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初陣

 眩しい太陽がサンサンと降り注ぐ五月の2週の日曜日。ついに都大会一回戦が開催され、テンプレ学園の面々は対戦相手である生田高校のグランドにいた。すでにグランド内は互いのレギュラーが各々のポジションにつき、審判の試合開始のホイッスルを待つ状態になっていた。テンプレ学園のユニホームはレッド。胸のエンブレムは太陽に心のサンライトハート。対戦相手の生田はベージュのユニホームだった。フォーメーションは3バック、5人の中盤が展開し2トップという3―5―2の布陣だった。

 

 FW・タイヨウ(11)沙原(9)

 MF・桐生(10)明石(7)小泉(8)永倉(5)安岡(4)

 DF・藤堂(3)芹沢(15)朝倉(21)

 GK・結城(1)

 控え・陰松(18)木戸(19)坂田(6)時口(12)岡村(13)


     11    9


   8    10    5


     7     4


   3    15    21


        1     


 陽介は隣でベラベラと騒ぐ木戸キッドに苛立ちながら前田監督を見た。

(あー暑い。そしてウザい! 何で俺の隣がキッドなんだ? キャプテンもタイヨウもいないこの瞬間にこそ俺が水城さんのサポートをして親密になろうと思ったのに! ダボが!)

 前田監督は過去の日本リーグで爆撃機と恐れられるほどの点取り屋で気性も荒かったが、監督業に転向してからは仏の前田と呼ばれるほど温厚になっていた。特にそうぞうしさを気にする事もなくホウホウと熱いお茶を湯飲みで飲んでいる。

(みんなすでにキッドのウザキャラが浸透し過ぎて注意すらしないな。まぁ、俺も無視して試合に集中しよう。俺は大人だからな……)

 そして、審判のホイッスルが鳴り一回戦が始まった。

 都大会のベスト4も過去に数度経験があり強豪の一つに数えられてはいるが、歴代を通して立ち上がりが甘いと言われるテンプレ学園はそのジンクスを破れずにいた。試合開始直後は相手のペースに呑まれシュートを数本放たれたが、十分を経過した所から落ち着きを取り戻しボールを支配するようになっていた。中盤でボールを奪ったタイヨウがセンターサークルにいる一年の小柄で栗色のやや長い髪が揺れるMF・明石にパスを出す。

「明石、前!」

「オッケー! ロックオン済みだよ」

 スパァ! と閃光のようなスルーパスが中盤の底にいる明石から右サイドを駆け上がる桐生に渡され、テンプレ学園の前線は一気にゴールに近いニアサイドに三人が走り込む。桐生はダイレクトでそれをセンタリングした。しかし、その玉はニアサイドにいる集団を飛び越え、遠いサイドであるファーサイドに落ちようとする。

「ミスキックか? 桐生も立ち上がりは甘いな」

 生田中学の監督のニヤリという笑みは、自軍のゴールネットが揺れる事で消えた。瞠目する陽介は呆然と立ち上がり、その光景を見た。その赤毛の男はダイレクトボレーを決め、太陽の光を全身で浴びてチームメイトに囲まれて祝福されて陽介に向かって指を刺しポジションに戻る。

(あの野郎――っ!)

 憤慨する陽介を尻目にまたもや中盤でボールを奪ったタイヨウは明石にパスを出し、明石はダイレクトで右サイドを駆け上がる桐生にスルーパスを出す。その桐生はニアサイドに走り込んだ味方をブラインドに使い今度は後ろにマイナスのグラウンダーパスを出す。またファーサイドにセンタリングだと張っていた生田中学の面々はミスキックか――? と思い安心していると、中盤から誰にも気付かれずに駆け上がってきたタイヨウがまたもやダイレクトボレーを決めた。

「よしっ! 2点目! 俺っち大活躍だぜ!」

 この一連の流れは監督である前田が掲げる方針の一つである動きの連動性である。

 ボールが動き、人も動き続ければプレーはマイボールである限り止まる事が無く、相手を翻弄させたまま多くのチャンスを生みゴールを狙う事が出来る。頷く前田監督は急須でお茶を湯飲みに汲んで飲む。

『おおーーーっ!』

 テンプレベンチはそのスーパープレーに盛り上がり、水城がタイヨウを見つめる目が陽介の心を抉る。同時に、聞き慣れた声がベンチの反対側のコートから聞こえた。その無精髭のロン毛のオッサンは陽介の母親の弟である松坂旬だった。

「オッサン!? あのニートまじで実況で来やがった! また女連れで現れ実況席まで作って実況の真似事か? 何で俺の周りのニートは活躍するんだ!?」

 別にタイヨウはニートではないが、陽介はもう決め付けていた。

 そして前半で更に1点を追加し、後半の十五分までで3点のリードを得た。そこで前田監督が動いた。交代枠の三人全てを使いきりMFの明石、小泉、永倉が下がり陽介、坂田、キッドこと木戸がピッチに散る。すると、ニヤニヤとするタイヨウに迎えられる。

「やっと登場か。後1点取ればハットトリック。今日は俺っちがMVPだな」

「ダボが。ヒーローは遅れてくるのさ。この試合が終われば水城さんは俺が戴く」

「我が家のヒーロー! 元小学校地区選抜のエース! 陰松陽介ー! 好物はレディーガガ……じゃなくてレディーボーデンのチョコアイス! そして最近は横恋慕の恋にときめく中二病男子! ちなみに今夜も帰りましぇーん!」

 隣のケバイ女とイチャイチャするオッサンに激怒した陽介は叫ぶ。

「二度と帰ってくるなニート! 中二病の使い方間違ってるぞ! お前のおやつは二度と無いと思え!」

「あれがまだ俺っちが会った事がない陽介のお母ちゃんの弟のオッサンか……。あ! 今日の晩飯は作らないの了解!」

 グランドや互いのベンチも笑いがこみ上げ、陽介は恥ずかしさから試合開始前にも関わらず全身の毛穴から汗が吹き出る。ピピッ! と注意を促す審判がホイッスルを鳴らし、試合は再開した。

 メンバーが変わり、多少戦力が落ちているが先の試合に向けて戦力の底上げをしなくてはならない前田監督の交代枠の構想に入っているならこれは最大のチャンスである。ここで活躍すればレギュラーに抜擢される可能性は高い。

(タイヨウとキャプテンが残ればトップに多くパスは来る。タイヨウが2点にキャプテンが1点取った。必ず一点決めてレギュラーを取る!)

 ゴールキックからのボールの空中戦の競り合いで勝ちマイボールとした桐生は、キッドとのワンツーで抜け出し、相手のディフェンスの裏のスペースに飛び出した陽介にスルーパスを出す。

「ナイス!」

 相手DF全員の前方に飛び出し、前を向いてボールを受けた陽介はそのままキーパーの逆をつき、ゴールにボールを決めた。有頂天になる陽介はまず一点決めたぜ! とタイヨウの方を見るが、笑うタイヨウは線審の方を指刺していた。

「なっ! 嘘だろ!」

 すると、線審はオフサイドトラップという反則を取り、ノーゴールとしていた。唖然とする陽介は納得がいかず線審に詰め寄ろうとするが、桐生が止めに入る。

「切り替えろ陰松。飛び出しとしては悪くない。次は誰かがボールを蹴る瞬間は相手DFの後ろにいてから走り出せ。お前の飛び出しに警戒すればミドルから叩きこんでやる」

(俺はお前の女を奪う為にサッカーしてんだよ……)

 しかし、それを口に出来ない陽介はまたセンターサークル付近に戻る。2トップを組むタイヨウと話をし、もっとサイドに開く動きをしないと相手も単調な動きすぎてマークしやすく駄目だと伝えられるが、前田監督が何も言わないからそれを無視する。その光景を鷹の目のように鋭い目で見つめている簡易実況解説席にいるオッサンは呟く。

「そんな単調な飛び出しじゃあ味方も自分も殺すだけだぜ?」

 次第に流れは生田中学に変わり、中盤ではメンバーが交代した事によりテンプレ学園全体のボールキープ率が落ち、特に明石と交代したキッドからボールを奪われカウンターをくらっていた。桐生も中盤とディフェンスを統括する為に前線の二人と間延びする場所にしかいられなかった。

「チッ、キッドの奴本当に口だけだな。こんな前線と中盤にスペースがあったらボールが来ない」

「陽介、今は下がろう。攻撃に時間はかかるけどじっくり行こう。点差はあるんだ」

「下がる? ダボが。相手が攻めているんだからゴール前には広大なスペースがある。そこに桐生がロングボール入れれば俺が決めるさ。俺を誰だと思ってやがる」

「無理だ。俺っち達のコンビネーションが単調な以上、相手のディフェンスは何の怖さも感じてない。だから今は下がるか、サイドに流れて……陽介っ!」

「来たぜロングボール!」

 スタタッ! と自陣に少し戻りオフサイドトラップにかかる相手のDFより前に行かないように注意し、線審が旗を上げていない事を横目で確認し一気に広大な相手ゴール前のスペースに飛び出した。そのスピードに相手は対応出来ずボールが広大なスペースに落ちて一度バウンドし、ゴールに迫る。そのピンチを防ごうと飛び出して来たキーパーに対し――。

「――せいっ」

 フワッ……とした柔らかなループシュートを放った。

「ガーン! 陰松選手のループシュートも惜しくもバーに嫌われる! そして好きな子には振られる!」

「うるせーよ!」

 追いすがるキーパーをかわし、バーに嫌われたボールをヘディングで押し込んだ。

「ゴール! ゴール! ゴール! 陰松選手、待望の1点目! しかし、次のゴールは無いでしょう!」

 心の中であーウルサイ! と思いながらゆっくりと自陣に戻る。チームメイトが陽介を祝福する中、タイヨウと桐生だけは浮かない顔でいた。そして、試合は降着状態が続き交代要員も善戦したが1点も取れる事も無いまま試合終了になった。





「いいシュートだったぞタイヨウ君。うちのポンコツより早くなじみ活躍するなんて只者じゃないな」

「誰がポンコツだ。ニートが」

 自宅に帰宅した陽介は久しぶりに帰って来た母親の弟の松坂旬と自室で言い合いになっていた。今日の試合に何故か実況などというポジションで現れたオッサンに陽介は後半からのプレイ内容にもツッコまれ、虹色の体毛を持つ猫のシエルを抱きながら反論する。タイヨウはサッカーのスーパープレイ集をユーチューブで見ている。手に持つガリガリ君のソーダを袋から出しながらオッサンは続ける。

「……だからタイヨウがスタメンなのは周囲を見て相手を生かし、自分も生きるプレイをしているからだ。FWだからって毎試合点が取れるわけじゃない。エゴの強さだけじゃFWはやれないぜー……ん? 美味い」

「また勝手に冷蔵庫を漁ったのか。そのアイスは明日のタイヨウの分だからな。つーことでタイヨウは明日のおやつ無し」

「え!? うそーん!」

 それに固まるタイヨウをフォローするようにオッサンが言う。

「あー、レディーガガ……じゃなくてハーゲンダッツ冷蔵庫に入れておいたぞ。それにシエルの餌も買っておいた。ガリガリ君のコンポタ」

「アイスは冷凍庫に入れろ。ウチはレディーボーデン派なんだよ。それとあまりシエルにアイスばっか食わせるなよ。友達からもらった大切な猫なんだからな」

「そうそう、お前の親友の京乃君はもう元気になってまたサッカーやって今はJユース候補にもあがってるほどの実力者に成長したぞ。お前もキバれよ陽介」

「ち、主税が? ……もう回復したのか」

 その動揺する陽介の膝からシエルが飛び、机の上にある陽介と茶髪の髪が長い少年と写る写真に見入る。その光景をじっ……と横目でタイヨウが見ている。すると、陰松家の前に止まる漆黒のベンツからクラクションが鳴らされ、オッサンが窓を開けて手を振る。

「おーう! 沙織ちゃーーん! 今行くよ~!」

 じろり……と鋭い目を輝かせ夜遊びに行こうとするオッサンに陽介は言う。

「どこ行くんだ?」

「埼玉の奥乳父?」

「奥秩父な。二度と帰ってくるなよ」

 胸を揉みながら言うオッサンの尻を蹴り二階の窓から落としバタン! と窓を閉めた。

 そして夜道を駆ける黒いベンツの背中を見送りながら思う。

(主税が退院してまたサッカーを……去年の夏から俺はサッカーを止めた。そして太陽を憎んだ……そして今、こいつが現れた。話のつじつまがが合いすぎてる。信じてはなかったけどこいつは本当に太陽神で、俺は本当に太陽を消滅させる特異点なのかもな。いや、こんな事はただの偶然。偶然だ……)

 動揺が止まらない陽介はタイヨウを見て目が合い、そらす。そのまま赤毛をくるくると指でいじりながらタイヨウはユーチューブを見続け、シエルは虹色の毛並みを舐めながらニャ~と鳴いた。





 翌週の月曜日の放課後。

 交代出場ながら最近のハードトレーニングの疲労が溜まる陽介は首を鳴らしながらタイヨウと共に部室に向かい練習着に着替えグラウンドでアップをする。そして、桐生と前田監督が部員を招集し日曜日の試合についての話になった。

「今回は都大会の初陣でしたが前半である程度試合が見えたので私からのコーチングはあえてしませんでした」

 試合に出た人間の良い点と悪い点を指摘し、後半の2トップの二人にも言及する。

「タイヨウ君は完璧です。ただ陰松君。君の才能ならハットトリックも可能だった。タイヨウ君との2トップを組みたければ、仲間の声を聞き更に努力をしなさい」

「……はい」

 ポンッとタイヨウに肩を叩かれ、チームメイトはグランドに散り練習を始める。

 悔しさを滲ませる陽介は軽く地団駄を踏み、

(……前田監督もオッサンと同じような事を言いやがる。ダボが! 俺が点を一点しか取れなかったのはレギュラーチームで出られなかったからだ。明石とかの中盤の要が抜けなければ点はもっと取れた。スタメンで出ればタイヨウだって俺には勝てない)

 悔しさを他人のせいにして次の試合に向け黙々と練習に取り組み週末の金曜日になる。

 桐生は生徒会の仕事がある為、マネージャーの水城はタイヨウを見つけカップルのように一緒に下校していた。無論、何気なく合流したつもりで陽介もいた。三人はコンビニに立ち寄る。

「見てタイヨウ君。今月のサッカーキングの高校選手権ページに桐生先輩載ってるの」

「すごー! 桐生先輩ってミスター完璧超人だね」

「そうよ。そして来年の桐生先輩はタイヨウ君よ。貴方も私のIFK計画に組み込んであげるからね」

「IFK計画? アイスフローズンクリーム? ……よくわからないけどやっぱキャプテンはスターだな」

 チラッとタイヨウは陽介を挑発するように見る。

(ダボが。俺の存在を忘れてイチャイチャしやがって。あの食玩コーナーにいる学ラン共もこれは軽いだの重いだのうるせーし、どいつもこいつにもムカつく。全員、おやつ抜きにしてやりたいぜ!)

 二人の間に割って入れない陽介はコンビニ内の客などにキレたりしながらチラチラと二人の様子を伺う。そして三人はレジに向かいガリガリ君を買って外に出る。そして、早速袋をゴミ箱に入れキーン! と頭の思考が停止するような冷たさに耐えながら食べる。

「明日の対戦相手は結構体格がいいチームだと聞いたけど、メンバーは変えていくのかな?」

「一回戦のレギュラーチームが結果を出した以上変える事は無いと思う。けど、サブは変わるかも。陰松君は1点とったから大丈夫かもしれないけど」

 ガリガリ君を落としそうになりながら焦る陽介は冷えた口が回らずオドオドしながら、

「と、当然です。俺はこのチームの次世代を担うエースフォワードですから!」

「痛ってーなコラ」

『――!?』

 バッ! と調子に乗って掲げた腕がコンビニから出て来た学ランを着た不良の一人の肩に当たる。その体格のいい四人組は陽介に因縁をつける。

「おらガキ、お前何中だコラ? 太陽みたいな真赤なブレザーなんぞ着やがって」

「おい、こいつビビッてアイス落としてやがる」

「地獄にも落としてやるぜっ! うらぁ!」

「くっ!」

 ガスッ! と蹴りを入れられゴミ箱に激突する。陽介が二人に暴行を受けていると水城がもう二人の不良に絡まれる。ヘラヘラとした顔で舐め回すように水城の全身を見た。

「いい体してんなねーちゃん。これからどうよ?」

「どうよ? ってお前ヤリたいだけじゃん」

「ハハッ! バレた?」

 ギャハハハ! とバカ笑いをする連中に水城は震えていると、ガリガリ君を食べ終わるタイヨウは現状を見て思う。

(めんどくさいな。これがヤンキーという阿呆連中か。二人が怪我をする前に張り倒すか……?)

 すると、口を抑え立ち上がる陽介は不良が着ている学ランの銀の竜が描かれた校章を見て思い出す。

「お前等、まさか銀竜中学の人間か?」

「あん? そうだが。俺達を知ってんのか?」

「知ってるさ。明日のサッカー部の対戦相手だからな」

「ほう……」

 対戦相手と聞いたタイヨウはニッと笑い拳を収める。そして震える水城を自分の背後に移動させた。烈火のように瞳に赤い炎を灯し指を鳴らす不良連中にガンを飛ばす。

(どうしよう……キャプテンに連絡して助けてもらわないと)

 タイヨウの背後にいる水城はスカートのポケットから携帯をゆっくり取り出そうとする。

 するとガンッ! とゴミ箱を叩き、切れた口元を手の平で拭いながら立ち上がり言う。

「……ついでに教えといてやる。俺がテンプレ学園のエースFW一年、陰松陽介だ」

 フーウ? と声を出す銀竜中学のキャプテン権藤は自慢のソフトモヒカンをスッと立ち上げながら周囲の仲間を煽るように言った。

「そうかエースか……ならこの件はサッカーの勝ち負けで決めようぜ」

『?』

 また高笑いを上げる銀竜中学の四人だが、キャプテンの権藤が何かを思いついたかのよに水城を指差し、

「勝負ならその女賭けろよ。勝ったらその女マネージャーは銀竜のマネージャーだ。色んな意味でな」

 ギャハハハ! と笑う権藤の後ろの三人を制するように陽介は言う。

「勝ったら水城さんにもテンプレ学園の生徒にも手を出すな。いいな?」

「あー、いいぜ。俺達は負けないからな」

 色々と罵声を浴びせながら銀竜中学の面々は去って行く。張り詰めていた緊張の糸が切れたのか陽介は胸を抑える。同時に目の前に水城の泣き顔が写る。

「水城さん、明日絶対に勝つから。俺のゴールで絶対勝つから。な、タイヨウ?」

「陰松……」

 バチンッ! と水城の平手打ちが陽介の頬を叩く。そして水城は駆けてその場から消える。そして黄昏が流れ日が沈み、陽介は多摩川の土手で寝転び空を見上げている。

 横ではタイヨウも赤毛をくるくるといじりながら寝転んでいるが互いに何も語らない。もう六月も近い為に夜に近いこの六時過ぎでも気温が高い為に風が流れるこの土手も寒くは無い。しかし、この二人の間には底冷えのするような寒気が流れていた。数人の子供達が河川敷でボールを追いかけ走っている。アクビをしたタイヨウはふと呟く。

「そーいや、初めて会ったのもここだったな。あの時、お前が子供が遊んでたボールを川に蹴ったせいで泳いで取りに行って大変だったんだからな。この身体になってあんな事をいきなりすると思わなかったぞ。おかげで泳げるようになったけど」

「その話は聞いたぜ」

 すぐに話を打ち切るように陽介は冷たく言う。

 やれやれと言った感じでタイヨウは本題に乗り出す。

「さっきの件はまだ誰も知らない。お前からキャプテンや前田監督に言うのか?」

「キャプテンには言わない。こんな問題は勝てば無かった事になるからな」

「流石に水城ちゃんももう言ってるんじゃないか。あの子は行動と思考のスピードが速いからな。もうわかっただろ? あの子は性格もキツいし中々難しい女だ。物事の視野が狭く余裕が無い年下のお前じゃ付き合ってもすぐに喧嘩して別れるだろ」

「お前、俺の恋路を手伝うんじゃなかったのか? 手伝わないなら太陽消すぞ?」

「手伝ってるから水城ちゃんの情報も集めてキャラを掴んでんだろ。お前は水城ちゃんの前じゃ借りて来た猫だな。親友からもらったというシエルより人見知りだ」

「……知らん。帰る」

 そして眠れぬ夜を過ごし、試合当日になった。



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