? 流石にそれはないか)

 思いながら渡されるボールは前線に走る二人でも左右のMFでもなくやや後ろで控える鬼瓦だった。

「一秒パスが遅いぞ桐生。移籍先への配慮か?」

「ひきつけたのさ。決めろよ」

「造作もない」

 カッ! と目を見開いた鬼瓦は目の前に転がるボールを見据え――。

 ズゴウンッ! とレーザービームのような超ロングシュートを放った。それはグラウンド上空に放物線を描くように飛んで行き、相手ゴールのネットに突き刺さった。いつも通りV3のサインをする鬼瓦はチームメイトの祝福よりも自分の才能に酔いしれ、どれだけの戦利品を得られるのかに興奮する。するとブラジル人兄弟のマキロン・太郎が言う。

「キミ達、面白い事をするわね。でも、サッカー後進国の猿真似じゃあブラジルには勝てないわよ」

 その一点に全く動じる様子も無く、そのオネエような嫌味な言葉も爽やかな警告ぐらいの優しい口調でしか言わない。彼等にはもう同じ手は通じないという事だろう。それを察する桐生は叫ぶ。

「全員、監督の指示を思い出せ! 浮かれるのは勝ってからだ! 俺達は火薬庫に火をつけただけ。爆破するのはこれからだぞ!」

 その言葉で白髪をいじる鬼瓦以外は冷静になる。リスタートから相手は個人技を中心に中央突破を図って来る。ブラジル人兄弟のマキロン太郎・次郎はワンツーでタイヨウを抜き去り、桐生と対峙する。マキロン・太郎はボールをまたぐシザースフェイントをして揺さぶる。

(この切れ味、クリスティアーノ・ロナウド並だな。だが俺は負けない!)

 ボールは動いてない事を確認し、右足を出しカットする。だがボールは真後ろに抜けたマキロン・次郎が胸で受けていた。何故だ? と思う桐生は目の前のマキロン・太郎がヒールリフトの足の動きをしていたのを見た。

(ヒールリフトでカットされたボールを背後に!? マラドーナでもしないぞ! 多分)

 安々と桐生が突破された事でボランチの明石と右サイドのキッドなども中央よりになりマキロン兄弟を止めに行く。

「この試合のタイフーンは奴らだ! 迂闊だぞ皆の衆!」

 その鬼瓦の声も虚しく、ガラ空きになったキッドのいた右サイドにボールが放たれ駆け上がる破軍選手はダイレクトでセンタリングを上げる。中央に上がるボールを相手との競り合いに勝ちヘディングでクリアし、鬼瓦は左右に指示を出しディフェンスラインを下げた。セカンドボールを拾う為に明石が足を伸ばすが、マキロン・太郎にシュートを放たれる。それを鬼瓦は飛び蹴りのような形で弾き倒れ、

「ゴール左右を固めろ! キーパー動くな!」

 こぼれ球をまたシュートされ、近いニアサイドにいた藤堂が執念で身体ごとボールをブロックしに行くが、藤堂の股をボールはくぐり抜けネットを揺らした。

 唖然とするゴールキーパーの結城はボールではなく鬼瓦を睨む。

「おい、新入り。ワシはワシのスタイルがある。勝手に指示を出さないでくれないか?」

「練習中から常にそうだがお前はろくにコーチングをしない。だから俺がコーチングをしたまでだ。今のもコースが限定されてたんだから取れたはずだ。藤堂のせいにするなよ」

「不真面目な奴に言われたくはない」

 結城は明らかに不機嫌な顔をするが、その場はそれで収まった。

 点を決めてからわずか二分足らずで同点にされたテンプレ学園は当初の作戦の初めは怒涛の攻撃を繰り広げ、相手を牽制してから守備重視のカウンターという事などなかったかのように防戦一方になる。肝心の桐生はエースキラーと呼ばれるMF錦という前髪の揃った蛇のような男にマンマークされ動けずにいた。鬼瓦はプレスをかけられない不甲斐ない前線と個人技に翻弄され続ける中盤を叱咤する。

「さっきからマキロン兄弟の個人技に飛び込んでボールを奪おうとするから簡単にかわされ、サイドを使われるんだ! 両サイド中央により過ぎだ!」

「前線! もっと前からプレスをかけてパスコースを限定させろ! 寝てんのか?」

「全員そうだが、特に桐生と明石、相手の対応でいっぱいいっぱいになりボールウォッチャーになるな! 頭と身体は動かし続けろ! 足が止まってんだよ!」

 十分近く続く一方的な攻撃をディフェンスラインの三人とGKの結城だけで防いでいる。他のメンバーは鬼瓦が檄を飛ばすように、相手の個人技に呑まれる体たらくだった。

「未完成だが、トリプルタイフーンをかますか? いや鬼瓦26の秘密を解放するしかないか?」

 独り言を呟き悩む鬼瓦に、左右の藤堂と芹沢は困惑する。

 そして桐生のスルーパスに走る陽介はマキロン・太郎に潰され地面を転がりチャンスを生かせない。立ち上がりマイボールかと思うが線審は破軍ボールだとフラッグを指示しイラつくが我慢した。しかしオネエのような口調のマキロン・太郎が突っかかる。

「ウフフッ。キミ達は才能の無い選手の寄せ集め。複数のポジションを中途半端にこなすキミ達とは違い、完全にこなせる人間がピッチ内の半分以上を締め、この年代の代表のエースがいるんだから諦めなさいよ」

「ダボが。諦めない。俺たちは負けたチームの誇りを背負っている。そんな事もわからないお前達に負けるわけにはいかねーんだよカマ野朗」

「アタシャ、オネエよ! 何が誇りなの! ザコに誇りなんかあるわけないでしょ!?」

 フンッと陽介は無視して試合に頭を切り替えた。今すぐこの男を殴りたい気持ちを全てチームが勝つ為のエネルギーにする。口論や暴力でサッカーの勝敗がきまるのか? という第二試合の明石の言葉が心の支えになっていた。

 その時、金髪を湿った風に揺らし破軍のジャージを着た陽気な少年がサッカーグラウンドに向けて走って来た。その少年は監督にごめんちゃーい! とおどけながらジャージを脱いでアップを始める。それに桐生が気がつく。

(とうとう来たか……Jユース代表の10番・宝井一馬。どうせまたその辺でサッカーの試合を見かけて混ざってプレイしてたらこの試合を忘れてたんだろう。あいつは俺の事は認めているが、俺はあいつから10番を奪っていつかJユースでもエースになる。天才だかなんだか知らんが、あいつには負けない……)

 溢れ上がる感情を抑えつけ褐色の狼はその宝井を見据える。

 相手の破軍中学は個々のレベルが高いのはもちろんだが、各々のポジションをこなす職人肌の選手が多い。テンプレ学園も複数のポジションをこなすなどユーティリティプレーヤーが多いが平均的で一芸に秀でた癖の強い選手がいない。その差が一人の相手に対して二人でかからなければならなくなり更にテンプレ学園のペースは乱れる。その光景に我慢がならない水城は何も言わない前田監督に進言する。

「監督、このままじゃどうにもなりません。もう一気に攻めないと一つの失点からチームは総崩れです」

「まだ開始早々からの双方のゴールだけで試合は動いていません。そろそろ相手の特徴を捉えて来たようですよ」

「でも、このままじゃ!」

「落ち着きなさい水城さん。焦るのは陰松君がわめき始めてから。彼がまだ冷静にカウンターのチャンスを狙って相手のDFと駆け引きしているのがわかるでしょう?」

「!」

 ピッチ上で常に自分の意思を体現し、気分屋でテクニックもさほど無い唯我独尊気取りの男が自陣まで下がり地味なディフェンスをひたすら繰り返し、相棒のタイヨウと共に虎視眈々と野獣の牙をひた隠して相手のゴールに噛み付く瞬間を待って耐えている。その刹那――。

 破軍全体が前がかりになる背後のスペースを狙い桐生からロングボールが放たれた。それに二人の野獣が反応した。そしてテンプレ学園の怒涛のカウンターが開始される。

「よく耐えたな陽介。チームもお前を信頼してるしもう一人でも大丈夫だ」

「何、意味わかんない事言ってやがる。サイドに開け!」

 ボールを受ける陽介は左サイドに開くタイヨウを横目で確認しつつエースキラーの錦とのマッチアップになる。ハーフウェーラインにいる審判から見られないようにスライディングを仕掛ける錦は微かに足を上げ標的をボールから膝へとターゲットを変える。

「――壊れろ」

「キャプテンの時からそうだが、やる事が単純過ぎて読めるぜ!」

 ボールと共にジャンプしてスライディングをかわし突破する。しかし、身体を旋回させ回し蹴りのように背後から捕食するようボールに迫る。その足がアキレス腱に当たりながらも根性で陽介は走り、左に流れたタイヨウによって空いた右サイドにキッドが駆け上がる。放たれたボールを受け取ると、キッドは右足でシュートを打つと見せかけ中に切り込み左足でシュートを狙う。

『キックフェイント?』

 珍しくフェイントをかけたキッドに下手だと思っていた相手チームも驚き、キッドはシュートを放つ。キーパーはかろうじて足で弾き、ポストに弾かれる。

(フットサル仕込みの足技。やるなキッド)

 思う陽介はDFの影に隠れるよう動く。そのこぼれ球にマキロン・次郎と明石が猛然と突っ込んだ。破軍はあの体格差ならマイボールだと判断し、ゴール前から去り出す。陽介とタイヨウはじっ……と明石を見る。

「ドケ、チビナス!」

「――っ、痛いな。君はこれから調教してあげるよ!」

 タックルで吹き飛ばされ、顔面を地面に叩きつけられながらも明石は執念でセンタリングを放つ。すでにカウンターを狙おうとゴール前を離れていた破軍の全てはボールウォッチャーになる。

『信じてたぜ、明石――』

 ゴール前の赤と黒髪の二人は同時に飛び上りヘディングシュートをした。

 そして前半二十五分に待望の二点目を決める。しかし、陽介とタイヨウはもめていた。

「今のは俺のゴールだろ? 何邪魔してんだ?」

「お前はタコか? 今のは俺っちのゴールだよ。ほら、審判も俺っちって言ってるし」

「おい審判! 今のは俺の……ってマキロン兄弟笑ってんじゃねーぞ! そのデコにマキロン塗りたくるぞコノヤロー!」

 どちらがゴールを決めたかの論争は審判や相手チームを巻き込んだ問題になる。

 その光景を自陣ゴール前で見つめる鬼瓦は結城に向けて言う。

「くだらん奴らだ。俺は無駄な争いは嫌いだ。コーチングが無い場合は俺の判断で動く。必要があれば指示を出せ。そこが妥協点だ」

「是非もあらず」

 フッと二人は笑い合いディフェンスラインは一つの答えが出るがその後、連続して二失点もした。ついにユース代表のエース、宝井一馬が現れたのである。たった五分で二点に絡みその基点になった金髪の男に驚愕する。

(相変わらずだな宝井。後半から雨が本降りになりそうだし、この試合で勝てる確率は十パーセントに落ちたかもな)

 そしてハーフタイムになり作戦会議になった。髪を金髪に染め、一人グラウンドでボールを蹴る宝井を見据えながら陽介は言う。

「とうとう来やがったな。あいつはパサータイプの才能もあるFW。マキロン兄弟はおそらくトップに上がんだろ。中盤を支配するのは宝井だな」

「この調子だと宝井君にゲームまで支配されますね。まともにアップもしてないのに五分少々で彼を基点に二失点。おそらく彼は後半から積極的にゴールを狙って来るでしょう」

 前田監督の言葉で戦慄が走る――。

 あんな次元の違うプレーヤーに中盤がパサーだけの役割でないとなると、もうファウルでしか止められない。すでに前半で桐生、明石、タイヨウの三人にイエローカードが出ている為テンプレ学園側ももう激しくはいけない。だが、前田監督はあえて攻めろと言う。攻めて、攻めて、攻めて行けば相手からは攻撃されない。そして激しく攻める中、セットプレイで確実に点を入れるしかない。全員が最後まで走れなくなる覚悟をし、頷く。そして水城がキッドの居酒屋から配られたゼリー飲料を配布する。

「ハーフタイムはまだあるわ。みんなちゃんと身体も頭も休めて。蜂蜜レモンの輪切りもあるからどんどん食べて後半に備えて」

 地獄の門前に立つテンプレ学園の面々はしばしの回復に専念した。すると、

「あ、雨か――」

 サァアアアッ――と暗雲が立ちこめていた空が泣くように雨が降り出した。まだ小雨の為、試合が中止される事も無く両チームの選手の心に一抹の不安を植え付ける雨は次第に強さを増して行く。

「細工戦でぬかるんだピッチには慣れてる。スパイクを固定式から芝や雨用の取り替え式に履き替えろ」

 そう言われスパイクを履き替え終わると、陽介はタイヨウがいないのに気付く。

 中々トイレから帰らないタイヨウを見に行くと、銀竜のキャプテンである権藤に抱えられて歩いてくる男がいる。

「タイヨウ……?」

 駆け寄ると権藤はタイヨウを壁際に置いて座らせた。

「途中の通路で倒れていたぞ。この様子だと試合は無理だな。メンバー変更はキツイだろうが期待してるぞ」

 言い、権藤は銀竜のチームメイトと共に姿を消す。壁にもたれかかるタイヨウはフラフラの状態のまま立ち上がろうとするが立てない。

「午後からは晴れる予定になってたんだけどな。午後も駄目そうだ」

「おいっ、タイヨウ? もう休め。この様子じゃあ無理だ」

 フラフラになるタイヨウを陽介は抱えた。身体は異様に熱く、ハーフタイムにも関わらず汗が吹き出して流れている。呼吸は荒く、とてもサッカーが出来る状態ではない。だが、その赤毛の少年は地を這うように前だけを見据え歩いて行く。

「このチームで勝つんだ。お前は勝ちたくないのか……」

「勝ちたいさ。けどお前がそんな状態で勝てるかよ。決勝には俺達で行く。お前は休んでろ。太陽はもう大丈夫だろ? 俺だってもう太陽なんざ恨んじゃいねーよ」

「俺っちの身体がもたなくなって来てる以上、そうかもしれない。けどまだ決勝がある。せっかく鬼瓦も加入して最高の状態にあるのに負けるわけにはいかない」

「まだハーフタイムだぜ? 俺達は絆の力じゃあんな金目当ての奴等には負けない」

「無理だ……今日の相手は確実に格上でプロ意識が高い。スタメンを交代させたら勝てない」

「無理かどうかはやってみなきゃ……」

「勝つんだっ! 今日勝てば俺っちはどうなってもいい……京乃主税との決勝で全ての答えを見せてくれ陽介」

(何だ? どうしちまったんだタイヨウの奴。まるでこれが最後の試合のような感じじゃねぇか……)

 明らかにおかしいタイヨウに陽介は声をかける事も出来ない。熱い身体の水分を蒸発させるように蒸気が放たれている為、水場の蛇口を全開にし顔を冷やさせる。一気に放たれる水を頭からかぶり、地面を流れる水から湯気が立ち恐る恐る触る。

「……水が熱い。お前どうなっちまったんだ? 俺はもう太陽なんか恨んじゃいないし、精神的にも落ちちゃいない。俺が太陽を好きになればお前は救われるんだろ? 太陽はもう消えないんだろ? この二ヶ月近くで自分で言うのも何だがだいぶ成長したぜ?」

「そうだ。今のまま成長すればいい。俺っちは元々人間ではない。この仮初めの身体にも限度がある」

「タイヨウ、まさか……」

「この試合、みんなで勝つぞ陽介」

 ケツを叩かれ陽介はグラウンドに向かうタイヨウを見送る。

 開け放たれていたその蛇口は、グニャリと歪んでいた。

 満身相違のタイヨウは小雨の天候を見て思う。

(俺っちの役目も……終わりって事か?)



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