序幕~タイヨウ現る!~
西暦二千十五年四月一日――その日、世界は十秒間闇に閉ざされた。
突如、太陽は燃え盛る灼熱の輝きを止め、ほんの十秒間だが宇宙の影になってしまったのである。千年代の後半に世紀末やノストラダムスの大予言ともてはやされた世界滅亡を人類が始めて体感したのは今だった。そしてまた息を吹き返したように輝き出す空に浮かぶ太陽は陽炎のように揺らめきながらも、何故か儚く切ない光を放っていた。
そして一月後の春の終わり――。
桜の花が全て散り、初夏の陽射しともいえる眩しい太陽の光が降り注ぐ昼下がり。
多摩川の土手で寝そべり天にそびえる太陽を燃やし尽くすかのように憎々しげに睨み据える陰松陽介はアクビをした。土手の下では家族連れがバーベキューやサッカーなどをして楽しそうに遊んでいる。エイプリルフールに起きたサンライトブレイク以降、天候の浮き沈みが激しく寒い日と暑い日の寒暖差が毎日のように十度以上あるのは当たり前だった。
「……クソ暑ぃ。だいたいGWぐらいになると日中はもう暑いんだよ。あのアホ太陽のせいでよー」
「うんうん」
「ゲーセン行っても休みだからってカップルばかりでウゼーし、格ゲーコーナーはヤンキーがたむろしてるし、ダチは彼女とデート。あの水城マネージャーはガン黒のキャプテンと出来てるしよー。マジ、サッカー部辞めようかな。俺、色白だから日焼けとかしたら肌がヒリヒリして赤くなるし」
「そうだよな。肌も荒れて女も振り向かないようじゃ努力のかいがないからな」
「だよな。あー、最悪のGWだ。静かだと思って来たこの土手も最近のバーベキューブームだか知らんが家族連れで大勢集まってウルセーし。川にゴミ捨てないでちゃんと片付けて帰れよ? てか太陽の陽射し眩しすぎ。あー、水城マネージャーが色黒好きとかあり得ないわ!」
「色黒なんて確実に遊び人だぜ? そのキャプテン、腹もアソコの先っぽも真っ黒じゃね?」
「ハハハッ! 面白い事いうなお前? 笑ったらまた暑くなった……あの太陽、消えねぇかな?」
「それは……どうかな?」
「つか、さっきから合いの手入れてるお前、誰? アイス買ってきてくんね? レディーボーデンなら何でもいいぜ。あー、太陽イラネ!」
「うんうん……て、ダボがぁー!」
いつの間にか隣で寝転び陽介の独り言に相槌を打っていた赤髪の少年は肘打ちをくらわせようとするが寸前で回避される。やけに自分に顔も体格も似ている少年をドッペルゲンガーかと思い焦るが、髪が赤過ぎてそうでもないと思った。
「ダボは俺の台詞だ。で、お前は誰だ? テンプレ学園の人間か?」
「俺っち、明日からテンプレ学園1―A組に転校してきたタイヨウだ。よろしくな特異点」
「同じクラスか。俺は影松陽介。で、特異点て何だ?」
爽やかな風が吹き抜ける土手で対峙する二人は話を続ける。サッカーをする子供達はロングボールを蹴り始め、川にボールを落としそうになっていた。
「空の太陽が生きるか死ぬかの特異点だ。だから夏休みまでに太陽を好きになってもらう。そこが銀河の分かれ目だからな」
その答えに期待していたが、聞いた答えにとんだ狸野郎だと思い陽介はやれやれといったリアクションをし、背を向けて自宅に帰ろうとする。
「ダボが。そんなん俺知らねーし。太陽が死ぬとかお前中二病か?」
「待て、待て。陽介!」
そのタイヨウという少年はひたすら太陽の大事さを訴え、彼女いないなら好きな女をゲットできるように手を貸してやろうとか、サッカー部のキャプテンがムカつくなら浣腸してやるとか、レディーボーデンのパイントチョコを毎日バケツ食いさせてやるとか様々な戯言を言いながら背後に残像を残すようまとわりついてくる。その怨霊のようなタイヨウに周囲の暑さも加わって怒りが限界に達し、
「だからしつこい! とっとと帰れ――って避けろ!」
「ん? ……タコか。避けるまでもねーさ。タコかって良くね?」
土手の子供のミスキックで飛んで来たボールを足の甲で柔らかくトラップし、腿に頭、それにヒールやインサイドに肩まで使ってリフティングをする。その光景に河原の子供たちは呆然と見とれていた。無論、陽介もである。
(こいつ、かなり上手いな。ボールタッチなら桐生キャプテン並だ)
「俺っちは銀河を照らす神・太陽神。ホントに陽介が夏までに太陽を好きにならなきゃ、マジあの太陽が死ぬんだよ。お前が人類の存続を決める特異点なんだ――よっ!」
「お前、危っ――」
ザッ! と足の甲で横一文字に蹴られたボールは炎を纏って小型の太陽のように変化し一直線に子供めがけて飛んで行く。あっ……と声を上げる陽介はその光景に息を呑んだ。地面につくとズアアッ! とボールに強烈なバックスピンがかけられており子供の足元でピタリと止まる。陽炎のように炎はゆらりと消え、地面には黒い跡が出来た。
河川敷の刻は一瞬止まるが、暑い太陽の日差しが今の驚きを忘れさせる。
ニッと振り返るタイヨウは、どうだ俺っちのテクは? と言わんばかりに笑う。
その笑みと暑い日差しにイラついた陽介は土手を駆け下り、そのボールを川に蹴りこんだ。唖然とするタイヨウに一瞥し、憎しみを込めて天に向かって叫ぶ。
「太陽、イラネ!」
それがサッカー部で相棒となるタイヨウとの出会いだった――。




