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NO PAIN NO GAIN

銀竜中学の校舎はスプレーで落書きされていたり、到る所にタバコの吸殻が落ちているいかにも落ちぶれた生徒達の集まりというのが伺える中学校だった。男女共に基本的に誰かとつるんでいて自分の縄張りを主張するかのように近づく者を威嚇し、時には喧嘩沙汰にもなる。そんな荒れた中学ではあるが、その分上下関係や身内の結束力も高く運動系の部活ではどの分野でも秀ででいて、特に野球部が全国でも知られる強豪校でもあった。清掃員がタバコの吸殻などを掃除する校舎の中を、テンプレ学園の生徒達が行く。

「おい、あれがJユース代表候補の桐生か。確かにデカいな」

「おら、Jユース代表に選ばれたからっていい気になってるんじゃねーぞ! ガン黒野郎!」

「あいつだぜ、ウチのキャプテンにケンカ売ったガリガリ君」

「ハハッ! 確かにガリガリ君だ。アソコもガリガリ君じゃねーの?」

「おーい! 水城ちゃーん! 結婚してー!」

 休日にも関わらずグランドの金網をグルリと取り囲む不良連中は耐えずテンプレ学園の生徒に罵声を浴びせ、盛り上がる。

「ほほっ、元気なものですのぅ」

 そんな喧騒も気にせず自慢の白髪をかきあげながら監督の前田は悠々と自軍のベンチに向けて歩く。だが、テンプレ学園の部員は睨み返すものが多く桐生はそれらを戒める。

「敵は銀竜のサッカー部だ。アウェイならこんな事は当たり前にある。海外のクラブが日本に来たら歓迎している映像を見てそれが当たり前だと思っているようだが、敵が来て歓迎するのは日本だけだぞ」

 その言葉で部員達は黙ってベンチに荷物を置き着替え始める。

 相手の銀竜中学のホームユニホームはオレンジでレッドがホームカラーのテンプレ学園は敵味方の識別をはっきりさせる為、ホワイトのアウェイユニホームに袖を通していた。

 すると、ハーレーダビッドソンに乗った黒いライダースジャケットを着た中年の男が現れ金網の不良共を一掃した。隣にいる金髪の美女がヘルメットを取ると騒いでいた不良共が一様に息を飲んだ。そして、バイクから降りると一人の不良を呼び、実況席を作れと命じた。それを見る陽介は、

(オッサン……また来たのか。でも今回は無視するぜ。なんせ水城さんがかかった大事な試合だからな)

 チラッとベンチの左端にいる水城を見るが、完全に朝から無視されている為に声もかけれなくなっている。桐生は用意された実況席に座るオッサンを少しの間見ると、全員にアップをするよう命じた。監督の前田は湯のみのお茶を飲みホッとした顔でグラウンドを見ている。グラウンドに立つ権藤はベンチに座る陽介を見てスタメン落ちかよ……と笑っていた。

(どうする? 監督はまた俺をレギュラーに入れなかった。練習ではフォワードとして結果を出していたのに。早く出番が来るよう味方がピンチになれば俺がスターだ)

「何か悪い事考えているね?」

「明石か。一年レギュラーはお前とタイヨウだけだが、すぐに俺もレギュラーになる。また俺にパスくれよ」

「フフッ、任務了解」

 そして、キックオフとなった。

 

 FW・タイヨウ(11)沙原(9)

 MF・桐生(10)明石(7)小泉(8)永倉(5)安岡(4)

 DF・藤堂(3)芹沢(15)朝倉(21)

 GK・結城(1)

 控え・陰松(18)木戸(19)坂田(6)時口(12)岡村(13)

     11     9


    8    10    5


      7     4


    3    15    21


         1     


 試合はテンプレ学園の立ち上がりの悪さを狙ってか開始五分で先制を許した。中盤の要である桐生はドラゴンと呼ばれる銀竜のキャプテン、権藤がガッチリとマンツーマンでマークして試合に参加しないのでは? と思うような全てを捨てるような強烈なマークをしていた。銀竜は全体的にフィジカルが強く平均身長も高い。かなり厳しく当たりに来る敵にテンプレ学園のメンバーは相手の勢いにのまれ早くも満身創痍になりつつあった。すると権藤はガムをくちゃくちゃ噛みながらタイヨウに言う。

「どうした赤髪。あのガリガリ君はベンチか? 相手にもならねーな。あの女は戴くぜ」

「それは無理だ。水城さんはキャプテンの女。それにまだ勝負はついてない」

「ほう、あの桐生の女か。なら尚更欲しいな。俺もJユース代表に入りたいから壊しちゃおうかなぁ?」

 ジロリとマンマークをする桐生に悪意を向けた。桐生は水城から全てを聞いていたが意にも介さずプレイを続ける。それを見るオッサンは硬直する試合状況を読む。

「相手はカードすれすれのプレーをしてきている。チーム全体にエンジンがかかっているが、このアウェイ感に呑まれているのが難だな」

「勝てますよ。こんなチームに負けるはずが無い」

 暗い表情の水城にオッサンはガリガリ君を渡すが拒否られる。

 前線にボールが中々来ない為、タイヨウも自陣に下がりつつボールを受けカウンターを図った。すると相手の背後からボールを奪った明石からタイヨウにボールが渡り、左右にステップを踏み桐生が権藤のマークを外す。単独でドリブルをするタイヨウを追撃するように桐生、明石と敵の三人が追いかける。ゴール前にはスイーパーと呼ばれる大型DFの門番・弁田が待ち構え、この男を突破しなければ点は決められない。トップスピードに乗るタイヨウはそのまま武蔵坊弁慶のような門番に突っ込むように仕掛けた。

「いい度胸だ小僧っ!」

「お前と体格勝負する度胸は無いさ」

 ツンッとトゥキックで弁田の股を抜いたシュートを放つ。が、右足を後ろに引いてボールを左に流しカットした。

「単純な奴め。はあっ!」

 一気に前線にカウンターのロングボールを上げるが目前に迫って来ていた桐生がカットし、権藤の強烈なタックルを浴びつつも明石にパスを出した。身体を張ってタイヨウは弁田の前に立ち明石のシュートコースを作る。

「ロックオン。もらった――」

 左の上隅にコースを決めた明石は左足を振りかぶるがシュートは放たれず、グラウンドに思いっきり顔を打つように倒れた。背後から相手にスライディングをくらったのである。

『明石っ!』

 チームメイトは駆け寄り怪我の状況を確認しつつ給水と監督からの指示を受ける。その間、相手選手の羽生はイエローカードを受け、審判から後方からのスライディングはよしなさいと注意される。

「あいつ等……くそっ、まだ出番は無いのか?」

 怒り心頭の陽介も前田監督の指示を聞く。指示内容は敵エリアの高い位置でボールを奪ってからのカウンター重視で行き、ラフプレイが目立つ相手チームのファイルを誘いセットプレイで点数を重ねるという事だった。怪我をしてからじゃ遅いんだよと思う陽介の視線は明石に向けられる。

 大きな怪我は無いものの何とか立ち上がる明石は桐生と共にボールをセットしフリーキックに入った。

「明石、蹴れるか?」

「試合には出つづけられますが今は無理です」

「わかった。俺が蹴る」

 相手は全員をゴール前に下げ、高さと体格で壁を作りシュートコースを限定しようとしていた。味方も敵と小競り合いをしながら無理矢理壁を広げようとするがどうにもならない。

「校舎の中はゴミが多いが、このピッチ上は綺麗だ。アウトにかけて驚かしてやるか」

「あの茶髪のチビは蹴れないぞ! 桐生だけに注意しろ!」

 権藤の指示が敵チームに行き渡り、キッカーが二人いるが誰も明石を見ない。その中、フッ笑う桐生は動きネットが揺れた。

「ゴール! ゴール! ゴーーール! 桐生選手、相手のプレッシャーも意にも介さずアウトフロントキックでビューティフルゴール! ちなみにアウトフロントキックとは、右足なら足の甲にボールを当て思いっきりすくい上げるように左に足を振り抜く事により脅威的な逆回転をかけて振り抜いた足とは逆の方向に蹴れる高等技術! 特にブラジルの選手ロナウ……」

「うるせーな。お前は川平慈英か」

 その解説に陽介は苛立ちながら桐生の存在感を改めて目の当たりにする。

 だが、敵は痛んだ明石をターゲットにしわざと明石をフリーにしてボールを集めさせ削る作戦に出てまた1点を決めた。給水をするタイヨウは顔にも水をかけ、空を見上げる。すると、ガムを噛むモヒカンの男がヘラヘラしながら話しかけて来る。

「俺を突破しても弁田を抜けなきゃ点は取れないぜ? うちの門番はガチガチに固いからな。ハッハッハッ! 行くぜ野朗共!」

『おうっ!』

 ムカツクぐらいに息が揃う銀竜中学はテンプレ学園の攻撃をことごとく防ぎ続ける。

 相手のプレーは相手の足を削るようにスパイクの後ろを巧みに使い、桐生や明石などの中盤の選手は疲弊する。

「明石、あまりボールを持つな。あいつ等はかなり荒いプレーをする。今日の審判は年寄りだからかまだ気付いてないようだ」

「そうですね。それに中々ディフェンスが硬くてゴールが割れないです。FWをポストにしてミドルを狙いますか?」

「そうだな。あの弁田をゴール前から引きずり出すにはそれしかないな」

 二人が話す側に自慢のモヒカンを整える権藤が近寄り甲高い声で言う。

「悪巧みか? 俺にも聞かせろよ? あのマネージャーの喘ぎ声をよぉ! ハハハッ!」

 それを無視し、テンプレ学園はFWにボールを当てポストとし、二列目と三列目が積極的にミドルを打ってスイーパーの弁田をゴール前から引出させゴールを狙いやすくなる作戦を徹底する。センターサークルにいる桐生はマークされる権藤と羽入に削られながも明石にパスを出す。その瞳は弁田の前のスペースに向けられていた。

「ロックオンオッケー!」

 バシッ! と放たれたキックは丁度弁田の少し前に落ち、沙原がヘディングで後ろに流し、走り込んだ小泉がシュートを打つ。

「小癪な!」

 足を伸ばし弁田はシュートを防ぎ、セカンドボールを明石がミドルで打つ。しかし、キーパーがゴールの上に流した。マイボールになりコーナーキックになるが、高さで負けているテンプレ学園はショートコーナーを選択し、桐生はタイヨウに戻させ角度の無い所から打つ。

「ふがっ!」

「おっとぉ!」

 ジャンプした弁田がクリアしたボールは真下に落ち、強烈な回転をかけた故にまだ回転が残るボールはゴールに向かうが権藤がギリギリでクリアする。ガチガチにゴール前を固める銀竜に桐生は苛立つ。

「うちの弁田や他のDFはセンターサークル前まで上がる事は無い。無闇にミドルを打っても釣れないぜ」

 そして、銀竜は確実に点を取りに行く為にサイドから崩して行く作戦に出た。高さで負けるテンプレ学園はセンタリングを上げられると、相手より早く危険な場所を消すようにポジション取りをしないとならない。フィジカルも強い為にパワープレイに耐える時間が来た。この時間に一番耐えていると自分で思う陽介のイラたちはつのる。

(くっそーーっ! このままじゃ、失点すんぞ。もっと相手のMFとDFの間を使って、そこからあの便座野郎を崩す。攻撃はパスの基点になる権藤に注意すればいいが、こっちの攻撃で一番問題になるのはスイーパーの便座だ。あの野郎を突破しなきゃテンプレ学園は次の試合も勝てないだろ。地区選抜ん時も、ああいう強固な門番を突破するFWが勝利をもたらした……つまりはこの俺様! あー、早く出番よこせよ前田監督!)

 ホウホウと声を上げながら前田監督は試合を見ている。流れが完全に銀竜に向かい、サイドを容易く使われるテンプレ学園は幾度となくセンタリングを上げられ権藤、羽入、戸部といった背の高い選手がヘディングシュートを放ち猛攻をかける。それを無言の結城はファインセーブを繰り返し前線にフィードする。それを見るテンプレベンチの前田監督はお茶をすすり、

「そろそろ相手の猛攻に耐えられそうにないですね。ディフェンスの確認はこれぐらいでいいでしょう。陰松君、木戸君アップをお願いします」

「監督がこの先の戦いにおいて問題になると言っていたディフェンスラインは今の所どうですか?」

 その水城の質問に前田監督は少し顔を硬くし、

「今の所はいいです。ここまでの攻撃に耐えられれば及第点です。ですが、GKの結城君は指示を出すのが好きでないのでDFリーダーはやはり欲しいですね。といっても木戸君はやってくれませんよね?」

「!? イヤです! リーダーは無理!」

 いきなり前田監督に話を振られたキッドはアップに行こうとする身体が硬直しロボットのようになる。そしてとうとう前半三十分、選手交代になりFWの沙原と陽介が交代した。

「影松君、トップで張りディフェンスをせずに縦に縦に駆けて個人技で仕掛けて下さい。タイヨウ君は横の動きで影松君を相手の視界から消して下さい」

 とうとう前田監督も俺の重要さをわかったか……と思う陽介はタイヨウの近くで周囲の敵を威嚇する。トップの陽介にボールを集め、ドリブル突破をさせて攻撃の起点を作る作戦が功をそうしたのか、数度のファウルを受けてセットプレイの機会を作り出し、桐生がその一本を決めて同点とした所で前半が終了した。

「はあっ、はあっ……やけに五分足らずなのにキツイな。それに桐生のお膳立てしかしてねーんじゃねーか? だが監督がこの作戦で行く以上、俺は信頼されている」

(やはり陰松君は素直でいい。ここで一皮むけてくれると尚いいのですが)

 前田監督の微笑を受け、陽介も笑う。

 そして後半は敵のタックルを浴びないようにワンタッチ、ツータッチでボールを回し、攻撃に出てチャンスと判断すれば一気に中盤の二列目、三列目も飛び出していく作戦で行くという指示が出た。水分補給をし、トイレに向かう陽介は先を歩くタイヨウと明石に声をかける。

「おい、タイヨウ。後半こそ点を決める。明石も援護頼むぜ」

「あぁ……といいたいが実際厳しいな。奴等のフィジカルの強さはやはり脅威だぜ」

「まぁ、同点まで追い付いたんだ。この勢いのまま後半も行けるさ。俺がゴールを決めないとなんない。この試合は俺の為の試合だからな」

「陽介、まずはチームで勝つ事を考えないと。俺達はなるたけ二列目のMFがシュートを打てるチャンスを作ろう。あの弁田は平然と構えているみたいだけど、やっぱミドルを打たれるのが嫌みたいだから」

「便座野朗なんざ、後半は軽く攻略してやるよ。FWが点を取んなくていいなんてありえないぞ? トルシエん時みたいにFWが前を向いたMFにシュートを打たせる為の潰れ役なんて俺は出来ねぇ。俺が点を決めてテンプレ学園を勝利に導く」

「確かにFWは点を取るのが仕事。けどそれは仕事の一部で全てじゃない。左右に開いて相手をつりチャンスを生むのも敵が自陣にいれば一番にプレスをかけるのもFWの仕事。まだこのチームは完成されてるわけじゃない」

「それを完成させるピースが俺なんだよ! 俺が点を決めなきゃいけないのはお前が一番わかってんだろタイヨウっ!」

「あーそーかよ。勝手にしろ! 今のお前じゃサッカーだけじゃなくて自分の全てに負け――っと!?」

 口論をする二人はトイレをすまし、外にでようとする――が、

 バシッ! とタイヨウの右手の平に強烈な威力のボールが激突した。

「おー悪い、悪い。ボールがあらぬ方向へ飛んじまったぜ」

 ガラの悪い声が聞こえ、ベッと唾が吐かれる。それは銀竜のキャプテン権藤の放った一発だった。そして、もう一つのボールを宙に上げバウンドさせ、シュート体勢に入る。

「誰だ? 女子トイレなんて使ってるテンプレの女子はよぉ?」

 そのシュートの鉾先は明らかに女子トイレの入口に向いていた。そのトイレから出てくる人間は一人しかいない。

「水城さん――」

 その人物を思い浮かべた陽介は思考が硬直し身体が動かない。ハハハッ! と笑う権藤の蹴るボールはトイレから出てくる無防備な水城の顔面目掛けて迫る――。

(Jユース代表の桐生と付き合ってたら、Jユースサッカー関係者の係わり合いがあるから流石に手は出せない。だからこれが餞別だ)

 ククッと笑う権藤は悪鬼のような顔をし地獄絵図を楽しみにする。バシッ! という音が空間に弾けドサッ! と冷たいコンクリートの上に人が転がる。唖然としたまま誰もがその場から動けない。

「おい……何で……どうして……」

 声がかすれる陽介は全身を震わせ、当の権藤もまさか! という顔をしていた。トイレから出て来た水城は現状を把握できずうろたえていると明石からハンカチを要求された。

「大丈夫、タイヨウ君」

「なーに。俺っちは太陽の子。こんなん月でもねー」

「それを言うなら屁でもねーだよタイヨウ君」

 鼻血を出し、アウェイ用の白いユニホームを鮮血で濡らすタイヨウは立ち上がる。その赤い目は権藤を燃やし尽くすかのように燃えていて、権藤は息も出来ず声すら出せない。  

(何か暑くなってきたぞ? タイヨウの奴、まさか……!)

 じわぁぁっ……と周囲の空間の気温も急激に上昇し、その場の全員は権藤の身体から湯気が出るのを見た。滝のように汗を流し、目は天を仰ぎ、沸騰する血液の流れに耐え来れないかのように全身をかきむしる。その光景を見て陽介は確信する。タイヨウは太陽神の力で権藤を殺そうとしていると――。

(あいつ……本当に太陽神なんだ。本当に俺は太陽を消す特異点で、空の太陽はこのままだと夏休みの始まりには消える……もう俺には、止められない。権藤は――死ぬ)

 超常的な現象が起こるその状況を誰もが止められない中、明石の手がタイヨウの肩に触れゆっくりと抱き締めた。すると、タイヨウは我に返り権藤は苦しみから解放される。意識を失うタイヨウを水城に渡し、まるで感情の無い声色と瞳で明石は言う。

「ねぇ、権藤さん。口論や暴力でサッカーの勝敗がきまるのか? そっちがそうゆう判断をするなら、僕は君を調教しなきゃならない。僕の調教を受ける覚悟はあるかい?」

「……ううううあああっ!」

 失禁する権藤は一目散にグラウンドに逃げた。そして意識を取り戻すタイヨウに陽介は安心したが、水城の一言が陽介の全てを砕いた。

「あんたのおかげでタイヨウ君も明石君も怪我したんじゃない。スタメンにもなれず、点も決められない自己中プレイの口だけ野郎にこのサッカー部には居て欲しくないわ。消えてくれる?」

 この出来事は各々の身体と心に深い傷跡を残し、試練の後半戦が始まった。




「陽介、俺っちは問題無い。ガンガン行こうぜ!」

 とタイヨウに後半戦開始前に言われたが、試合が開始してから十五分経過しても陽介は本来のプレイを出来ずにいた。テンプレ学園は前線のボールが落ち着かず、銀竜中学は中盤が安定しない。相手も権藤が調子を落としているが、勢いは銀竜に傾いている。

(ダボが……俺には何も出来ないのか。何も……何も出来ない……)

「危ないっ! 陰――」

「え?」

 ガスッ! と銀竜DFのスライディングが明石の右脹脛に決まり、悶絶したまま立ち上がらない。審判は銀竜DFにレッドカードを出し退場させた。しかし、明石は立ち上がれない。それを察したテンプレベンチは動く。

「水城さん。明石君は厳しそうですね。木戸君、出る用意を」

 頷く水城は担架と救急箱を用意しキッドはこの状況で出るのか? と少し硬くなっている。グラウンド上の桐生はすかさず担架を呼ぶ。その間全員が給水をしながら明石の状態を見る。茫然自失の陽介はグランド内で孤立している。ペットボトルでケツを叩きタイヨウは微動だにしない陽介に言う。その顔は青ざめていた。

「陽介、水分補給しないと動けないぞ」

「あっ、あぁ……」

 ペットボトルを受け取り、赤く腫れる右脹脛にコールドスプレーをかけられる明石と目が合う。ドキッ! とするが何も声がかけられず、逆に明石はいつもの調子で声をかけてくる。

「影松君。君の直線のスピードは凄い。だけど、それを生かすには相方のタイヨウ君にも頼らないと生きない。君達は2トップだろう? やれば出来るはずさ」

 その明石の言葉は電撃となり身体の隅々まで駆け抜けた――。

 本来なら後半が始まってもハーフタイムの事件でボーッとしていた自分が負うべき怪我。それを明石が身代わりになり怪我を負ってしまった。この事で、改めてこのチームに対して何も貢献出来てない自分を知った。常に自分の事ばかりしか考えず、自分の利益になる事しかやろうとしない自己中心で結果も出せないかっこ悪い存在。

 ――それが今の陰松陽介という選手の全てだった。

(他人にこんな怪我を負わせる事でやっと気がつくなんて、本当に俺は最低な存在だ。キャプテンの女に横恋慕し、それを奪う為に協力してくれる奴に乗せられてここまで来たけど、すでに俺はそいつの言葉すら聞いてなかった……ただ一人でこのグラウンドを駆けてただけだ……でも俺はこのチームの、テンプレ学園のFWとして――)

 瞬間、赤くなっていた場所が青い痣のようになり明石は控えの選手に担架に乗せられる。すると、青ざめた顔の明石は苦悶の表情を浮かべ黙ったままの陽介に声をかける。

「どうだい陰松君? この銀竜中学にテンプレ学園はチーム一丸で勝てるかい?」

「勝てる! 出来るっ! 俺はタイヨウと協力し、テンプレ学園サッカー部の皆と協力して勝つ! だから死ぬな!」

 泣きそうになる陽介に明石は微笑み、胸元にあるテンプレ学園のエンブレムであるサンライトハートのプリントを握り締める。

「僕は怪我をしただけ。もちろん次の試合に出れたら出る。影松君は……」

「陽介でいい」

「……陽介は僕の活躍できるステージを確保しておいてくれ。口論や暴力でサッカーの勝敗は決まらない。頼んだよ」

「たりめーだ! この約束は死んでも守る! 口論や暴力でサッカーの勝敗は絶対決まらないんだ。フェアプレイで勝つ。俺はテンプレのエースFWだからな!」

 グッと自分のユニホームのエンブレムを握った。

 明石はキッドと交代し、キッドはそうとう空回りするも持ち前のガッツでプレーを続ける。前田監督は控えの連中に明石を念のためタクシーを呼びテンプレ病院に運ばせる。残りの少ない試合時間は確実に選手の精神を蝕むように経っていく。相手の自陣内を行き交うボールは何度も弾き返されカウンターをくらうが、更にまたカウンターというグランドを上下するランニングを互いに繰り返している。次第に相手は監督の指示によりディフェンスを固めPK狙いになるかのように自陣でボールを回させていた。

(こいつ等、あえてボールを回させてやがる。いい気になるなよ)

 陽介がサイドに流れ、タイヨウが縦に抜ける。時にその逆を為し、何度も陽介はシュートを打つが相手キーパーに阻まれる。二列目からの飛び出しで桐生もシュートを放つが、ガチガチにディフェンスを固める銀竜に対し得点を上げる事が出来ない。

 後半も残り五分になるが試合は動かぬまま2―2のままである。

 時間の流れと共に銀竜の権藤も精神的に立ち直って来た。

「どうだ? とっとと諦めろガリガリ君。もう時間切れだ」

「うるせー。お前の戯言に付き合ってられるか。俺には約束があるんだ」

「約束? そんなん忘れろ。大事なのは勝つ事だ」

「確かにそーだ。サッカーは勝たないと意味が無い。誰を犠牲にしようとも勝利が全て」

「やっぱりそーじゃ――」

 ハッ! と笑う権藤にタイヨウは次の言葉を聞き微笑む。

「と、俺も思ってたぜ。でもよ、勝っていく以上仲間と、皆と喜びたいわけよ。仲間がいなきゃサッカーはできねーし、パスも来なければ自分も燃えられない。お前は、キャプテンとして本当の意味で燃えてんのか?」

 ギリッ! と歯を噛み締める権藤はチームメイトをみた。そのチームメイトはいつも楽しくやってるだけでぶつかり合う事も無ければ、本心も言う事が少ない。楽しいだけの喜びでは次のレベルに行けない事を悟った。そしてこのテンプレ学園の連中は先に行こうとしている。目の前の男の明らかな成長を感じ、権藤は怒りと嫉妬を爆発させる。

(くそっ……くそがあああっ!)

 権藤は自陣でのボール回しをやめさせ攻撃に出る。とうとう試合の流れはテンプレ学園に傾くが、陽介とタイヨウの再三のシュートはゴール前の門番の弁田に阻まれる。その門番は悠然と巨躯を揺らし武蔵坊弁慶さながらの殺気で相手を待ち構えている。

「タイヨウ、もう時間がない。俺にボールをくれ。あの便座野郎はもう攻略出来る。これは冷静な意見だ」

「わーってるわ相棒。なら任せたぜ。……燃えてんな」

「アタボーよ!」

 互いのチームの攻防は激しさを増す。ここで一点を決めればPK戦に持ち込む事もなく勝利出来る。その喉から手が出るほど欲しい一点を両者はせめぎ合う。陽介は自陣深くまで戻りデェフェンスをし、またトップまで駆け上がる。シャトルランのような苦行をこなしながら味方にも激を飛ばす。

「まだだ! 時間はあと一分もある! 俺達は勝てる!」 

 そして権藤のファウルが有り、桐生は素早くボールに駆け寄る。それを見た陽介は何かに弾かれたかのように視野が一気に広がる。

「――キャプテン!」

 すでに走り始める陽介に対し、ボールをセットしたばかりの桐生は一気に前線にロングボールを上げる。後半も最後の最後になり、後は審判のホイッスルを待ってPKに持ち込めば勝ちだと思う銀竜の面々は完全に虚を突かれた。それを見たタイヨウは相棒の進化に驚喜する。

(陽介――その気持ちだ!)

 カアッ! と空に浮かぶ太陽は眩さを増しその全てを自分に還元する不死鳥の如く陽介は敵陣中央を独走する。無論、そのゴール前には今まで幾度も阻まれて来た銀竜の最後の門番、弁田が存在する。

「行くぜ便座野郎っ!」

「俺は弁田だぁ! どチビがぁ!」

 チラッチラッと左右に視線を降りボールをまたぐフェイントのシザースの二段構えで揺さぶる。しかし、弁田はボールが左右のどちらかに行くかしか見ない。絶対にまた抜きはさせない自信があるからである。

(お前にヒールリフトは出来ない。このトップスピードで大半の選手の出来る事は左右に抜けるだけ。重心が左に傾いたな――)

 スッとかすかに弁打は自分の右に重心を傾ける。その動きに気付かない陽介は――。

(お前の反応の良さはもうわかってる。だが、反応出来ないような体勢なら何も出来ないだろーよ)

 ガッ! とトップスピードからボールを踏みつけ止まる。

 嘘だろ? という顔のまま弁田はボディバランスを崩し地面に倒れ込む。間髪入れずにトップスピードでドリブルを開始しキーパーと一体一になる。

(プ、プルプッシュ? このガキ、ただの単細胞じゃない!?)

 そんな事を思う弁田の存在など頭に無い陽介はペナルティエリアに入る前にシュートコースが見えシュート体制に入った。すると――。

「よけろ陽介っ!」

「ぐああっ!」

 タイヨウの言葉も虚しく背後からのスライディングをくらい倒れた。ペナルティエリア前の為、PKにはならない。立ち上がる権藤は審判に呼び止められる。チームメイトは陽介に駆け寄り、実況席にいるオッサンは渋い顔をする。ベンチで立ち上がる水城は残り時間を見る。これを外せば確実にPKになる。今の流れで決められなかったのはテンプレ学園にとってかなり痛かった。

「へっ、ここで退場になってもここでお前に点を決められるよりマシだ。もちろんフリーキックは桐生じゃなく影松。お前が蹴るんだよな?」

 レッドカードをくらう権藤はケケッと笑いながらチームメイトに悪ぃと言いながらピッチを後にする。フンッとそっぽを向き陽介は屈伸をした。

 そして、銀竜学園は全員が自陣に戻り壮大な壁を築き上げる。ボールを持つ桐生は相手の壁に割り込んで壁を崩してやろうと思い走る陽介を呼び止める。

「どうだ陰松。明石の怪我に一矢報いるか?」

「……蹴りたい気持ちはあります。たけど今はキャプテンが一番キッカーしての実践と信頼があります。だからキャプテンが蹴って下さい」

 その陽介にしては真面目な意見をほう? と言った顔で見つめる。

「お前なら蹴ると言うと思ったんだがな。明石の件で消極的になるなよ」

「俺は蹴りますよ? 絶対蹴ります。もっといっぱい練習して、チームメイトに信頼されるようになったね」

 その熱く揺るぎ無い眼差しに桐生は納得した。そして陽介は弁田の真横の壁に割り込み、屈伸運動をしながら桐生にアピールする。タイヨウはユニホームを引っ張られた事で相手と激しく口論しながらポジション争いをし、キッドは左右に行ったり来たりしながら敵を翻弄し続ける。その一年の躍動を見るキャプテンの桐生は頷いた。

(俺はやはりテンプレ学園に残って良かった。今年の曲者揃いの一年が機能すれば、全国とて夢じゃない!)

 そして、銀竜の壁の中で肘を入れられ頭を抑えつけられる荒削りな一年生FWを見た。

「陰松、俺からキッカーの座を奪って見せろよ」

「当然です。それが俺達一年生の役割ですから!」

「最高だぜ。今年の一年は――」

 バシッ! と蹴られたと同時に銀竜の全ての選手が飛ぶ。だが、そのボールは一直線に陽介に向かう。強力なボールはトラップも出来ない為、グラウンドの銀竜チームはミスキックだ――と勝利を確信する。

『――!』

 陽介の胸元に迫るボールは、そのままゴールに突き刺さった。

「……嘘だろ?」

 人間の壁にぶつかるはずのフリーキックが何故ゴールに入ったんだ? という銀竜のゴールキーパーはオレンジの高い壁の右端でしゃがんでいる白いユニホームの男を見た。自分にボールが激突する瞬間、陽介は素早くしゃがみ込みその頭上をボールは進みゴールを決めた。

「流石はキャプテン。正確無比なコントロール。俺の作戦によく気付きましたね」

「まさか、あんな壁と壁の間を狙わせるとはな。俺はブラジルの伝説のフリーキッカー・リベリーノじゃないんだぞ。でもまぁ、人間挑戦してみるもんだな」

 陽介と桐生はハイタッチをし、チームメイトに祝福され試合終了になった。

 そして、互いの検討を称え合う中で陽介は銀竜のキャプテンである権藤に駆け寄る。

「権藤キャプテン。うちのマネージャーの水城さんの件なんだが……」

「水城? 誰だその女? そんな女、興味あるかよ」

 そう言い、権藤は泣きじゃくる弁田や他のチームメイトを慰めた。

 金網で盛り上がってた銀竜の生徒達も試合の敗戦と同時に消えうせ、テンプレ学園の生徒達はクールダウンをした者から急いで着替え始める。前田監督は全員に声をかけひょうひょうと帰って行く。決勝点を決めた桐生は誰かと携帯電話で話している。クールダウンが終わり、ゼリー飲料で軽いエネルギー補給をする陽介はツンとタイヨウに肘でつつかれる。

「陽介、こいつは相手しとくから行って来い」

「悪ぃ。今日は試合後のレディーボーデン俺の分も食っていいぞ」

 タイヨウは陽介のケツを叩き、いつも試合後に配られるアイスボックスにあるレディーボーデンを二個回収しつつ、前田監督にほめられた事で興奮するキッドにヘッドロックをかまし黙らせる。そして、走る陽介はトイレに向かう水城を引き止めた。




 振り返る水城の視線は冷徹でこれ以上の接近を許さない。

 空間には真冬のような凍てついた空気が流れ吐く息さえ白く染まるように感じられる。

 息が詰まる陽介は顔が引きつるが意を決して話す。

「水城さん……俺……俺は――」

「あんたは口だけで点は取れなかった。本来に最低な男でサッカー部の恥さらし」

「……はい」

 その言葉に陽介は言葉を失ってしまう。

 先ほどの明石の怪我や自分が今まで試合で行っていたわがままなプレイを思い出し気持ちが落ちて行く。水城から放たれる言葉のナイフに確実に心は削られ、身体の震えが止まらない。特別、水城は冷たく言った気持ちは無いが、この水城の事を好きな陽介にとってはとてつもない痛みを秘めた言葉のナイフだった。その話の内容はタイヨウや前田監督などに言われた事ばかりで、自分が今までどれだけの人間の言葉を、心を無視し続けていたのかを改めて思い出させた。陽介はしっかりと水城の顔を見つめたまま話を聞く。

「……だけど周りを活かしたプレーには成長性を感じたわ。あぁいうプレーが出来ればあんたも活きるし周りも活きる。一年の時なんて失敗しかしないわよ。でも失敗しなきゃ何も学べないし成長しないの。私も今はモテるけど、一年の入学当初は全然モテなかったし」

 その告白は陽介にとって意外なものだった。凄く遠くの高嶺の花の存在だった水城が凄く近くに感じられた。

(水城……さん)

 この日陰松陽介は、本当に水城葉子という少女に恋をした。

「明石の活躍できるステージ。作ってあげなさいよ」

「……はいっ!」

 深々と頭を下げ、陽介は去り行く水城を見送った。

(何あいつ泣きそうになってんの? もっとキツく言ってやるつもりだったのにかわいそうになってきたから自分の話になったじゃない……でも、あいつも成長すればIFKに参加できるかもね。とりあえずタイヨウ君と明石は決定)

 そう思いながら水城は銀竜中学を後にした。

 そして陽介はまだベンチに残る桐生とタイヨウとキッドと合流する。

「今、明石の母親から連絡があった。皆は先にテンプレ大学付属病院に急行している。お前も行くなら急げよ」

「はい。行くかタイヨウ」

「いや、このバカが銀竜の女の子ナンパしたから行ってくるわ。って、おい引っ張るな!」

 キッドはヤンキー風のギャル達の方へタイヨウを引っ張って行くが、流石に桐生は誘えない為に相手は全員タイヨウ狙いという事に気がついていない。呆れる陽介はキャプテンも行くのか? と聞いた。

「俺はすまんがコーチ達と話がある。お疲れ」

(コーチ? Jユースのコーチとの話か? こんな時にキャプテンが行かないのかよ――)

 そう思う陽介は案外試合が終わるとドライなんだなと思うが、今までの自分の言動や行動を改める一つの分岐点として自分は絶対に行かなくてはならない。ふと、前日の権藤達とのイザコザを知っているのか? という事を聞こうとしたがやめた。そのかわり、水城と話した時に気になった事を言う。

「そうえば、水城さんて一年の始めは地味で暗かったんですか? それがキャプテンと付き合って凄く綺麗になったって……」

「女は綺麗にならない。男が綺麗にするものだ」

 そう一瞬振り返り言い、桐生はスポーツバックを抱え破軍と書かれた黒い乗用車に乗って消えた。そして先にテンプレ病院に行ったチームメイトを追いかけ、テンプレ病院の前に立つ。吹き出る汗をタオルで拭いながら入口へ向かい歩いて行くと、すでに面会を終えたチームメイトが入口から出てきた。すると、全員は下を向き重々しい雰囲気で歩いて来る。様子がおかしいメンバーに陽介は、

「あ、明石の怪我の状況は……?」

 すると、二年の沙原が陽介に詰め寄り胸ぐらを掴む。

「怪我の状況じゃねぇよテメェ! 明石がどれだけの怪我をしたと思ってんだ!? ちょっと才能があるからって人の意見も聞かずに勝手なプレイばかりしてるからこんな事になるんだ!」

 それをゴールキーパーの結城や他のチームメイトが抑える。

 全身に冷たい汗が流れる陽介は病院内に駆け込む。

(……これじゃあ去年の夏の主税の時と同じだ。あの時は樹音にののしられて何も出来なかったけど、今回は何がなんでも関わるぞ。あの時と同じように離れ離れになんかなってたまるかよ――)

 看護婦に明石の病室を聞くが面会謝絶と言われ、絶句するがそれでも病室を空けようとドアノブを掴む。それをチームメイトに止められ陽介は暴れ馬のようになるが十分ほどで落ち着きを取り戻す。

 そして、明石の怪我の状況を聞くと右足の靭帯を断裂していて復帰には二ヶ月ほどかかるという。今から二ヶ月後だと春季・都大会の決勝は七夕の七月七日の為、終了している。

 タイヨウに宣告された宇宙の太陽消滅までは夏休みが始まるまでが期限であった。真っ暗に沈んで行く陽介の心が、宇宙空間の太陽に歪みを生み一瞬だけ停電をしたように世界の明かりが消える。それに騒然とするチームメイトは天変地異か? と騒いでいる。

(このままじゃ、明石だけじゃなく俺のせいで太陽も世界までも消してしまう。だけど、だけど俺に出来る事は今を一生懸命生きる事だけだ。それが俺がこのチームに出来る全て――)

 そして、面会拒絶状態にある明石には会えずに病院を後にした。

 すると、銀竜の女子とキッドから逃げて来たタイヨウが携帯で誰かと話ながら走って来た。来たのか……という顔の陽介は世界に一人にされたような孤独から開放され安堵の表情を浮かべタイヨウの肩を組み、

「タイヨウ、次は二人で点をとるぞ」

「あぁ、俺っちのプレイについてこれるならな!」

「ダボが。俺は次の試合マラドーナみたいに五人抜きするもんね!」

「タコが。俺っちはセンターサークルから貴公子ベッカムみたいにスーパーロングシュート決めるぜ」

「な、なら俺は――」

 夕日が沈んで行き、坂道を登る二人の少年の影が大きく伸びた――。



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