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二幕~過去からの挑戦~

「やけに雨が降るな――」

 六月の頭の関東地方は記録的な豪雨をもたらし、市民の足である電車、バスなどの交通機関なども大幅に乱れ、交通機関だけでなく経済にも打撃を与え始めていた。テンプレ学園がある東京都の調布にあるテンプレ学園の近くにある多摩川は増水し、近寄る事も禁止されていた。部室で着替える陽介は窓の外の様子を見てそうつぶやき、キッドから文句を言われているのを無視していた。やれやれと言った顔で明石とタイヨウはストッキングをはいて脛にレガースをはめている。

「この前はゲーセンいたのにバックレやがってよー。焼きソバパン買って来い」

「だから明石がまさかあんなピンピンしてるなんて思わなかったからな。結果的にいいじゃねーかよゲーセンでかわいい女の子のアドレスゲットしたんだろ?」

「それがよ! あれから連絡ないんだわ! もう一週間近くたつけど連絡無し。やってらんねーよ」

「……あの駅前のゲーセンだよな。写メ見してみ?」

 ふと、何かを思い出した陽介はキッドにナンパした女の写メを見せてもらう。その茶髪のギャルの顔を見た陽介は心の中で笑う。

(この女が渡したのはダミー携帯のアドレスだよ。俺もナンパしてしくじったからな)

 自分も失敗を棚に上げて愉悦に浸る陽介は次の写メを見せられる。

「そういえば、お前に見せなきゃならんもんがあったわ。テンプレ学園のサッカー部の陰松の知り合いですって言われてメアドゲットした女の子。っても小学六年なんだが、この子知ってるか? 黒髪の美少女だけど、いかんせん冷たいってか暗いんだよ」

「冷たいってひどいね。君がしつこくしたんじゃないのキッド?」

「いや、この子は自分から写していいって言ってきたんだよ明石……って信じろ」

 フフフと笑う明石にキッドは説明する。その間、画像が切り替わる写メールを見る。そこにはサッカーのユニホームを着た黒髪ロングの日本人形のような冷たいオーラを放つ美少女が写っていた。その顔を見た陽介は思わず息を呑む。その顔をタイヨウは見逃さなかった。

(こいつ……主税……京乃主税の妹の樹音きおん。あの去年の夏の事件以降、樹音はサッカーを嫌悪して完全にやめていたのにまたユニホームを着ている……。やっぱ月光学園に転校して主税がサッカーを続けていたのは本当だったようだな。オッサンの奴、最近姿を現さないから聞くに聞けないぜ)

 少し前にオッサンが言っていた京乃主税の退院とサッカー復帰が本当だと思った。主税が去年の夏の練習試合で倒れて以降、そのショックで樹音はサッカーを止めていたのを陽介は知っていた。そう考えてる間に着替えが終わり練習が始まる。チーム対抗のゲームやセットプレイの確認練習が終わった後、居残りでフリーキックの練習をする陽介とタイヨウは泥まみれになるユニホームやスパイクも気にならないように蹴り続ける。雨は強くはないがサッカーをやるにはもう地面がだんだん水溜りのようになってきており、練習に適さない環境になってきている。何かしゃにむにになってボールを蹴り続ける陽介にタイヨウは、

「何かわかったのか? 太陽を消滅させる特異点にまでなった原因は?」

「……ある程度はな。今は次の試合に集中する。原因究明はそれからでいいだろ?」

「あぁ構わないさ。夏休み前にまで解決すればな。解決しなければ太陽だけじゃなく、地球も死ぬって事だけは忘れるなよ?」

「わかってる――さっ!」

 少し軸足のふんばりが効かないシュートだったが、その無回転フリーキックは微妙な風の影響を受けブレながら左隅にスパッと決まる。すると、浅黒い肌を雨に濡らす色男がグラウンドに現れる。

「何だ。さっきの練習より入るじゃないか。今の感覚を忘れるな」

「いや、キャプテン。やっぱ試合中は壁もあるしまだまだですよ」

「壁が無くてプレッシャーが無いのもあるが、練習後の力が抜けた状態なら入る……なら七割ぐらいの力で打てばいい。フリーキックは全力で打ったからといって入るものでもない。それは試合にもいえる事だが、70分間ダッシュをしないでジョグだけでボールを回して点を取れたら楽だろう?」

「要は結果って事ですねキャプテン?」

 足元の泥まみれのボールを浮かし手に持つタイヨウは言う。

「そうだ。ジョグだけで試合が終わるなんてないし終わっても観客は納得しない。力を抜ける所は抜いてやらないと体力も気力も持たず、これから先の強豪には勝てない。特に雨で地面がぬかるんだ試合はな」

「はい。ありがとうございます。後、三十打ったら帰ります」

「キッカーはどれだけいても問題は無い。いつかはお前の出番が来てもいいように練習しておけ。雨も強くなってきた。ほどほどにな」

(キャプテンの奴。俺に期待してるな? 水城さんを奪われる事も知らずに……)

 その桐生は校内放送の呼び出を聞いてグラウンドから消えていく。

 フリーキックの練習をきりあげた二人は部室前まで走って戻り、着替える。桐生を探しにグラウンドに来た水城はキョロキョロと周りを見渡し、桐生以外の誰かも探している。

「……ここには奴らは来てないか。校内に止まっていた黒い車は金で選手を集めている破軍中学のスカウト連中の車。まさかキャプテンを引き抜く噂は本当だったのね。去年から見学に来ていたオヤジ達の後をつけたら破軍中学に行き着いた。あの学校は近年、金の力でほうぼうから優秀な選手を買い集めている学校。キャプテンがいなくなったら私のIFKが……」

「キャプテンがいなくなる? 何で?」

「あ、タイヨウ君?」

 着替えが終わり部室から出てきたタイヨウの声に驚いた水城はあたふたする。

 適当にはぐらかした水城は風邪をひかないように早く帰りましょうと久しぶりに三人で帰る事になる。さっきの独り言を聞かれた為にタイヨウを避ける水城は珍しく陽介をサポートするような事を話す。

「陰松は一列目だけじゃなく、二列目に下がりMFと連携を取り飛び出していくスタイルも取り入れる。そうすれば、タイヨウ君と陰松の連動性が上がり敵のマークも外し易い。そして、パワーのある無回転フリーキックは風の無い時はブレ玉になるから武器。練習では外してるけど、めげずにガンガン行きなさい。貴方にはオンリーワンの才能があるわ」

「はっ、はい!」

 隣で嬉しそうに話す陽介を優しい瞳で見つめるタイヨウは、

「俺っち達はこれからマックに行くけど水城ちゃんも行くか?」

「ゴメン、タイヨウ君今日はパス。ちょっと計画が忙しくて。知らないと思うけどこの学園はどの部活でも決勝まで行けば学園がサポートしてくれて内申書も評価が上がり、将来の自分に還元される事が多いのよ。その還元を学園側に部活での結果以上で返し、私はIFK計画を高等部に上がる前に成し遂げるのよ」

「ふーん。まぁいいや。じゃね」

「またデートしようねタイヨウ君!」

 興奮する陽介を盛り上げるだけ盛り上げて、十字の分かれ道でそそくさと逃げるような水城と別れた。それを聞いた陽介の喜びは怒りに変わる。

「おい! お前いつデートしたんだよ! ダボが!」

「うるせーな。誘われたんだよ。行きたければ自分で誘えチェリーボーイ」

 鼻で息を吐くタイヨウは水城の話も気になるが、この止まない雨は間違いなく陽介の心の変化に伴うものだと確信していた。とりあえずぶつくさ言う相棒に水城はお前をちゃんと見てくれていると説得し、納得させた。

「タイヨウが隠れてデートしたのはムカつくが、キャプテンだけじゃなくて水城さんまで俺を応援してくれている。いよいよ俺がエースFWにならねばならんな。水城さんも次の試合で俺にメロメロだな。次の試合が待ち遠しいぜ……でも、雨が止まなかったら中止か?」

「このままだと中止とキャプテンが言ってたが、正直わからん。前にも言ったがお前の精神状態は確実にこの関東の天候に影響し出している」

「うーむ。おそらくこの前の試合のせいだろう。今は調子がいいから週末までは晴れるだろ。水城さんの笑顔で日本晴れよ! ハッハッハ!」

 調子に乗る陽介は傘を天に掲げてシュルル! と旋回させ雨粒を弾き飛ばす。

(そう、天候は確かに陽介の精神状態によって左右される部分はある。けど、これは何か大きな……陽介が太陽を消滅させるほどの特異点になったきっかけとなるほどの出来事の根本的な問題が原因しているんだろーな。特に最近は陽介の精神状態が落ち着かずかなり揺らいでたかのは最近の雨の多さで証明されてる。次の試合で結果を出せば次第に天気も良くなり晴れていくだろう。おそらく、陽介が特異点となったその原因と対峙する時は近いな……)

「水城さんが言ってたけど、次の試合の細工中学は地味で体力勝負のチームみたいなんだな。まー、慎重にいけば負ける相手じゃないってキャプテンも言ってたぜ」

「詳しいな。気合の現われか?」

「何度も言う通り俺はテンプレのエースFWになる男だからな! ぬかりは無い」

 翌日も雨は止まずついにグラウンドでの練習は不可能になり室内での練習に移行せざるを得なくなった。階段ダッシュなどの基礎体力メニューをこなし、ボールを使ったトレーニングはここ数日していない。前田監督も止まない雨に頭を抱え、この雨は週末の第三試合当日まで降る可能性があるという。

 しかし、体育館でバレー部やバスケ部が練習をしてない時間を狙いミニゲームをして士気を高めていたサッカー部に光明が差す。降り続いていた雨も明後日に試合をひかえた今日はついに止み、一日の晴れ間をおいて試合に挑む事が出来る。これなら当日には地面はだいたいは乾燥しだしているだろう。全員が楽観的な思いを抱き試合前日の夜を迎える。

 自宅の部屋で入念にストレッチをする陽介はシエルと遊ぶタイヨウと話していた。

「キッドから聞いたんだが、隣町にフットサルコートがあるみたいなんだ。そこは外だけど屋根がある場所らしいから行こうぜ。雨が降っても問題ねーし」

「キッドからの話だと、かわいい女でもいるのか?」

「そうだろうな。でも俺は水城さん一筋だから関係ない」

「ふーん。そうだといいがな」

 その冷ややかな瞳に陽介はドキッとする。下心を見透かされ、あーあーと何故か発声練習をする陽介は全然練習などしていないモテアイテムとして買ってもらったギターをかき鳴らし、タイヨウに歌えと言いタイヨウは笑いながら即興で歌い始める。その音は下の階に伝わり家族にうるさい! と言われても止まない。逃げ場の無いシエルがもうやめてくれ……といわんばかりにニャ~と鳴き夜は更けて行く。





 そのグランドは沼地だった――。

 連日降り続いた雨の影響で試合会場の土のグラウンドはグチャグチャで足を取られる状態だった。最悪のピッチコンディションの中、ほとんどの選手がこの状態に対応しきれない試合に挑まねばならない。雨でグラウンドが濡れてグショグショになる予想はしていたが、一昨日の段階で晴れてしまった為に準備を怠っていた。三回戦の相手の細工中学は過去に試合の不正があり、一年間の公式試合出場停止をくらった曰く付きの学校だった。

「おい、タイヨウ。やけに今日はぼーっとしてるけど大丈夫か? アレのしすぎか? いいエロサイト見つけたら教えろよ」

「タコが。大丈夫に決まってるだろ。それよりこのグラウンドの心配をした方がいいぜ」

「だな」

 二人はスパイクを沼地に沈め、真新しいボールを地面に落とす。グニャリ、グニャリと底なし沼のように沈む足取りは重くまともにドリブルが出来る状態ではない。

「昨日は晴れていたのにこのグラウンドは少しおかしいな。まさか……? まさかな」

 そして、ウォーミングアップが終わり作戦会議になる。やはりこのグラウンドでの戦い方に前田監督は言及し、なるたけロングボール主体のテンプレ学園が苦手とするパワープレイにもっていかざるを得ない状況だった。気分が沈むテンプレ学園の面々にベンチの奥で爪楊枝をくわえながら無精髭の男が言う。

「あまり他校の悪口は言いたかないが、細工中学はグランドをちょいと細工しちまったようだな。細工だけに」

(オッサン、試合になると来るな。今は反応しないぞ)

 空気を察したのかオッサンはレレレのおじさんのようにそそくさと退場する。そして前田監督が話す。

「彼の言う通り、細工中学は過去にグランドに穴を掘ったりコーナーキックのエリアの一部を滑りやすくしたり、審判に金品を渡し自分達に有利になるようにしていた事例があります。しかし、それは過去の事で今は何も不正はありません。余計な詮索はせず、目の前の試合に集中しましょう」

「相手も同じ条件だ。一人、一人の技術はこちらが上。勝つのはテンプレ!」

『テ・ン・プ・レ!』

 桐生の掛け声から始まる円陣が終わり、テンプレ学園のメンバーはピッチに散る。今日はあまり眩しくない太陽を見上げる隣の赤毛の男にボールを蹴り、キックオフとなった。


 FW・タイヨウ(11)陰松(18)

 MF・桐生(10)明石(7)小泉(8)永倉(5)安岡(4)

 DF・藤堂(3)芹沢(15)朝倉(21)

 GK・結城(1)

 控え・沙原(9)木戸(19)坂田(6)時口(12)岡村(13)


     11    18  

          

   8    10    5


      7    4 

       

   3    15    21


        1     


 前田監督の指示はロングボールを多用し、ドリブルはなるたけ避ける。それを徹底するテンプレ学園はまず試合の主導権を握った。

(ケッ、ブサイク中学がよ)

 特に特徴の無い顔の選手が多い白と黒のシマシマのユニホームを着る細工中学をそう嘲りながら陽介はサイドに流れ敵を引きつけタイヨウをフリーにする。防戦一方の細工中学は何度かゴールを脅かされる。

『何だ? こいつらの動きは?』

 しかし、細工イレブンのあまりにも機械的な動きに不快感を感じる。組織的でまるで誰かの意思の下に動く兵隊のような無駄のないサッカーにつまらなさすら水城は感じる。

「立ち上がりは悪くありませんね。ですが細工中学は技術よりも体力のチーム。メンバーの身体は細いけども体力はおそらく中学のサッカーチームでもトップに入るでしょう。どう思いますオッサン君」

「このチームの欠点である立ち上がりの悪さを克服したのは評価出来る。問題は前半でどれだけのリードを広げられるか。後半は地獄になるだろうからなー……っとう食いたい」

「相変わらずの戦術眼ですな。オッサン君」

 その二人の会話に水城は多少の違和感を感じ、泥を跳ねさせながらボールを追いかける味方を見る。相手のチームは確かに技術では前回の試合相手である銀竜にも劣る。

(全員が平均的なプレーヤーでウチのキャプテンとかみたいなエースは存在しない。体力だけのチームに負けるわけないわ。ホラ、もう先制点……あいつか)

 開始七分で先制ゴールを決めた陽介は無駄にはしゃぐ。

 パンパンパンッ! と桐生はメンバーに浮かれるなとうながす。何だあいつは! と思いながら陽介は桐生とタイヨウが話しているのを見る。すると、ボールを持つ細工のキャプテンの田代が話しかけてくる。

「流石はJユース代表の桐生のいるチームだ。いい動きをする」

「今のゴールは俺様、陰松陽介様のゴールだ。この調子ならハットトリックは楽勝だな」

「そうかもな。このチームもスポーツマンシップがあり、話が通じそうだ」

「話し? それより、お前達機械的過ぎて怖いんだけど?」

「俺達は一つの目標に向けて動いてるからな。廃校もあるし、監督も胴上げしたい。全員の意思が一つになったこのチームは強いぜ」

「? はいこう? 排水溝が詰まったのか? 泥が耳に入ってたわ。くそっ!」

「そのうち足も頭も止まるぜ」

「?」

 田代はフッと笑い、センターサークルにボールをセットしリスタートする。

 それから少しずつ敵も攻め始め、テンプレ学園はカウンター重視のロングボール主体の攻撃になる。

 そのバスケのような速攻、カウンターの上下動に陽介は泣き言を言う。

「ったく! バスケのアリウープを決めるわけじゃねーんだぞ! こんなロングボール主体の攻撃じゃあ、体力が……」

「体力が?」

「あ……あああっ、あるさ! ありありアリウープ最高! ダーボー!」

「……意味わかんねぇ。けどそのテンションは良い。日差しが強くなってきたから、地面の渇きも早くなってきた。後半ならまともな地面になるかもな」

 すると、細工イレブンもぬかるんだ地面に慣れたのか怒涛の攻撃を仕掛けて来た。前がかりになっていたテンプレ学園は裏のスペースを突かれる。ロングボールに走り込んでいた相手FWはバシッ! とダイレクトボレーを叩き込む。あまり危険な攻撃が無かった為、空手の型をするなどして緊張感が切れ、一瞬反応が遅れる結城はゴール左隅にジャンプするが手が一つ分届かない。

「ぬうっ!」

 ディフェンスラインまで下がって来ていた桐生がそれをギリギリクリアする。ボールはタッチライン際に転がるがそのままタッチを出るかはわからない。そのこぼれ球に田代と明石が競り合いながら殺到した。

(この距離なら間に合わない。スローインだ)

 スッと明石は競り合うのを止め、田代にボールを譲る。気迫溢れる田代はもう白線に乗るボールに対し諦める事をしない。

「相沢ーーーっ!」

 ズザアァッ! と泥まみれになりながら転がる田代は味方にボールを繋いだ。焦る明石はチェックに入るがセンタリングを上げられる。全員がボールウォッチャーになり足が止まってしまい、ゴール前に待機していた八木にヘディングシュートをくらい失点する。それを見る陽介は少し前と明らかに違う敵の生命力溢れるプレイに疑問を感じた。

(何だ? こいつ等の動き……このグランドに慣れてる? いや、そんなはずは……)

 突然の怒涛の攻撃に呑まれるテンプレ学園のイレブンは言葉を失い相手チームを見る。前田監督はその一連の流れを見て今迄の相手の出方がおかしいと思っていたが杞憂だと判断した。

(あえてグラウンドに水をまいたとしても、対応出来ないのに水をまくはずがないと思っていましたが細工中学もただすぐ対応出来なかっただけのようですね。作戦かと思いましたが彼等は慎重なチームなのを忘れていました)

 その左隅にいるオッサンは鷹のような鋭い眼差しで細工イレブンの動きを注視している。ふと、マネージャーの水城から視線を浴び、またニターッという顔をして笑う。

「何か敵についてわかりましたか? 体力に自身のある敵は後半から怒涛の攻撃になると思ってましたがもう攻撃に出ましたね。流石に1点決められて焦ってるんですかね?」

「そうだね。水城ちゃんのキュートさに焦っているんだよ彼等は」

(何このニート。やっぱ、陰松の関係者は駄目な奴しかいない)

 水城に振られるオッサンは目を細め戦況を見る。

(向こうの大島監督も一筋縄じゃいかないみたいだな。チームの戦術は選手に叩き込んであるのかずっとベンチで黙ったままだ。このままだとテンプレは負けるな)

 そして、テンプレ学園はコーナーキックから陽介が空振りした球をタイヨウが押し込んで1点決めてから2―1の状態で前半が終了した。




「みんなスパイクの裏の泥を取るからスパイク脱いで! ほら、監督もオッサンも手伝うのよ!」

 女王水城に急かされ監督もオッサンも控え選手と同じようにレギュラーのスパイクの泥を取る。すると、キョロキョロと陽介が泥まみれのスパイクを持って誰かを探している。

「どうした陽介?」

「またあのキッドの野郎がいないんだよ。俺のスパイク磨かせてやろうと思ったのに」

「すねてどっかで泣いてるね。キッドは連続して試合に出れないと小学校時代からそういう行動に出るんだ」

 スッとアロエヨーグルトを食べながら現れた明石が言う。その明石はじっ……と遠くを見ているタイヨウが気になる。その視線の先には試合を観戦している数人の中年の男がおり、桐生はスーツを着た中年の男達に監視されるように見つめられていた。それに水城もようやく気がつく。

(破軍のスカウトね。今キャプテンに抜けられたらこのチームも勝てないし、私のIFKが完成しなくなる)

 その頃陽介はキッドが見当たらない為、スパイクはオッサンに任せて泥だらけのユニホームを脱いで水場で頭も洗う。いまいち調子が優れないタイヨウは調子を取り戻したのかいつものようにじゃれてパンツを脱がせようとしてくるが、素直に脱がされ裸になり全身の泥を落とした。いつの間にか明石やチームメイトも裸になり身体を水で流している。

「攻め続けた分、相手より俺達の方が泥汚れが酷いわ……って、明石デカイな。羨ましいわ」

「フフッ、僕達はまだ成長期だからね。まだデカくなる。キャプテンなんて完全に大人だよ」

「え、キャプテンのも見たことあんの? あいつデカイのか! そいつで水城さんを……」

「僕は全員のサイズを知ってるよ」

 意味深な事を言い明石はユニホームを絞り着替える。濡れた赤毛をふくタイヨウは誰かを発見して止まる。

「お、キッドがいるぞ。しかもホース持ってる。やべっ、総員撤収!」

「オラ、スタメン連中! 何ハーフタイムにチンコ出して遊んでるんだ! 俺を試合に出させろ!」

 突如現れたキッドはホースの水をチームメイトに浴びせる。まるで大浴場の水かけ合いになる戦争のような状況を皆は楽しんでいたが、一つの怒鳴り声がそれを止めさせた。

「お前等監督の指示も聞かないで何やってんだー! 早く試合に戻れーーーっ!」

 と水城に激怒され裸の集団は急いで着替えてグランドに戻って行く。その光景をまばたきを一切せず凝視している水城に明石はつぶやく。

「キャプテンがいなくて残念だったね。それとももう見てるのかな?」

「あ、阿保明石! 早く戻れ!」

 スッと水城の蹴りを交わす明石は2―1で勝っている後半戦に臨んだ。


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